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サンソンくん  river 編  作者: ハクノチチ
11/27

当人たちで決めなければいけない

 ー当人たちで決めなければいけないー


 「トマリギ」は眼下の雲海(みたいな景色)を果てまで見渡せる崖の中腹に出っ張った平たい岩のことです。広さは学校の教室くらいでしょうか?

 何も知らない小さな彼は今回も長い瞬きの後、崖の上に建つ掘っ建て小屋の中にある、これまでと同じ金庫の中から現れました。閉じた瞼を開けるとそこには明らかに顔のある男がいて、小さな彼は輪郭と凹凸のある微笑みに迎えられました。言葉を交わす前にジェスチャーで促され外へ出ました。

外はよく見慣れている空のような広大で明るい空間が広がっていました。小さな彼は頭上を見上げて郷愁感に浸りました。でも同時に何か違和感もありました。雲のないその「空」には太陽がなかったのです。そのくせ太陽がないのに「空」は空のように明るく、青くさえありました……

 「この空には太陽がないの?」サンソンくんは明らかに顔のある男に訊ねました。

 「ここに太陽はないよ。空のように見えるかもしれないけれど、あの世の空とは違うんだ。だから雲みたいなアレだって、実は雲とも違う」

 明らかに顔のある男は崖の先に見える、雲海を指さしました。

 「アレはこの下にあるヒカリエの光の表面なんだ。だからこの空間はヒカリエの外側ってわけさ」男は上を見上げました。「そして君が戻るあの世は、このヒカリエの光の表面に所々で開いている光の穴を逆方向に潜って戻るんだ。ヤタっていう鳥が運んでくれるんだよ」

 「……」一体全体ここはどこなのだろう?

 「じゃぁ、早速だけどぼくに付いてきて」二人は掘っ建て小屋を出て直ぐの場所に掘られている、下へ続く石の階段を下りました。


 明らかに顔のある男は「係り」と同じ服装でしたが、足元の靴は白いスニーカーでした。そしてつばの短い、小さな紺色の帽子を被っていました。眉毛は太く、二重の目は丸くて鼻も妙に丸い感じでした。口ひげを生やす口元は、どちらかと言えば陽気な印象を与えましす。小さな彼を見ると真っ先に微笑んだからかもしれませんが……

 小さな彼は「ヒカリエ」の光を引いてランプを灯す薄暗い石の階段を下りていくとき、実は自分の身体が宙に浮いていることにはまだ気が付きませんでした。硬い地面を音もなく踏む二本の足の薄暗い影と、宙に浮かぶ一つの薄暗い影が冷たい石の上で揺れました。

 石の階段を下りるとそこは十メートルほどの短い洞窟になっていて、先端で開ける平たい岩場の向こうから巨大な青い片目の瞳が覗き込んでいました……


 「今、そこの待機ルームでね、次の便で誰が還るのか、そんなことでちょっとモメているんだ。ぼくも確かに今回は酷い話だと思うけれど、ぼくらにはどうしようもないんだ。当人たちで決めなければいけないことだから、できれば君もあまり口を出したらいけないよ。いいね?」大きな声でもない男の声は崖をくり抜いた石の壁に響きました。

 「ぼくを見たら幸せになれるって、みんな言ってたよ」小さな彼は誇らしげに頷きました。もちろんそれは全く甘い見通しでした。部屋の中にいる者たちはまさに命の瀬戸際にいたからです。なかにいる者たちは白い行列でもなく、河原で働く「影」でもなく、また「あの世」で元気に、あるいはくじけそうになりながらも踏ん張り、保証なき時の転換点を信じて生きている者たちではなかったからです。

 男は複雑な表情で微笑むと階段を下りてすぐ左にある待機ルームの木の扉を無音でノックして返事を待たずに開けました……




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