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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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9-2


「宿屋に向かう」


 ポロッサの宿屋は三つあるらしい。

 どれも良い宿ではなく、かなり簡易なベッドで寝心地は良くないとエレナは話す。


「どれでしょうか?」

「入ればいいんじゃないか?」

「許可なしで入って構わない?」

「あーそれはいけないな。ウィル様達以外の客もいるだろうし」

 失礼に当たる。


「とりあえず宿屋に近づいてくれ」

「了解」

 霧の中を少しづつ宿屋に近づいていく。が、突然、止まり動かない。

「エレナ、どうした?」

「…」

 彼女は何も言わない。


 景色、いやエレナの視線は地面を見たまま前後左右に揺れていた。


「何か異常はない?」

「異常?いや、何もない…土の地面だが?」

 シンディとオーベルも異常はないと言う。

「そう…ごめんなさい」

 彼女は一言謝ると再び宿屋に近づく。


 宿屋は三つ並んでいる。

 入口は東向きで、南北に並んでいた。


 一番北側の宿屋から見ていく。


 まだ早朝だ。まだ寝てるだろう。

 特に動きはない。 


 二つ目の宿も同じ


 三つ目に行きかけた時、シンディが声を上げる。


「今何かが、動きました」

「どこだ?」

 気が付かなかった。

「二つ目の宿と三つ目宿の間です」

 


 エレナがそちらに視線を動かし、近づく。

 霧の中から現れたのは…。


「竜だ!」

 そう竜。

「これはヴァネッサのか?」

 正直、竜の見分けはつかない。

「わかりません。でも、ここに竜がいるという事は…」

「ああ、ヴァネッサかミャンが乗る竜の可能性が高い」


 鞍に見覚えがある。

 二人乗り用の鞍だと思う。


 竜はゆっくりと宿の正面に周り、小さな窓を口先を押し付ける。

 何をしているんだろうか?。

 そう思った時、窓が開き誰かが顔を出す。


「リアン様!?リアン様です!」

「おお!」

「間違いありません…ああ、よくぞご無事で…」

 シンディとオーベルが手を取り合う。


 リアン様が笑顔で、竜の顔を撫でている。

「リアン様!シンディです!聞こえますか?」

 シンディがそう壁のリアン様向かて叫び手を振る

「こちらからの声は聞こえないし見えない。あちらの声も聞こえない」

「そ、そうなのですか?…失礼しました…」

 シンディは顔を赤くする。

「気持ちはわかるよ。ぼくも思わずそうしたくなった」

「わたくしもです」

 三人で苦笑いを浮かべる。


 その後ろにミャンとウィル様も確認できる。

 三人とも元気そうだ。


「そう言えば、ヴァネッサがいないな」

「周りを確認する」

 そういって振り返った時、ヴァネッサの顔が大きく壁に映った。

「おおっと、噂をすれば」

 ヴァネッサは通り過ぎて行って、竜の鞍を叩く。

 叩かれた竜はヴァネッサに顔を寄せる。

 ヴァネッサは竜の顔を撫でつつ、窓越しに何かをリアン様に渡した。

 リアン様はそれをミャンとウィル様の渡す。

 ミャンがそれにかぶりついた。

 

 朝食のようだ。


「皆に知らせに行きます。気になっているでしょうから」

「わたくしも行きます」

 シンディとオーベルが部屋を出て行った。


 二人は出て行ってほどなく、レスターとガルドがやって来る。

「ウィル様達が帰ってきたって本当ですか?」

「これを見てくれ」

「こいつは…魔法ですか?」

「それ以外の何に見える?」

 レスターとガルドも驚きつつ壁の映されたものを見る。

 エレナは千里眼について説明した。


「四人とも無事か…」

 レスターは大きく息をはく。

「迎えに行く」

 ガルドも安心しつつも表情を固くする。

「行く必要ないだろ。昼には着く」

「馬鹿野郎。リアン様がどうなったか知ってるだろ、ここでもし…」

「おい…」

 レスターがガルドの発言を止めた。

 

 ん?リアン様に何かあったのか?。


「とにかく、俺は行く」

「分かったよ…ただし連れていくのは一人だけにしろよ。おれ達はシュナイツ防衛が任務なんだ。戦力を落としたくない」

「了解だ」

 ガルドが早足で出ていく。


「すみません…ガルドのやつが…」

「いや、ポロッサだから良いと思うが…それより、リアン様に何かあったのか?」

「え?いや…」

 レスターは言いよどむ。


 ここでエレナが魔法を止め椅子に座り、こめかみを押さえる。

「エレナ、大丈夫か?」

「大丈夫。少し疲れただけ…」

「魔法力を消費しすぎた?」

「いいえ、消費自体は少ない…それより、かなり集中力を要する。やはり二つの魔法を同時に扱うは難しい」

「そうか…」

 彼女は眉間を抑え、息をはく。

「私が千里眼自体を使い慣れていないせい。それと魔法陣自体にまだ改良の余地があるのかもしれない」

 はっきりと話しているので大丈夫だろう。


「で、リアン様に何があった?」

 レスターは視線を外す。

「何かがあったからこそ、ガルドは迎えに行ったのだろう?」

 そう言うと、レスターは小さく息をはく。

「実は…」

 

 ぼく達は、ウィル様達が出発してすぐの南の山中で起きた事件を聞いた。 


「リアン様が…」

「…」

 エレナは黙ったまま。


「どうして教えてくれなかった。情報は、可能な限り共有すべしと教わったぞ」

「ヴァネッサ隊長が言うなと…無用な心配をさせたくなかったのでしょう」

 ヴァネッサが…。

「見くびられたものだな…」

「すみません」

「心配させたくない気持ちはわかるが、ぼくは隊長を仰せつかってる。せめて隊長職には言うべきではないか?」

「はい…」

「私は知らなくてよかった」

「エレナ?」

「知れば当然心配するだろうし、平静でいられる自信はない。それが態度なって表に出れば周囲が不審がる」

「そう…かもしれないが…」

 エレナの言う通り、平静いられるかと問われれば、平静でいられると断言は出来ない。

 レスターとガルドは事情を知ってるのにもかかわらずいつもどおりだった。

 さすが竜騎士と言うべきか。


「ヴァネッサの判断は間違っていないと思う。それにレスターを批難するのは違う。彼は直属の上官であるヴァネッサの命令を守っただけに過ぎない」

「いえ、自分にも非はあります。ライア隊長の言う通り、お知らせするべきでした。以後、気をつけます」

 彼は姿勢を正し丁寧に頭を下げる。

「ぼくも言い過ぎた感はある。知らずに済めば、それに越したはないのかもしれない」

「リアン様は無事に戻って来た。今回は、それで良しとすべき」

「そうだな」

 終わり良ければ全て良し、と。


「エレナ様、すっごい魔法使ってるって本当ですか?」

「ポロッサ丸見えってどういう事です?」

 魔法士達が騒ぎながら入って来る。

 エレナはため息をはき、頭を抱える。

 抱えつつも千里眼についての魔法を丁寧に説明した。


「教えてください」

「あなた達程度の力では無理」

「えー…」

「限界を越えたら、教える」

 魔法士達が悪態ともに、ため息を吐く。


「なら、見せてもらえませんか?」

「そうそう」

「それなりに疲れるらしいぞ」

「そうなんですか?」

「使い慣れていないから…」

「ちょっとだけ…」

 

 魔法士達は意欲的だな。

 エレナの話では、成長度合いが増したと聞く。


「エレナ隊長。おれからもいいですか?ちょっと気になる事が…」

「気になる?特に変わった様子はなかったようだが」

「了解」

 彼女はもう一度、千里眼の魔法を発動する。


 壁にポロッサの様子が映し出された。

「おお!」

「これって、今のポロッサなんですね」

「やっば…」

「これは便利なものだね」

「静かにしろって」


「レスター、どこが気になる?」

「はい。隊長達の竜なんですが…」

 壁の景色が竜の所に寄る。

「竜が三頭いませんか?」

「は?…本当だ」

 霧で少し視界悪いが、確かに三頭いる。

 

 出発時は二頭だ。

 ヴァネッサとミャンの竜にリアン様とウィル様が乗って行った。


「王都から誰かついて来たんじゃないか?」

「護衛なら班で四人のはずです。それか二名…単騎はありえない」

 竜騎士は基本的に単独行動はしない。

「さっきはヴァネッサ以外に竜騎士と思われる人物はいなかった」

「そうですか…」

 レスターは腕を組み、少し首を傾げる。


「スカウトしてきたんじゃないですかぁ?」

 リサが手を上げ発言する。

「スカウトか…」

「正規の竜騎士を辞めてシュナイツに来る酔狂はゼロでしょう。おれがいうのもなんですが…」

「さきほどはそんな人物はいないようだったが…」

 

 今は窓は閉じられいる。中を覗けばいいが、それは…。


「別の部屋かも」

「エレナ様、中に…」

「それはしない」

 エレナは魔法を止めてしまった。

「どうして…」

「あなた達は勝手に部屋を覗かれても平気?」

「それは…嫌です…」

「特別な事態を除き、そういう行為はすべきではない。悪用するつもりなら、千里眼は教えない」

 魔法士達は慌てて、口々に絶対しないと話す。


「とりあえずウィル様達の無事を確認できたし、ガルドが迎えに行ったからシュナイツまでは大丈夫。竜三頭の件は帰って来てからのお楽しみ、という事でどうだろうか?」

 エレナとレスターからは異存は出なかった。


 なぜ竜が三頭いたか、それは説明しなくてもいいだろう。

 これに驚かった者はいない。


 ウィル様達の一行が無事だった事で、皆の表情が明るくなっていた。

 レスターは浮かれすぎだ、と注意して回っていたな。

 

 貴重な経験をさせてもらったが、できる事ならもう経験したなくはない。

 

 ぼくからはこれくらいで。  



Copyright(C)2020-橘 シン

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