船頭はへりくだりながら
ー船頭はへりくだりながらー
そうこうするうちに川面の「霞」が晴れ「此岸」と呼ばれる岸が見えてきました。それぞれに白いかがり火を焚く三つの簡素な船着き場の先には、桟橋への入り口を規制する腰丈の木のゲートがあり、白い行列が出来ています。「此岸」は少なくとも目にやさしい光に包まれていて、全体的に薄い黄色と白の中間色のような淡い景色でした。河原には中州や川底にあった白い石とは違う、もっと黄色かがった平たい石が所々で積み上げられていました。小さな彼には読めない赤い字で書かれている、古そうな白い幟が何本も立てられていて、どれも揺れていたので僅かでしょうが岸辺には風が吹いているのかもしれません。
黄ばんだ作務衣を着る顔のない白い影の船頭が、自分の舟を船着き場の桟橋に寄せると、同じ格好をした同じような白い影の仲間の船頭たちは顔のない顔で驚き、彼らを出迎えました。
「すげぇ、人魂を拾ったもんだなっ」
「行燈にしちゃ、あんまりに明るかったから舟ごと燃えてるのかと思ったぜ」
「この人魂様はまさかプラネッツじゃねぇのか?」
「死んだ後に見てもご利益はあるのかっ!!」
小さな太陽が白い竹竿から降ろされると、彼らはみんな笑いました。珍しく幸せそうに笑いました。
隣の桟橋で乗船を待っていた白い行列の十二の薄い影が「係り」に促されて舟に乗り込むと、隣の船頭はプラネッツに手を振って櫓を漕ぎだしました。十二の薄い影も一斉に小さな彼へ手を振りました。
「お前がいると、みんな喜ぶだろうけどもお前さんはこの世にいちゃいけねぇはずだ。あの世に返してやるからついてこい」船頭は見えない白い顎をしゃくって言いました。
木のゲートがある桟橋の入り口には紺色のジャンパーを着て、下は灰色のスラックス、そして革靴まで履いている人の形をした白い影の顔のない「係り」が三人いて、作務衣に裸足の船頭はへりくだりながら彼らへ事情を説明しました。
「あいつについていきな。今度はあの世で会おうぜぼうず」船頭は自分の桟橋を担当する「係り」を示しました。そしてしゃがむと小さな彼を軽く抱きしめました。
「船頭さんにいいことがありますように!!」
小さな彼は「係り」の一人の白い影の後を追って、白く長い行列の一番先にある東屋へ向かいました。覇気がなくそろって俯いていた白い行列はそれでも「係り」の後ろを行く小さな彼を見やると、薄い影の手を合わせたり胸の前で十字を切ったり、もちろん手を振りました。声の出ない歓声を上げ、音のしないまま大きな拍手を送りました……