7-18
「十代前半で限界を二回突破して、不祥事で国外追放…変わった経歴ね」
ファンネリア様は笑みを浮かべる。
「ファンネリア様はエレナの事はご存知ないですか?」
「知らないわ」
「そうですか…。三年前ほど、シュナイダー様から問い合わせの手紙が言ってませんか?シファーレンから重罪人を匿うなみたいな手紙が来てないかと」
「え?…うーん、ああ来ていたような…」
こめかみを押さえ考えてる。
「近況を伝える手紙も送ってるはずです」
「はいはい、あれね。あの重罪人はエレナの事なの?」
「そうです」
手紙の内容は嘘で、一度きり。
「出どころが不明で、内容も嘘。嫌がらせ的な、よくわからないんですが」
「個人的な恨み?」
「さあ…本人は心当たりはないようですけど」
「知らない内に恨みを買っている場合もある。まあ、それは置いておいて。シファーレンでの不祥事が王国までは伝わりにくい」
「でしょうね。魔法関連となると」
「ええ。個人的に気になるので、問い合わせてみます。禁忌魔法の件も含めて」
「え?問い合わせって、できるんですか?シファーレンにですよね?」
ファンネリア様、以外に顔が広い人なんだ。
「ちょっと伝手があるから。あ、この事は秘密よ。エレナの事も言わないから」
「はい」
「それにしても、優秀な魔法士がいるのにどうして竜で来たのかしら?転移魔法があるでしょう?」
「それは…本人が使えなくて…」
エレナはシファーレンでは、その才能から優遇され、自由に研究していた。
本人は転移魔法には興味がなく習っていない
「あらあら…」
「目下研究中でして…」
「ゼロから?」
「はい…」
「そう」
「ファンネリア様、よければ教えていただけませんか?魔法陣?でしたっけ?。転移魔法のそれを」
「それはダメです」
ファンネリア様はキッパリと断る。
「どうしてです?」
「さして難しくない魔法なのに、習わなかった本人の責任よ。自由にこそ責任が伴う。身を持って実感していることでしょう」
手厳しいね…。
ファンネリア様は温厚で優しいイメージだったんだけど。
「破壊するだけが、魔法ではないのよ」
言葉だけでなく表情も厳しい。
「不祥事って、大方、複雑な破壊魔法を失敗したのではなくて?」
「…さ、さあ。それは本人に聞かれた方が…」
なんで、分かるのか。
経験則?。まさか、ファンネリア様も魔法で失敗した事がある?。
「禁忌魔法とエレナの事、調べてみます」
そう言いながら立ち上がる。
「くれぐれも、ご内密に」
「わかっています。エレナには転移魔法が完成したら、ぜひ会いに来てほしいと、伝えて」
「いいですけど。そんなにエレナの事、気になります?」
「十代前半で二回の限界突破は、聞いたことがありません。私も二回突破していますが、二十代後半でしたから…。どんな人物なのか、お目にかかりたいわ」
「そうですか…」
「あなただって、優秀な竜騎士と聞いたら気になるでしょう?」
「ええ。まあ」
なるほど。同じ立場同士だからか。
「わかりました。伝えておきます」
「では、これで…」
ドアへ行こうとした時。
「これはレオンの?」
「はい、兵法書です。直筆の」
「そう…」
「陛下が是非にと」
「陛下もなかなか、酷な事をしますね」
ファンネリア様は兵法書が入った鞄を撫でながら話す。
「そう、ですね…。最初断ったんですけど…そしたらウィルが、じゃあ僕が、なんていうし」
「気を回したでは?」
「さあ…どうなんでしょうね」
あいつがやりそうな事ではある。
「では…」
「はい。あの…あたし達は明日帰ります」
「そう。寂しくなるわね。手紙を頂戴」
「はい」
優しく微笑んだファンネリア様は、あたしと握手をした後、去って行った。
荷物整理を終えた後、ミャンを連れて剣と短槍が戻って来てるか確認に行った。
「シュナイツのヴァネッサ・シェフィールドだけど、剣と短槍は戻って来てる?」
「はい。お持ちしますか?」
「お願い」
剣をもらい鞘から引き抜く。
刃を軽く触る。
いい感じに研げてるね。
今度は柄を手前にして、目の前に持って来て水平に見る。
歪みも直ってる。
しばらくはこれでもちそうだね。
「ミャン、そっちはどう?」
「刃こぼれ以外はバッチリ直ってる」
ミャンの短槍も大丈夫っと。
武器をまた預け、部屋へ戻る。
「明日は寝坊しないでよん」
「誰が」
「イヒヒ」
しないっての
部屋へ戻ったが、寝るにはちょっと早い。
ウィルはまだ食事会だろうか。
部屋を出て、ちょっと散歩。
昔も眠れないからと、ぶらついていた。
あまり良くない事なんだけどね。
人気の少ない廊下をだた歩く。
宮殿も出て、一番隊の訓練場へ。
誰もいない。
昼の竜騎士試験時が、本当にあったのか疑うくらいの静けさ。
ここでの思い出が蘇る。
今は言わないけど。
後悔や挫折。希望と感謝。
色んな思い出ある。
一番隊にいた時間より、シュナイツにいる時間の方が長くなってしまった。
「シュナイツに行ってなかったら、今頃はどうなっていただろうね」
どこまで上がれたかな。小隊長(分隊三つ、二十四人の部下)には…どうだかね。
シュナイツじゃライバルはいないから、あたしが必然的に隊長になった。
ここじゃ、そう簡単に上には上がれない。
上がれなくてもいいって思ってたし、そんな実力もないって思ってた。
班長だけで満足してたね。
なんて事を考えてる時、何かわずかに音が聞こえる。
どこだ?。
耳を澄ます…。
新人竜騎士の訓練場の方だ。
訓練場に向かっていくと、誰かが剣を降ってる。
誰だい?。
薄暗い中、柵の支柱に小さなランプを置いてる。
近づくあたしには気づかない。それだけ集中してるみたい。
ベルリだ。間違いない。
だたの素振りじゃない。
仮想の相手を想定したシャドーレーニングだ。
相手は昨日やった一番隊隊長か、教官か。
踏み込んでからの突き、切り上げてすぐに後ろに体を引く。
間を置かずに距離を詰め、切り下げから切り上げ、やや上から片手で突きを繰り出す。
シャドートレーニングはよくやる。
自分の動きを確かめたり、いつもとは違う剣筋を試してみたり。
相手の動きをを真似したり。
「振りをもう少し小さくした方がいいよ」
あたしの言葉に、はっとして振り返り敬礼する。
「シェフィールド隊長…いつから?…」
「さあね。あんた、毎晩自主練やってんの?」
「いえ…毎晩というわけでは」
彼は剣を鞘に収める。剣は木製の模擬剣では、真剣。
竜騎士なってすぐに貰うやつだ。
ランプの所まで来て、下にあった小さな壺から何かを飲む。水だね。
「剣の振りを小さくですね?他に何か直した方がいい所はありますか」
汗を拭いながら、訊いてくる。
「そうだね…。体術はやってる?」
「体術は訓練内容に入ってます。それだけで」
「そう。体術はもっとやったほうがいい。大変だろうけど。体術で体の裁き方を訓練すれば、剣術にも活かせる」
「そうなんですか?」
「うん。相手の動きを読むのにも役立つし、間合いの取り方とかね」
「なるほど」
「配属されると、体術訓練が増えるから今からやっておけば、遅れるずについて行ける」
ベルリは真剣な顔で頷きかえす。
「時間が取れないだろうけどさ。あんたは剣術はやれてるから、体術をやってみたら?この時間にやるならさ」
「相手が必要では?」
「誰かを誘いなよ。体術がうまい奴がいいね」
「みんな疲れて、寝てしまって…」
苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。
まだ、体が慣れてないからね。
「毎日じゃないんでしょ?。自分の為なんだから、気合い入れないとね」
「はい…わかりました」
そう言いながら、右の方をチラチラ見る。
あたしもそっちを見ると…誰かが立ってた。
手にはランプ、もう片方の手に何かを持っている。
「あんたの知り合い?」
「はい…まあ、そんな所です…」
歯切れが悪いね。
あたしはその誰かに向かって手招きをする。
一礼した後、近づいてきた。女性だ。
服装からしてメイドじゃないね。
事務官か。
「これ、もらった物…」
「ありがとう」
それだけの会話で、また一礼して去っていく。
なんとも懐かしい風景。
「お菓子かい?」
「はい。こういうのはいけないんでしょうか?」
「いや、別にいいと思うよ。あたしも貰った事あるよ。メイドの友人にね」
「そうですか…」
ベルリは安心したようにほっと息をはく。
「お菓子だったり、果物だったりさ」
「昨日は果物でしたよ」
「そう」
「ここ数日はいつもより、多いんですが…」
「会合中だからね。そういうのがいつもより多くなる」
「ああ、それで…」
「この時間に自主練ってあの子に会うため?」
「え?ち、違いますよ。何、言っているですか?…あははは…」
わかりやすい反応。
これ以上は詮索しない。野暮ってもんさ。
「じゃあね。自主練は程々にしなよ」
「はい」
歩きはじめて、すぐに話しかけられる。
「あの、シェフィールド隊長はいつまで城に?」
「今日まで、明日帰るよ」
「そうですか…。色々、ありがとうございました」
ベルリはあたしに敬礼する。
「礼を言うには早すぎるね」
「え?」
「一人前の竜騎士になってから言いに来な」
あたしは右の拳をベルリに突き出した。
彼の拳を出し、軽く合わせる。
その後は何も言わず、ベルリとは別れた。
あたしは宮殿へと戻る。
Copyright(C)2020-橘 シン




