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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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82/102

7-9


「面倒くさっ。はいって貰っておけばいいじゃん」

「うるさいね。あんたに何が…」

 ミャンに言っても分かりはしない。


「ヴァネッサ、日が落ちたよ」

「ああ。そろそろ行くか」

「どこいくの?」

「ウィルの友達に会いにさ」

 薬草師から薬を買う予定。


「会えたらどうする?ジョエルを城内に入れてくれるだろうか?」

「いや、無理だね」

 許可を取ることはできるだろうけど、今は忙しいから。

「もし会えたら、北の城門の所まで連れてくるよ。あんた達は…武器を預けた所で待ってて。呼びに行くから」


 あたし達は一旦、宿泊部屋へ

 あたしは外套とお金その他、取りに行く。ウィルが友人に当てた手紙も忘れずに。これがないとウィルの代役と信じてもらえない可能性がある。

 ウィルは友人がいた場合、薬を買うためお金を持ち出す。

 そして、ウィル達と武器預かり所へ。

 リアンとミャンは関係ないんだけど、一緒に。


「じゃあ、ここで待ってて」

「よろしく頼む」

 預かり所の兵士に事情を話しておいた。


 自分の剣を受け取って城門へ。


 城門の通用口から出て、城下町へ。 

 城壁がある分、暗くなるまで早い。いたる所でかがり火やランプが灯ってる。


 まずはギルドへ行って伝言板を確認する。


 混んでいる中をかき分けて伝言板へ。


「ないね…」

 ウィルが書いた紙がない。一応、全ての紙を確認。

 確かにないね。

 ということは…ジョエル・リダックが、ここ王都にいると。


 次は酔いどれ天使か。


 まだ人通りが多い城下町を歩く。

 町並みは懐かしくもあり、辛くもある。


「この辺のはず…」

 目的の酒場が見つからない…。


 前の方から男の二人組が歩いてくる。一人は青年、もう一人はよくわからない。

 青年はもう一人に肩を貸していた。

 

「ちょっと、いいかい?」

「ああ、なんです?」

「この辺に、酔いどれ天使って酒場があるはずなんだけど、知ってる?」

 あたしは青年に訊いたんだけど…。

「酔いどれ天使、は~通りを一本むこうぉ~だよぉ~」

 答えたのは肩を貸してもらってるもう一人の方。

 酔ってるみたいだね。こんな早い時間から…。

「南に一本向こうですねぇ」

「そう。ありがとう」

「どうも」

 二人組は通り過ぎて行く。


「レニーちゃん、もう一軒行こう!」

「おやっさん、ダメだって。あんたは酒に弱いんだから」


 レニー?おやっさん?。

 聞き覚えが…まさか、エレナの!。


 気が付き振り返えった時には、二人はいなかった。

 脇道に入ったか?。


 エレナの兄とは限らないか…。

 あたしは追いかけなかった。目的が違うからね。


 酔いどれ天使がある通りを行く。

「えっと…あー、あそこか」

 天使二人が向かいあって乾杯してる、そんな看板。

 

 中を覗くと、結構客は入ってる。

 

 ドアを開け中に入る。ドア鈴がカランとなった。

 中の客があたし一瞬注目する。

 

 テーブルは全部埋まってるね。

「一人かい?」

 腰にエプロンをした、そこそこの体格の男が、入口に佇むあたしに訊く。

 店の主人か。

「ああ」

 主人は何も言わず、奥を指差す。カウンター席があった。


 あたしはカウンター席に座る。

 主人がカウンターの向こう側からあたしを見る。

「ここで待ち合わせしてるから、しばらくいさせてもらうよ」

「別に構わねえけど。ここは酒場だ。何か頼んでくれねえかな?頼むつもりがないなら、外で待ちな」

「ああ…」 

 そうだよね。

「あなた、そういう言い方ないでしょ!」

 主人の向こう側から声が聞こえる。壁に窓があり、女性が顔を見せる。

「すいませーん。ゆっくりしていってください」

「どうも…」

 この店は夫婦でやってるみたいだね。

 奥は厨房か。


「待ち合わせに、優しくすることはねえだろ」

「店に入ってきら客よ。ほら、料理!」

「はいはい…」

 主人は料理を持ってテーブルへ。


 あたしは持ってきたお金を入れた革袋を弄って 大銅貨一枚(100ルグ)を取り出す。

 そして、持ってきた主人に大銅貨を見せる。

「一番小さいグラスに、ワイン頂戴」

「グラスにワインね」 

 あたしの前にグラスが置かれ、ワインが注がれた。

 大銅貨は持っていかれ、ナッツとチーズが乗った小皿が出される。

「頼んでないけど」

「女房が出せとよ」

「よかったら、どうぞ~」

「悪いね」

 ナッツを食べながら、ワインが入ったグラスを見つめる。


 お酒は嫌いじゃないんだけど、昔を思い出すから…。


 シュナイダー様に合う前、あたしは父親と喧嘩して王都に出てきた。

 何かをしたかったわけじゃない。色々あってね。

 ただ、父親と離れたかった。


 持ってきたお金なんてすぐに底をついて、日雇いで食いつないでいた。

 夜は必ず飲んでたね。お酒のために日雇いしてた。

 

 何をしていいか、自分でも分からなくて、そんな自分にムカつくいていた。

 憂さ晴らしに喧嘩をふっかけて、そして怪我したりね。


「なにをやってたんだろうね、あたしは…」

 グラスに口をつけ、ほんの少しだけワインを飲む。

 喉が熱くなるけど、嫌いじゃないと思えるようになったのは、あたしが成長したせいか?。…なわけないね。


「腰にある剣は本物か?」

 主人が訊いてくる。

「本物だよ。見るかい?」

「いや…」

 彼は首を横に振る。


「なかなか繁盛してるね」

「まあな」

「城下町でやっていくは大変なんじゃない?」

「ああ。常連がいるから、なんとかなってる」

「そう」


 後ろでドア鈴がなった。

 誰かが入ってくる。

「よお。久しぶりだな」

 主人が声をかける。常連か。

「ども」

 そう言って入ってきた客は、ドンと荷物を床に置く。

 それを横目で確認する。 

 縦長の大きめの箱。薬草師か?。


 あたしの左側、二つ席を開けて座った。

 座った彼と一瞬目が合うが、あたしはすぐに視線を外す。

 彼の視線があたしの剣を見てる。


「何にする?」

「とりあえず一杯」

「あいよ」

 主人はお酒とツマミを彼に出す。

「何か食うか?」

「いや、いいよ。食べてきたから」

 あたしはそのやり取りを横目で見ていた。


 バンダナに焦げ茶の髪の毛。

 こいつか?ジョエル・リダック。


 主人との会話に聞き耳を立てる。


「どうだ、商売の方は?」

「いつもどおりかな」

「お前さんが王都にくる必要はないんじゃなかったか」

「まあ、そうなんだが…店番だけじゃつまんないから。サウラーンの店は妹とおふくろにまかせて。俺は自由に」

「気楽で羨ましいぜ」

「それなりに大変だけどな」

 彼は明るく気さくに話す。


 サウラーン…。

 

 家族構成も聞いておくんだった。


「ウィルは来てるか?」

 おっと。彼からウィルの名前が出る。別の誰かかもしれない。

「お前より久しく見てないぜ」

「あっちも忙しいのか」


 テーブル席から誰かがこっちに来る。

「ジョエル、奢ってくれよ。商売うまくいってんだろ」

「お前は会うたびに奢ってくれって、それしか言えねえのかよ」

 ジョエル…。決まりだ。


 さて、どうやって怪しまれずに近づくか。


「…物らしい」

「へえ…。…な、なのか?」

「多分な。声は…」


 主人をこそこそと話をしてる。


 どうしようか…ストレートに訊いた方が早いか。


「なあ。ちょっと」

 あたしに話しかけてるとは思わなかった。

「あんただよ。女剣士」

「は?」

 剣士じゃなくて竜騎士なんだけど。

「あー、あたしかい?」

「ああ。酒が進んでいないけど、どうかしたのか?」

 一口飲んだだけだった。

「ここには飲みに来たわけじゃないから」

「誰かと待ち合わせらしいぜ」

「そうなのか」

「そうだよ」

 そう言ってナッツを一つ口に放り込み、奥歯で噛み砕く。

「彼氏か」

「ふっ…」

 吹き出してしまった。

「あたしが待ち合わせしてるのは、薬草師だよ」

「え?」

「薬草師、ジョエル・リダック。サウラーン出身」

「俺?」

 本人は戸惑ってるね。

「知り合いか?」

「いいや…」

 戸惑いから疑心に表情が変わる。


「お前、誰だ?」

「さあね」

 これじゃ、怪しさ満点だ。


「あたしはヴァネッサ。ウィルの代役で来た」

「ウィルの?」

「ああ」

 あたしは隣の席を叩く。

 ジョエルは警戒しつつも、席を移る。


 あたしは黙ってウィルが書いた彼宛の手紙を渡す。

 彼は手紙を読み始めた。


「何が書いてあるんだ?」

 主人が手紙を覗き見る。

「あんたには関係ないから、来るんじゃないよ」

 ドスを利かせ追い払う。

「なんだよ…」

 舌打ちしつつ、離れて行く。


「おい、マジか?…」

 内容に驚いてる。

 あたしは、手紙の内容は呼んでないけど、だいたい想像できる。

 シュナイツの領主になった事などが書かれているんだと思う。

「信じる信じないは、あんたの勝手だよ」

「信じるよ。あいつは嘘をつく奴じゃない」

「そう、じゃあついて来な」

 あたしは彼から手紙を取り上げ立ち上がる。

「今かよ」

 ジョエルは頼んだお酒を二口ほど飲む。


「大丈夫なのか?」

 主人がジョエルに話しかけてる。

「え?あー大丈夫大丈夫」

「ウィルはなんだって?」

 あたしは咳払いをして、顎をしゃくる。

「うん、まあ…今度な。これ、お代ね」

 外に出るあたしの後を来る。


「この店はしばらく来れないな…」

「すまないね。他言するじゃないよ」

「ああ。言っても信じないだろうけどな」


「で、あんたはナニモンなんだ?名前は聞いたが」

「あたしは竜騎士、シュナイツで隊長やってる」

「マジで?竜騎士の女隊長?こっちも驚きだぜ」

 

 城下町を城門に向けて歩く。


「あんたはウィルと付き合い長いの?」

「まあな。商売人としては俺の方が先輩だな」

「へえ。ヨハンさんとかマリーダって人は知ってる?」

「もちろん知ってるぜ。ヨハンの紹介であいつと知り合ったんだ」

 ウィルの話を色々聞かせてもらった。


「あいつも人が良すぎるぜ…断ればいいのに…」

 ジョエルはため息を吐く。

「どうなんだよ、領主としては?」

「頑張ってると思うよ」

「前任が英雄じゃ、流石に劣るだろ」

 シュナイダー様は竜騎士としては一流だけど、領主としては疑問だね。

「ウィルなりに頑張ってるし、それに度胸があるね。陛下とも普通に話してるし」

 あたしにみたい黙ったりはしないかった。陛下か気さくなせいもあるけど。

「陛下と話した!?国王陛下だよな?」

「それ以外に誰がいるの。ついさっきまで一緒に食事までしてたよ」

「…」

 立ち止まり呆然としている。


「さっさと歩きなよ」

「おう…」

 

「ウィルは領主になったけど、あんたは友人として接してほしいね」

「ああ…そうだな」

 会う頻度は少なくなるだろう。

「午前中にマリーダって人に会いに行ったんだけど、行き違いで会えなかった」

「そうか…」

 あたしは立ち止まる。

「ウィルに劣るとか、モチベ下げるような事言ったら、予告なしでぶん殴るからね」

「分かってるよ、それくらい。馬鹿にするなって」

 ジョエルを一睨みしてから、歩き始めた。


「なあ、領主を呼び捨てにしていいのか?」

 これ、よく聞かれる。

「本人が敬語じゃなくていいってさ。シュナイツの全員がそうじゃないよ。数人だけ」

「へえ」

「あたしは最初から敬語なんて使う気なんてなかったよ」

「陛下にもタメ口だったり?」

「そんなわけないでしょ…」

 あたしはため息を吐く。

「流石にそれはないよな」

 と言って笑う。


 城門に到着。

 ジョエルには待ってもらって(本人は城に入りたいって言ったけど、当然断った)、ウィルを呼びに行った。



Copyright(C)2020-橘 シン

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