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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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7-14


 話は戻る。


「大きな混乱がなかったがの幸いです」

「はい」

「いつもどおりを心がけるのが良いのでないかと…」

 そう言いながら、テーブルの上で手を組む。

「実は、今回の会合は中止となるはずでした」

「そうなんですか」

「シュナイダー様の為に喪に服そうと、元老院と陛下はそう考えていたのですが、わたくしは喪に服すのは短期間とし、予定通り開催すべきと進言したのです」

「どうしてです?」

 喪に服す事は悪い事ではない。むしろ、当然と言える。

「喪に服す事をシュナイダー様は望んでいない。そう思いまして…」

 そうかもしれない。

 悲しみにくれる姿よりも前を向いてる姿の方がシュナイダー様は安心するだろう。

「それと…会合は人と物が大きく動きます」

「はあ…」

 クローディア様の言ってる事が分からず、生返事をしてしまう。

「お金が回るのです」

「ああ、そういう…」

 こういう話は苦手でね…。


「不謹慎だ、と声が元老院から上がりました…」

 あるでしょうね。

「ですが、わたくしは自分の考えを率直に説明し陛下の賛同を得たのです」


 クローディア様の考えは、王国の為、陛下の為が基本になっている。

 

 喪に服す事よりも、領主同士の交流の活発化やお金を回す事を優先した。

 実にクローディア様らしい。

 

「陛下から賛同を頂いたものの、最低限の規模で行うようご指示されました」

「あれで最低限なんですか?」

 会場には初めて入って、驚いたんだけど。


 領主は必ず参加しなければいけないわけじゃない。

 自由なんだけど、連れてくる使用人やら秘書やらをできるだけ減らし、喪に服したい者はそれでもいいと、今回の会合の招待状には記載したという。


「ご参加頂いたのは七割から八割程度です」

 あれで…。

 王都周辺の混み具合はあんまり変わらない気がする。


「しかし、忙しさは変わらず…」

 そう言って、クローディア様は肩を竦める。

 そこはいつも通り、と。


「さて…極秘捜査の件はこれで」

 クローディア様が立ち上がる。

 あたしも立ち上がった。

「夜分に失礼しました」

「いえ。わざわざありがとうございます」

 ドアの所まで送る。


「陛下からシュナイダー様の兵法書の事を聞きましたか?」

「はい。直筆のやつですね」

「そうです。すぐにお渡しできる状態なのですが、どうしますか?」

「ああ…えっと…」

 どうしますか?と言われてもね…。

 荷物になるから…大きさ重さを確認しとくか。

 帰る直前貰われて、あたふたするのもやだし。

「明日の夕方で」

「夕方でいいですか?」

「はい。日中は予定が入ってまして…」

「分かりました。明日の夕方に」

「よろしくお願いします」


「おやすみなさい」

 クローディア様は去って行った。


 寝るか…。

 ガウンに着替えてベッドに潜り込む。

「はあ…」

 体の力を抜く。


 何も考えず、安心して眠れる。

 あたしもウィル、リアンもミャンも…。

 今だけ、今だけなんだけど。

 

 少しづつ瞼が重くなってく…。


 明日は薬を買いに行かないと…。


 そして、眠りに落ちた。


 

 寝た後、一度も起きる事もなく朝を迎える。

 こんなのは初めてだった。


 頬に違和感。

「ふにふに…」

 何なの。


 薄っすらと目を開ける。

 眩しい…。

 もう朝?。


「朝ですよ~」

 ミャン?。


 薄目で顔だけを上げた。

 ミャンがベッド脇に、リアンとウィルが椅子に座ってた。

 みんな起きてる…。


「嘘でしょ…」

「ヴァネッサが寝坊なんて初めてじゃない」

「ごめん」

 あたしは体を起こした。

「僕は別に…」

 ウィルが顔が背ける。

「胸元がはだけてる!」

 え…ああ、確かに。ガウンを合わせしっかりと縛った

「悪い」

 ベッド脇に座る。

 

 ミャンがカーテンを開けてる。

 

「あんた達、朝食は?」

「食べたわ」

 まだ寝ていたあたしを起こさないようにと、ウィルが言ったらしい。

「別に起こしてもよかったよ」

「ゆっくり寝れる事なんて滅多にないから」

 そうだけどさ。


 あたしは顔を洗い、用をすませれてから朝食を食べる。

「これ、朝食?」

 品数が多すぎる…。

「僕も驚いたよ」

 ウィルが苦笑いしてる。

 味は当然美味しい。


「これ食べたら、薬買ってくるから」

 朝食を食べながら話す。

「うん。よろしく」

「あんた達は?」

「僕は補助金、その他の話を」

「私も」

 そう。

「ミャン、あんたは?」

「アタシ?アタシは二度寝しようかな…」

 あたしのベッドの上で、もう横になってる。

「やめな。体が鈍るよ…あたしと来な」

「ええ…めんどくさいぃ…」

 こいつは…全く…。


 朝食を食べ終えた頃、ウィルとリアンは呼ばれて出て行った。

 補助金の話のため、担当事務官が来たらしい。

  

 朝食を食べたら、着替えてからミャンを連れて城下町へ。

 ジョエルが教えてくれた店で薬を買い込む。


「買ったねぇ~」

「これだけ買えば、しばらく持つでしょ」


 雨に濡らすといけないと思い、革製の鞄を購入し薬を入れる。


「これで、よしと」

「これで終わり?帰る?」

 うーん、そうだね…。


 行きたい場所がないわけじゃない。

 知り合いの鍛冶屋に行きたかった。

 そこはあたしの剣を作ってくれた所。


 その剣はもうボロボロ…。

 自分でできる手入れはしてるものの、限界がある。


 それはミャンも同じ。


 本当は新調したい…けど、それは無理。どう考えてもお金がない。

 陛下に頼めば…ってそんな失礼な事は、絶対にできない。


 なら、今の剣を使うしかない。

 鍛冶屋へ行って、手入れしてもらおうかと考えていた。


「鍛冶屋へ行く」

「鍛冶屋?何でまた…」

「剣を見てもらう。あんたのも」

「アタシのも?」

「あんたもボロボロでしょ?」

「うん、まあ…」

 ミャンは自分の短槍の鞘を抜いて見てる。


「直せるの?欠けて所もあるけど」

「欠けたのは無理だと思うよ」

 できるのは研ぐ程度だろうけど…やらないよりはいい。


 実は予備にもう一振り、剣を持っている。

 それは竜騎士になって、すぐに支給されたやつ。

 悪くはないんだけど、しっくり来なくなくて今の剣を作ってもらった。

 予備はシュナイツまで持っていって、たまに手入れしてる。


 鍛冶屋は王都の東側の外町にある。

「行くなら、おやつ買って」

「子どもじゃないんだから…」

 露天で買ってすぐに出発。

「リアンには黙ってなよ」

「リアンはお城だよ。もっといい物食べるよ」

 そう言って、買った物を口に放り込む。

 あたしも一つもらった。


 王都の東側から出て、鍛冶屋が集まる区画へ。

 ここには大小の鍛冶屋が集まってる。

 

 鋼を鍛え打つ音。

 そんなのが周りから聞こえる。


 イヴァルデ工房。 

 そう書かれた看板の前で立ち止まった。

「ここ?」

「うん」


 入口のドアには閉まっている。

 そばの窓から中を覗くが、誰もいない。

「誰もいないじゃん」

「いや、いるね」

 鋼を打つ音が部屋向こうから聞こえる。

 周りの鍛冶屋からじゃない。


 裏で作業中かな?。

「裏手に回るよ」

 

 裏に回ると鋼を打つ音が大きくなる。

 やってるやってる。

 裏の入口から中の様子を覗く。

 ミャンには黙るようにサインを送っておいた。


 中には二人。

 大きいハンマーで打ち込んでいるのはライアン・イヴァルデ。

 あたしより年上。確か…三十五かな。

 もうひとりは助手、妹のメリッサ。

 こっちは二十歳くらいだったはず。


 どっちもあたし達に気づかずに、黙々と鋼を打ち込んでる。

 

 蒸し暑い部屋。

 熱せられ真っ赤になった鋼。

 ハンマーを打ち込む度に火花が散る。


 この光景は、好きだったりする。実際にはやりたくないけど。


 真っ赤だった鋼が冷め始め、徐々に赤みを失っていく。

 冷え切った鋼を炉の中へ。


 一段落ついたであろうから、声をかけた。

「お疲れ」

「…ヴァネッサ!?びっくりした」

 先に声を上げたのは、メリッサだ。

「おう、久しぶりだな。何年ぶりだ?」

「さあね」

 二人と握手する。

「こっちはミャン」

「どうも」


「英雄も死ぬんだな」

「ちょ。兄さん!」

「そこはあたしらと一緒だね」

 メリッサはため息を吐いてる。

「お悔やみとか聞き飽きたからいいよ」

 彼女にそう言っておいた。


「ここにいるってことは、シュナイダー様の事でこっち来たのか?」

「それもあるけど、新しい領主を護衛してきてね」

「ああ。なるほど」

「それはあんたには関係ないから。ここに寄ったのは剣を見てほしいからなんだよ」


 あたしは鞘ごとライアンに渡す。

 彼は渡された剣をじっくりと見つめる。


「…こいつは酷いな。刃こぼれしまくりじゃねえか…」

「わかってる」

「少し歪んでるぞ」

「それも知ってる。なんとかならない?」

「なんとかって…」

 そのまま黙って剣を見続ける。


「歪みを直して、研ぐくらいしかできないな」

 そう言って、剣をメリッサに渡す。

「うわぁ。使いこんだねぇ…」

「もう新しいの作ろうぜ」

「ただで、できる?」

「まさか、きっちりいただく」

 そうでしょうよ。

「お金はないんだよ。手入れだけしてもらえる?ただで」

「わかったよ…」

 ライアンはため息をはく。


 ミャンの短槍も渡した。

「短槍か…俺は長剣専門なんだが…」

「わたしに見せて」

 メリッサが短槍を見る。


「こっちも刃こぼれが酷い」

「砥石で適当に研ぐしかしてないから」

 メリッサが刃や柄と叩いて音を聞いたり、刃を動かないか確かめる。

「音が変…固定できないんじゃない?」

「ここの紐を締め直せば大丈夫って聞いたよ」

「そうだけどさ…」

「ダメ?」

 ミャンの特に心配してない様子に戸惑ってる。

「このままなら、刃だけ飛んで行っちゃうかも…」

「え?それはダメでしょ。刃なかったらただの棒じゃん」

「そうね」

「直して、直してください」 

 途端に下手に出る。


「メリッサ、できそうか?」

「ええ、大丈夫」

「じゃあ、任せた。で、いつまでに仕上げればいい」

「そうだねぇ…」

 帰るのは多分明日だろうから…。

「今日中にできる?明日、シュナイツに帰ると思う」

「今日中か…オレは大丈夫だが、どうだ?」

「やってみせる」

「だとさ」

「あんたの方は大丈夫なの?」

 炉の方を見る。

「あれはいいんだ」

「そう…なら、頼むよ」

 ありがたいね。 


「夜、取りにくるから」

「わたしが持っていく」

「ああ、そう?でも…城の方に言わないといけないし」

「大丈夫よ、何度も行ってるから」

「そう?じゃあ、頼むよ。悪いけど」

「任せて」

 ダメだったらあたしが来ればいい。


 剣と短槍を預け、城へと帰る。

「よろしくねん」


「城に何度も行ってるって、関係者なの?」

「関係者じゃないけど、あそこで剣を頼む竜騎士結構いるんだよ」

「へえ」

「先代はシュナイダー様の剣を作ってるからね」

「ああ、それで」

 先代はもう亡くなってるけど、技術はライアンが受け継いている。

 

 だけど、曲者でね。

 自分が気に入った人じゃないと作らない。

 ガルドとレスターは作ってもらえたけど、ロキはダメだった。

 訳がわからないですよ!とロキ本人は憤慨してた。



 城に帰ったら、すぐに昼だね。



Copyright(C)2020-橘 シン

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