堕ちる武者 其の六
拝読ありがとうございます。次々話でひと段落つく予定なので是非一話からご覧下さい。
ローゼ、ケイン、ドナルド…おいの元で戦ってくれた元支配者はもういない。
ドナルドが作ってくれた時間を無駄にしない為にも、ヨシヒロは走る。
「ルベン、リケ!生きててくれよ!」
スラムの人の多くはドナルドの呼びかけで彼の元に集結したが、ここを死に場所と定め戦い続けた者たちも数人いた。
その中にルベンとリケはいるはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「バカ…、いやドレーク馬鹿隊長。」
「言い直した意味よ!……なんだ?ペル。」
ペルはスチュートに入城すると、すぐに簡易拠点を設営した。その間、ドレークが街内の殲滅・捕縛作戦を決行していた。
目の前に大量にいる大勢の捕虜達を見ながら、ペルは不満げな顔をしている。
「私は、敵兵は殲滅。非戦闘員を捕虜にしろと言ったはずだぞ?」
「ちゃんと、向かって来る奴らは殺したし、戦意を失った奴は捕らえたって。」
「捕らえるのは、非戦闘員だけだと言ったはずだ。戦意を失ったって敵兵は敵兵だ。殺さねば今後要らぬ苦労をする。お前だって、理解しているはずだぞ。無駄な同情で面倒事を増やすな。」
「さぁて、俺は馬鹿なもんで。よく分からなかったんだ。でも、戦意をなくして投降した兵を今から皆殺しにするのは間違っていると馬鹿でも思うぞ。」
ドレークはペルの指令に反き、戦意のない敵兵は殺さず徹底的に捕らえた。戦争が大好きなドレークだが、戦後の無駄な殺生は好まないのが彼の生き方である。その後も、ペルの追求を馬鹿というワードで交わしつつ、投降した兵は守り切った。
「頑固なバカはこれだから嫌いだ。」
現実主義者のペルと熱情的で人情深いドレークという凸凹コンビ。しかし、2人とも南の砦にいるヨシヒロの危険性については意見を一致させ、殲滅せんと兵を進める。
◇ ◇ ◇ ◇
もうすぐ川岸だ。
休む暇もなく走り続けたヨシヒロの息は荒い。ルベンとリケ、そしてパウの笑顔が頭に浮かぶ。おいはこれからも4人で仲良く暮らしたい…!切に願う。
目の前には人が集まっているのが見える。おそらくルベンとリケがいる場所だ。さっさと2人を連れて無茶な道のりでも逃げよう……逃げ切った後、パウの情報を集めるんだ。関ヶ原の大勢の敵勢を前にしても敵中突破で逃げ切った島津義弘ならできる。自分に言い聞かせ、2人のもとへ向かう。
皆が集まっている場所の中央でリケの顔が発見できた。
「リケ!!!!」
どれほど叫ぼうとリケは反応しない。
人混みを掻き分けリケの目の前まで進む。リケは地べたに座り込んでいた。
「リケ!無事でよかった……、大変だったよな!今、おいが来たから大丈夫だ。皆で逃げよう。」
だが、リケの返事はない。
「リケ……?なんで返事をしないんだよ。そういえば、ルベンは何処だよ。あいつの事だまだ戦ってるのか?」
リケはルベンという言葉にやっと反応し、ヨシヒロを視認した。ゆっくりと口をひらく。
「ルベンは……、ここ………。」
リケが視線を足元に落とす。
リケの足元にはルベンの亡骸が横たわっていた。
「え……………。そ、そんな。」
「ねぇ、ヨシヒロ。パウはどこ?パウは……!」
「パウはまだ見つかってないんだ。でも、パウは頭がいい。きっと生きてる。大丈夫だ。」
『大丈夫って何!?何を根拠に大丈夫って言ってるの!!』
今まで聞いたこともないリケの大声にヨシヒロも周りも驚く。
「もう、私はこれ以上何も失いたくない。パウも、ヨシヒロも、皆……、無事で……、」
涙を堪えながら話し続けたリケだったが、堰が切れ大粒の涙を流す。
ヨシヒロはリケを抱きしめ、頭を撫でた。少しでも気持ちが休まる様に、少しでも人目を気にせず泣ける様に。
「安心しろ。リケ。このヨシヒロの強さを1番間近で見てきただろ?パウの頭の良さだって誰よりも詳しいはずだろ?」
「うん!ごめん。ありがとう。」
リケは自らヨシヒロの腕を解く。
「私、錯乱してたみたい…。」
「大事な人を失ったら、誰だって我を失う。仕方ないよ。」
ヨシヒロは笑顔でリケを見つめる。
リケもヨシヒロを笑顔で返す。
「もう誰も死なないよね?ヨシ………、、、」
川の対岸から一斉に射られた矢、それらは川を越え、悲しみに溢れていた一団を襲った。
その最初の一矢が、リケの頭を貫いた。
ヨシヒロはリケに近寄ろうとするが、自身の左腕や右足も矢に貫かれる。痛みに耐えながらも、這いつくばり手を伸ばす………、
もう、手遅れだった。
ヨシヒロはフラフラと立ち上がる。
周りには誰もいなくなった。
いや、敵兵ならそこらじゅうに沢山いる……………、
◇ ◇ ◇ ◇
ヨシヒロは何も考えず剣を握り、何も考えず敵を葬りはじめる。目も虚ろで何かを視認して斬っている訳ではない。
沢山の殺意、沢山の罵倒、沢山の悲鳴を浴びせられても、彼は周りに何も感じぬ程に、無心で人を斬っていた。
何も感じぬその世界で、湧き出てくるのは自責の念。
何が自由だ、何が幸せだ、何が大丈夫だ、何が強いだ、何が死なないだ、何が重荷だ、何が、何が、何が………。
この世界で何かを為せるほど、苦難を乗り越えていなかった。
この世界で何かを為せるほど、地位が高くなかった。
この世界で何かを為せるほど、強くなかった。
素晴らしい仲間に出会えたのに。
全部、弱いせいだ。
強くならなければ、何も守れない、何も為せない、仲間に顔向けできない。
この世界で、誰よりも強くならなくては。
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「やぁ、ヨシヒロさん。僕が君に力を与えようか?」
数ヶ月ぶりの天使ベルゼブブとの再会だった。
次の話をどうしてもこの続きから書き始めたいので、今回は少し短めです。
二千文字!