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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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83/102

7-10


「やあ。ジョエル!」

「よお!元気だったか、ウィル!」

 二人はガッチリと握手し、肩を叩きあう。


「城から出て来たって事は…やっぱり本当なんだな」

「うん、色々考えて…それで…」

「分かってるって。お前はそういう奴だもんな」

 ジョエルはそう言ってウィルの肩に手を回し、あたし達に背を向ける。

「男だけで、話しさせてくれ」

 そう言いながら離れていく。

「ちょっと!」

「大丈夫だよ。ヴァネッサ」

 そんな事言ったってね…。


 二人は何やらコソコソと話し始める。


(以下の会話は、当時の事をジョエル・リダック氏に取材し得たものである)


「おい、ウィル。シュナイツにはあういう子がたくさんいる所なのか?」

「あういうって…リアンの事?」

「すっとぼけんなよ、こいつ」

「とぼけないよ…リアンはシュナイツの補佐官だよ」

「マジで?俺らより若いよな」

「若いよ。ジョエル…あのさ…」

「その隣の胸がでかいのは?」

「ああ、ミャンは槍兵隊の隊長」

「隊長?あれも竜騎士なのか?」

「竜騎士じゃないけど、竜には乗れる」

「なんだよそれ…」


「四人でシュナイツから来たのか?」

「そうだよ」

「毎晩同じ部屋?」

「うん…落ち着かなかったよ」

「羨ましい…」

「何でだよ」

「毎晩、お楽しみだったんだろ…くそぉ」

「は?…してないよ!」

「俺は怒ってるんじゃないんだ」

「だから、してないって!」

「黙っといてやる。特にマリーダさんにはな…」

「だから…はあ…もういいよ…」


(ここまで)


 二人だけの話は終わったらしい。

「いや~積もる話があってさ」

「そういう内容じゃなかったって…」

 よく分からないが、ウィルがため息を吐いてる。


 お互いに自己紹介した。


「ジョエル、君に会いたかったのは薬を買いたかったからなんだ」

「ああ、いいぜっと、言いたい所だが…」

 ジョエルの表情は優れない。

「今回、王国に来たのは材料の仕入が主で、薬はあまり持って来てなくて、ほとんど売って残ってない」

「そうか…」

「何が欲しいんだ?。とりあえず教えてくれ」

 ウィルがメモを見せる。

「あー…」

「持ってない?」

「解熱と鎮痛は少し。止血、虫下し、吐き気止めはないな」

「そう…じゃあ解熱と鎮痛薬を」

「おう」

 ジョエルが荷物から薬を取り出し始める。


「材料があるなら、ここで作れないの?」

 リアンの言葉にジョエルは一旦、手を止める。

「俺は作れないんですよ。作るのは専門の所がありまして」

「そうなの」

「俺がやってるのは、材料の納品と出来上がった薬を売って手数料を貰う事なんです」

「できないわけじゃないよね?前に作ってたし」

「簡単なやつならな、だが効果は薄い。お前が今欲しいのは作れない…」

 そう言いながら、薬を取り出してる。


「これだけ…すまないが」

「謝るなんて必要ないよ。それ全部でいくら?」

「やるよ」

「え?」

「金はいいから」

「いや、いいわけない。ちゃんと払うよ、お金はあるんだ」

「いいって、それだけだし」

「数の問題じゃない。少し割り引くというなら、まだわかるけど」

「売れ残りをやるだけだよ。気にするなって」

「僕がそういうの嫌いだって知ってるよね?」

 ウィルとジョエルがどんどん喧嘩腰になっていってる。

「真面目すぎるんだよ、お前は…」

「真面目は関係ない。こういうはきっちり…」

「はいはい。いつまでやってんの」

 あたしは二人の間に入る。


「くれるっていうならもらっておくよ。ありがとね」

 ジョエルから薬を受け取る。

「ヴァネッサ…」

 ウィルは不満気で何か言いたそうな顔をしてる。

「ウィル。友人からの好意は素直に受けたほうがいいよ」

「いい事言うねー」

「あんたもウィルの性格しってるなら、代金もらいなさいよ…」

「はい…」

 あたしは革袋から大銅貨を取り出し、ウィルをちょっと見てからジョエルに渡す。

「これで飲み直すんだね」

「ヴァネッサ?…」

「いや、飲み直すほどの…」

「ジョエル。受け取ってくれ、頼む」

「ウィル…分かったよ。うまいな、あんた」

 ジョエルはあたしに向かって言う。

「何が?」

 あたしはとぼける。


 不足分の薬を、どこの店で買った方がいいかジョエルに訊いた。

  

「…んじゃ、俺は行くぜ」

「ありがとう、ジョエル」

「おう」

 二人は握手する。


「頑張れよ、領主様」

「ああ、頑張るよ。今日は会えてよかった」

「俺もだよ。できるだけ早くシュナイツに行くから」

「ああ、うん。それは嬉しいけど、無理しないでくれ。遠いし」

「行くさ。薬を届けにな。俺は薬草師だから」

 ウィルはそれ以上何も言わず頷いただけ。


「じゃあ、ウィルの事よろしく~」

「任せてよん」

 なぜがミャンが答える。

 ジョエルはそれに笑いながら、去って行った。


「良い人ね」

「ああ」

 

「そろそろ戻るよ」


 あたし達は宮殿へ戻り始める。


「この後、どうするの?」

「うん…」

「領主が集まって話ししてるって陛下さまは言ってなかった?」

「出たほうがいいかな…」

「出なくてもいいんじゃない?」

 あたしはウィル達を先導しながら、そう彼に声をかける。

 噂の人物だ。出れば注目される。

 ウィルならうまく立ち回れるかもしれないけど。

「わざわざ目立つ必要はないでしょ」

「だけど、陛下は知ってもらったほうかいいっと…陛下の言葉を無碍にできないし」

「要するに人脈づくりでしょ?」

 こっちにはメリットはあるけど、あっちにはないからね。相手にされるかどうか。

 それに北の田舎にいるんじゃ、交流は限られる。


「ねえ、それってさ。料理とかお酒出る?」

「あんたは十分食べたし飲んだでしょ?いい加減に…」

 あたしは先にいる人物二人を見つけ立ち止まった。

「どしたの?知ってる人?」

「ああ…うん」

 知ってる。今、見るまで忘れてたけど。


 一人は中年男性、一人も男性でウィルくらいの年齢。

 かなり高価な服装。

 宮殿でいるという事は地位の高い人物だ。

 ゆっくりとこっちに近づいてくる。

 

「イシュタル卿とお見受けする」

 あたしは脇へ避けて、ウィルを前に出す。

「あ、はい…」

「お初にお目かかる、私はサイオス・フォン・マリウス。以後、お見知りおきを」

 胸に手をあて、丁寧に頭を下げる。

「は、はじめまして。ウィル・イシュタルと申します。よろしくお願いします」

 そして、お互いに握手をする。


 お悔やみの言葉も交わした。


「ヴァネッサ君、久しぶりだね」

「はい」

 あたしは敬礼する。

「敬礼はよしてくれ。私には必要ない」

 マリウス卿は笑顔で首を振る。

「はい」


「元老院の副議長…」

「お貴族さま?」

「今はそういう事になっている」

 

 元老院

 有力貴族によって構成される。

 集められた税金の配分、国内外の問題の解決。等などを国王陛下代わりに処理する。

 本来なら国王がすべきだが、処理に限界あるため元老院に任せている。

 重要案件については国王陛下も参加する

 

「ヴァネッサ、君の知り合いらしいけど…」

「うん」

「どういう関係?」

「どういうって…」

「イシュタル卿はご存知ない?」

 あたしは肩をすくめる。

「あんた達、マリウスって名前で何か気づかない?」

 ウィルは考え込む。

「マリウス…待てよ、確かレスターがマリウスって名前だったはず」

「うむ。レスターは私の息子になる」

「そうなのですか。申し訳ありません、存じ上げなくて…」

「いや、構わない。ヴァネッサ君から聞いてると思っていたが…」

「チョット待ってよ。って言うことは、レスターはお貴族さまだったの!?」

 ミャンが驚き声を上げる。

「そうよね。知らなかった…どうして教えてくれなかったのよ」

「それは今度話すよ」

 レスター本人は知って欲しくないかもしれないけど。


「マリウス卿。私に話があったのでは?」

「うむ…。少しいいかな?」

「はい」

「レオ、イシュタル卿のお相手を頼む」

「分かりました」

 もう一人の若い人物が前に出る。

「はじめまして、イシュタル卿。私はレオナルド・フォン・マリウス。お見知りおきを」

「はじめまして…マリウスという事は」

「はい、レスターは兄になります。お世話になっております」

「お世話だなんて、僕の方がお世話なってます」

 レオナルドとも握手する。

 そして、会話を始めた。


「ヴァネッサ君、庭に出ようか」

「はい」

 ウィル達をおいて廊下から中庭に出る。


「レスターは元気かな」

「はい」

 花壇の前で話し始めた。

 マリウス卿の表情は先程と違って優れない。


「こちらに戻ってる様子はないか?…」

「ありませんね。戻るつもりならシュナイツには来ないかと」

「だろうな」

「まだ…その、諦めていないのですか」

「うむ…。できれば戻ってきて、私の後を継いでほしいのだが…」

 

 マリウス卿はレスターを後継ぎにと考えてるが、レスターはそれを断っている。

 レスターは元老院とか貴族社会ような世界が嫌いで竜騎士なったと言ってたね。

 自分の柄じゃないと。


「弟さんがいるのでしょう」

「レオ本人はそのつもりのようだが、荷が重いではないかとな。レスターと二人ならお互いにの弱い部分を補っていけると考えていた」

「なるほど」


「あたしとしては、レスターに抜けられると困ります。その分戦力がおちますから」

 レスターは優秀な竜騎士だ。

「他の者ではいけないのかね」

「無理です。レスターは竜騎士としてまだまだ伸びしろがあります。あたしなんか超えるくらいに」

「そうなのか…君も相当な実力の持ち主と聞いてるが」

「あたし程度なんてざらですよ」

「そうか。すっぱりと諦めるか」

 そう言って、苦笑いを浮かべる。


「にしても、手紙が返ってこないのは困るな」

「え?本当に?ずっとですか?」

「シュナイツに行ってから数えるくらいだ」

 そこまで…あいつ。

「手紙を出すよう本人に言っておきます」

「よろしく頼む。母さんも心配してると」

「分かりました。ですが、あまり強くは…あたしも父親とは喧嘩別れしたままでして…」

「そうなのか?」

「はい…」

「レスターの気持ちもわかると?」

「まあ…」

「お互い大変なようだな」

「そのようで…」

 二人して苦笑いを浮かべる。


「レスターについては諦めると誓おう。そのかわり、厳しく鍛えてあげてほしい」

「それはもちろんそうします」

「うむ」

 マリウス卿は大きく頷く。


「で、話は変わるが…彼はどうなのかね」

 廊下で話すウィルを見る。

「ウィルですか?普通の青年ですよ」

「普通の青年がシュナイダー様の後を継がないと思うが」

「そういう点では普通じゃありませんね」

「シュナイダー様とはどんな間柄なのか」

「縁もゆかりもないですよ。一度会っただけで」

 あたしの言葉を聞いたマリウスが笑う。

「なるほど。それでウィル・イシュタルの名を誰一人知っている者いなかったのだな。噂になるわけだ」

 そう言って顎を触る。


「マリウス卿。あたしからこんな事を頼むのは間違っているかもしれませんが、ウィルを助けてもらえませんか?」

「助ける?」

「はい。領主が集まる場があるとか。陛下はそれに出て、名を知ってもらえと」

「ふむ」

「あたしは出なくてもいいと思っているんですが、本人は陛下の言葉を無視するわけにはいかないと思ってるようで」

「ほう」

「行けば注目されるでしょうし」

「なるだろうな」

「そこでマリウス卿に間に入っていただいて…」

 マリウス卿の顔を伺う。

「良いだろう」

「ありがとうございます」

 あたしはマリウス卿に頭を下げる。

「君も来たまえ」

「は?」

「君もなかなかの有名人だぞ。君も出れば注目は分散する」

「はあ…」

 参ったね。予想してなかったよ。

 あたしは廊下で待つつもりだったから。

「どうかな?」

 今度はマリウス卿が、あたしの顔を伺う。

 あたしも行けば、多少はウィルの注目も減らせるか。

「分かりました…あたしも出ます」

「結構」

 マリウス卿は笑顔で頷く。

 流石、元老院議員。こういう交渉ごとはお手の物だね。


 という事で、領主達が集まる会場へと向かった。



Copyright(C)2020-橘 シン

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