可憐
ヒロインの登場です。
「お婿さん候補を連れてきたよ。」
軽薄な水色の髪の男と可憐なオレンジ髪の女は向かい合う。
「え?この人が・・・何の冗談?」
「日頃からアタシより弱い人とは婚約しない!って宣言してるでしょ?だからヨシヒロがピッタリかなぁと思って。」
「アタシより強い人がいないから断り文句で言ってるのよ。そのベットで寝込んでた人があたしより強いっていうの?」
「うん。強いよ。」
カレンは苛つきの表情を浮かべる。この表情を百人が見たら百人がキレていると判断するほど明確だった。
「あなた?強いならば私と戦いなさい。看病してあげた相手に喧嘩を売るなんてどんな教育受けたの?」
「あ、いや。俺は何も言ってないんだけど・・・。」
ヨシヒロの小言を無視して訓練場の中心にある広場で準備を始めた。
「おい。レオンハルト。どういうことだよ!」
「あっはっは、面白くなってきたね、頑張って!カレンは強いから。」
「カレンは強いのか?」
「1vs1ならこの国で僕以外には勝てる人いないんじゃないかな。彼女は17歳だけど全年齢対象の国の剣術大会で4連覇してるよ。僕は出場してないけど。」
つまり14歳から優勝してるのか・・・、早熟にも程があるぞ。カレンの直属の上司であるグレイヴが情報を付け足す。
「突破力や破壊力ならこのグレイヴが国で1番だが、タイマンではカレンが1番じゃないか?俺ですらもう手も足も出なくなっている。」
「両方とも、僕に次いでっての言い忘れないでよ、グレイヴ。」
「俺とのタイマン勝負を受けてくれるなら認めてやるが??」
「嫌だよ。疲れるじゃん。」
この2人バチバチに口論してるけど、上司と部下じゃないのか…。これがレオンハルト軍の雰囲気なのかもしれない。
「ちょっと!何してるの?早くヨシヒロも準備しなさい。」
カレンに急かされ、準備を始める。訓練場でのタイマンは木剣を使用し、相手に決定打を与えるか降参により決着する。審判はレオンハルトがやってくれるらしい、楽しそうで何よりだ。
巻き込まれて剣術勝負という形ではあるが、ヨシヒロは剣術や体術を磨こうと考えていたので好都合だ。堕天によてって与えられる天賦之巨はベルゼブブの言葉をそのまま信頼すれば元の身体能力が5倍される。つまり、本来の身体能力を強化すればする程、規格外の力は更に規格外になる。国で1番の剣士との戦いは願ったり叶ったりだ。
「やっぱり、若い才能の対決はいいね。あ、ヨシヒロは堕人使っちゃダメだからね。」
勿論だ。タイマンで自分だけ他人に与えられた力を使う訳がない。しかも、前回は使用後1週間寝込んだ。まだ許容上限が定かではない今は使うべきではない。だが、ヨシヒロの身体能力は人並み以上だ、剣術への理解は前世で深めている。勝機は大いにある。
「では、始め!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
開始の号令と共にカレンは間を詰め、木刀の間合いに入る。ヨシヒロは負けじと剣を振り下ろすが、カレンの方が速い。ヨシヒロは脇腹を斬られた。
「カレンが一本!だけど、決定打ではないので続行!」
「あんた、こんなもんなの?もっと強いと思ってたわ。そんなんじゃ、あたしと結婚したいなんて言わないことね。」
何か物凄い誤解をされている・・・。俺だって勝手にお婿さん候補とか言われて困惑している。だが、男として、最強として、負ける訳にはいかない。全力で捻じ伏せる。
カレンの強みは素早さと身のこなしの無駄のなさ。ただでさえ身体能力が高い上に、無駄な動きを削ぎ落としているので、ヨシヒロとコンマ数秒の差が生まれ脇腹を晒した。
そして極め付けは今受けている〝正確無比の突き〟。なんとかギリギリ剣で防いでいるが、的確に急所を狙うので防戦一方だ。
「やはり、ヨシヒロはカレンには勝てませんか・・・。」
「そんな事無いんじゃない?ヨシヒロは目がいい。時間が経てば経つほど目が慣れてくると思うよ。」
レオンハルトの予想通り斬り合いがはじまってから1分半が経過した頃、義弘防戦一方の展開が変化を始めた。
首を狙ったカレンの突き・・・今までは剣で防いでいたが目が慣れた事で回避に成功、距離を詰める。突きを避けられたカレンはすぐさま避けられたら方向に剣を振り下ろす・・・・が、その剣がヨシヒロに達するよりも先に、ヨシヒロはカレンの腹にタックルをかます。
カレンは吹き飛んだ。通常の相手ならここで地面に横たわる体を取り押さえ勝利が決まる筈だったが、カレンは耐え切った。膝も尻餅もつく事なく、吹き飛ばされた先で踏ん張りきる。
ヨシヒロはトドメを刺さんと吹き飛ばした事で離れた距離を詰める、カレンも同様に距離を詰める。
両者は一直線上でぶつかる構えを見せる。
2人は交差する。
膝をついたのはヨシヒロだった。
今度はモロに腹に食らった。
真剣なら腹から臓物が溢れ出ている。
苦痛で顔を歪めるのはカレンだった。
防具をつけているとはいえ、モロに首を斬られた。
真剣なら首と胴体が切り離されている。
「そこまで!カレンは首に、ヨシヒロは腹に決定的な打撃を食らっているね。よって引き分け!」
◇ ◇ ◇ ◇
「いい勝負だったよ。ここまで追い詰められたのは生まれてはじめてだよ。」
「ヨシヒロも中々強かったわね。あたしの婿に立候補するだけあるわ。あたしが圧倒的に負けたら考えてあげる。」
「その事なんですか・・・・、あのー、そのー。」
「え?何?」
「俺は一言も言ってないというか、レオンハルトが勝手に言っただけというかー。」
ここで始めて自分の勘違いに気づいた様だ。顔が一気に赤らむ。
「え、えぇぇぇ!?あたし今フラれた?あんたが求婚してきたのに?いや、レオンハルトが元凶ね??どうゆう事?」
レオンハルトの方をカレンは睨みつけようとするが、彼はもういない。危機を感じ取り逃げたのだ。調子のいい奴め・・・。
「(咳払い)、とりあえずいい試合だったわ。また戦ってくれる?良き対戦相手になりそう。」
握手を求める。
「あぁ、改めて自己紹介を。俺はヨシヒロ、次の戦争までここでお世話になると思う。それまで宜しく。」
「あたしは、カレン・アルフレッド。この国の第3王女。でもこの肩書きはほぼ捨ててるから気にしないで、さっき会ったルキウスは私の兄。仲良くしてちょうだい。」
ん?カレンも王女だと・・・。レオンハルトとの奴め、なんで高貴な身分と友達にさせようとするんだ。心の中は落ち着かないが、表に出す事なく、握手を交わす。
「「これからよろしく。」」
こうして奇想天外な1日は終わった。
レオンハルトの思惑通りヨシヒロはルキウスとカレンと親交を深め、日々ルキウスとの知略戦、カレンとの武力戦を繰り返していく。
同程度の実力をもつ2人と修練を続ける事でヨシヒロの実力は上昇を続ける。彼に相対するルキウスとカレンも同様に。
レオンハルトの手駒が着々と力をつけていく。
戦乱の日は遠くない。
カレンは武力は高いですが、軍略に乏しい。
ルキウスは軍略の理解は深いですが、武力は人並みです。
ヨシヒロは軍略も武力も2人と渡り合っています。




