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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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75/102

7-2


 謁見の間はかなり広い空間。

 フカフカの真っ赤の絨毯。壁には王家の紋章が大きく描かれている。

 

 陛下は最奥の数段高い所の玉座に座っている。

 口髭を蓄えてる。髪の毛にも髭に白い物が増えた印象。

 そばにはクローディア様が、その後ろには近衛竜騎士が控えていた。

 ジェネスがいる。

 竜騎士隊の他にも槍兵隊のも隅にひかえている。


 ロマリーに続いて、玉座の近い所まで進む。

 ロマリーが脇へ移動する。

 領主であるウィル、補佐官のリアンが前、あたしとミャンはその後ろに立つ。

 そしてウィルの名前が呼ばれる。


「シュナイツ領、ウィル・イシュタル様」

 ウィルの紹介を告げる声がきこえた

 ここで膝をつき、頭を下げる。  

「どうしました?陛下の御前ですよ」

 え?

 顔を上げるとリアンが立ったままだ。

 しまった!

 リアンの脚はまだ全快してなかったんだ。

 普通に歩けてるから、忘れてた。


 リアンはただ立っているわけじゃなくて、膝をつこうと努力している。

 すこしづつ腰を落としていっているが、無理そうだ。

 

 いつまでも見ているわけにはいかない。

 あたしは立ち上がろうと脚に力を込める。


「陛下!どうか、お許しを!」

 ウィル…。

 あたしよりも先に立ち上がって、頭を下げる。

「どうしたのです!失礼ですよ!」

 クローディア様の怒号が謁見の間に響く。

「申し訳ありません。リアンは、彼女は旅の途中、賊から毒矢を受けまして…」

「何だと…」

「まだ癒えておらず、膝をつく事ができません」

「そんな報告は来てません。ロマリー?」

 ロマリーが立ち上がる。

「申し訳ございません。事前調査に不備がありました」 

 彼女は謝罪するが、彼女の責任でじゃない。


「もう良い」

「陛下?」

「怪我をしておるのだろう?無理をせずとも良い」

「ですが…」

「できぬことをやらせてどうする?私が臣民を虐げているようでないか」

 陛下は立ち上がってこっちに降りてくる。

「しかし、儀礼では…。陛下の威信に関わります」

「私の威信など、どうでも良いのだ。状況を考えよ」

 二人は話しながらこっちに来る。

「クローディア、お前の気持ちや考えは分かっている。だが、ここは私に気を使う場面ではないぞ」

「はい…」

 

 クローディア様は真面目な人なんだよ。

 謁見なんて厳粛な事には特にね。

 陛下を立てなきゃいけないんだから。

 フレンドリーしちゃったら、雰囲気ぶち壊しだし。


 リアンとウィルは立ったまま、顔を伏せていた。

 陛下が近づくてくる。

「シュナイツから遠路はるばる、よく来てくれた」

「はい…」

「お前がウィルだな?」

「はい。お初にお目にかかります。ウィル・イシュタルと申します」

 声が震えてるよ。

「顔をよく見せてくれ」

 陛下が優しい声で話しかける。

「はい…」

「いい目をしている」

「も、もったいなきお言葉…」

「うむ…して」

 リアンにも当然声をかける。


「顔をあげよ」

「はい…」

 リアンは返事はするが、顔をあげない。いや、あげれないんだ。

「私は怒ってなどいない。さあ」

「リアン、大丈夫だよ…」

 ウィルに小さく声をかけられて恐る恐る顔をあげる。

「怒っていないだろう?」

「はい…」

 陛下は優しく微笑む。

「名を聞こう」

「リアン…ナシルと申します」

「うむ。クローディアがいい過ぎてしまった。すまぬ」

「そんな!陛下がお謝りになることではありません!」

 リアンが陛下の言葉に慌てる。

「クローディア」

「はい。ナシル様、申しわけありません」

「私の方こそ、申しわけありません…」

 お互いのに頭を下げてる。

 

「怪我の具合はどうか?」

「はい。歩くことは問題ありません。順調に回復しております」

「そうか。城にはいい医者がいる。診てもらいなさい」

「はい。お気遣いありがとうございます」

 

「後ろの者、立たれよ」

 あたしとミャンは立ち上がる。

「お前から名を聞こう」

「ひゃい、ミャン・ロンです」

「よく来られた」

「はい…」

 いつものおフザケはさすがに出てこない。


「ヴァネッサ…久しいな」

「はっ」

 あたしは敬礼をする。

「シュナイダーの件、残念だ…」

「はい。陛下の心中、お察しいたします」

「うむ。私もお前の気持ちがよくわかる」

「はい…」

 陛下に比べたら、あたしの気持ちなんて、小指の先も乗らない。

 陛下とシュナイダー様は親友なんだ。

 戦争を乗り越え、自分を支えてくれた者が逝った。こんなに悲しい事はない。


「陛下、申しわけありません。お時間の方が…」

「もうか。分かった。後でまた話そう」

 後で…。まあ、これで終わりじゃないよね。シュナイダー様の件もあるし。

「ロマリー、手筈どおりに」

「かしこまりました」

 

 陛下は玉座へと戻った。

 あたし達は丁寧に頭を下げ、謁見の間を出る。


 謁見の間から少し離れた部屋に通されて、ここで待つよう言われた

 たぶん、応接室だろうけど四人で使うには広すぎる。


 どう見てもあたし達には似合わない豪華な部屋。

「おほー、このソファ、フッカフカだよ」

 ミャンがソファで遊んでる。

「壊すんじゃないよ」

 

「後でって、何を話すのかしら?…」

「さあね…」

 用件はあれしかない。 


 応接室のドアが開き、ロマリーが入ってきた。

「お待たせしました。紅茶をどうぞ」

 ワゴンにはお茶と茶菓子が乗っている。

 ロマリー自身がカップに紅茶を注ぎ、あたし達の前へ置いていく。

 元メイドだから所作がきれいだ。

「堂に入ってるね」

「え?何が?」

「元メイドだからさ。動きに迷いがない」

 ロマリーは笑う。

「これくらい、誰にでもできるでしょ」

 話しながらでも、こぼしたりなんかしない。


「メイドさんなの?」

 ミャンがロマリーに話しかける。

「元々メイドとして城に入りました。それから事務官へ」

「へえ、ヴァネッサの友達なんでしょ?」

「ええ。同期なんです」

「ヴァネッサもメイドさんだったの!?」

「違うって…」

「ふふふっ。ヴァネッサは兵士としてね」

 ロマリーが口を押さえ笑う。


「シュナイダー様にお世話になったとか」

「はい。メイドから事務官への異動に口添えをしていただきました。とても感謝しています。普通はできませんから…」

 彼女がまた泣くんじゃないかとヒヤヒヤしたね。

「お世話なったのはヴァネッサも…わたし以上にお世話に…」

「お世話なったんじゃなくて、してあげたほうだから」

 そう言ってから、紅茶を一口。

「うわぁ…」

「よく言えるわね」

「ほんと、本人がいないからってさ…」

 三人は呆れている。

 ロマリーは笑うだけ。


「ところで、いつまでここにいればいいわけ?」

「わたしにもわからないの」

 ロマリーにも分からない。

「スケジュールの調整中だと思う。先に昼食かもしれない」

「じゃあ、午後以降かい?陛下に会うのは?」

「多分ね」

 わかないんじゃ、待つしかないと。


「客室はご用意してあるので、それはご心配なく」

「客室ってここに泊まるの?」

「そうよ」

「ここ!?宮殿に?」

 リアンが驚いてる。

「宮殿と言ってもお客様専用の区画がありまして、そちらになります」

「私、城下町の宿に泊まるのかと…」

「シュナイツからのお客様ですので、丁重せよ、と陛下からのご指示がありました」

「陛下の…」

 ウィルは言葉を失ってる。

「指示もなにも、会合で来てる領主は全員宮殿でしょ?」

「ええ」

「なんだ、僕らだけじゃないんだ…びっくりした」

 彼は安心したように息を吐く。


「それでは失礼します。これ以降はその部下と使用人が応対しますので、何なりとお申し付けください」

 出て行こうするロマリーを呼び止め、ドアの所で話す。

「ロマリー、今日って時間ある?」

「あるにはあるけど…どうしたの?」

「少し話さない?久し振りにさ」

「…それって、手紙のお詫び?」

「え?あー、あれ…いや、違うって…」

 まだ、根に持ってんの?。

「ごめん、そういう言い方ないよね。大丈夫よ。少し、遅い時間になるかもしれないけど」

「構わないよ」

「じゃあ、後で」

 そう言うと彼女は出ていった。


 昼食後、少ししてから陛下とクローディア様が訪ねてくきた。

 近衛隊の護衛は部屋には入らない。

 最初、あたしだけ呼ばれ、ウィル達とは離れて三人で話す。


「お待たせしました」

「いえ。お話というのは…」

「これです」

 クローディア様が取り出したのは、あたしが送った手紙。

「あの、その前にこの部屋は大丈夫ですか?誰かに聞かれたりはまずいかと…」

「大丈夫です。ファンネリア様に魔法を施してもらいましたから、声は漏れません」

「そうですか…」

 ファンネリア様か…。

 あの人にも会わないといけない。


「ヴァネッサ、この手紙の内容、まことの事か?」

「はい…」

「うーむ…」

 陛下の表情が曇る。

「申し訳ありません…。シュナイダー様を守る事ができませんでした。全て、あたしの責任です…」

「全てがお前の責任ではなかろう。私にも責任がある。碌な支援してやれなかった」

「陛下がご責任が感じる必要はありません。シュナイダー様自身がお断りに…」

「そうだが、無理矢理でも兵士を送っておけば、状況は変わっていたかもしれん」

 陛下はため息をはく。


「陛下、今シュナイツにはウィルがいます」

「うむ」

「彼を中心にまとまりを見せています。領主として適任かどうかはわかりません。ですが、シュナイダー様が選んだのなら、あたしはそれに賭けてもいいではないかと…まずは前へ。あたしが言うのもおかしいですが…」

「いや…ヴァネッサの言う通りだ。いつまでも後ろ向きではな」

「はい」

 ウィル達はこっちをチラチラ見ている。

 

「ヴァネッサ、彼はシュナイダーの件知っておるのか?」

「はい、知っています。リアンとミャンも」

「そうか…知った上で…なかなかできないぞ」

「肝が据わってます。あたしの半分くらいでしょうけど」

「ははは。お前の半分ならすごいことだ。必要十分でないか」

 陛下は笑いながら、あたしの肩を叩く。


「クローディア、例の話を。私はウィル達と話をしてくる」

「はい」

 陛下はウィル達の方へ行ってしまった。


 例の話ってなんだろう?


「ヴァネッサ。シュナイダー様の件、このままにしておくには参りません」

「はあ」

「首謀者の捜査を始めます」

「え?」

「当然の事です」

「捜査って…表向き病死と発表したのでは?」

「これは極秘捜査となります」

 極秘…。

「あの、あたしも参加をっ」

「いいえ」

 クローディア様は首を横にふる。

「どうしてです?あたしは現場に…」

「分かっています。ですが、もしあなたが動けば、目立ってしまう」

「…」

「それにシュナイツを離れるわけにはいかないでしょう」

「はい…」

 確かにシュナイツを離れられない。

「事件当日の状況をできるだけ詳しく教えて下さい。それがあなたの役割となります」

「はい」

「あなたの気持ちは分かっているつもりです」

 クローディア様はあたしの腕にそっと手を添える。


「手掛かりは少ないです…」

「そうだとしても、どんなに時間かかろうとも、犯人を見つけてみせます」

 彼女の強い意思がその目に見える。

「分かりました。お願いします」

 あたしは頭を下げた。

「頭を上げてください」

 クローディア様があたしの肩を掴む。

「当然の事と言ったでしょう」

「はい…」

「シュナイダーを亡き者したその罪は償われなければなりません。どんな形でも」

 どんな形でもか。

「ですから、待っていてください。逐一とはいきませんが、経過をお知らせします」

「はい」

「後ほど、話を聞きに行きます」

 クローディア様との話は終わった。


 あたし達は、陛下とウィル達の会話に加わる。


Copyright(C)2020-橘 シン

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