時間がないのではっきり申し上げます
ー時間がないのではっきり申しあげますー
そこの畳をひっくり返すと黒い扉があります。そこからこの「ヒカリエ」の外にある「トマリギ」というところに移動します。みなさんは「トマリギ」から大きな黒い鳥によって「あの世」へ運ばれます。「この世」と「あの世」では時間の流れなど、構造そのものが違うので「あの世」にあるみなさんの身体がそれぞれベストの状態で今ここにいるみなさんが戻れるよう、場所と時間を計算しました。その結果、一番早くに戻ってくる予定の鳥に、三人一緒に運んでもらわなければなりません。みなさんは鳥が運ぶ籠の中に入ってもらい「鳥使い」という者が合図する地点に来たら、自ら籠の外へ飛び出して下さい。絶対に躊躇してはなりません。「この世」における少しのズレが「あの世」では大変なズレになります。私どもを信じて勇気を持って飛び出してください。もちろんここでの記憶は残りません……
説明していた一人の「光」は頷きました。
……何かご質問はありますか?
この子には臍の緒がなかったのですが、それはどうしてですか?
すでに「あの世」で切られたからでしょう……
無事生まれたってことですよね?
今ここでお母さんに抱かれている、ということですから「あの世」においてはもちろんノーダメージではありません。でも今ここでスヤスヤ寝ているということは、結果として無事だった、ということになるでしょう。とにかく私どもはみなさんの身体がベストの状態であるうちに還させていただきます。信じてください……
ありがとうございます。二人で勇気を持って飛び出します。あなたがたを信じます。
……
二人の「光」は同時に目を逸らしました。
……何か?
……時間がないのではっきり申しあげます。戻れるのはどちらかだけです。
一人の「光」が目を伏せながら言いました。
……どちらか?
はい。当たり札は三枚だけです。でも「あの世」にある身体は今や四つです。つまりそういうことです。
……あなた何を言っているの?
若い母親は理解できないようでした。