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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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85/102

7-12


「何かしら?」


 陛下が会場に入ってきた。

「陛下だけじゃないみたいよ」

「ああ。殿下と姫様だね」

 クローディア様もいる。

 

 フィオレット・グランシェール

 皇太子殿下の妹


 陛下と、皇太子、フィオレット姫の二手に分かれて、会場の領主達に挨拶し始めた。


 あたし達は立ったまま、陛下達が来るのを静かに待つ。

「ヴァネッサって、姫さまとも知り合いなの?」

 ミャンが小声話しかけてきた。

「話した事は何度もあるよ。食事はないね」

「お姫様と知り合いとか…どんだけ~」

 

 あたしがじゃなくて、シュナイダー様経由だからね。


 殿下があたし達の所にやってくる。


「よお。楽しんでるか?」

 お酒の入ったグラス片手にウィルの肩を叩く。

「はい…」

「飲んどけよ。遠慮はいらん」

「飲んでマス!」

 ミャンが元気よく答え、テーブルの上のグラスを飲み干す。

「いいぞ~」

 殿下はそう言って自分のグラスを豪快に飲み干した。


「おお、これは…」

 リアンに目を向ける。

「な、何か…」

「美しい」

「ありがとうございます…借り物のドレスなんですが…」

「似合っているぞ。鎧姿も凛々しくてよかったが、女性はこうでなくてはな」

 そう言ってから、あたしを見る。

「お前は…」

「あたしは似合いませんので…」

「だよな。はははは!」

 笑いながら、行ってしまった。


 何をしに来たんだ…あの人。


 次は…フィオレット姫か。


「ヴァネッサ、久しぶりじゃのぉ」

 羽扇で口を隠しながら、あたしに話しかけてくる。

「姫様、お久しぶりです。ご機嫌麗しく」

「うむ。シュナイダー様は残念だった」

「はい」

「して、シュナイダー様の後を継いだという者は?」

「彼です」

 ウィルが進み出て、挨拶をする、

「はじめまして、姫様。ウィル・イシュタルと申します」

「そちがそうか…パッとせんな…」

「はぁ?」

 あたしはリアンの腕を掴む。


「あのシュナイダー様の後を継いだというから、会えるのを楽しみしておったのだが…期待はずれもいいとこじゃ」

「未熟者で申し訳ありません」

 ウィルは頭を下げる。

「なんで謝るのよ…」

 姫様に聞こえたのか、リアンを睨む。が、彼女には特に何も言わず通り過ぎようする。

「励むがよいぞ…。はぅっ!?」 

 姫様はスカートの裾でも踏んだのか、バランスを崩し転びそうになる。

 咄嗟に、ウィルが彼女の前に進み出て、自分の胸で彼女を支えた。

 姫様がウィルの胸に抱かれる状態。

「大丈夫ですか?姫様」

「ああ、うん…」

 姫様は呆然とウィルを見つめる。そして顔を赤らめた。

「無礼もの!」

 付き人がウィルを叱責した。

「申し訳ありません!」

 ウィルがすぐに姫様から離れた。

「構わぬ、妾が悪いのじゃ…礼を言う、イシュタル卿…」

「いいえ…失礼ました」

「その…先程は失礼な事を申した。お詫びに…もし、そなたが良ければ、静かな所で話さぬか?」

 お詫び?

「え?…それは…」

 リアンがあたしを振りほどき、ウィルと姫様の間に割って入る。

「姫様、ウィルは非常に忙しいので…」

「何じゃ、貴様は?」

「シュナイツの補佐官。リアン・ナシルと申します」

「補佐官如きが…身の程をわきまえよ」

 姫様は閉じた羽扇でリアンの腕を叩く。

「妾はウィル・イシュタルと話しておるのじゃ。邪魔するでない」

「邪魔ですって…そちらが勝手に…あっ」

 あたしはリアンを引き離し、ウィルと姫様に近づく。

「姫様、申し訳ありません。色々と立て込んでおりまして…無理かと」

 ウィルが頷いている。

「そうなのか?」

「姫様もお忙しいのではありませんか?」

「妾は別に…」

 付き人が後ろから、そんな時間はないと告げる。

 それを聞いた姫様は頬を膨らませた。

「会合はもうよいであろう?妾には関係ないではないか」

「そういう訳にはいかないのです。公務ですから…」

「はあ…ウィルよ。いつか話そうぞ。ではな」

「はい…」

 姫様は去って行くが何度も振り返る。


「ヴァネッサ、ありがとう」

「礼なんていいよ。それより、リアン…気をつけなよ。ミャンじゃないんだから」

「だって…パッとしないとか言っておいて、ウィルに助けてもらったとたんに態度かえて。呼び捨てまでするし」

 リアンは椅子に座り、口を尖らせテーブルを指先で叩く。


「もうすぐ陛下が来るよ」

「はい…」

 あたし達は陛下を出迎える。


「ウィル、来てくれたか」

「はい」

「どうだった」

「マリウス卿が間を取り持ってくれまして、興味深い話を聞かせていただきました」

「マリウス卿が?」

「はい。マリウス卿のご子息がシュナイツにいまして…今さっき知ったんですが、ヴァネッサにマリウス卿を紹介していただきました」

「そうなのか…」

 レスターの事は初耳みたいだね。

「何にせよ。マリウス卿と知り得た事は幸いだ。この機、逃すでないぞ」

「はい」

 ファングリー卿の事とか他雑談をして、陛下は次の領主の元へ行った。

 陛下は会場にいた領主達と話をした後、会場を去る。


 この後、ウィルはまたマリウス卿に呼ばれ、ファングリー卿や他の領主達と話をしていたね。

 あたしはリアンとミャン二人と一緒にテーブルにいた。


「いつまで話してるのかしらね…」

 話を続けるウィルを見ながら、リアンが呟く。

「リアンは行かなくていいの?」

「楽しくないし」

「そう?ウィルは楽しそうだけど」

 ミャンがウィルを見る。

 確かにそう見える。

 元商人だからうまく話を合わせてるんだろう。


「ていうかあんたさっき、そばにいる、支えるなんて言ってなかった?」

「言ったけど…必要に見える?」

「そう見えなくても、そばにいるだけで向こうは安心するもんだよ」

「うん…」

「行ってきたら?」

 リアンは渋々立ち上がり、ウィルの方へ行った。


「別に無理に行かせなくてもいいんじゃないの?」

 ミャンが紅茶を飲みながら話す。

「ウィルの隣はあたしらじゃない。リアンだと、あたしは思う」

 逆にリアンの隣にはウィルにいてほしい。強制するわけじゃないけど。


 時間は過ぎ、会場から少しづつ領主達が退出していく。

 やっと終わったか。

 

 ミャンはテーブルに頬杖ついて居眠りしてるし。


 半分ほど退出した頃、ウィルとリアンが戻ってくる。

「お疲れさん。いいのかい?」

「ああ。マリウス卿達は込み入った話があるそうで。僕は邪魔にならないように失礼することにしたよ」

「そう」

「部屋に戻りましょう…」

 リアンはあくびを噛み殺してる。


 マリウス卿に礼を言ってから部屋と戻った。


 いつもならとっくに寝てる時間だ。

「私、もう寝る…おやすみ」

 ウィルやミャンも疲れた様子で、部屋へ戻っていく。

 あたしも部屋へ戻った。

 が、あたしは寝ずにロマリーを待つ。

 

 窓辺に椅子を置き、窓にもたれて外を眺める。

 外は庭だ。

 小さなランプがいくつかあるだけ。

 それをただ、ぼーっと見つめる。

 

 何も考えずに時間を潰すなんていつぶりだろうか?。

 思い出せない。それくらい昔か…ただ覚えてないだけか。


 シュナイツじゃ、こんな気持ちにはなれない。

 いつも気が張っていて、神経が過敏になってる。


「今だけ…」

 そう、今だけ。

 今度はいつになるか…。


 少しづつ瞼が重くなっていく…。


 ドアがノックされてる…。

「おっと!…」

 危ない危ない。寝落ちするところだった。


「はい…」

 ドアを開けるとロマリーが立っていた。

「ごめん待った?」

「いや」

 彼女を部屋へ入れる。小さな台車とともに。

「何持ってきたの?」

「夕食」

「食べたけど?」

「わたしのよ」

 まだだったの。


 テーブルにロマリーの夕食と、あたしのための軽食を出して、向かい合わせに座る。そしてランプを灯した


「飲むでしょ?」

「うん」

 彼女はワインを取り出した。

 お互い、グラスに半分だけ。


「久しぶりの再会に」

 あたしはグラスを掲げる。

「もうひとつ、シュナイダー様に」

 ロマリーはそう言ってグラスを掲げた後、ワインを飲む。

 あたしも口をつけた。


 お互いの近況や思い出話で盛り上がる。

 

 ロマリーの変わらない様子に安心する。けど…。

 あたしは右手の伸ばして、彼女の左腕を掴んだ。

「なに?」

「あんた、ちょっと痩せた?」

「え?そう?変わらないと思うけど」

 あたしの思い過ごしか。


「あなたはどうなの?」

 彼女もあたしの左腕を掴む。

「ふふふっ…」

 なぜか笑う。

「なに?」

「もう、何でこんなに硬いのよ…」

 そう言って、あたしの腕を突付く

「鍛えて硬くしないとやってられないの。知ってるでしょ?」

「知ってるけど…ふふ」

 彼女はまた笑う。

 実際、そうなんだから。ふにゃふにゃの奴なんかいないよ。


「無理するんじゃないよ。任せられる事は部下にやらせな」

「分かってる」

 すべての仕事を抱え込む事はできない。

 任せる事で部下が育つ。


 会話が止まり、部屋が静まり返る。

 

 グラスのワインを飲み干す。

 

「ブリッツ教官が帰郷したの聞いた?」

「聞いたよ」

「わたしも説得したの」

「そう」

「わたしが説得したところで、考えを変える方じゃないんだけど…」

 ロマリーは落ち込む表情を見せる。

「あんたが気にする事はないよ。あたしが説得したって田舎の帰ってたさ」

「うん…」

 本人が決めた事だ。こればかりは仕方ない。.

 

 あたしにも責任の一旦はある…。


「ブリッツ教官は、シュナイダー様が亡くなった事でひとつの時代が終わったって言ってたらしいよ」

「時代…」

「これからは、あたしらの時代なんだと」

「そんな事言われても…」

 そうだね。

 実感なんてない。まだまだ経験不足だろうし。


 背伸びじゃなく、今できる事をやるだけ。


「あなたのほうは気が休まる暇がないわね」

「まあね」

「ここにいる間だけは、休んで頂戴」

「させてもらってるよ。久しぶりに飲んだし」

「もう少し飲む?」

 そう言ってワインのボトルに手をのばす。

「いや、もういい」

 あたしは首を横に振る。


「あなたが大酒飲みだったなんて、未だに信じられないんだけど」

 ロマリーは頬杖をついて話す。

「おかしかったのさ…あの頃は。話した事はあるよね?」

「わたしが無理やり話させた」

 そう笑顔でいう。

「あたしは話したくなかったんだよ」

「あなたのような女性ははじめてだったから、聞いてみたかったの」

「あんたは大笑いして…」

「ふふっ、ごめんなさい。親と喧嘩して家出なんて…子供みたいに…」

 それしか思いつかなかった。

「あたしがもっと普通なら、こんな事にはならかったよ。こんななりだから…」

 自分の事が大嫌いだった。もっと普通の女性に生まれたかった。

 ロマリーみたいな。


「自分が嫌いな事は誰でもある。あなたは他の人より少し強く出ただけ」

「笑いながら、言っても説得力ないよ」

 ごめん、と笑顔で言う。


「今でも自分の事は嫌い?」

「今は別に」

 好きでもないけど。


「竜騎士の事はよくわからないけど、あなたには天職だと思ってる」

「天職ねぇ…」

「そうでなければ、シュナイダー様はあなたをシュナイツに誘ったりしない」

「そうかな」

「そうよ」

 買いかぶり過ぎだよ。

 あたしは普通の竜騎士さ。


 ドアがノックされた。

 

 誰だ?

 あたしはドアを少し開け、確認する。

「こんばんは」

「クローディア様」

 他に誰がもうひとりいる。男か。眼が紅い…吸血族だ。

「遅くなりました」

「いえ…」

 明日かと思ってた。


 ロマリーがバタバタと片付けを始めていた。

「誰かいるのですか?」

「ロマリーが来てまして…」

「ロマリーが…すみません。出直します」

 と、言ってクローディア様は立ち去ろうするが…。

「お待ち下さい。クローディア様」

 ロマリーが呼び止める。

「ごめんなさい、ロマリー。あなたが来てるとは知らなくて…」

「いいんです。ヴァネッサに話があるんですよね?」

「ええ。でも…二人は久しぶりの再会でしょう?」

「話はもう終わったので。じゃあまた、ヴァネッサ」

「ああ」

 ロマリーはそそくさと立ち去ってしまった。

 廊下の奥に消えるのをクローディア様と一緒に見つめる。

「悪い事をしてしまいました」

「察したんでしょう。あの子は勘がいいから」

「わたくしが察していないみたいになってませんか?」

「そんな事はありませんよ」

 笑顔で肩を竦める。


「どうぞ。中へ」

 二人を中へ通す。

 

 クローディア様が来たのは、例の極秘捜査の件だ。


Copyright(C)2020-橘 シン

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