7-4
誰に会おうか迷った末、新人竜騎士の訓練場へ。
新人竜騎士は城内で基礎訓練をしてから、それぞれの隊へ配属される。
「やってる、やってる」
シュナイツじゃ午後は自主訓練でやりこまないけど、新人竜騎士は任務とかほぼはないから、午後も訓練をする。
「そこ!サボるな!ちゃんと見てるんだぞ」
「はい!」
「いい加減、竜の操作を覚えろ!いつまでたっても配属されんぞ!」
教官達の怒号が聞こえる。
その中に、会おうと思ってる人がいない…。
でも、よく知る人物が一人。
「隊長?何やってんの…」
竜騎士一番隊隊長。元上官。
新人訓練してるなんて…。暇じゃないと思うけど…人手不足?。
「隊長!」
声をかけ、肩を叩く。
「ん?…。おお、ヴァネッサか!久し振りだな」
「どうも」
ガッチリと握手をする。笑顔だった隊長の顔が真顔になる。
「あー、シュナイダー様は残念だ…」
「はい…」
「早すぎよな」
「まあ…いつかは来るでしょう」
遅かれ早かれ死は必ず来る。
レスターも同じ様事言ってたね。
「…それで、何で新人の訓練見てるんです?」
「何でって教官なんだから、新人しごかずに何をする」
「え?教官?」
一番隊隊長を辞めていた。
「半年にもなるな」
「もっと上に行くって言ってませんでしたっけ」
「ははは。言ってたな」
笑いながら、あたしの肩を叩く。
「色々考えて…辞めたんだ。副長がとりあえず引き継いでくれたしな」
隊長が…いや、元隊長がいうには、
上に上がると現場に出られる機会が減るからが一番の理由らしい。
上からただ指揮するのは、性に合わない、と。
この人らしいと言えばらしい。
一緒に任務に行くと、真っ先に突っ込んでいく。そんな姿を何度も見てる。
「教官になっても現場には出られないが、剣は振れるしな。新人の成長を見るのも悪くない」
「そうですか」
満足そうな顔をしてるってことは、充実してるってことだ。
「お前がここにいるという事は、それなりの理由があるんだろ?」
今日、ここにいる理由を話す。
「ウィルを、新領主をシュナイツから護衛してきて、すぐに謁見で…やっと一息ついてるとこです」
「なるほど。噂になってる英雄の後継者か?どんな人だ」
「普通といえば普通。度胸はある」
「ほう」
含みのある顔で頷く。
「連れてきてくれ」
「見たかったら、宮殿にどうぞ」
遠目に見るだけなら、普通の青年だろう。
あたしはウィルの中にある力みたいなのを感じる。
腕っぷしじゃない、よくわからない力。
それはシュナイツのみんなが感じてるはず。なんとなくね。
「ブリッツ教官に会いに来たんだけど、今日は休み?」
「ブリッツ教官はお辞めになられたよ」
そばにいたもうひとりの教官がそう言う。
「え?…辞めた?」
ブリッツ・ロウ
シュナイダー様の部下でともに戦争を生き抜いた竜騎士
腹心として仕え、シュナイダー様を叱咤激励した。
シュナイダー様の無理難題をその手腕で軽々と解決。
いつの頃からか、英雄の右腕と言われる様になる。
ブリッツがいなければ、シュナイダーは英雄にはなっていなかっただろうと話す者もいる。
戦後、シュナイダー様ともに竜騎士の現役を引退、軍の再建、改革を務める。
新人竜騎士の教官も務めていた。
シュナイダー様はシュナイツには誘わなかった。
「家族がいる田舎にな。シュナイダー様の死がきっかけだろう。相当、落ち込んでおられた」
「そうですか…」
ただ死んだだけじゃ、そんなに落ち込むはずがない。理由は…分かってる。
「ブリッツ教官は、シュナイダー様の逝去でひとつの時代が終わったと言っていた」
「ひとつの時代…」
「老兵はもういらんという事だ。年寄りの冷や水もいいとこだ、と」
「そんな事…」
苦しい戦争時代を生き抜いた経験から学ぶべき事は多い。
あたしだって、まだまだだ。
聞きたい事はたくさんある。
「道は示した。後は自らの足で進め。なんてな」
達観するって言うのかい?。
早すぎるよ、シュナイダー様じゃないんだから。
「止めかなかったんですか?」
「止めたよ。みんなで止めた。陛下やファンネリア様、ヒルデガルト様も…だが、決意は固かった」
「…」
「去っていく後ろ姿が小さく見えたな…」
参ったね…。
詫びのしようもない。
「ブリッツ教官の気持ちはわからなくはない。だから、強く止めるのもな…」
教官はため息を吐く。
「だが、シュナイダー様もブリッツ教官もいないからって悲観的になってはいけない」
「はい」
「お二人の変わりにはなれんが、自分達ができる事をやろうと決めた」
教官達は頷く。
「ヴァネッサ。これからはお前たちの時代だ。頼むぞ」
「そういうジジくさい言い方、早すぎますよ」
あたしの言葉に教官は苦笑いを浮かべる。
「自分でもそう思うが、俺はピークは過ぎたからな。後は若い奴に託すしかない」
「そうですか…。で、託そうしてる若い奴らはどうなんです?」
あたしは訓練中の新人たちに目を向けた。
新人たちが鎧を全て身に付けたまま剣の素振りしている。
「なんともいえん…。気合が足りないというか…淡白でな。言われた事はするが、それ以上の事はしない」
「そんなもんでしょう?」
サムなんかがその典型。今に始まった事じゃないと思う。
「あんなので現場に出されたら、やっていけんぞ」
「意外になんとかなると思いますけどね」
サムもスチュアートも大丈夫かと思った時期があったが、それなりに成長している。
まだまだだけど。
実戦が一番の教官かもしれない。
「ちゃんと訓練したのかと、文句を言われるのはこっちだからな…」
小さくため息を吐く。
「お願いしますよ。教官殿」
あたしは教官の肩を軽く叩いて、その場を離れる。
「どこに行く?」
「一番隊へ。ロキがいるでしょ?」
「ああ、いるぞ。ああ…ヴァネッサ、ちょっと待ってくれ」
教官に呼ぼ止められた。
「なあ、新人を見てくれないか?少しでいいから」
「あたしが?」
「シュナイツでは新人を見てるんだろ?」
「まあ、見てますけど…」
「教官としはお前のほうが先輩だ」
「いやいや…」
あたしは苦笑いを浮かべる。
ライノ、ステイン、ミレイは新人だけど、剣術まあまあ出来上がってたから言うほど教えてない。
竜騎士になる前から剣兵隊と合同で訓練してたし。
竜騎士としての知識はちゃんと教えてる。
「少しでいい。普段いない者とやるはいい刺激になる」
それは確かに…。マンネリ化するのはね…シュナイツもそうなんだけど。
「分かりました…。一番隊行ってからでいいですか?」
「ああ。ありがとな。恩に着る」
はいはい…。元上官からの頼みは断りづらい。
「じゃあ、休ませておいてくださいね」
「ああ。おい、お前ら休憩しろ!鎧も外していい」
そして一番隊へ。
一番隊の訓練場は新人の訓練場のすぐそばにある。
あんまりいないね。
会合中は巡回や警備に出てるか。
訓練場を囲う柵にもたれてる竜騎士が一人。後ろ姿に見覚えがある。
「どうも~。繰上げ隊長~」
ビクリと体を震わせ、ゆっくりとこちらを向く。
「…やっぱり、ヴァネッサか」
「知ってたでしょ。そこにいたし」
「ああ。知ってたよ」
現一番隊隊長。前一番隊副長である。
「繰上げ隊長なんて呼ぶなよ。正式な辞令がまだで、仮で隊長やってるだけだ」
渋々引き継いだらしい。
「いいじゃないですか」
「来週辞めるからって言われたら、どうする」
「それは…」
「他の隊の連絡だってあるのに…」
そう言ってため息を吐く。
「もういいけどさ…あっ」
「はい?」
「…シュナイダー様が残念な事になって…」
「まあ、うん…」
「お前が一番、目をかけられてたよな」
何故かね。
「今日はやっぱり少ないですね」
あたしは話を逸らす。
「まあ、会合中だし。午後って事あるけど」
懐かしすぎる訓練場。
一番隊に配属されたすぐの頃は、先輩、上官に歯が立たなかった。
そのわりに怪我だけはする。
任務もついていくだけで、精一杯。
「ロキはどうしてます?」
「元気にやってるよ。もう巡回から帰って来ると思うが…おっと、噂をすれば」
ロキが帰ってきた。
あたしに気づいて手を振りやってくる。
「ヴァネッサ班長…じゃなかった隊長殿。お久しぶりです」
そう言って、わざとらしく敬礼する。
「久し振りだね。ちゃんとやってる?」
「やってますよ~」
ロキもシュナイダー様の事を残念と話す。
「お母さんは元気?」
「母は先日、亡くなりました」
「え?ああ…ごめん」
「いいですよ。まあ、病気がちで体も弱かったし、覚悟はしてましたから」
「そう…」
ロキは母子家庭。
給料が入ったら、まずは母親に美味しい物、大好物を買って帰る。いつもそうしてた。
「奥さんと子どもは?」
「ずっと変わらず元気で、うるさいくらい」
シュナイツに行く時、ガルドとレスター、それにサム、スチュアートはあたしについてきたけど、当時ロキは家族持ちだから来なかった。母親の事もある。
それは当然で気なんてしてない。来るなんて言ったら、殴ってでも止めるつもりだった。
「三人目、生まれたんですよ」
ロキは満面の笑み
「は?…」
一番隊隊長が笑う。
「給料足りるのかよ?」
「ぎりぎりです」
と、言ってるけど笑顔は崩さない。
「だから、そろそろ分隊長にしてくださいって」
分隊長は班を二つ(計八人)任せられる。
「俺に言うなって。上に言えよ…だいたい、お前は大雑把だから上がれないんだよ」
「えー、ちゃんとやってるのに…」
班長やってるなら、もうすぐ上にれるはず。
「頑張りすぎるんじゃないよ。家族持ちなんだからね」
そう言って胸を小突いた。
「分かってます」
こいつなら大丈夫だろう。
ロキからは近況を少し聞いた。
「ガルドさんとレスターによろしくと。ドジを踏むなって」
「はいはい」
他にも見知った元仲間がいたので、挨拶と近況を話してから、新人の方へ戻った。
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