7-19
宮殿へ戻ると、領主達の集団に出くわす。
食事会が終わったんだろうか。
昨日、挨拶した領主ばかり。
会釈しつつ通り過ぎるのを待つ。
集団の最後にファングリー卿がいる。
「やあ。ウィルならマリウス卿達と話をしているよ」
「そうですか」
迎えに来たと思われてるみたい。
「明日、帰るんだってね」
「はい」
「とんぼ返りか。大変だ」
「領主も補佐官も不在じゃマズイんで」
「確かにな」
ファングリー卿は苦笑いを浮かべつつ頷く。
「帰りは竜三頭だ。少し早く帰れるんじゃないか?」
「どうでしょうね。帰りの方が荷物が多くて」
「そうか…」
早いことは早いだろうけど。
「食事会の部屋は近いんですか?」
「ああ。すぐそこだよ。つき当りを右だ。行けばわかる」
「ちょっと行ってきます」
ここまで来たらついでだ。
つきあたりを右っと。
あそこか?…廊下に剣を腰にぶら下げた者数名。他に使用人多数。
剣を下げてるのは近衛竜騎士隊だろう。
近衛竜騎士隊は常時武器を携帯できる。(当直の見張りは別として)宮殿ないでも。
一番隊でもそれはできない。
近衛竜騎士がいるって事は陛下もいるって事だ。
近づくあたしに気づいて、前を塞ぐように立つ。
「どこの所属の者か」
どこって…。
そう言って来たのはあたしくらいの二十代後半の男性。
なかなかいい体格。
あたしの事は知っていそうなもんだけど。
だいたい、後ろに…えっと、ああ、ジェネス・マトゥーアがいるじゃないか。
「シュナイツのヴァネッサ・シェフィールド」
「ああ、お前が…」
驚きもしない。笑ってるし。
「近衛竜騎士隊の副長をやってる。ケルビム・ハーフナーだ」
「どうも」
握手をする。
「ジェネスが世話になった」
「世話なんかしてないよ」
「お久しぶりです。シェフィールド隊長」
「そうだね」
ジェネスとも握手して、その他の隊員とも挨拶する。
シュナウザー様のお悔やみともに。
「うちの領主がいると思うんだけど…」
「イシュタル卿なら中におられる。迎えに来たのか?」
「いや、散歩中で近くまで来たから」
「散歩か、いい気なもんだな…」
ケルビムがため息交じりに言う。
「今だけね。明日からはまた護衛しながら、家路だよ」
陛下の護衛に比べたら、ストレスは小さいかもしれない。
「イシュタル卿が竜を手に入れたってのは本当か?」
「一回乗っただけらしいですが?」
この二人はあそこに居なかったのか。
「本当だって、あたしも驚いてるよ。でも、竜は大人で戦闘用じゃないけどね」
「それでも、すごい事ですよ」
などと話をしてると陛下とウィル、リアン、マリウス卿とその他領主数名が出てくる。
「ヴァネッサ。明日、帰るそうだな」
陛下があたしに気づき話かけてくきた。
「はい」
「もう少し、ゆっくりしていけば良いものを」
「申し訳ありません。早く帰らないとシュナイツに残してきた者達が、やきもきしすぎて寿命が減ってしまいますので…」
「ははは、そうだな。致し方なしか」
陛下は笑顔でそう言ってくれる。
「道中、気をつけてな」
「はい。お気遣い痛み入ります」
「うむ」
陛下は秘書らしき事務官と近衛竜騎士ともに去って行く。
その後、マリウス卿と少し話して彼も去る。
「ヴァネッサ、迎えに来てくれたの?」
「そうだよ。迷子にならないようにね」
「もう。ここと部屋はそんなに離れてないから、迷わないわ」
はいはい、そうですか。
「食事会はどうだった?」
歩きながらウィルに訊く。
「最初は僕の竜の話からで…」
彼は参ってる様子。でも、そいつは仕方ない。
かなり珍しい事だからね。
後は普通に談笑。
「リアンも?」
「私は相づちしてただけ…よくわからないし」
行った意味は…。まあ、いい。
ウィルのそばにいるだけでも、支えになるだろう。
「ィル!…」
「ん?誰か呼んだ?」
「あたしじゃないけど?…」
「ウィル!」
後ろから聞こえる。
振り向くと…。
「フィオレット姫…」
「うわぁ…」
しかも一人で…。護衛すらいない。
姫様はスカートを少し持ち上げ早足であたし達、いやウィルに近づく。
「ヴァネッサ…」
「知らないよ」
「ええ…」
姫様の目的はウィルだし。
「ウィル!食事会は終わったのか?」
「ええ、まあ…」
「そうか!。では参ろう」
そう言うとウィルの腕に自分の腕を絡める。
「あ、あの姫様、どこに?…」
「妾の部屋じゃ.」
「いや、それはちょっと」
ウィルは拒否を示す。
「昨日、二人で話そうと約束したではないか」
猫なで声でウィルに迫る。
「そうでしたっけ…はは」
「わかっておるだろう?さあ」
姫様はウィルの腕を引っ張るが、もう片方の腕をリアンが掴んでいる。
「姫様、申し訳ございません。私達は明日シュナイツに帰るのです」
「何!?真か?」
「はい」
「なので荷物の整理をして、明日の備え休息を取らねばいけません。姫様とお話なんかできる時間なんてないんですぅ!」
姫様は奥歯を噛みしめる。
「貴様はさっきから何なのじゃ?補佐官如きが、しゃしゃり出るでないと言っておろう!」
「補佐官だからウィルのそばにいるんです!そちらこそ、昨日話したくらいで馴れ馴れしくしないでください」
「何じゃとぉ…」
姫様は周りを見渡す。
廊下にはあたし達しかいない。
「調子こいてんちゃうぞ、ワレ。自分なんか、うちの一言で牢屋行きや。一生出られへんぞ。ああ?」
姫様とは言えないドスを聞かせた声で、リアンに迫る。
「え?…」
リアンもウィルもこれには驚く…ていうかドン引き。
あたしもこういう人と聞いてはいたけど、実際に聞いたのは初めて。
「わかったら、どかんかい」
「姫様、落ち着いてください」
さすがにこれ以上は見過ごせない。
「ヴァネッサ、ワレも楯突くんか?おぉん?」
「誰か来たら、姫様の印象が悪くなりますよ」
知ってる人にはいいんだけど、知られちゃマズイ人もいるだろうし。
「姫様!…そこにおられましたか」
「ちっ!」
付き人だろうか?。数名が廊下の奥からやってくる。
「どうしたのじゃ?そんなに慌てて」
「突然、居なくなったら慌てもします。お部屋へお戻り願います」
「まだ、眠とうない。散歩程度良いじゃろ」
ドスを聞かせた声はどこへやら、いつもの?姫様に戻る。
「夜ふかしして翌朝起きれなくなったのをお忘れですか?」
「ふっ…」
リアンがちょっと吹き出して笑い、慌ても口を塞ぐ。
それに気づいた姫様が顔を赤くする。
「くっ、今それを言う出ない!」
「も、申し訳ありません」
ちょっと恥ずかしいかもね。
「姫様」
ウィルが話しかける。
「姫様のご希望に沿う事はできませんが、明日の出発にお見送りに来ていただけると、嬉しく存じます」
「見送りか…そうじゃな…」
「と、なれば姫様。そろそろご就寝されませんと…」
「わかった…。ではな、ウィル…」
「はい。おやすみなさいませ」
少し寂しげな姫様を見送る。
姫様が居なくなってから、ウィルはため息を吐く。
「隨分、好かれてるね?」
「僕は何もしてないに…」
「大迷惑よ。明日も来るんでしょ?」
リアンは愚痴をこぼす。
「て、いうかあの人、二重人格なの?」
「そういうんじゃ…。ストレス溜まってんじゃない?」
王族は公務優先で、自分の思い通りな暮らしはできないと、殿下から聞いた事はある。
殿下は好き放題やってそうだけど、あれでも公務優先してる…はず…。
「さあ、戻るよ。あたし達も寝ないと」
「そうね」
「その前に荷造りしないと」
リアンはドレス以外は持って帰るらしい。
鞄に入ればいいけどね。
部屋に戻って、あたしは寝ようと思ったら、リアンがあたしの鞄に余裕はないかと訊いてきた。
「はいはい。ありますよ、どうぞ」
「ありがとう、ヴァネッサ」
リアンはあたしの鞄に服を押し込んでいく。
鞄は膨れ上がりパンパンに…。
今度はウィルがやってくる。
「もう鞄に余裕派ないよ」
「は?」
「え?違う?」
「シュナイダー様の兵法書を見せてもらおうかと思って」
「そこのチェストの上にあるよ」
「これが…中見ても?」
「いいよ」
ウィルは鞄を開け、兵法書を取り出す。
「すごい厚み…うわぁ」
ページを捲り声を上げる。
「びっしり書かれてるわ」
リアンも覗き込む。
「これを一人で書き上げたのか…」
「部下と一緒にだと思うよ」
「でも、シュナイダー様が主導していた」
「そうだろうね」
ウィルは兵法書から目を離さない。
真剣な表情で読み込んでる。
「あんた、ずっと読んでるつもり?」
「え?いや…」
「ウィル、シュナイツに帰ってからにすれば?時間あるし」
「うん」
ウィルは兵法書を鞄に戻し、留め具をかける。
「ヴァネッサ」
「ん?」
「帰りも、よろしく頼む」
「わかってるよ」
言われなくてもね…。
「それじゃ、寝ましょう。明日に備えて」
「そうだね」
「寝坊したらいけないし」
リアンはそう言って、あたしを見る。
「はいはい…」
あえて何も言わない。
ミャンにも言われたし。
それぞれ部屋に戻って今度こそ寝る。
ベッドに入り目を閉じる。が、昨日ような眠気は来なかった。
明日以降の事が気になる。
大丈夫。
悪い予感はしない。
シュナイツまで無事に帰るだけ。
帰ったら、いつもの日常だ…。
レスターとガルドはちゃんと指揮してるだろうか?…。
オーベルとシンディは心配しすぎて、参ってるかもしないね…。
ライアと…エレナは…。
アリスとジルも…。
そう考える内に、体の力が抜け眠りに落ちた。
Copyright(C)2020-橘 シン




