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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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8-1 家路


 王都からの帰りについては、僕から。

 と言っても、特段変わった事はない。


 リカシィまでは街道を行った。

 ヴァネッサは、王都北側の穀倉地帯行きたいと話していたね。

 ほぼ平坦で見晴らし良いからと。

 でも、町が少ないんだ。

 距離感を間違えれば、町に着く前に夜になってしまう。


 そういう点で街道を行く事にした。


 竜が速すぎて、驚いたよ。

 リカシィまで7日で着いた。荷馬車だったら十日はかかっていた。商売としながらならもう少しかかるだろう。


 街道の道幅は広いが、通行人も多い。

 状況を見て、空いている時に走る。

 早朝に出発して、飛ばしていたね。最初はちょっと怖いし疲れるんだけど、慣れてきて気持ちよくなっていった。

 

 ヴァネッサに、乗馬に自信がないって本当かいって聞かれた。

 そうだったんだけど、竜だからなのかな?。乗っていて安心する。


「やっぱり、竜だからだろうね。あんたに合わせてバランス取ってんだよ」


 僕の竜は大人で成長しないから、僕に合わせてくれるなんて思ってなかった。

 ただ、馬のように乗れるだけだと。


 戦う事はできないが、僕をパートナーとして見てくれている。

 出会ってまだ数日たというのに。

 愛おしくなるし、頼もしくもある。


 ちょっと話がずれてしまった。



 リカシィに着いたのは、昼過ぎだったはず。


「いや~早いネ」

「ほんと、でも急ぎすぎじゃない?私疲れた…」 

「あたしは別に急いでないよ。ウィルが飛ばしすぎ」

「え?僕のせい?」

「せいってわけじゃないけどさ…」

 調子に乗りすぎた?…。

 ペースを合わせてほしいとヴァネッサにちょっと叱られた。


 町に着いたらまずは宿の確保。


「いつも行ってる宿があるんだ。そこに行こう。マリーダ姉さんやアスカ、エレナも泊まってる所だよ」

「エレナの話に出てきたわね。食事もできる所でしょ?」

「そうだよ」

 

 ここは重宝してる。

 宿と食事が一緒な所はここ以外知らない。

 別というのが常識みたい。

 宿と食事処を経営してる人はいる。でも隣同士は、僕は見たことはない。


 リカシィに宿屋は他にある。そっちはちょっと高い。

 いい宿に泊まりならそっちがいいだろう。

 食事処もある。こっちもちょっと高め。

 安いのがほしいなら、露店なんかもある。

 

「寝るだけだけだし、特に困った事はないから、いつもこっち」

「で、食事が割引になる、お金がないあたしらにピッタリだね」

 ヴァネッサの言う通り。 

 

 宿屋コールマン


 ここが今回、僕らが泊まる所。

 二階建て。食事処は一階のみ。

 二階建てだけど、部屋数は多くない。最大十人だったかな?。


 通りの西側に入口。


 竜は宿屋の裏に。

 荷物を持って中へ。


「こんにちはー」

 入ってすぐ正面にカウンターがあるんだけど、そこには誰もいなかった。

「テオさーん!」

「…あーい!」

 微かに声が聞こえる。

 二階かな?。

 少しして、左側にある階段を降りてきた。


「ん?おお!ウィル、久しぶり」

 そう言いながら、僕と他三人を見る。

「お久しぶりです。部屋空いてますか?」

「空いてるよ」

 テオさんはカウンターに入った。


 テオ・コールマンさんはここの主人。奥さんと娘さんがいる。


「それで…今日は…」

 彼は僕の後ろに立つ三人を見る。

「お前の連れだよな?…」

「ええ、まあ…」

 

 一応、事情を説明する。


「おいおい…」

 テオさんは驚き絶句した。

「ギルドの掲示板を見て、まさかと思ったが…ほんとにお前だったのかよ。別の人かと思ってたぜ?」

「まあ、色々ありまして…」

「あまり口外するのは、ちょっと…」

「おう、分かったよ。で、部屋はどうする」

「部屋は…ヴァネッサ、いつも通り?」

 彼女は頷くだけ。

「はあ…。二人部屋を一つ」

「一つ?二つじゃなくて?」

「うん…。料金は四人分、ちゃんと払うので」

「ああ、うん…」

 テオさんは僕らを訝しげに見る。

「だめなら、別の所に行くけど?」

 ヴァネッサが苛ついた様子で話す。

「別にだめじゃないさ。だけどよ、二人部屋を四人で使うには狭いぜ」

「テオさん、狭くいいから。二階だったよね」

 僕はヴァネッサたちを押して階段に向かわせた。

「ああ、台帳に記入してくれ。これ鍵と割引札。部屋は一番奥だぜ」

 台帳に記入し鍵を受け取り、二階へ急いで上がる。


 絶対、変に思ってるよ…。

 知り合いだから余計に気まずい。


 二階の一番奥っと。

 部屋にはベッドが二つ。北向きの窓からは市場が見える。

「良いんじゃない?」

「そう…ですか…」

「そんな顔しなくても」

 そんな顔ってどんな顔だよ。

 

 兵法書はベッド下の隙間に。

「荷物もベッド下に入れて、隠す感じで…これで大丈夫でしょ」

「夕食にはまだ早いわ。どうする?」

「保存が利く食料品を買わないといけない。ここからポロッサまでは農村だけだから」

「うへぇ…また、あのカチコチのパン?」

 ミャンが舌を出しながら、顔を歪ませる。

「仕方ないよ」

「アタシの体はそんなモノは受け付けなくなってるんだヨ」

「ああ、そう?じゃあ、あんたはシュナイツまで食事なしね」

「え~やだぁ」

 完全に駄々をこねる子供だ。


「市場に行って見ようか?」

「混んでじゃないの?」

 

 窓から市場を見る。

 ここが混むのは昼くらいまでで、今はそんなに混んでいない。


「あれくらいなら…いいか」

「じゃあ、行こう」

「あの、私行きたい所があるんだけど…」

 リアンが小さく手を挙げる。

「どこ?」

「海が見える小さな丘があるでしょ?」

「ああ、あるよ。そこ?」

「うん」

「まず、そこに行ってから、市場に行こう」

「ありがとう」

 

 ということで部屋を出る。

 一階に降りると、フレデリカさんがいた。


 フレデリカさんはテオさんの奥さん。


「ウィルさん」

「フレデリカさん。お久しぶりです」

「だねぇ。元気だったかい?なんだか大変な事になってるみたいだけど?」

「ええ、まあ…」

「詳しくは聞かないよ。うちらはウィルさんに借りがあるから。困った事があったら何でも言って」 

 フレデリカさんはそう優しく言ってくれた。

「借りだなんて…。そんなつもりはありませんが…ありがとうございます」

 

 この後、リアン達とお互いに挨拶する。


「お父さん!お母さん!裏に竜が三頭もいるよ!」

 と、カウンターの扉から女の子が出てくる。

「僕らのだよ」

「ウィルさん!?」

 女の子はカウンターから出て、僕の腕にしがみつく。

「久しぶりだね」

「やあ、元気だった?ジーナ」

 

 ジーナはテオさんとフレデリカさんの娘さん。

 後ろ髪を三編みにしている。


「ウィルさんの竜なの?」

「ああ、そうだよ」

「竜を手に入れたのか?すげえな」

「大人の竜で戦ったりはしないんだけど」

 陛下に支払ったことは黙っておいた。

「見せて!いいでしょ?」

 僕はヴァネッサを見る。彼女は頷く。

「いいよ」

「やった!」

「ジーナ、ちゃんとお使い行ったの?」

「行ったし、厨房に置いてきたよ」

「お釣りは?」

 ジーナはポケットからお金を出してフレデリカさんに渡す。

「早く行こう」

「はいはい」

「ごめんなさいね。ジーナ、ウィルさんは疲れてるんだから、程々にしなよ」

「はーい」

「いいんですよ」

 僕らは裏に回る。


「すごい…こんなに近くで見たの初めて」

「怖くない?」

「全然」

 彼女はすぐに慣れて、竜の顔を触る。

「中々、度胸があるね。リアンと違って」

「すみませんね。度胸がなくて」

 リアンはちょっと不機嫌そう。


「乗りたい!」

「えっと…どうだろう」

「あたしの竜ならいいよ」

「ウィルさんのはだめなの?」

「ウィルの竜はまだウィル以外に慣れてないから、暴れるかも」

 嘘だと思う。けど、万が一ってことあるから。

「そうなんだ…」

「どうする?やめるかい?」

 迷う彼女にヴァネッサが話かける。

「竜に乗るなんて、中々できないよ。友達にも自慢できる」

「乗る!」 


 ジーナは、乗ったら体を動かないというヴァネッサの約束をして竜に乗った。


「やった…」

 彼女は笑顔で小さく拳を握る。

「もういいね」

 ヴァネッサはジーナを降ろす。

「ジーナ、お母さんを手伝って来たほうがいい。忙しくなるだろうから」

「うん。ありがとう、ウィルさんヴァネッサさん」

 裏口に向かう彼女。

「夕食はうちで食べるんでしょ?」

「もちろん」

「じゃあ、後でね」

 手を振り中へ入っていった。


「はあ…」

 何故かリアンがため息を吐く。

「リアン、どうしたの?」

「別に…。海、見に行きましょ」

 そう言って歩き出す。


「ヴァネッサはコールマンさんの宿は知らなかった?」

「いや。あるのは知ってたよ。でも、もっと小さかった気がする。隣の食事処も」

「増築したからね」

 

 ヴァネッサはシュナイダー様と一緒に、王都とシュナイツを何度か行き来してる。

 シュナイダー様をヴァネッサを含む竜騎士四人で護衛してたそうだから、増築前のコールマンさん宿には全員泊まれない。

 それに一人部屋だけだしね。


 丘の上の公園に到着。

 海と港を一望できる。

 海からの潮風が気持ちいい。


「綺麗…」

「リアンは海見るの初めて?」

「いいえ。リカシィには一度来てるから、海は初めてじゃない」

「そう」


 今日の海な凪いでいる。


 夕方には、夕日で海が赤くなるだろう。


 しばらくそのまま、海を眺めていた。


 後ろにいたヴァネッサとミャンが離れていく。

 市場に行くのかなと思ったんだけど…。


「ねえ、ウィル」

「ん?何?」

「ごめんなさい」

 彼女は正面を向き、まっすぐ僕を見て話す。

「王都に行きたいなんて、自分勝手な事言って…」

「リアン…。リアンが謝る必要ないよ」

「ダメ、謝らせて。あなたやヴァネッサ達が、私の事を考えてくれた上で、王都に行く事を決めてくれた。本当なら行かないのが一番なのに…」

「君のためになるんじゃないかと、勝手に考えて決めたのは僕だ。結果、君に怪我をさせてしまった。それは僕の責任だ。すまない」

 これは僕自身の気持ちだ。

 ヴァネッサはヴァネッサで思う事があるだろう。

「ウィルが謝る事は…あなたのせいじゃない」

 

 謝る事で自分が責任を負う事は簡単だ。

 だけど、リアンが矢を受けてしまったその事実は変わらない。


「お互いに謝って、これで終わりにしよう。無事に帰って来れたんだ」

「うん…。ありがとう、ウィル」

「ありがとう、リアン」


 謝罪よりも感謝を。


「話は終わった?」

 ヴァネッサが話しかけながら近づいてくる。

「うん。ありがとう、ヴァネッサ。ミャンも」

「どういたしまして」

「いいよん」


「まだシュナイツに着いてないんだから、気抜くんじゃないよ」

「わかってるさ」

 

 もう少しだけ海を見た後、公園を後にした。

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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