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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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7-1 謁見と再会


 北の城門前。

 兵士に陛下からの書状を見せ、取り次いでもらう。


 城門を見つめる私の胸には懐かしさと、憂鬱と、楽しみが渦巻いていた。


 城門は二重になっている。開ける事はあまり無い。

 通常は小さな通用口を使う。が、通用口は竜は通れない。

 大量の兵士や竜騎士隊が出入りする時に開けるくらい。まあ、全開はしないけどね。

 あたし達は竜を連れているので、門を開けてもらう。


 門が軋みをたてて開いていく。

「どうぞ」

 兵士に言われ、門へ向かった。


「でっか…」

「シュナイツのも大きいと思うけど」

「比べるのが恥ずかしいね」

 見上げながら、門をくぐっていく


 門をくぐった後、門が閉じていった。

 ピタリと閉まり、兵士達が総出で大きな閂をする。

「ふう…」

 あたしは大きく息を吐いた。

 城の中は安全…。一仕事終えた…。緊張感がすっと抜けていく。

「ヴァネッサ、ありがとう」

 ウィルがそう声をかけてくれた。

「ご苦労さま。ミャンもね」

「アタシは何もしてないよん。がんばったのはヴァネッサでしょ?ね?」

「あたしは、リアンに怪我をさせたし…礼を言われるほど…」

「それはあなたの…」

「分かってる。あたしがそう思ってるだけだから…」

「完璧を求めたら切りがない。僕は君ができるかぎりの事してくれたと思ってるよ」

 ウィルはそう言って、拳と出した。

「そう…ありがと」

 あたしは彼の拳に、自分拳を合わせた。リアンとミャンも合わせる。


「次へお進みください」

 橋を渡り、次の城門へ。 

 橋の下は空堀。

 底はまでかなりの高さがある。落ちたら、怪我じゃ済まない。

 そんなのがぐるりと城を一周している。


「誰か出てきたよ」

 橋を進んでいくと、向こうの通用口から三人出てきた。

 服装から事務官だね。


 

 事務官とは

 いわゆる役人、官僚の事である。

 シンディなど領地おける事務方も事務官と呼ばれる。


 

 三人の内、先頭の女性を私は知っていた。

「へえ」 

 赤い艶のある長い髪を後ろで束ねてる。

 


 お互いが近づき、橋の中央で顔を合わせる。

「ようこそいらっしゃいました。ウィル・イシュタル様」

「はい…」

「シュナイダー様ご逝去、謹んでお悔やみ申し上げます」

 先頭の女性が頭を下げる。


「わたしはロマリー・ローズと申します。イシュタル様御一行が滞在中、身の回りのお世話を担当させていただく事となりました。宜しくお願いします」

 担当するの彼女だけなく、彼女の後ろにいる部下と、ここにはいないがメイド、執事もいるという。


 あたし達も自己紹介した。


「まずは中へ。部下がご案内いたします」

 ウィル達はロマリーの部下に続くが、あたしは行かなかった。

「あんた達、先行っててもらえる?」

「え?」

「あたし、ちょっとロマリーに話がね…友達なんだよ」

 ロマリーも小さく頷く。

「分かった。行こう」

 ウィルが促し先に行く。十分離れたところでロマリーに話しかけた。


「久し振りだね」

 ロマリーとあたしは同期。

 同じ日に城に入って働き始めた。

 その時から交流があって、今では親友。

 お互いに辛い時、苦しい時を分かち合い乗り越えてきた。

 ちょっと言い過ぎかな。あたしの方が助けられてたかも。

 

「久し振り…」

 彼女は口を抑え、目に涙を貯める。

「どうしたの?」

「ごめんなさい…シュナイダー様の事…」

「ああ…」

 実はロマリーはシュナイダー様に恩があるんだよね。

 彼女は元々メイドで、途中から事務官に異動した特殊な経歴をもつ。

 本来、メイドから事務官への異動はできないが、興味があり異動したいという話をシュナイダー様にたまたま聞かれ、シュナイダー様が口添えをしてやろうとなった。

 それがきっかけで事務方へと異動した。 

 事務官に異動してからの彼女は生き生きとして仕事に取り組んでいた事を思い出す。 

 涙するのも仕方ない。シュナイダー様が口添えがなければ、今のロマリーはないんだから。

 それはあたしもなんだけど。


「わたし…何も恩返しすることができなかった…」

 そう言って涙をこぼす。

「シュナイダー様はそんな事、望んでなかったでしょ」

 彼女の肩に手を添える。

「そうだけど…」

「ばかだね…」

 あたしは彼女の部下から見えないようにちょっと移動してから彼女を抱きしめた。

 ロマリーは肩を震わせる。

「恩返しは、あんたが出世することだよ。そうでしょ?」

「うん…」

「シュナイダー様が望んでいるのは、そういう事だと思うよ」

「うん」

 ロマリーはあたしから体を離す。

「ごめんなさい」

 あたしは彼女の涙を拭ってあげた。

「いいんだよ…」

「一番辛いのはあなたなのに…」

「あたしは大丈夫だよ」

 泣く暇なんてありゃしない。


「だめだよ。部下に弱い所見せちゃ」

「ええ。もう大丈夫だから」

 彼女はハンカチで涙を拭く。

「行きましょう」

「ちょっと待って」

「何?」

「あんたにクローディア様宛の手紙を送ったんだけど…」


 

 クローディア・ファレル

 陛下付補佐官

 陛下専属の補佐官。

 外交、内政あらゆる事に精通し陛下に助言をする。

 彼女は十年前にわずか二十五歳という若さで着任。以来、補佐官を続けている。

 シュナイダー様とも親交がある。

 シュナイダー様がクローディア様にロマリーの件を口添えをしたんだ。



「届いてるけど?ちゃんと本人に渡したわ」

「中身を見ないで、直接だよ?」

 内容はシュナイダー様が病死でなく暗殺だという事を書いてある。

「ええ。そうしろって書いてあったから、ちゃんしたわ」

「そう…」


 手紙くらい普通に送ればいいでしょって思うだろうけど、公務についてると手紙の内容をチェックされるんだよ。出す時も受け取る時も。

 賊とか他国を繋がっていないかってね。

 さすがに全部は無理だから、抜き打ちで。


 シュナイダー様が暗殺だということを知らせなければならない。秘密裏に。

 クローディア様に届けば、その内容から陛下に報告するだろうし、シュナイダー様の友人にも報告するはず。

 

 シュナイツ領からの手紙ならチェックされることはまずない。

 病死という報告と遺書、新領主の手紙とともにロマリーへ手紙を同封したのさ。

 正直、怖かったけどね。杞憂に終わってよかった。

 

「頼むのはいいけど、わたしへの言葉も欲しかったわ。仮にもわたし宛の手紙なんだし…」

「え?ああ…ごめんね」

 それはいけないね…。

「まあ、いいわ」

 ロマリーはそれ以上言わなかった。

 クローディア様宛の手紙の内容が重要な物であることを、感というか察している。

 気になるはずなのにね。

 

 聞かれたとしても、絶対に言わない。言いたくない。

 シュナイダー様が暗殺されたなんてね。

 今はまだ知る必要ない。いつかはちゃんと言わないといけない。


「クア!」

「あなたも久し振りね。元気だった?」

 あたしの竜の顔を撫で回す。

「疲れたでしょ?ゆっくり休んでね」

「そうさせてもらうよ」

「あなたに言ったんじゃない」

「ああ、そう…」

 怒ってる?。

「もう行かないとまずいんじゃない?」

「そうね。今日はスケジュールが詰まってるのよ」


「申し訳ありません。お待たせしました。」

 ウィル達は門の所で待っていた。

「中へどうぞ」

 門が開き、入っていく。


「友達?」

 ウィルが話しかてくる。

「うん」

「泣いてなかった?」

「彼女はシュナイダー様にちょっと恩義があってね」

「そうなんだ…」

 先導する彼女にもう悲しみの様子はない。

 大丈夫だろう。


 門をくぐると開けた通路。まだ外で通路の先に建物の入口が見える。

 通路の両側、離れた所にも建物があるが、人用ではない。

「竜をこちらで預かります」

 ロマリーが合図を出すと、竜の管理を担当している兵士が寄ってくる。

 

 竜のから鞄を外し、いつまにか居たメイドたちに預かけた。


「ご苦労さん」

 ミャンやリアン、ウィルも竜の顔を撫でる。

 あたしも自分の竜の顔を撫でた。

「よく頑張ったね」

「クアゥ」


「お預かりします」

「頼むよ。鎧と鞍、ハーネスを全部取ってあげて」

「はい、了解しました」

 手綱を渡す。

 竜は厩舎へ。


 建物へ入る。ここは不審物を持ち込んでないかを検査する所。それと武器の預かり。手入れもしてくれる。

「えー、アタシの槍も?」

「当たり前でしょ」

 あたしは自分の剣とショートソードを外して預けた。

「汚れだけ拭き取ってもらえる?磨くのはしなくていいから」

「はい」

 ミャンも渋々といった感じで短槍を預けた。

 

 ウィルのショートソードも預ける。

 今持ってるショートソードはここに来るまでに買った物。

 そこそこ出来のいいやつを選んだ。


「鎧も?」

「ああ、そうだね」

「そのままで構いません」

「え?でも…」

「本日はスケジュールの方が非常に立て込んでおりまして。すぐに陛下と謁見となります」

「こんな格好でかい?」

「連絡はもうしてあるから」

 参ったね…。

 鎧を脱ぐ時間もないのか。

 外套だけは脱いで、メイドに預けた。


 今度は宮殿へ。

 右へ左へ廊下を曲がり歩く。

「ここも迷路じゃん」

「覚え切れないよ」

「私も」

「大丈夫です。使用人が覚えてますから。ヴァネッサ、あなたは大丈夫よね?」

「なんとなくね」

 だいぶ記憶が薄れてるけど。


 宮殿に入る前に身体検査。


 宮殿と言ってもここは対外的なもので、陛下等王族の住まい、私的な空間はもっと奥だ。 

 宮殿内は人が多い。

 今は会合中となので、各地の領主はその関係者だろう。

 誰が誰だか全然わかんないけど。


 謁見の間に到着。

 これから謁見するであろう一行が並んでいる。

 しばらくして順番が回ってくる。

 一旦、控え室に入って、大きな扉の前で合図を待つ。


「緊張してきたよ」

「私も」

「どうすればいいの?」

 三人はそわそわしている。

「普通にしてればいいって」

「普通って。君は緊張しないの?」

「あたし、初めてじゃないし。何度も会ったあるから」

「マジ?お友達なの?」

「んなわけないでしょ。ど緊張するほどの相手じゃないってだけ」

 最初は緊張したさ。


「大丈夫ですよ。わたしに続いて入ってください。中程まで進んだら、イシュタル様のお名前を呼びますので、それから片膝をついてください」

「え?片膝?」

 リアンが何か慌てた様子。

「どうぞ、中へ」

 合図があり、謁見の間へと入っていく。


 陛下への謁見が始まった。 


Copyright(C)2020-橘 シン

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