7-7
「いい補佐官をお持ちですね」
「え?」
リアンが驚いている。
「領主を立て、支え、叱咤激励するのも補佐官の仕事です。これもなかなかできものではありせんよ」
「はい…ありがとうございます」
今度はリアンが困ってる。
「初々しいわね。ヒルダの若い頃も思い出します」
「わたしもあなたの若い頃を思い出す」
「私はこんなにかわいくなかったわ」
「いえ、容姿の話じゃなくて…」
ヒルデガルト様はこめかみを押さえる。
「あの、お二人はシュナイダー様のご友人とお聞きしました。いつ頃からなのですか?」
「十代の頃からよ」
ファンネリア様が答える。
「腐れ縁ね」
「そういう言い方…」
シュナイダー様、ファンネリア様、ヒルデガルト様それに陛下は同じ学校に通っていたらしい。
「いつの間にか一緒にいることが多くなっていって…」
「そして、ずっと一緒にいる」
二人はお互いを見る。
「何の因果かしら」
「全くね」
苦笑いを浮かべる。
「特に仲が良かったのは、ファンネとレオン」
「そうなんですか」
「婚約するくらいに」
「え!?」
ウィルとリアンがすごい驚いてる。
「知らなかった…。ヴァネッサ、知ってた?」
「うん」
リアンに頷く。
「ご婚約されて、ご結婚は?」
「していないわ」
「されていない?」
「レオンが一方的に破棄した」
ヒルデガルト様が眉間にシワを寄せ答える。
「一方的に…どうしてですか?」
「さあ。私自身に心当たりはなくて、本人は明確な理由は言わない」
「そんな…」
「私の為、とだけ」
「ハーシュ様の為…」
「訳が分からないでしょう?。わたしは、レオンを二回殴った」
「別に殴らなくても…」
ファンネリア様はため息を吐く。
「あなたが殴らないから」
「確かにわけが分からないし、当然怒りはあったけど殴ろうとは思わなかったわ。レオンの判断はいつも正しかったから。それを尊重した」
「どこが正しかったのか、理解出来ない…」
「私とレオンの問題です。理解しなくて結構」
ファンネリア様は笑顔のまま。
「分かりあっておられるのですね」
「ええ」
笑顔のまま、ウィルの言葉に頷く。
ここまではっきり言われるとこっちが照れる。
因み、シンクレア様はご結婚されてる。
「そろそろ行きましょうか」
「そうね」
お二人が言葉を交わす。
「お邪魔しました」
「いいえ。わざわざ来てくださり、ありがとうございます」
「またいつか、お話しましょう」
「期待しています」
「はい」
お二人は出て行った。
「はあ~、疲れた…」
リアンが椅子にどっかりと座る。
「緊張したね」
「リアン、ヒルデガルト様にああいう事をいうんじゃないよ…」
「ああいう事って…だって、変だったし…」
「もういいよ」
ウィルは気にしていない。
ミャンがいないけど、起こさずに寝ててもらった。
寝ぼけて失礼な事をいうんじゃなかと思ったから。
「で、お風呂がどうのこうのって…」
「そうそう。お風呂を用意してくれるっていうのよ。陛下とのご会食の前にどうですか?って」
「へえ」
風呂なんていつ入ったか覚えてないね。
「こんな大きな部屋だけじゃなくて、お風呂まで…」
ウィルは気が引けるみたい。
「あたしはありがたく入らせてもらうよ」
「私も入る。ウィルも入ったら?こんな機会滅多にない」
「うーん…」
シュナイツにはないんだよね。
作れなくはない。お湯も魔法士がいるから何とかできるだけど、負担になるね。
宮殿の風呂は二室あるらしいから、ウィルとは別。
ウィルも色々考えた末、入ると言う。
リアンの傷が大丈夫か気になって医者に相談。お風呂は問題ないと言われるた。
お風呂は入る事を伝える。用意が出来次第連絡するとのこと。
ミャンを起こしてウィルの部屋で待つ。
そして、連絡が来てお風呂場へ移動。
「でっか…」
浴室を覗いたミャンが驚いてる。確かにでかいというか広い。
宿泊部屋と同じくらいの広さで、真ん中に円形の浴槽。多分、大理石かな。
床も大理石だろうけど、滑らないように縦横に細かい溝が彫ってある。
壁、天井は木製かな。飾り彫りがしてある。
「三人で使うの?」
どう見たって十数人は一度に入れる。
「ウィルも呼ぶ?」
「え?そ、それはちょっと…」
リアンは顔を赤くする。
石鹸とタオルも用意済み。
遠慮なく使って構わない。
「気持ちいい…」
「ああ、いいねぇ…」
「アタシ、また眠たくなってきた…」
お湯の温度が丁度いい。眠たくなる気持ちはわかる。
あたしは浴槽から出て、縁に腰掛ける。
浴室内はどうやってるか分からないが、暖かい。
「きゃあ!ミャン!やめてよっ」
ミャンがリアンの後ろから、彼女の胸を触ってる。
「揉むと大きくなるたらしいよ」
「私はもう成長期じゃないから、意味にないの!それに迷信だし」
「わかんないじゃん。ウィルは大きいほうが好みかもしれないでしょ?」
「え?本当?」
ミャンに真顔で聞き返すリアン。
「いや、わかんないけど…よくジロジロ見られるから。ウィルじゃないよ、他の人だけど」
「それはあんたが胸が目立つ服装だからでしょ」
「そうかな…」
「…」
リアンが黙り込む。
「リアン、ウィルは胸しか見てない男じゃないでしょ?それはあんたも分かってるはず」
「うん、だけど…」
「リアンはライアよりは大きいから大丈夫だよ」
フォローになってない…。
「もう…」
リアンはため息を吐く。
「ごめん、リアン。アタシの触っていいから」
「…ばかぁ!」
そう言ってミャンを浴槽に沈める。
「あばばばばば…」
なにやってんだか…。
あたしが体を洗ってところをリアンがずっと見てる。
「何、見てんの」
「ヴァネッサの体、傷跡だらけで…」
「別に初めてじゃないでしょ。見るのは」
「そうだけど…痛々しくて…」
無理してきた結果さ。女で竜騎士なんて無理しなきゃやってられない。
竜騎士になる前も喧嘩売ったり買ったり…。
「あんまり見るんじゃないの。気分悪くなるよ」
「うん」
彼女はあたしに背を向ける。
お風呂から上がり部屋へ戻ると、陛下との会食の順番が決まったと連絡が入る。
日の入り前らしい。いつもより早めかな。
この後、予定があるからちょうどいいかも。
会食用にと、正装が用意されてた。
あたしとミャンはあまり変わってないけど、ウィルとリアンは特別だったね。
ウィルのは、どこぞのお貴族様が着てるようなもの。
リアンは…。
「わぁお」
リアンを見たミャンが声をあげる。
リアンは真っ白はロングドレスだった。
細い肩紐で、胸元と背中が大きく開いてる。
淡い水色をしたレース製の羽織物を肩にかけてる。
だけじゃなくて、化粧までして。
「いいね」
「うん…」
「ウィルもなんか言ってあげなよ」
「え?ああ…その、すごく似合ってる…綺麗だと思うよ…」
「ありがとう…」
そう言って二人は顔を赤くする。
「なんで二人はドレス着ないのよ」
リアンはあたしとミャンに訊く。
「なんでって…」
「ねえ」
あたしとミャンはお互いを見る。
「「やだ」」
同時に答えた。
「やだって…私だけ着るのおかしくない?」
「あんたは似合うからいいの。あたしらは…」
「似合わないでしょ」
「そうそう、絶対似合わない!」
「そんな強く否定しなくても…」
ウィルが苦笑いを浮かべる。
「大体、あたしらは護衛なんだから。着飾らくていいの」
ミャンは知らないけど、あたしは絶対に着ない。
事務官に案内され、会食部屋へ。また広いこと…。
真ん中に長いテーブル。
短辺には陛下が座るあろう豪華は椅子が一脚。
陛下から見て右側にウィル、左側がリアンが座る。
ウィルの右隣にあたし、リアンの左隣にミャンが座る。
「陛下がまもなく、来られます。このまま、お待ち下さいませ」
事務官がそう言って部屋を出て行った。
「もうさっきから、いい匂いが…」
ミャンが部屋の入口を見つめる。
料理が運び込まれていた。
「ミャン…やめてよ」
「だって、あそこに美味しい料理があるんだよ?」
「はいはい…」
リアンは呆れてる。
「ウィル、補助金の件はどうなったの?」
「とりあえず、出してもらえる事は確認した」
「そう、良かったね」
カツカツの懐事情じゃ心配でやっていけないからね。
「まあ、そうなんだけどさ…」
ウィルは嬉しそうではない。
「どうした?」
「問題は金額なんだ」
「あんまり貰えない?」
「逆だよ」
「え?」
補助金の金額は言い値でいいという。
「補助金の件は陛下も知ってるらしんだ。なんでも最大限の配慮をせよ、と指示が出てるとかで…」
「それで言い値でいいってかい?」
「参ったよ…。いくらにしようか、計算中なんだ」
そもそも補助金についての基準が曖昧らしい。
「どうするの?」
「まずは食べていかないといけないから、食糧費分はもらいたい。ほかにどこまで貰おうか…」
補助金で私腹を肥やすなんて事は絶対にしちゃいけない。
だけど、余裕も欲しい。
線引が難しいとウィルは話す。
お金の事は分からないから、ウィルに任せるしかない。
「貰える期間は決まってんの?」
「まずは五年だね」
「五年だけ?」
五年なんてあっという間だよ。
「五年ごとに見直して、減らすか増やすかそのままか、止められるか」
「なるほど」
「僕はいつまでも貰うつもりはない」
彼は真剣は表情で話す。
「自立できるように、何かできないか考えてるんだ」
「何かアイデアあるの?」
「まだ、ない。けど、何かあるはずさ…」
彼はそう言って、膝の上で拳を握る。
ウィル一人に任せるわけにはいかないけど、お金を稼ぐとなるとあたしは素人だから…。
実家が商売やってるんけど、あたしは興味がなかった。
あたしの実家が商売やってる事は、ウィルはまだ知らない。
「ウィル」
リアンがウィルに声をかけ、彼の後ろを見る。
振り返ると、陛下が入って来るのが見えた。
あたし達は立ち上がり、陛下を出迎える。
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