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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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76/102

7-3


「もしよかったら、夕食を一緒に取らぬか?」

「陛下とですか?」

 ウィルは陛下の言葉に驚いてる。

「いいんじゃない?」

「ヴァネッサ…。僕みたいな下賎の者と食事なんて…」

「お前は立派な領主なのだ。もっと自信を持った方がいい」

「はい…」

「とはいえ、嫌な事を無理矢理というのいかんな」

「嫌というわけで…」

 あたしは咳払いをする。

 ここで断ると、誘ってくれた陛下に対して失礼だと思うんだよね。

「陛下、失礼しました。お食事のお誘い、お受けします。ですが、僕だけではなく四人でというわけいけませんか?」

「もちろんだ。人数が多いほうが楽しかろう」

「はい。ありがとうございます」

 最初から四人もつもりだったと思うけど。


「陛下、そろそろ…」

「もう少し時間は取れんのか?」

「今日はお忙しいのです。イシュタル様達との食事も、それほどお時間は取れません」

「はぁ…」

 陛下は盛大にため息を吐く。

「毎回毎回…意味があるのか?この会合に」

「元老院議員はともかく。その他の領主は陛下と話す事ができる唯一の機会なのです」

「話を聞くのも楽ではないぞ…なあ?ウィルよ」

「お察しします…」

 ウィルは苦笑いを浮かべる。

「それでは、陛下」

「分かった…。では皆、後でな」

「はい」

「リアン嬢、必ず医者に診てもらうのだぞ」

「はい。陛下」

 みんなで頭を下げる。

 陛下はクローディア様の抗議しつつ部屋を出て行った。


「優しいおじちゃんだよねぇ」

「ミャン!なんて事を!」

「あんた!絶対本人に言うじゃないよ!」

「そうだよ、失礼すぎるよ!。不敬にもほどがある」

「わ、分かってるよぉ…」

 ふざけんじゃないっての…。

 こいつを連れてきた事を後悔したのは、この時ほどなかった。

 

 応接室を出て、医務室へ。 

 リアンの脚は特に異常はなく、このまま時間経てば回復するだろうと言われる。

 当て布と包帯をもらえたのは良かった。どこかで買わないといけないじゃないかと、ウィルは言ってたから。


 次は客室へ。

 

 行く途中、どこか領主達があたし達を、稀有な目で見ていた。

 そりゃ、鎧姿じゃ目立つって。

 

 シュナイダー様の後継者が来てる、と情報が回ったのだろう。

 有る事無い事の噂付でね。 


「ウィル、気にするんじゃないよ」

「ああ」

「反応する必要はないから。勝手に言わせとけばいい。実害がない内はね」

「分かったよ」

 あたしが経験したことが、こんな所で役に立つなんてね。


 廊下の向こうから、体格のいい者が正面から近づいてきた。

 高価そうな服装にマントを羽織っている。

 護衛やら付き人を何人も従える。

 こちらに気づき、ニヤリと笑う。


 あたし達を案内してくれてる事務官が、廊下の端で移動するよう言われる。

「止まってください」

「どしたの?」

「皇太子殿下だよ」

「こっちくる人?」

「そうだよ」

 目を伏せ通り過ぎるの待つ。


「よお!ヴァネッサ!」

 あたしの前で立ち止まり、声をかけてきた。やっぱり気づいていたか。

「久し振りだな」

「これは殿下。お久しぶりです」

 顔を上げ、敬礼し挨拶する。


 ダリル・グランシェール

 皇太子


 ガルドより背は低いが、がっしりとした体格。

 それもそのはず。

 殿下は竜騎士なんだから。


 殿下は何も言わず、右手を胸の前に出す。握手じゃないよ。

 あたしは小さくため息を吐いて、その手を掴む。しっかりと。

「いくぞっ」

 はいはい…。

 掴んだ右手同士を押し倒すように力を込める。

 

 力比べ。

 立ちながらアームレスリングって言えばわかる?。テーブルはなし。


 最初、一気に力を込めた殿下の押され、あたしの右側へ押し込まれる。

 そこで耐えるのは、いつものこと。

 これ何度やったか…。

 

 シュナイダー様ともやったことがある。初めて会った日にね。


「ふん…」

 少しつづ押し戻し、あたしが左側へ押し倒していく。

「ぐっ…相変わらずのバカ力だな…」

 殿下が押し込まれないよう耐え、歯を食いしばってる。

「どうしました?殿下」

「まだだ…」

 殿下が苦悶の表情に変わっていく。顔が赤い。

「机仕事で鈍ってしまいましたか?」

「そんなわけあるか。訓練は毎日している…くっ」

「そうですか。それではお年をとられた?」

「貴様…」

 殿下は苦悶と苦笑い。


 このまま、押し倒すこともできたけど、人目があるしね。

 殿下の護衛やら付き人の視線が痛い。

 ここで勝ったら、後で何言われるか分からない。


 あたしは少しつづ力を抜き、あたかも殿下が逆転勝ちしたように見せかける。

 十分にあたしの右側へ倒された所で両手で支えた。

「参りました。流石です、殿下」

 手を離し、頭を下げる。

「貴様…手を抜いたな?」

「勘弁してください。みんな見てるんですよ」

 小声で話す。

「気にするな。俺は構わん」

 全くこの人は…。


「で、何でここにいる?」

「は?」

 付き人が殿下に耳打ちする。

 それを聞いた殿下は態度を改め、咳払いを一つ。

「あー、シュナイダー様の逝去に、深く哀悼の意を表する」 

 完全に忘れてたね、この人…。

「シュナイダー様の後継者というは?」

「さきほど、通り過ぎた彼が領主です」

「おお。随分、若いな」

 殿下はウィルに近づき、挨拶する。


「お初にお目にかかります、殿下。ウィル・イシュタルと申します」

「うむ、よろしく頼む」

 しっかりと握手をした。


「竜騎士になってどれくらいだ?」

「え?あの、僕は竜騎士ではありません」

「何?竜騎士じゃない?本当か?ヴァネッサ」

 殿下は驚いてる。

「はい」

「シュナイダー様の後継者は竜騎士だと思っていた…」

「申し訳ありません」

「俺が勝手に思っていた事だ。謝る必要はないぞ」

 笑顔でそう言って、ウィルの肩を叩く。

「はい…」

 

 この後、リアンとミャンにも挨拶して去って行った。

「時間があったら、また話そう」

 殿下も会合中は何かと忙しい。


「殿下はね。竜騎士なんだよ」

 歩きながら話す。

「そうなんだ。どうりで…力強い握手だった」

 ウィルは右手を見つめる。


「なんかさぁ。殿下って…なんというかぁ…」

「皇太子らしくないって言いたいんでしょ?」

「そうそう」

「私も」

 

 初めて会った時からあんな感じ。

 豪快っていうのかな。


「賊の討伐にも行っちゃうからね。あの方」

「マジで?皇太子様なのに?」

 彼を護衛する近衛隊の気持ちは推して知るべし。

「最近は、討伐には行かれてないようです」

 あたし達を案内してくれている事務官が話す。

「そう。やっぱり陛下がやめるように…」

「おそらく…」

 落ち着いてほしいんじゃないと思う。

 次期国王だもんね。

 

「剣の腕はあたしと分からないよ」

「へえ。君と同じならかなりの腕前だね」

 伊達じゃないんだよね。

「じゃあ、訓練とか一緒に?」

「何度もやったよ」

「アタシの槍とどっちが上?」

「さあね。勝負したかったら、直談判してくるんだね」

 周りが止めるだろうけど。

「やめときまぁす」


 客室に到着。

 あたし達の荷物を持った使用人達がすでに待っていた。

「こちらになります」

「どの部屋ですか?」

「こちらとあちら、廊下を挟んでこちらとあちらですね」

「四部屋ということは…一人一室…」

 ウィルは安心してる。

 

「おお!すご~い!」

「嘘でしょ。この広さを一人で!?」

 ミャンをリアンが部屋を覗き、声を上げる。

 シュナイツある自室の倍以上ある。

「あの、もう少し狭い部屋は?…」

「申し訳ありません。あるのですが、使用中でして…」

「そうですか…」

「狭いよりはいいじゃない」

 ウィルは、これはこれで落ち着かないな…と声を漏らす。


「ベッドに屋根がついてる!」

「ついてるね…」

 薄いレースのカーテン付…。

 あれは好きじゃないな…。実家を思い出す…。

 

 それぞれの部屋に入る。

 鎧を外す。

 鎧を手入れしてくれるというので、使用人に預けた。


「お着替えがベッドの上にあります」

 着替えまで用意されてるとは…。

 あたしのは男用と変わらない。わざわざ趣向まで調べたってことか。

 早速、着替える。

 サイズまでピッタリ。

「ふっ…」

「どこか不都合でもありましたか?」

「いや、ないよ。ありがと」

 

 廊下には事務官が待っていた。

「服のサイズは大丈夫のようですね」

「だね。わざわざ調べたのかい?」

「いえ。シェフィールド様のはローズさんがだいたいのサイズを教えてくれました」

「そう」

「他の方は到着後目測で。服の種類は数種類を用意して選んでいただく形で」

 目測でね。


「ロマリーの部下になってどれくらい?」

「私はローズさん部下ではないんです」

「え?でもさっき…」

「会合中だけです」

「ああ、そうなの。今、彼女はどこ所属なの?」

「ローズさんは今、外交部です。会合中は助っ人として一時出向しています」

「へえ」

 助っ人しないといけないほど、忙しいんだね。事務官は。


「ローズさんは、私の目標で憧れなんです」

 事務官は熱っぽく話す。

「お綺麗ですし、仕事は早いし、臨機応変に対応してる姿がすごくかっこよくて」

「へえ…」

「すみません…。ご友人なのに…」

「別に、謝ることなんてないよ」

 ロマリーが憧れる存在になるとはね。


 ウィル達が部屋から出てくる。

 ミャンとウィルはあたしの似た服装。

 七分丈のズボンにシャツ。ウィルはベストも着てるね。

 

 で、リアンは…。

「変じゃない?」

「別に」

 彼女はスカート。

 シュナイツでもスカートだけど、それより短いかな。膝が完全に出てる。

 それにフリルが付いたシャツ。

「かわいいじゃん。ね?ウィル」

「よく似合ってると思うよ」

「そう?…」

 リアンは顔を赤くする。

「今だけだよ、そんな服着られるの」

「うん…」

「気に入られたのなら、持ち帰っても構いません」

「え!?いいんですか?」

「はい」

 事務官は笑顔で答える。

「じゃあ、もらっちゃおう」

 なぜかミャンが喜んでいる。

 持ち帰るかどうかは後にして、この後の予定を考えないといけない。

 一旦、ウィルの部屋へ入った。


「この後はどうする?あたしは会いたい人が何人かいるんだよね」

「アタシは寝る!」

「だろうとは思ってたよ。いいけど、夕食までには起きなよ」

「イヒヒ。分かってるって」

 何故か、変な笑い方をする。


「あんたとリアンは?」

「私は特に…」

「僕は…補助金について、お聞きしたいんですが…」

 そう事務官に話しかける。

「はい、補助金の件は担当部署に連絡してあります。すぐにでも説明をお聞きになることもできます。ですが、今日は休まれて、明日ではいかがですか?」

「明日ですか…。ヴァネッサ、君は明日にも帰りたいっていってたけど…」

「明日か明後日ね」

「明後日がいいよぉ。お城に泊まれるなんて滅多に、いやもうないよ!絶対にない!い!一週間くらいいたい!」

 事務官が笑ってるよ…。

「はいはい…じゃあ、明後日ね」


「補助金のお話はどうしましょうか?」

「とりあえず、今、補助金についての内容を詳しく聞きたいです。どういう物なのか全然わからないので」

「はい」

「それで明日、もう一度話し合いの場を設けていただきたいです」

「わかりました…」

 事務官は持ち運びできるインクとペンで器用にメモしてる。

「担当の部署に伝えます。お部屋でお待ちください」

 という事でそれぞれ予定が決まる。


「お部屋のドアのそばにある紐を引くと使用人が来ますので、何なりとお申し付けください」

「すごぉい…」

 そういやそんなもあったね。

「他になにか、ご質問があれば…」

「…」

 ないみたいだね。

「分かりました。それでは、一旦失礼させていただきます。ごゆっくりなさってください」

 事務官は出て行った。


 リアンはウィルの部屋に残る。一緒に補助金の話を聞くらしい。

 ミャンは自分の部屋へ


 あたしはどうしよかな。

 誰から会いに行こうか…。

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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