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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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86/102

7-13


 さっきまでロマリーが座っていた椅子にクローディア様が座った。

 長髪を後ろで結んだ男は脇に立ったまま。

 あたしも座ろうした…。

「ファレル様。自分の話を先に、いいですか?」

「…そうですね。いいでしょう」

 話?なんだ…。


 男が進み出る。

「あの、シェフィールド隊長。シュナイツにアリス・ハーヴェイ様とジル・レヴァリエさんがいると…」

 二人の名前が出た瞬間、男の胸ぐらを掴み足を引っかかて、床に倒した。

「あんた、何者?」

 喉元に腕をおいて体重をかけて抑え込む。

「二人の事を知ってどうすんの?」

「いや、べ、別にただ確認…」

「確認してどうすんのかって、訊いてんだよ!。まだ諦めてないんだね?二人を狙うなら、あたしが黙ってないよ」

 凄みを利かせる。

「いや、あの、勘違いしてると思います。それから苦しい…」

「勘違い?あたしはアリスとジルから事情を聞いてるんだよ。命を狙われてる理由も知ってる。最近は誰も来ないけど…まさか、こんな所にいたとはね」

「俺は違いますってて…。あの…ファレル様…くっ」

 このまま、絞め落とすか。

 体重をさらにかける。

「ヴァネッサ。そのへんで」

 クローディア様は落ち着いた様子で、あたしの肩を掴む。

「クローディア様。申し訳ないけど、こいつは生かしておけない。仲間の命が危ないんでね」

「落ち着いてください。吸血族の内情については王国でも把握しています。シュナイツにいるお二人もです」

 そこまで把握済み…。

「彼はこちら側です」

「信用しろと?」

「でなければ、話は進みませんよ」

 あたしは舌打ちしてから、彼を開放する。

「ゲホッ…参ったな」

 彼を睨みつけた。

「あんたは味方だって?」

「ですよ。俺も逆賊扱いされて、逃げて来たんです。家族とははぐれて行方知れず。ここで働いている仲間に偶然会って、俺もここで働く事に…」

 男はため息をはく。

 ため息を吐きたいのはこっちだよ。


「彼は信用できる人物です」

 どうだか…。

「吸血族をの内情を探ってもらう任務に何度も使ってますし、情報は無意味なものはありませんでした」

「そうですか…」

 クローディア様とあたしは椅子に座る。彼も座った。

「吸血族が内紛を起こしてる事は知っているでしょう」

「はい」

「内情について注視している所なのて、吸血族の内情を知るには吸血族が必要なのです。それで彼らを採用しています」

「彼ら?こいつ以外にも?」

「はい。詳しい人数等は明かせませんが」

 

 吸血族の内情だけでなく、あらゆる情報収集にあたってるらしい。


 これは後で聞いた話だけど、相当前から吸血族を採用していた。

 前戦争が始まるずっと前から。


 そういやシュナイダー様から聞いた事がある。


「なるほど。あんたは何でアリスに味方するの?」

 立ったままの男に訊く。

「俺の部族は、元々は中立だったんです」

 中立?…。それは聞いてないね。

 ジルが把握してなかったのかもしれない。

「それなら危害は加えられないだろうと…思っていたんですが…」

「どっちつかずで逆に不審がられたね…」

「はい…。どうするか中立の部族の間で話し合いの最中に襲撃されるという…」

 あたしはため息をはく。

「アリス一人に多勢に無勢の時点でどうすべきか…考えなくてもわかるでしょ?」

「はい…ごもっともで」

 男は顔を伏せる。

「友人、知り合いをたくさん亡くしました。許せないんですが、向こうは精鋭で数も多い。今は様子を見ることしか出来なくて…」

 彼は悔しさを滲ませる。

「あたしは吸血族の内情なんて、正直知ったこっちゃない。アリスに危害を絶対に加えないでくれればそれでいい。誓える?」

「もちろん、誓えます。ハーヴェイ家の姫君に逆らうなんて…俺個人はアリス派なんで」

「アリス派?」

「はい。だって、かわいいでしょ?」

「は?」

「え?」

 クローディア様も驚いて男を見る。

「すみません…。聞き流してください」

 男は苦笑いを浮かべる。


 クローディア様が咳払いをした。

「本題に入りましょう」

「ですね」


 シュナイダー様殺害に関する情報提供。

 と言ってもそんなにない。


 当時の状況を詳しく説明した。

 概略はすでに手紙に書いてある。


「わたくしが気になったのは、魔法が使われたという点です。これは間違いないのですか?」

「はい、間違いありません。うちにも魔法士がいるんですが、彼女がそう言ってます」

「なるほど」

「しかも特殊な魔法らしく、禁忌魔法の類いじゃないかと…」

「禁忌魔法…。魔法に関しては流石に専門外なので、ファンネリア様に聞こう思います」

「お願いします」

 エレナは殺害に使われた魔法については知らなかった。

 経験と知識が豊富なファンネリア様なら何かわかるかもしれない。


「犯人を見てるとの事でしたが…」

「見てるのはジルとミャンです。見たと言っても影のみで顔は判別できず、竜騎士と魔法士だろうとだけ…」

「そうですか…」

 クローディア様の表情は硬い。

 情報がなさすぎるんだ。


「狙われた心当たりは?」

「あたしだったらあって余りあるんですが…シュナイダー様は…どうだか。クローディア様の方がシュナイダー様と付き合いは長いでしょう。むしろ、あたしの方が聞きたい」

「と、言われましても…」

 彼女は眼鏡をあげる仕草する。

「シュナイダー様は戦後早くに現場を離れました。賊から恨みを買う、という線は薄い」

「はい」

「となると、戦中戦前となりますが、そこまで行くとわたくしにはわかりません。陛下やファンネリア様、ヒルダ様それにブリッツ教官あたりに聞かないと…しかし、かなり年数が経ってます。今更という気も…」

「ですね…」

 あたし達はため息をつく。


「あのーいいですか?」

 脇にいた男が手を上げる。

「どうぞ」

「ナッシュビル家の線はどうでしょう?」

「あんた、何でその事知ってんの?」

「シュナイダー様の資料は全て読んでまして…」

「いや、そうじゃなくて…だいたい、いつまでここにいるの?用すんだでしょ」

 何なの…こいつ。不思議に思ってた。

「彼が極秘捜査担当です」

「は?こいつが?大丈夫ですか?…」

「ひどいなぁ…」

「彼の実力はわたくしが保証します」

「保証…。吸血族にくせに、あたし程度に倒されてますけど?」

「不意打ちされたら、誰でもああなりますよ」

 言い訳してる。


「彼を選んだのは王国、帝国両方の地理に詳しいのと、裏社会に精通しているからです」

「そうですか…」

 あたしは訝しく彼を見る。

「こいつ一人でやるんですか?」

「いいえ。他にもサポート役を数名つける予定です」

 流石に一人じゃないか。


「あの…それで、ナッシュビル家の線はどうなんです?」

「わたくしはないと思います」

「あたしも」

 ナッシュビル家を襲った賊は捕まってないし、もう捜査も行われていない。

 シュナイダー様を狙う理由がない。

「なるほど」


「すみません…」

 手かがりらしい手かがりがない事に、あたしは謝った。

「ないものは仕方ありません」

 

 ジルとミャンに必ず討ち取って来いと命令すべきだったか…。

 後悔だけが心に奥底に溜まってる。


「十分ですよ」

 男はこともなげに話す。

「竜騎士と魔法士の二人組。これだけで大分絞れれます」

「あんたさ、名前も人相もわからないんだよ」

「わかりませんが、目立ちますから」

 楽観的過ぎて、あたしはため息をはく。

「竜降りて、服装変えたら竜騎士か魔法士かも判別できないでしょ」

「まあ、そうなんですが…。それなりの情報網を持ってるんで、まずはそこから」

「そうかい?…」 

 自信ありげに話すけど、不安しかない。

 こいつをよく知らないってのもある。


「あたしは、あんたにしか任せられないんだ…頼むよ、ほんとに」

「百パーセント自信を持って、任せくださいとは言えませんが、全力でやらせていただきます」

 力強い言葉で話す。

「シュナイダー様とは縁もゆかりもありませんが、俺は王国に拾われた身ですので、恩を返すためにもやり遂げたいと考えてます」

 恩返しか…。

「そう…」 

 

 拾われた気持ちはよくわかる。

 あたしもシュナイダー様に拾われた。一悶着あったけど…。

 あそこでもしシュナイダー様に突っぱねられてたら、今のあたしはない。


「わかった。よろしく頼むよ」

 あたしは右手を差し出し、彼と握手をした。

「はい」

「で、あんた。名前なんていうの?」

「え?ああ、それも極秘です」

 そう言って手を離し、立ち上がった。

「俺は行きます」

「分かりました。幸運を」

「はい。シェフィールド隊長、アリス様とジルさんによろしくお伝え下さい。味方はいると」

「あいよ」

 彼は敬礼して足早に部屋を出て行ってしまった。


「名前も極秘って…」

「申し訳ありません」

「いえ…」

「知らない方が都合がいいこともあります。彼は以降、表向き王国の人間ではなく無所属となります」

「野良と?」

「はい。でなければ、犯人に気付かれてしまい、雲隠れさるやもしれません。無所属、野良の方が情報収集しやすくなるでしょうし、犯人にも接触できる可能性が高くなります」

「…なるほど」

「サポートはしますが、大々的にはできませんね。慎重しないと…」

 中々骨が折れます、と言って、眉間を押さえる。


 クローディア様と二人っきり。

 沈黙が続く…。


 話したくないわけでもなく、何を話していいかわからないわけでもない。

 ただ、なんとなく口を開かない。


「クローディア様…」

「はい?」

「シュナイダー様が亡くなった事で、民衆に混乱や動揺はありませんでしたか?」

「混乱と動揺ですか…」

 彼女は少し目を伏せる。

「表向き病死ですが、そうじゃないという奴もいるんじゃないかと」

 そう言って、わざと混乱させて楽しむ奴もいる。

「そういう報告は来てません」

「そうですか」

「なくないでしょうし、噂話もあるでしょう。それは極々小規模で、無視できる物と判断しました」


 なるほど。

 ウィルの考えどおり、公式発表が混乱、動揺を小さくしたか。


「動揺と点では、陛下達の方が大きかったと言えましょう」

「陛下が?」

「はい」 

 そうは見えなかった。

「ブリッツ教官は落ち込んだと聞きましたが…」

「ブリッツ教官ほどではありませんが、陛下も動揺されていると、わたくしにはそう見えました」

 動揺しないわけがないよね。

 親友なんだし。

「しかし、ファンネリア様とヒルダ様は落ち着いてましたから。お二人の進言で、動揺と見せてはならないと言われ、いつもどおりの振舞いを見せています」

「あのお二人はいつもどおりで、さっき会いましたけど」

「そうですね。お二人まで動揺し悲しみにくれていたらどうしようかと…」

 そう言って苦笑いを浮かべる。


「クローディア様はどうです?大丈夫でしたか?」

「わたくしは…泣く暇もありません」

「あたしもです」


 お互いシュナイダー様と関わりが深い。

 そして、立場もある。


「わたくしはシュナイダー様の言い付けを守ってます。下の者に弱みは見せてはいけない。見せていいのは…」


「「恋人の前だけ」」

 二人そろって、そう言って、クローディア様とクスクス笑う。


「そんなものはいません」

「ですね…」

 あたしはいないけど、クローディア様にはいるとの噂を聞いた事がある。

 本人には言わないけどね。


 もし噂どおりなら、彼女ほどの才女で身持ちが固い人物を落としたのはどんな人なのか興味はある。


 話はそれるけど…

 この時点では、あたしは何も知らなくて、まさかあの方と一緒なるとは思いもしなかった…。


 

Copyright(C)2020-橘 シン

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