邂逅
2章スタート。
物語の雰囲気が少し変わります。
長い悪夢を見ているようだ。
リケ、ルベン、他にも多くの仲間達が自分の目の前で死んだ。いっそのこと全て夢ならばと願い続けた。
目を開けると見知らぬ天井だ。ベットに横たわる自分を感じたので本当に夢だったのではないかと期待が膨らむ・・・・が、全身から継続的に感じるキズの痛みが戦争をしていたことを理解させる。
悪夢は現実だったのだ。
「あら、起きたのね。やっと看病から解放されるわ。一週間も寝込んで大変だったんだから。」
天井だけの視界にオレンジ色のショートカットの同い年ぐらいの顔の整った女性がヨシヒロをのぞき込む。
「一週間も寝込んでいたのか?それより、戦は・・・どうなった?そして、君は誰だ?」
「いきなり目覚めて立て続けに質問ってどうゆうこと?まず、あたしに感謝しなさい。不本意ながら看病してあげたんだから。」
「すまない。聞きたいことが沢山あって・・・。ありがとう。」
「いーえ!あたしはカレン。全ての元凶を呼んでくるから質問はあいつにしてちょうだい。あたしはそのまま訓練場に行くから。」
少し不機嫌気味なカレンはオレンジ色の髪を靡かせ部屋を後にする。
まずは、戦の顛末を聞かなくては。そして、今も生きている可能性がある2人を探す。戦の最中に街へ派遣したパウの情報を集めて再会する。もう一人のロイドは援軍要請の為に派遣したので、国内にいる筈だ・・・比較的簡単に見つかるだろう。
「よー!ヨシヒロ。元気になったか?」
比較的簡単どころじゃないスピードでロイドと再会を果たした。
「ロ、ロイドか!無事でよかった。リケも、ルベンも、ローゼも、ケインも、ドナルドも戦の最中に戦死したんだ・・・。すまない。俺が弱いせいで。」
「あぁ、報告は受けてるぜ。残念だったな。」
「俺は何も守れなかった・・・・。」
「責任を抱え込むなよ。お前だけのせいじゃない・・・。」
少しの静寂の後、雰囲気を変えるべく話を変える。
「おまえ、この前まで“おい”って一人称だったのに俺に変えたんだな。」
「うん。色々とあったんだ。」
「何はともあれ、再会できてよかったよ。あ、他の人が来たみたいだ。俺は席を外すよ。また後でゆっくり話そうぜ。」
ロイドの巨躯と入れ替わり、水色の髪の男が入ってくる。
見覚えがある・・・戦場で最後に戦った奴だ。
「お、お前は!!!」
「いきなり敵意向けられるとは思わなかったな。こう見えて君の命の恩人だよ?」
「命の恩人?」
「あのまま戦い続けたら君は死んでたでしょ。それを止めてあげたんじゃないか。」
「・・・・・、それは助かった。我を忘れていたんだ。」
「大丈夫。君を気絶させるぐらい朝飯前だったから。」
「あの時、結構人外の動きしてたと思うんだけどな・・・、あなたの名前は?」
「あぁ、自己紹介を忘れてた。僕はペドロ・レオンハルト。かの有名な戦上手のレオンハルト公だよ!」
自惚れた自己紹介には苦笑いしたが、レオンハルト公の名前はこの世界に来てから何度も聞いた名前だ。彼の武勇はスラム街にまで届いていた、余程優秀なのだろう。
「あのスチュートを作ったレオンハルト公か・・・。」
「あの街の素晴らしさを理解してたのか。規格外の力を持っているのに、軍略にも精通しているのかい・・・?それでいてまだ16歳とは末恐ろしいよ。カレンには見習ってもらわなきゃね。」
「・・・、ロイドの援軍要請を受けてくれて助かった。援軍が無ければ街すら失っていたかもしれない・・・。」
「ロイドは僕の部下だからね。今は5年にわたる長期任務を終えて復隊して生き生きと修練しているけど、5年という期間共に過ごした仲間を失ったのは堪えたみたいで時々暗い顔をしているよ。自分ではうまく隠せているつもりみたいだけどバレバレだ。」
ロイドは自身をレオンハルトの間者という表現をしていたが、本当は生粋の部下だったみたいだ。言い方を少し変えて伝えたのは何か訳があるのだろう。
「あの悲劇を共有できるのは現状は俺とロイドの2人だけだ、2人で心の穴を埋めていくよ。それで、あの街での戦いはどうなったのだ?」
レオンハルトは戦いの顛末を伝えた。
5千人が捕虜になったならパウが生きている可能性があると安堵した。また、目の前の男は軽薄さの裏に凄まじいモノがあると感じた。スチュートを作れる才能、1人で敵地を抜け出す勇敢さ、堕天状態のヨシヒロを難なく無力化する武力。想像以上の傑物に違いない。
その後も様々な質問をすべて答えてくれた。
「とりあえず、質問はここまでにして・・・、君に合わせたい人が2人いるんだよね。」
「合わせたい人物?」
「ここは僕の領土“レオンハルト公領”の公都。ここでは僕の部下や客将、要人が多く暮らしていて日々戦に備えて鍛錬しているんだ。その中でも君に歳の近い2人を紹介しようと思って。」
この言葉に少し引っかかる。
部下でもない人間を戦場から救い出し、看病し、自分の部下と親交を深めさせる・・・。
「ちょっと待ってくれ。命の恩人だからといって、俺はあなたの部下にはならないぞ?」
「あー、バレてた?君を手元に置いておきたくてね。もうすぐ大きな戦がある、それで君の力を借りたいんだよね。」
やはりか。自身を客観的に分析すれば俺は優秀だと思う。規格外の力を持ち、歴戦の猛者の記憶を持つ人間、控えめに言ってもチート級だ。そんな存在を傑物が見逃すはずはなかった。
「僕の希望を言えば、君に味方になってほしい。だけど、味方でなくても次の大きい戦争が終わるまでは僕の管理下にいて欲しい。どうせこの街に滞在するんだ。ロイド以外の友達を持ってほしくてね。」
レオンハルトはやさしい口調で説明するが、内容は“味方にならないなら、次の戦で敵として脅威にならない様に監視する”という宣言だった。
「とりあえず保留にさせてくれ。あなたのことも、この領土のことも何も知らずに決断を下すのは短慮だ。だが、パウという男の捜索に協力してくれるならば敵対はしないと約束しよう。」
ヨシヒロの現在の優先事項はパウの捜索だ。その次に商業国への仇討ちだ。捜索も仇討ちもレオンハルトの協力がある方が良いかもしれない。一先ず、命の恩人の要求を飲もう。部下になるかは本人を見極めてからだ。
「パウ君の捜索ね、すぐに軍師のチャッピーに伝えに行こうか。僕の軍師人探しが得意だから。君に紹介したいお友達候補も彼女と一緒に居るはずだから、顔合わせもしちゃおうか。僕についてきて、ヨシヒロ君。」
要求を承諾するだけでなく、自分の目的も完遂する・・・隙のない男だ。
2人はチャッピーとお友達候補に会うために城の中を移動する。
◇ ◇ ◇ ◇
レオンハルトに連れてこられた部屋は戦略会議室と呼ばれる大きな部屋だった。大きな机には地図が広げられ20人以上の人が論議をしている。壁一面には兵法書と思われる書物がびっしりと埋まっている。扉が開いているので横の部屋も確認でき、地形図の上で駒を動かしている・・・おそらく行軍将棋だろう。将棋をより実戦に近づけた物だ。
部屋の中の議論の中心にいる女性にレオンハルトが近づく。
「やぁ、チャッピー。捗ってる?」
「はい。今は次回の軍事作戦に対する敵の行動パターンの182個目の対応を詰めている所です。」
「うん。ご苦労様。・・・・、ヨシヒロ君に紹介しよう。この子がチャッピー、僕の軍師。僕の軍隊は4つの大隊があるんだけど、その内の第二大隊を率いてもらってる。スチュートの援軍に動いたのも彼女の軍だね。」
「チャッピー…?殿。先日の戦争での援軍ありがとうございます。ヨシヒロです。」
「レオンハルト様はチャッピーと呼んでいるけど、私の名前はチャル・ピートル。援軍の件は気にしないで、スチュートは私たちの旧領・・・、ロイドを通じて情報収集を続けていたの。あなたがいなくても援軍は派遣されていた。逆にあなたが暴れていなかったら間に合わなかったと思う。感謝はこちらが伝えたいわ。」
「という訳で、ヨシヒロ君。援軍の件に関しては気にしなくてもいいよ。君はここで負い目とか感じなくていいんだ。」
軍師チャッピーとの挨拶を一通り済ませ、パウの件を依頼すると快く引き受けてくれた。先の戦争での捕虜の対応が元々彼女の担当だったらしく、パウの情報を対策チームに伝えてくれた。レオンハルトの軍師・・・その肩書きだけで只者じゃないのは確かだ。多くの仕事を捌いている印象を受けたし、軍略の深さも中々なものだと感じた。
チャッピーとの話が終わり、横の行軍将棋を行っている部屋に移動した。レオンハルトについていくと白髪の青年の前に案内された。
「お待たせ、ルキウス。君のお友達候補を連れてきたよ。」
「お友達候補って嫌な言い方ですね。初めましてヨシヒロ、私はアルフレッド王国第2王子のルキウス・アルフレッドです。」
王国の王子・・・何故ここに?
しかも、王子を友達として紹介なんて何を考えているんだ。
「ヨシヒロです。次の戦争までの間、この街でお世話になると思う。これからよろしく。」
王子の肩書に臆せず強気に出ることにした。まさに友達の様な口調で。
「もちろん。でも、私は才能のある友達が欲しい。色々と噂で凄い人だとは聞いてるけど、私の目で見たわけではない。だから、今から行軍将棋で対決しよう。因みに私は軍師のピートルさんとレオンハルトさん以外には負けたことがない。ヨシヒロ、どうする?」
強い相手との模擬戦は嬉しい。ヨシヒロには島津義弘の頭脳がある。勝機は大いにある。
「勿論。勝負だ、ルキウス。」
「おー!楽しいことになったね。僕は特等席で見させてもらおうかな。誰かチャッピーも呼んできてあげて、多分興味あると思うから。」
若き才能2人の行軍将棋での頭脳戦、勝敗はいかに!?
基本的にレオンハルトの部下は全員めちゃくちゃ強いです。