7-9
「面倒くさっ。はいって貰っておけばいいじゃん」
「うるさいね。あんたに何が…」
ミャンに言っても分かりはしない。
「ヴァネッサ、日が落ちたよ」
「ああ。そろそろ行くか」
「どこいくの?」
「ウィルの友達に会いにさ」
薬草師から薬を買う予定。
「会えたらどうする?ジョエルを城内に入れてくれるだろうか?」
「いや、無理だね」
許可を取ることはできるだろうけど、今は忙しいから。
「もし会えたら、北の城門の所まで連れてくるよ。あんた達は…武器を預けた所で待ってて。呼びに行くから」
あたし達は一旦、宿泊部屋へ
あたしは外套とお金その他、取りに行く。ウィルが友人に当てた手紙も忘れずに。これがないとウィルの代役と信じてもらえない可能性がある。
ウィルは友人がいた場合、薬を買うためお金を持ち出す。
そして、ウィル達と武器預かり所へ。
リアンとミャンは関係ないんだけど、一緒に。
「じゃあ、ここで待ってて」
「よろしく頼む」
預かり所の兵士に事情を話しておいた。
自分の剣を受け取って城門へ。
城門の通用口から出て、城下町へ。
城壁がある分、暗くなるまで早い。いたる所でかがり火やランプが灯ってる。
まずはギルドへ行って伝言板を確認する。
混んでいる中をかき分けて伝言板へ。
「ないね…」
ウィルが書いた紙がない。一応、全ての紙を確認。
確かにないね。
ということは…ジョエル・リダックが、ここ王都にいると。
次は酔いどれ天使か。
まだ人通りが多い城下町を歩く。
町並みは懐かしくもあり、辛くもある。
「この辺のはず…」
目的の酒場が見つからない…。
前の方から男の二人組が歩いてくる。一人は青年、もう一人はよくわからない。
青年はもう一人に肩を貸していた。
「ちょっと、いいかい?」
「ああ、なんです?」
「この辺に、酔いどれ天使って酒場があるはずなんだけど、知ってる?」
あたしは青年に訊いたんだけど…。
「酔いどれ天使、は~通りを一本むこうぉ~だよぉ~」
答えたのは肩を貸してもらってるもう一人の方。
酔ってるみたいだね。こんな早い時間から…。
「南に一本向こうですねぇ」
「そう。ありがとう」
「どうも」
二人組は通り過ぎて行く。
「レニーちゃん、もう一軒行こう!」
「おやっさん、ダメだって。あんたは酒に弱いんだから」
レニー?おやっさん?。
聞き覚えが…まさか、エレナの!。
気が付き振り返えった時には、二人はいなかった。
脇道に入ったか?。
エレナの兄とは限らないか…。
あたしは追いかけなかった。目的が違うからね。
酔いどれ天使がある通りを行く。
「えっと…あー、あそこか」
天使二人が向かいあって乾杯してる、そんな看板。
中を覗くと、結構客は入ってる。
ドアを開け中に入る。ドア鈴がカランとなった。
中の客があたし一瞬注目する。
テーブルは全部埋まってるね。
「一人かい?」
腰にエプロンをした、そこそこの体格の男が、入口に佇むあたしに訊く。
店の主人か。
「ああ」
主人は何も言わず、奥を指差す。カウンター席があった。
あたしはカウンター席に座る。
主人がカウンターの向こう側からあたしを見る。
「ここで待ち合わせしてるから、しばらくいさせてもらうよ」
「別に構わねえけど。ここは酒場だ。何か頼んでくれねえかな?頼むつもりがないなら、外で待ちな」
「ああ…」
そうだよね。
「あなた、そういう言い方ないでしょ!」
主人の向こう側から声が聞こえる。壁に窓があり、女性が顔を見せる。
「すいませーん。ゆっくりしていってください」
「どうも…」
この店は夫婦でやってるみたいだね。
奥は厨房か。
「待ち合わせに、優しくすることはねえだろ」
「店に入ってきら客よ。ほら、料理!」
「はいはい…」
主人は料理を持ってテーブルへ。
あたしは持ってきたお金を入れた革袋を弄って 大銅貨一枚(100ルグ)を取り出す。
そして、持ってきた主人に大銅貨を見せる。
「一番小さいグラスに、ワイン頂戴」
「グラスにワインね」
あたしの前にグラスが置かれ、ワインが注がれた。
大銅貨は持っていかれ、ナッツとチーズが乗った小皿が出される。
「頼んでないけど」
「女房が出せとよ」
「よかったら、どうぞ~」
「悪いね」
ナッツを食べながら、ワインが入ったグラスを見つめる。
お酒は嫌いじゃないんだけど、昔を思い出すから…。
シュナイダー様に合う前、あたしは父親と喧嘩して王都に出てきた。
何かをしたかったわけじゃない。色々あってね。
ただ、父親と離れたかった。
持ってきたお金なんてすぐに底をついて、日雇いで食いつないでいた。
夜は必ず飲んでたね。お酒のために日雇いしてた。
何をしていいか、自分でも分からなくて、そんな自分にムカつくいていた。
憂さ晴らしに喧嘩をふっかけて、そして怪我したりね。
「なにをやってたんだろうね、あたしは…」
グラスに口をつけ、ほんの少しだけワインを飲む。
喉が熱くなるけど、嫌いじゃないと思えるようになったのは、あたしが成長したせいか?。…なわけないね。
「腰にある剣は本物か?」
主人が訊いてくる。
「本物だよ。見るかい?」
「いや…」
彼は首を横に振る。
「なかなか繁盛してるね」
「まあな」
「城下町でやっていくは大変なんじゃない?」
「ああ。常連がいるから、なんとかなってる」
「そう」
後ろでドア鈴がなった。
誰かが入ってくる。
「よお。久しぶりだな」
主人が声をかける。常連か。
「ども」
そう言って入ってきた客は、ドンと荷物を床に置く。
それを横目で確認する。
縦長の大きめの箱。薬草師か?。
あたしの左側、二つ席を開けて座った。
座った彼と一瞬目が合うが、あたしはすぐに視線を外す。
彼の視線があたしの剣を見てる。
「何にする?」
「とりあえず一杯」
「あいよ」
主人はお酒とツマミを彼に出す。
「何か食うか?」
「いや、いいよ。食べてきたから」
あたしはそのやり取りを横目で見ていた。
バンダナに焦げ茶の髪の毛。
こいつか?ジョエル・リダック。
主人との会話に聞き耳を立てる。
「どうだ、商売の方は?」
「いつもどおりかな」
「お前さんが王都にくる必要はないんじゃなかったか」
「まあ、そうなんだが…店番だけじゃつまんないから。サウラーンの店は妹とおふくろにまかせて。俺は自由に」
「気楽で羨ましいぜ」
「それなりに大変だけどな」
彼は明るく気さくに話す。
サウラーン…。
家族構成も聞いておくんだった。
「ウィルは来てるか?」
おっと。彼からウィルの名前が出る。別の誰かかもしれない。
「お前より久しく見てないぜ」
「あっちも忙しいのか」
テーブル席から誰かがこっちに来る。
「ジョエル、奢ってくれよ。商売うまくいってんだろ」
「お前は会うたびに奢ってくれって、それしか言えねえのかよ」
ジョエル…。決まりだ。
さて、どうやって怪しまれずに近づくか。
「…物らしい」
「へえ…。…な、なのか?」
「多分な。声は…」
主人をこそこそと話をしてる。
どうしようか…ストレートに訊いた方が早いか。
「なあ。ちょっと」
あたしに話しかけてるとは思わなかった。
「あんただよ。女剣士」
「は?」
剣士じゃなくて竜騎士なんだけど。
「あー、あたしかい?」
「ああ。酒が進んでいないけど、どうかしたのか?」
一口飲んだだけだった。
「ここには飲みに来たわけじゃないから」
「誰かと待ち合わせらしいぜ」
「そうなのか」
「そうだよ」
そう言ってナッツを一つ口に放り込み、奥歯で噛み砕く。
「彼氏か」
「ふっ…」
吹き出してしまった。
「あたしが待ち合わせしてるのは、薬草師だよ」
「え?」
「薬草師、ジョエル・リダック。サウラーン出身」
「俺?」
本人は戸惑ってるね。
「知り合いか?」
「いいや…」
戸惑いから疑心に表情が変わる。
「お前、誰だ?」
「さあね」
これじゃ、怪しさ満点だ。
「あたしはヴァネッサ。ウィルの代役で来た」
「ウィルの?」
「ああ」
あたしは隣の席を叩く。
ジョエルは警戒しつつも、席を移る。
あたしは黙ってウィルが書いた彼宛の手紙を渡す。
彼は手紙を読み始めた。
「何が書いてあるんだ?」
主人が手紙を覗き見る。
「あんたには関係ないから、来るんじゃないよ」
ドスを利かせ追い払う。
「なんだよ…」
舌打ちしつつ、離れて行く。
「おい、マジか?…」
内容に驚いてる。
あたしは、手紙の内容は呼んでないけど、だいたい想像できる。
シュナイツの領主になった事などが書かれているんだと思う。
「信じる信じないは、あんたの勝手だよ」
「信じるよ。あいつは嘘をつく奴じゃない」
「そう、じゃあついて来な」
あたしは彼から手紙を取り上げ立ち上がる。
「今かよ」
ジョエルは頼んだお酒を二口ほど飲む。
「大丈夫なのか?」
主人がジョエルに話しかけてる。
「え?あー大丈夫大丈夫」
「ウィルはなんだって?」
あたしは咳払いをして、顎をしゃくる。
「うん、まあ…今度な。これ、お代ね」
外に出るあたしの後を来る。
「この店はしばらく来れないな…」
「すまないね。他言するじゃないよ」
「ああ。言っても信じないだろうけどな」
「で、あんたはナニモンなんだ?名前は聞いたが」
「あたしは竜騎士、シュナイツで隊長やってる」
「マジで?竜騎士の女隊長?こっちも驚きだぜ」
城下町を城門に向けて歩く。
「あんたはウィルと付き合い長いの?」
「まあな。商売人としては俺の方が先輩だな」
「へえ。ヨハンさんとかマリーダって人は知ってる?」
「もちろん知ってるぜ。ヨハンの紹介であいつと知り合ったんだ」
ウィルの話を色々聞かせてもらった。
「あいつも人が良すぎるぜ…断ればいいのに…」
ジョエルはため息を吐く。
「どうなんだよ、領主としては?」
「頑張ってると思うよ」
「前任が英雄じゃ、流石に劣るだろ」
シュナイダー様は竜騎士としては一流だけど、領主としては疑問だね。
「ウィルなりに頑張ってるし、それに度胸があるね。陛下とも普通に話してるし」
あたしにみたい黙ったりはしないかった。陛下か気さくなせいもあるけど。
「陛下と話した!?国王陛下だよな?」
「それ以外に誰がいるの。ついさっきまで一緒に食事までしてたよ」
「…」
立ち止まり呆然としている。
「さっさと歩きなよ」
「おう…」
「ウィルは領主になったけど、あんたは友人として接してほしいね」
「ああ…そうだな」
会う頻度は少なくなるだろう。
「午前中にマリーダって人に会いに行ったんだけど、行き違いで会えなかった」
「そうか…」
あたしは立ち止まる。
「ウィルに劣るとか、モチベ下げるような事言ったら、予告なしでぶん殴るからね」
「分かってるよ、それくらい。馬鹿にするなって」
ジョエルを一睨みしてから、歩き始めた。
「なあ、領主を呼び捨てにしていいのか?」
これ、よく聞かれる。
「本人が敬語じゃなくていいってさ。シュナイツの全員がそうじゃないよ。数人だけ」
「へえ」
「あたしは最初から敬語なんて使う気なんてなかったよ」
「陛下にもタメ口だったり?」
「そんなわけないでしょ…」
あたしはため息を吐く。
「流石にそれはないよな」
と言って笑う。
城門に到着。
ジョエルには待ってもらって(本人は城に入りたいって言ったけど、当然断った)、ウィルを呼びに行った。
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