トマリギで働く影として
ートマリギで働く影としてー
久しぶりに、と言うか「あの世」にいたとき以来でしょうか? 怒りに震えていた背の低い男は、何かしくじったのだろう、とようやく自覚した小さな彼を「トマリギ」の平たい岩場の上まで連れてくると二人で腰を下ろしました。
「……ねぇ、ぼく悪いことをしちゃったのかな?」小さな彼は、巨大な「ヒカリエ」のもこもこする明るい表面を見下ろしながら聞きました。
「……君も誰も悪くはないよ。今日のぼくらはたまたま運が悪かっただけさ」怒りに震えていた男は正直な気持ちとは逆のことを言いました。彼が「この世」で学んだことの一つだったからです。
「ぼく、飛べてうれしかったんだ」
慰めは空にも雲の上にもありませんでしたが、そもそもそこは空でもなく雲でもなかったのでした……
「……」こっちは、それ以前の発言から腸が煮えくり返ってんだよ、と怒鳴りそうになったのを我慢していると、今度は逆に笑いを堪え始めました。増幅する怒りを滑稽だと思える生き方ができていれば「あの世」での俺の存在理由はもっと違ったはずだったのに……
「この世」の色とりどりの影たちは揃って同じ気持ちを持っていました。
「もうすぐヤタっていう大きな黒い鳥が戻って来るんだ」男は小さな彼の赤い頭を摩りました。
……いつか俺がヤタ乗りになれたとき、一体そのときはどんな奴を初めて運ぶことになるのだろう?
ときどき俺も「あの世」に戻りたいな、って思うことがあるよ。でもたぶん俺はずっと、永遠に戻れないんだ。だからさ、俺は「この世」の自分と折り合いをつけなければならない……男は口にせず微笑みました
「ごめんなさい」小さな彼は今もまだよく事情を知らないまま謝りました。
「さっき言ったろ、誰も悪くないんだよ・・・」
あのクソババァは微妙だけどさ。と男はやはりそれだけは口にしませんでした。「この世の意図」を否定してしまったら「トマリギ」で働く影として、いや「あの世」へ還る者たちの世話をして存在し続ける意味が失われてしまう気がしたからです。