1-8
サムの言った言葉にヴァネッサは苦笑いを浮かべる。
「あれはなんだろうね。竜が四人も乗せるなんてさ…」
「四人?竜と人間は完全ペアだってさっき…」
「だからさ、例外なんだよ」
一頭の竜に四人が乗れる。
乗れる事ができるのは、ヴァネッサ、レスター、ミャンそれにシュナイダー様が乗る事できた。
「あーそういえば、シュナイダー様が変な竜を手に入れたっていってたけ。私、興味なくて詳しく訊いてないけど」
「確かに変っすね」
複数人乗せる竜は稀だがいることはいるらしいが…。
「ミャンが乗れる、これがね…例外すぎて」
竜には亜人は乗れないというが常識なんだとか。
亜人とは人間以外の種族を指す。
獣人、翼人族、吸血族が当たる。
「どうしてミャンが乗ることに?」
「ミャンがなんか気になるから触っていい?って。まあ、触るだけなら大丈夫だろうと、触らせたんけど、妙に仲が良すぎてね。シュナイダー様が乗ってみろってさ。そしたら…」
「乗れてしまったと…」
シュナイダー様も驚きつつも大笑いしたという。
「ミャンが乗れるなら、自分も乗れるはず、なんて言い出すし」
実際、乗れてしまう。
ヴァネッサの話しにガルドとサムが笑っている。
他に乗れる者がいるのでないかと、志願者を募ったが。
「ハンスが落ちた所を見た後じゃ、怖がっていやしない」
「君とレスターは乗って、問題なかったと」
ああ、と彼女は頷く。
「複数人乗れたからなんだって話になるんだよね」
「便利じゃない?」
「便利?あんたさっきの竜の成長の話、聞いてないでしょ?竜は竜騎士とペアで成長するのに、四人ものれたんじゃ、どう成長いいか竜は分からないじゃないの」
ヴァネッサはため息を吐いた。
確かに誰を基準していいか分からなくなってしまうね。
「シュナイダー様は別として、君とレスターは竜があるから、ミャンだけが乗ればいいんじゃないかな」
「あたしもそう思う、てか当然の事なんだけど、ミャンはたまにしか乗らないんだよ…気になるんて言っておきながら…」
ミャンは竜騎士には興味がないらしい。
「勿体ないですね。亜人で竜に乗れるなんて唯一無二かもしれないのに」
ガルドの言葉にヴァネッサも同調する。
「ほんとにね。本人がああなんじゃ仕方ない。あたしとレスターで走り込んで足の速さくらいはまともしたい」
「走り込み?…」
「このまま放っておいたらガルドより遅い竜になっちゃうよ」
他の能力も平均を超えないだろうとヴァネッサは言う。
「何で買っちゃたのよ…」
「あたしは、反対したんだよ。シュナイダー様が欲しいって。ちゃんと竜の訓練するのか、ミャンに訊いても…」
「んー…わかんにゃい」
「…て、絶対にやらないでしょ、これ?なのに…シュナイダー様は値切りに値切って、相場の三分の一まで値切ってさ」
安く買えただけまし、とヴァネッサはため息混じりに話す。
「シュナイダー様は?乗らなかった?」
「乗ってたよ。若い頃を思う出すって、笑いながらね」
シュナイダー様の竜は戦争で怪我をし、それが原因で死んでしまったらしい。
シュナイダー様が欲しがったのは、自分が乗りたいためなんじゃないか。
「その例外な竜はどの竜?」
僕は厩舎の方へ目を向けた。
「一番右いるやつだよ」
一番右と…あれか。よく見ると、若干他の竜より小さいかな。
厩舎にいる竜たちが全頭こちらを見ていた。
「ヴァネッサ、君の竜はどれ?見せてほしいんだけど」
「ああ、いいよ」
そう言うと指笛を厩舎に向かって鳴らし、手招きをした。
厩舎から一頭の竜がこちらに来る。
「ヴァネッサは隊長だけど、竜同士に上下関係はある?」
「さあね、そこまではわからないよ」
彼女は肩をすくめた。
ヴァネッサの竜が彼女の前で立ち止まる。彼女は顔を一通り撫で回した後、僕に挨拶するよう促した。
ガルドの竜と同じく手をだしてみる。
が、突然ヴァネッサは僕の腕を強く掴んだ。
「さあ、噛んでいいよ」
「ええ!?なんで!?うわあああ!…」
振りほどこうしたが、彼女の力は強くピクリとも動かない。
竜が口を開け、下腕の中程まで入れてしまった。
「ヴァネッサ!何やってんの!?止めて!ウィルを離して!」
リアンがヴァネッサを叩き、僕を助けようとしている。
確かに竜が僕を腕を噛んでる。.が…
ヴァネッサが僕の腕をようやく離してくれた。
「うふふっ…ははははっ」
ヴァネッサが笑い始めた。
「馬鹿っ!、笑い事じゃないわ。ウィルが腕が…」
「痛くない…」
「え?…ウィル?」
リアンが僕の顔と噛まれたままの腕を交互に見る。
「馬鹿はあんただよ。これは甘噛。本気で噛むわけないでしょ」
ヴァネッサは竜の鼻先を突付いた。
「もういいよ」
僕の腕が竜の口から解放された。
「ウィル、大丈夫?」
「大丈夫だよ。少し歯型が残ってだけ」
唾液?で濡れた袖を捲り、リアンに腕を見せた。
それを見た彼女は、憮然とした表情でヴァネッサの腕を殴る。
「ばかばかばか!」
「はいはい…悪かったよ」
ヴァネッサはだるそうに謝った。
「よくあるイタズラですね…新人がよくやられるんですよ」
ガルドが少し呆れぎみに言う。
「イタズラ!?信じらんない、それじゃサムと同じじゃない」
サムと同じとヴァネッサは特に表情は変えない。面白がっているくらい。
「ガルドが言ったでしょ、通過儀礼みたいなもんだよ。あんたも噛んでもらいな」
ヴァネッサはリアンの腕を素早く掴み竜に差し出した。
「え?やだ!いやああ!!」
リアンの甲高い叫び声が響き渡る。
彼女はヴァネッサから逃れるようと暴れる。が、ヴァネッサから逃れるのは無理なわけで。
噛まれようとした瞬間、彼女は竜の鼻先を平手で叩いてしまった。
リアンは自分がしてしまった事に驚き黙り込んで、あたりが静かになる。
これにはヴァネッサも驚いた様子。
当然、僕も驚いた。竜が怒って本当にリアンを噛むのではないかと。
竜は噛もうとして開けた口を噛まずにゆっくりと閉じ、舌を少し出してリアンの指をひと舐めし
て、少し後ろに下がった。
「リアン…あたしの後ろにゆっくり回りな。…リアン?」
「ヴァネッサ、手離して…」
リアンはヴァネッサの竜を見ながら静かに言う。
「離してあげるから、後ろに…」
「離してよっ」
「…」
彼女ヴァネッサの腕を振り解き、竜へと近づく。
ヴァネッサはリアンを止めようはしなかった。
「隊長…」
ガルドがヴァネッサに話しかけるが、彼女はリアンを見たまま口に人差し指を立てる。
リアンは叩いてしまった竜に両手を伸ばしていた。
「叩いて、ごめんね。あなたは悪くないのに」
竜も顔をリアンの手に近づけていく。
そして、鼻先と手が触れる。
彼女はゆっくりと鼻先を撫でた。
ヴァネッサがふうっと息を吐く。
「大丈夫、みたいですね」
「うん…」
ガルドの言葉に僕も安心した。
リアンに撫でられている竜は僕の時と同じようにの鳴いている。
「さっきまで、あんなに怖がってたのに…」
「竜の見た目で先入観があったのかもね」
ヴァネッサは、竜の顔を撫で回すリアンを見てる。
彼女はリアンに近づき肩に触れた。
「ごめん…リアン。悪かったね」
「怖かったんだから…」
リアンは振り向き、ヴァネッサを睨む。
「本当に悪いって思ってるの?」
「思ってるって」
ヴァネッサの謝罪をリアンは怪しんでいるみたいだ。
「ああ、そう…」
そう言うと彼女は竜の横の立つ。
「悪いのは、ヴァネッサよ。さあ、思いっきり噛みなさい!」
ヴァネッサを指差し、言い放つ。
竜は少し首を傾げるだけで、動かない。
「ほら!」
「さすがにそれは無理だよ…あんたの竜じゃないんだから」
至極、当然の事。
竜はリアンに再び擦り寄り、撫でるようせがんでいる。
「ああ、もう。たくさん撫でたでしょ?」
ガルドとサムの竜までリアンに近づき、擦り寄り始めた。
ガルドとサムは手綱を掴んだままだ。
なにかあってはいけないと警戒してるようだ。
「ちょ、ちょっと、なんであなたたちまで?関係なくない?」
リアンは竜の鼻先でもみくちゃにされている。
「大人気だね、リアン」
「竜もあんたと仲良くなりたかったんじゃない?」
微笑ましい?光景に顔がほころぶ。
ヴァネッサが手を二回叩いた
竜が動きを止め、リアンが解放される。
「さあ、もう止めな」
「はあ、もう…しつこいんだから」
口では悪態をついているが、表情は笑顔だ。
「竜の話は、とりあえずこれでいいね?」
ガルドが教えるはずだったはずだけど、ほとんどヴァネッサがしてしまった。
「君がいうなら、別に構わないけど…」
「けど?」
「竜について知る事はできたけど、竜騎士についてはどうかなって」
「竜に乗って戦うのが竜騎士。他にもたくさんあるけど、まずはそう思っておけばいいよ。竜騎士の事を全部知るには一日じゃ全然足りない。もし知りたいならガッツリ語るけど、どうする?」
「え?ああ…分割でお願いします…」
ヴァネッサの言葉に苦笑いするしかない。
彼女が言うには、竜騎士の事、竜騎士のすべき事は多岐にわたるので、それら全てを説明するにはかなりの時間がかかる。と
それだけを語る事ができるということは、ヴァネッサの頭の中にそれら全てが入ってるということだろう。
知識は持っているだけではいけない。それを生かさなければならない。
ヴァネッサは竜騎士としての知識や経験を活かし、シュナイツを守ってきた。
僕が今、竜騎士について知ったとしても活かす事は到底できない。
知らなけばならない事なら、彼女がその時教えてくれるはず。
当り前だが、用兵については隊長であるヴァネッサに任せよう。
「次はライアのとこ、行こうか」
ヴァネッサはライアが隊長を務める剣兵隊の歩き出した。
「ガルド、サム。ありがとう」
彼らに右手を差し出す。
「礼を言われる程の説明はしてませんが…」
「そんな事はなかったよ」
ガルドと握手を交わす。
「どうもっす」
サムとも握手をした。
竜たちにも握手代わりに顔を撫でてあげる。
リアンも一緒だ。
「また、今度ね」
一通り撫でててから、ヴァネッサの後を追った。
彼女は竜騎士たちの訓練を見ていた。その視線の先はレスターとステインが竜に乗り、模擬訓練をやっている。
彼らは竜に跨り、剣を振っている。
「鞍を掴むな!体と竜でバランスを取るんだ!」
「はいっ!」
「それから、いちいち手綱で操作するな。口笛と腹の蹴りでやれって教えただろうが!後輩のミレイの方がうまくやってるぞ」
「はい…」
レスターの檄が飛ぶ。
鞍を掴むな、手綱を使うなってかなり難しい訓練のようだ。
ヴァネッサは普通だよ、と言った。できて当り前でできなければ、竜騎士ではないとまで。
「バランスを崩してしまうのは、竜と息があってない証拠。手綱を使っちゃうのは竜と意思疎通ができてない証拠。まだ経験不足だね」
「厳しいね」
「まだ、甘いほうだよ…あたしの時はもっと厳しかった。お前は才能ないからやめろ、田舎へ帰れなんて言われた事もあるし」
リアンがうわぁ…と声を漏らす。
「レスターがミレイの方がうまいって」
「ああ。あいつは飲み込みが早くて、竜の操作に関しては、サムとスチュアートと変わんないね」
「すごいじゃない」
リアンの褒め言葉にヴァネッサは特に表情が変えない。
「ミレイは剣の方がね…悪くはないんだけど」
ミレイは体格が小さいので、どうしても力負けしてしまう。とヴァネッサは話す。
「やりようはあると思う…ミレイ自身が考えて乗り越えるしかない」
「ヴァネッサ。君が教えるんじゃないの?」
彼女は腕を組んで唸る。
「自分の戦い方は自分で見つけるんだよ。自分の弱点をどう克服するとか、いろいろ考えるが竜騎士なんだよ。あたしもそうしてきた。あたしだけじゃない、ガルドもレスターもそうだよ」
「ミレイは半年たってないんでしょ?酷すぎない?」
リアンがミレイを庇う。
僕自身もそう思う。
それが竜騎士と言われても、ちょっと納得がいかない。
「納得いくとか、いかないとかじゃないの。あんたたちだって自分で考えて生きてるでしょ?強制されてるわけじゃない」
確かにそうだ。
領主になると決めたのは僕自身だ。(遺書はさて置き)
「そうだけど…」
リアンは納得いってないようだ。
「大丈夫。成るように成るから。女のあたしが、竜騎士やってるんだから」
「君は特別じゃないかな」
そうかい?、と小さく笑う。
竜を厩舎へ戻したガルドとサムがこちらに来る。
「ライノ、来い」
「はい」
ガルドが素振りをしていたライノの呼び、模擬剣を使い打ち合い始めた。サムはそばで見ている。
それを少し見た後、ライアたちの方へ向かった。
「全員、整列」
ライアの掛け声で隊員たちが整列を始める。
前列に四人、残りは後列に整列した。前列にはハンスがいる。
「みんな、よろしく」
そう声をかけた。
剣兵全員が敬礼を返してくれる。
「剣兵隊は何名?」
「ちょうど四十名」
四十名か、顔と名前を覚えられるだろうか…。剣兵以外の隊員いるし。
「無理して覚える必要はないと思うが…」
ライアはそう言いながらヴァネッサを見た。
「だね、ウィル、あんたは兵士の名前を覚えるのが仕事じゃないでしょ」
「それはそうなんだけど…」
「とりあえず、前列の四人を紹介する。まず彼らを知っておくというのはどうだろうか?」
というわけで前列の四人を紹介してもらう。
向かって左からバニング、ルダル、レド、ハンス。
彼らは隊長おろか軍組織未経験のライアを補佐しているそうだ。
「ぼくは隊長の任を断ったんだが…」
ライアがここシュナイツに来た当初は隊長をやる気はなかったらしい。
彼女の前任はバニングだった。
「あの剣さばき見たら…ちょっと」
「隊長が部下に負けるのはカッコ悪いしな」
「ああ。ライア隊長が普通の剣士だったら、譲りませんでしたよ」
バニングとルダムが話す。
ライアはシュナイダー様に剣の腕前を買われ、剣術の指導者をしていた。
「シュナイダー様に少しづつ任せられるようになってしまって…最終的にこんな事に」
「あんたは飛べるんだから、嫌ならさっさと出て行ってもよかったんだよ」
「そうはいうが、部屋をあてがわれ、メイドまで付けられては断りづらくてね…」
ライアが苦笑いを浮かべる。
彼女の気持ちが分からなくはない。
仮は返さなければないと考えてしまう。
「ライア隊長らしいよな」
「ああ、そうだな。おれはライア隊長でなんの問題もないですよ」
レドとハンスがそう話す。他の隊員たちも頷いている。
「だと。良かったじゃないか」
ヴァネッサが笑顔でライアの肩を軽く叩く
「ありがとう」
ライアが少し赤くなり、頬を掻いてる。
「ところで、ライアはどうしてシュナイツに?それに定住してる」
翼人族は定住する者が少ないと聞いたことがある。
「え…っと…それは…いろいろとあって…」
彼女は困ったように視線を泳がせた
隊員からクスクスと笑い声がする。
ヴァネッサも困ったように、どうするとライアに訊いていた。
「リアンは何か知ってる?」
「うん、知ってるけど、本人から聞いたほうがいいと思う。それは…一般的には恥ずかしいんじゃないかしら」
そう言うと苦笑いを浮かべ、ライアを見る。
恥ずかしい?
「今、言っちゃった方がいいんじゃない?いつ訊かれるか、ビクビクするよりもさ」
「まあ、そうなんだが…」
なんだか僕が問い詰めているみたいな雰囲気になってる。
「言いたくないなら、別…」
「いや、いいんだ。.言おう」
彼女は咳払いを一つする。
「道に迷ったんだ」
はい?
道に迷ったんだ。
ライアが言った一言でみんなが笑い出す。ヴァネッサもリアンも。
一応、我慢はしてるようだが。
「道って、ライアは翼人族じゃないか。迷うもなにも」
「まあ、そうなのだが…」
本人が言うには南に行くはずが、北に向かっていた、との事。
「だんだん気温が下がってきて、おかしいなと思いつつ飛んでいたら、ありえない景色が表れて」
ライアがありえないと言ったのは、北の山脈だ。
王国の最北。常に雪をいだたく、高い山脈がある。
この山脈はさらに北の、ノーストリリィ国との国境だ。
山脈は王国の東隣、帝国まで続いてる。
「おかしいって思ったら降りて、誰か訊けばいいじゃない」
リアンがため息をしながら言った。
「いや、全くそのとおりで…」
リアンの言葉に彼女は乾いた笑いをする。
雪の山脈が見えた時点で南北を間違えた事は分かったのだそうだ。
今更、恥ずかしくて訊けなかったとライアは話した。
「南に特に用事があったわけでない、というは言い訳だが、とりあえず行ける所まで行こうと北上したんだ」
それで最北の領地シュナイツに降り立った。と
「ビックリしましたよ。いきなり翼人族なんて」
ハンスの言葉にリアンが反応する。
「みんな、そうよ。翼人族なんて初めてみるから、すごくドキドキしたの覚えてる」
「どうしていいか、全員傍観してたね」
「いきなり敷地内に降りたのは申し訳ない。それから定住しないわけじゃない。してる者もいる」
傍観のさなか、ひと騒動起こる。
「ミャンが突然、襲いかかったのよ」
「ミャンが?どうして?」
「怪しいヤツと思ったみたいでね」
ライアが肩をすくめ、ため息を吐く。
「少し休んですぐに去るつもりだったんだが…」
ミャンが何も言わずに襲いかかった。
…だが。
「剣捌きが尋常じゃなしい、翼でふわってうかんで倒しちゃったんだよな」
「あんな、戦い方は初めてみたぜ」
レドとルダムが興奮気味に話す。他の隊員たちも同様だ。
「あれは翼人族にしか出来ない戦い方だね」
ヴァネッサが翼を使っ独特なものと身振り手振りで説明しれくたけど、全然イメージ出来ない。
「あたしjは、あんたが斬らなかったのに驚いたけどね」
「ミャンは本気ではなかった。遊びの範疇だったんだろう。それに合わせただけだ」
本気だったら、斬っていたと彼女は話した。
「次がすごかった。ヴァネッサ隊長とライア隊長のガチ勝負!」
「ヴァネッサとライアが戦った?」
ハンスが大きく頷き、あんな勝負は滅多に見れないと話す。
シュナイダー様がヴァネッサと勝負しないか、とライアに提案した。
それをライアが承諾し、勝負となった
「あの時は、久し振りに燃えたね」
「ああ、ぼくもだ。あの時の打ち合いはとても気持ちが良かった」
「そりゃどうも」
二人は笑顔で拳を軽く合わせる。
勝負は模擬剣で行われ、当然ライアが勝った。
「ライアの剣術に勝てる人はいないみたいだね」
「そんな事はない」
と彼女は笑う。
「上には上が必ずいる」
「いるだろうけどさ」
ヴァネッサは苦笑いをする。
翼人族にとって剣は種族を守る大切なものだ。
驕ってはならないと教え込まれているんだろう。
ライアはすぐに立ち去るつもりだったのが、シュナイダー様に剣術の指導役を頼まれる。
「少々、迷ったのだが…」
「シュナイダー様が頼むって頭を下げたんだよ」
「ええ!?シュナイダー様が?」
驚いたのはヴァネッサやリアンたけでなくその場にいた全員。
「さすがに英雄に頭を下げられては、断る事は出来なかった」
シュナイダー様も翼人族が剣術に秀でてるのは当然ながら知っているであろう。
ライアほど剣術の指導役に打って付けの人物はいない。そう思い頼んだんじゃないか、とヴァネッサは言う。
それでライアが承諾しシュナイツに残ることとなった。
「驚いた事はまだあったでしょ?」
リアンがヴァネッサに話しかける。
「え?ああ、あれね。みんな、ウィルもだけど、知ってるけどライアはれっきとした女性…なんだけど当時はね」
ヴァネッサがちょっと笑う。
「申し訳ない。いつも迷うんだ。自分からいうべきか、訊かれてから言うべきか」
ライアが腕を組み、考える。
「俺らも驚いたけど、言われてみればそうだなって」
ハンスが頷きつつ話す。
「ミャンが、ライアは女の子だヨ、なんて笑顔言ったのよ。私、ミャンが頭を打っちゃっておかしくなったて思って…」
静まり返ったそうだ。
「え?彼女のは女の子だよ。ね?」
「…ああ、ぼくは女だ」
ライアが女性と分かった時はやはりみんな驚いたそうだ。
「シュナイダー様も分からかったらしいけど、何が違和感があったって言ってたね。ライアが女と
知った時はすごく嬉しそうだったよ…あの人はほんと…」
ヴァネッサは肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。
「もうぼくの事はいいじゃないか。ウィル様、何か質問はないだろうか。ぼくの事、以外で答えるが」
ライアは恥ずかしいのか、自分の話を打ち切った。
「…質問か。そうだな…」
剣兵隊のみんなを見回す。
「みんなは僕の事、どう思ってる?」
僕の質問に困っている様子。
「ウィル、そんな事訊かなくても…」
リアンがそっと耳打ちしてくる。
「気にする必要はないわ」
「いいんだ。大丈夫だよ」
「でも…」
彼女は気を使ってくれている。
それを無下するのはちょっと心苦しいが、彼女には下がってもらった。
「どうって…言われても」
「別に何も思ってないですよ」
レドとルダムが話す。
「無関心ってこと?それはそれでショックだな…」
無関心や興味が無いと思われるのは、ちょっと辛いかな。
相手にされないという事は、そこで関係が終わってしまう。いや、領主と兵士という関係は終わ
るわけではない。
「いや、俺らは下っ端だからどうこう言う立場にないんですよ」
バニングは軍人としての経験上そういうものだと話す。.
「ウィル、ちょっと無茶な話だよ、それは」
「そうかな?…」
「領主に向かって、それも今日さっき知り合ったばかりのあんたにどう思ってるかは言えないよ」
確かにそうなんだけど、訊いてみたかったんだよね。
「ガルドはストレートに言ってくれたけど」
「ガルドの旦那を基準にしたらダメっすよ」
「でも、あれくらい言ってもらえたほうが、僕としてはわかりやすくでいいよ」
彼に凄まれた時は怖ったが、話をしてみてみれば普通の人物だ。
「余計な仕事増やすなって言われるのがいいんですか?」
「なんだよ、それ」
ハンスの話にレドが反応する。
デボラさんの家に行く前の出来事をみんなは知らないみないだ。
ハンスが事情を話した。
「…なんてことがあったんだよ」
「マジか…」
「らしいといえばらしいか」
レドとルダムが苦笑いしてる。
「まあ、その件はもういいんだ。謝ってもらったし、僕の方にも落ち度はあったから」
「へえー、あいつ謝ったの?」
ヴァネッサが感心したように言う。
「君が謝るように言ったんじゃ…」
僕の言葉に首を横に振る。
「あたしは、けじめつけないといつまでも無礼者だよ。いいの?ってだけ」
遠回りしに謝れと言ってるようなものだね。
謝るくらいなら言わなけばいいのよ。とはリアンの言葉。
「謝ったのなら、彼には常識あるということだろう?ぼくは評価するよ」
「ガルドはバカじゃないから、そういう所はわかってる」
ヴァネッサはそう言ってるけど、真相はどうだかわからない。
お尻を蹴って、謝れと言った可能性も否定できない。
ガルドの事はいいとして、みんなが僕の事をどう思ってるかはまだ聞いてない。
「俺らの方から質問してもいいですか?」
ハンスたちの後ろ方から声がかかる。
「僕に?」
「はい、さっき自己紹介の時に人となりをって言ってましたよね?良かったらこちらからの質問に答えてほしいなって…」
確かに人となりと言った。
「ああ、いいよ」
「ちょっと待って、そんな気安く受けていいの?」
リアンはちょっと心配そうだ。
「僕は別に…」
「個人的事情に踏み込んだ質問はダメよ」
彼女は兵士に注意をする。
そこまで気を使う必要ないと思うけど。
「大丈夫だよ、リアン。いいから」
彼女は、でも…と言う。
「いいよ、どうぞ」
「あー、それじゃ…彼女はいますか?」
「彼女?」
「ちょっといきなり失礼じゃ…」
リアンが言いかけたがヴァネッサが彼女の口を塞ぎ、後ろから抱くように動きを止めた。
「あたしが黙らしとくから」
「んー!?んんー!んー!!」
リアンは何かを叫び暴れている…。
「彼女は、付き合ってる人はいないよ。旅商人だったし」
「昔は?」
「お前はどんだけ知りたいんだよ」
ハンスが笑っている。
「いた事はいたけど、自然と離れてしまったよ。こんな感じだけど?」
「どうもです」
これいいみたいだ。
「他には?」
手を上げている兵士が見えた。
「いいよ」
「商売をしていて、一番儲けた時ってなんです?」
「一番の儲けか…値段50ルグの革製の髪飾りが五万に化けた」
「おお!マジですか?」
この話は友人たちの間で笑い種にされる。未だに…
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