「ヒカリエ」の光源
ー「ヒカリエ」の光源ー
「なぁ、あんた、聞こえるのかい?あたしはどうやら間違っていたみたいだよ・・・」
「鳥使い」は右耳に入れてある小石を右手の小指で触りました。
「……」
「……あたしの一生が間違えだったんだろうかね」
「……あぁ聞こえている。なぁババァ、俺は普段お前らに余計な話はしないもんなんだ。用意しろ、今だ行け、ぐらいしかいわねぇんだ。でも特別だ。あの赤い球っころのせいかもしれねぇな」ハハハ。
「……」
「ババァ、お前の資料を見るとあの世じゃ相当なババァだったみてぇじゃねぇか、なぁ?」
「……」
「……俺がお前に言いてぇのはだな、いいかババァ、お前には信じられねぇくらいの力があるってことだ。あぁしろ、こうしろ、っていうだけで、それなりにあの世が動いちまうんだろ? だったらどうだ、あの赤ん坊の母親が自分のガキだけを守ってやるよりも、お前が世間様の裏で軽く喚いてやれば、あの世で苦労する片親や片親すらいないガキや、親からぶん殴られるガキやなんだを全部まとめて、いくらかは楽に暮らしていけるよう、生きていられるようにしてやれるんじゃねぇのかい。底の抜けた社会の一か所や二か所くらい、お前が怒鳴るか喚くかすりゃ、塞がるんだよな。なぁそうだろ?」
「……」
「……とは言え、全部忘れちまうだろうけどな。でもいいか?あの世で意識が戻ったとき、自我のどこかに違和感を感じることがもし仮に起でもしたら、よ~く耳を澄ましてみろ。お前たるお前を少しだけ脇に押しやって、違和感を恐れずに耳を澄ますんだ。それで一仕事終えたらまた死にに来い」
「……」
この薄汚い小人は、死に損なってから(生まれて)初めて赤ちゃんを抱いたこの私が一体ここでの何を忘れるとでも思っているのだろう? 自分自身を知る、自分で傷つけた自身の魂の傷跡や細部をよく知る老婆には不思議でなりませんでした。
死んだ人間がぞろぞろやって来る「ヒカリエ」の光源はお前らの愛なんだってよ。
大きな黒い鳥の八本の爪で捕まれた籐の籠の扉の前で飛び出す用意をしていた老婆へ、小人は最後に言いました。
モタモタしていたら惚れちまいそうだね……老婆は白い光の中で頭上のコップを見つめながら言い返しはせず密かに思いました。