表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/102

8-4


 翌朝、早め起きてパイを買いに、ミャンと一緒に市場へ。

 

「うわっ、もう並んでる」

 

 市場はまだ準備中の店が大半の中、パイ売り場には列が出来ていた。


 僕達も列に並び待つ。

 ここまでパイの匂いが漂ってくる。


「いい匂い…」

 ミャンはうっとりと目を細める。

 列が進み順番が回って来た。


「四つ、お願いします」

「四つね。二百ルグです」

 代金を支払い、パイは麻紙に包んでもらう。

 一つ五十ルグは結構な値段だ。安い食事なら二食は買える。

 しかし、数量限定で美味しいときたら、多少高くても買いたくなってしまう。

 上手いこと心理をついた商売だ。

 常に美味しい物を作らなければいけないというプレッシャーはあるだろうけど。


 宿屋に帰る前にギルドに寄って金券を現金に変える。


 宿屋に帰って、朝食だ。

 

 朝食はほんとに簡単なもの。

 今日はサンドイッチ。

 ハムとトマトとチーズが挟まっている。

 これで十分。

 もう少しお金を出せば、露店で量、質ともに良いもが食べられるだらろう。

 そこは手持ちのお金と相談。


「十分よね?これで」

「うん、僕もこれで十分」


 朝食が終わって、パイを食べようと思ったんだけど…。


「それ出発してからにしない?」

「僕はいつでもいいけど」

 時間がもったいないか。

 棟梁の所にもよらないといけないし。


「私も後でいいわ。距離を稼ぐって話だったし」

「じゃあ、早く行こうヨ!」

 ミャンは早く食べたそう。


 宿と食事の代金はちゃんと全額支払った。

 世話になったから、代金はいらないよとか、じゃあ半分ともいわれたが…。

 商人として今後もリカシィに来るなら、割り引いてもらうのもありだが、もう来ないだろう。

 シュナイツに腰を据える事になったから。


 

 コールマンさん達と店の裏手で別れの挨拶。

 シノさん、それからバズさんも顔を出してくれた。


「バズさんお久しぶりです」

「久しぶりだな。昨日はすまんかった」

「良いんですよ。無理しないで、体に気をつけてください」

「うむ、ありがとう。お前さんもな。頑張れよ」

「はい。ありがとうございます」

 肩を軽く叩かれた。


「ウィルさん、これお昼に食べて」

 シノさんが布の包みをくれた。

「わざわざ、作ってくれたんですか?」

「朝と同じ物だから。期待しないでね」

「そんな事…ありがとうございます」

「元気でね」

「はい」


「ウィル。おれらに出来ることがあったら相談してくれ」

「はい。ありがとうございます」

「わたし達は、まだ恩を返していないんだからね。何でも言って」

「はい」

 フレデリカさんとテオさん、二人と握手をする。


「ウィルさん…また、いつか来てね…」

 ジーナはちょっと涙ぐんでいる。

「うん。またいつかね…」

 いつなるか約束はできないが、また来たいと思う。

 

 リアン達を挨拶をすませ、今度は棟梁の店に行く。

 何度も振り返り、コールマンさん達に手を振りながら。


 棟梁の店は通りから脇へ入った所にある。 

 朝の混み合う時間になったので、そこまでは竜を引いていく。


 

 ガーリン工務店 リカシィ支店

 

 店の看板にはそう書かれいた。


 店の前には、棟梁が腕を組んで直立不動の姿勢をとっていた。

 今来たって感じじゃない。ずっと前待って居たのかもしれない。


「棟梁、おはようございます」

「おう!」

 手を軽くあげて答えてくれる。


 アムズさんも表に出て来てくれた。


「これが昨日話してた、お前の竜か?立派な竜じゃねえか」

 そう言って僕の竜に手を伸ばす。

「クアッ!」

 竜が棟梁に向かって声を上げた

「おうっ!?な、なんだよ!」

「大丈夫だよ。棟梁は悪い人じゃないから」

 竜の顎下を撫でる。 

「嫌われたんじゃないんですかね」

 アムズさんが笑いながら話す。

「んなけねえだろ…。俺はウィルの師匠何だぞ?わかるだろ?」

 そう竜に話かける。

「棟梁、竜に話しかけてどうするんです?」

「竜は人の言葉がわかるって聞いたぞ」

「首かしげてますけど?」

 確かに首をかしげて棟梁を見てる。


「もう大丈夫だと思うよ」

 ヴァネッサの言葉に棟梁が恐る恐る手を竜の顔に近づける。

 竜も棟梁を見ながら顔を近づけた。

 そして、棟梁が顔に触り始める。

「おお、触れたぞ」

「顎下を撫でると喜びますよ」

「こうか?おお、なんだ結構かわいいじゃねえか」

 竜が喉を鳴らす。

「アムズ、お前もどうだ」

「いや、いいです…」

「ビビりやがって、臆病な野郎だ。なあ?」

「クアゥ」

 竜が鳴いて答える。

「おい、今の見たか?おれに返事したぜ」

「はいはい…」

 アムズさんはちょっと呆れている。


「ウィル」

 ヴァネッサが小さく呼びかけてきて、北の方を見る。そろそろ行こうという事だろう。


「棟梁。そろそろ行きます」

「おう、そうか?…」

 名残惜しいはお互い様だが、出発しないといけない。

「竜に乗って見せてくれ」

 そう言われたので、竜に乗り込む。

「よっ、と…」

「おお!。堂々として、もういっぱしの領主だなぁ」

「鎧姿が似合ってるぞ」

「やめてくださいよ…」

 こういうのホント苦手。

 堂々なんてしてないし、鎧も似合ってないよ。


「それじゃあ、棟梁…そろそろ…」

「おう…。ウィル、おれはできるだけリカシィにいるからよ。困った事があったら手紙をくれ。すぐに行ってやるから」

「はい、ありがとうございます」

「絶対だぞ」

「はい」 

 棟梁の力強い言葉に大きく頷く。


「ねえちゃん、お嬢ちゃん。ウィルの事頼むぞ」

「わかってるよ」

「はい」

「任せてよん」

 リアン達が少し苦笑いを浮かべつつ答える。


 竜を北に向ける。

「じゃ棟梁。またいつか」

「おう」

 

 混んでる表通りを避け、裏通りを北に向けて出発。

 棟梁は見えなくなるまで見送ってくれた。


 棟梁があの頃と変わっていなくて安心した。

 変わった僕を見て内心どう思っているだろうか?

 褒めてはいたけど…。

 

 最後に振り返えった時、袖で目を拭っていたように見えた。 

 それを見て、僕も目に涙が溜まってしまった。


「ウィル、大丈夫?」

「え?ああ…大丈夫だよ」

 リアンの言葉に、涙を軽く拭って前を向く。

 

「行けるかい?」

 裏通りにはもう人家はない。

「ああ」

「ミャン、前出て。少し走るよ」

「はいは~い」

 ミャンが竜を一蹴りして走り出す。

 僕がそれに続いて、ヴァネッサが僕に続く。


 シュナイツまでもう少しだ…。


「え、パイ?もちろん食べたよ。リアンとミャンが大喜びしてたね」

 

「この後は何事もなかったんだ。賊の気配すらない」

「ヴァネッサは拍子抜けなんて言ってたけど、僕は安心したよ」


「納屋を貸してくれた農家に聞いた話なんだけど、ちょっと前から賊に襲われる事が減ったらしいよ」

「僕達を襲った賊を倒したからじゃないかって、ヴァネッサは言ってたかな」

「怖じ気づいたというのだろうか?」

「ミャンがいた村にはまだ賊はいるが、数が減ったらしいし。良いと言えば良いだけど、どこかに移動したと考えると、良いとも言えないね」

「こればかりは僕達にはどうにも出来ないから仕方ないけど…」


「ウィル様」


「シンディ、どうしたの?」


「こちらの書状に目を通していただけませんか?」


「ああ…これって…元老院議長からだ…」


「はい」



「すまない。ちょっと時間がほしい」

「留守を預かってくれたライアやガルドにも話を聞いてみるといい」

「特に何もなかったみたいだけど」

「うん。また後で」


エピソード8 終

Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ