表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンソンくん  river 編  作者: ハクノチチ
5/27

そのとき「記憶」はこの「霞」になる

 ーそのとき「記憶」はこの「霞」になるー


 木と木を擦るようなキイキイいう甲高くて柔らかい音が霞の中から返ってきました。先の見えない川の水面に、霞の白さとは違う白い影が近寄ってきました。小さな彼はパニックの大火になる寸前、その白い船に向かってもう一度謝りました。

白木造りの手漕ぎ舟が水際に着くと、船尾で櫓を漕いでいた顔のない白い船頭が、それでもあっけにとられる表情のまま中洲へ上がってきました。

「……ずいぶんとでけぇ人魂だな……」


 袖や襟がすり切れる黄ばんだ作務衣の上下を着た、顔のない白い船頭に助けられた小さな彼は、まだ身体に絡まっていたクモの子供の糸を一旦解かれると、その糸を使い舳先に立てた白い竹竿に吊るされ二人は中州を後にしました。

「クモっこの糸を使って地獄から昇ってきたってか?全くちょうどいい明かりだぞ、ぼうずっ!!」船頭はおそらく百年ぶりに大笑いしました。


 顔のない白い船頭は上機嫌で櫓をこぎながら色々なことを教えてくれました。

この川は「三途川」と呼ばれ、川の真ん中では水の流れがそれぞれ逆に流れているので、上流も下流もないこと。自分は「此岸」にいる行列を「彼岸」へ渡す仕事をしていること。「この世」のここには「此岸」と「彼岸」しかなく、上流と下流がないように東西北南もない。

そうか、ぼうずが宙に浮かべないっていうのは、ひっょとして「この世」には太陽も月も昇らないからかもしれないなっ。この霞がかかっている場所の上には空だってないぞ!!本当は川自体もなかったりしてなっ、ハハハ。

 ……あぁ、この霞か?

 「此岸」で待つ行列がだな、「彼岸」に渡ると、下界で自分を知っていた連中の「記憶」になるわけだが、いずれは誰かの「記憶」を持った者たちも必ず「此岸」の行列に加わることになっちまうよな。だから下界に残った「記憶」もなくなる。そのとき「記憶」はこの「霞」になるんだ。

そんでな、「霞」は長い時間をかけて、どこかしらの空間の一か所にえらく集中することがあってよ、ギュっと押し潰し合うんだ。そうして、その一か所の空間で白い塊になるんだ。それがつまり石ころになって、そこらじゅうに転がるってわけさ。でも誰もその瞬間を見た者はいない。ときどきふとした瞬間に、どこかで石のぶつかる音を聞くか、水に落ちる音を聞くことがあるだけだ。「記憶」が再び「あの世」で生まれ変わったのだろう、と俺たちは解釈しているが、本当にそうなのかどうかは分からないぞ……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ