6-3
「エレナのお兄さんがいるのよね。王都に」
「そうそう」
お兄さんに直接会う時間はないけど、手紙なら集配所に出すことはできる。
王都の集配所か近くの町で出せば、すぐに届くだろう。
だけど、エレナは必要ないと断ってきた。マリーダさんとアスカには手紙を渡してほしいと頼んできたのに。
「まだ、許せてないんじゃないんでしょ」
「半分許すって言ってなかった?」
「だから、半分残ってるでしょ。身内の事なんだから、あたし達は口を挟まなくていいの」
そんな事を話しながら、ギルドに到着。
ギルドは大きな建物。頑丈そうな石造り。
人の出入りが激しい。
「朝はだいたいこんな感じだよ…」
ウィルは辟易とした感じ。
みんな、朝に昨日預けたお金を取りにくるだとか。
ウィルもその一人。
裏手に竜を停め、人混みをかき分け中に入る。
預けたお金の引き出し場所は長い列ができていた。
「先に伝言板に行こう」
伝言板の所は比較的空いてる。
「伝言板ってどう使うの?」
伝言板には便箋ほどの紙が何枚も何枚もピン留めされていた。
その下に大きなテーブルがあって、紙、筆、インクが置いてある。
「まず紙に会いたい人の名前を書く」
ウィルは紙に、ジョエル・リダック と書いた。
「そして、待ち合わせ場所と時間帯を書く…待ち合わせ場所は…」
酔いどれ天使 と書いて、日没後早めと書く。
酔いどれ天使、とは酒場で、ジョエル・リダックさんとよく行ったとウィルは話す
「最後に自分の名前を書いて…」
ウィル・イシュタル と書いて、伝言板にピン留めする。
「これでよしっと」
「これでいいの?…」
まだよく分からない…。
「思い出した…これ、あたしやった事ある…」
ヴァネッサが伝言板を見ながら呟く。
「これ、酔いどれ天使に行く前にもう一回、伝言板を見に来ないとだめだよね?」
「そうそう、この紙がなかったらジョエルが持って行ったって事だから、本人がいるってことさ」
逆に紙あったら本人は来ていないと。
「へえ、そういう仕組なのね」
「それで僕が行きたいんだけど、ヴァネッサ頼むよ」
「あいよ」
ウィルは自分が行けない事をすでに分かっている。
「みんなで行けばいいじゃん」
「そうよ」
「勘弁してよ…人が多いんだよ、護衛にどれだけ神経使うか分かってるでしょ」
「あい…」
「…」
仕方無いか…城下町を歩けると思ったんだけど…。
「ウィル、ジョエル・リダックって人の特徴教えて。それと酔いどれ天使の場所」
「うん。薬草師だから。大きな四角い木箱を持ってる」
「木箱?」
「えーと…」
ウィルは周りを見回す。
「ほら、あの人の足元ある」
彼が指差す。そこには布で包まれ、ロープで縛られた箱。
縦長の結構大きな箱。背負って使う物らしい。
「ああ。あれね」
「あんな感じのを持ってる。そしてバンダナをしてる。髪の色は焦げ茶。サウラーン出身」
「…箱、バンダナ、焦げ茶、サウラーンね」
ヴァネッサは頷いてる。
「酔いどれ天使の場所は…」
城下町の地図ある壁に移動して、だいたいの場所を指し示す。
「あの辺」
「あの辺ね」
「あの辺でわかるのがすごい」
「伊達に一番隊やってなかったからね」
ヴァネッサは笑顔で胸をはる。
「次は預り金っと」
並んでいる人はさっきより少なくなっていた。
少し待っただけですぐに順番が来た。
「いらっしゃいませぇ~」
「預り金に引き出しをお願いします」
「あらぁ~ウィルさん、お久しぶりぃ~」
受付の女性が気さくにウィルに話しかける。
なんか、こう、イラつく喋り方。
「どうも」
「預り証明書をご提示くださぁい」
ウィルは鞄から書類を出し受付に出す。
「全額引き出しで」
「はぁ~い」
受付窓は小さく、ウィルの左右にいる私達は受付からはお互いに見えない。
「ウィルさん、聞きたい事があるんだけどぉ」
「はい?なんですか?」
「ウィルさんのフルネームってウィル・イシュタルでしたよねぇ?」
「はい、そうですけど…」
「同じ名前の人がぁ、シュナイダー様の領地を引き継いだって聞いたんですけどぉ…」
「え…ああ…」
ヴァネッサがウィルに向かって、人差し指を口に前に立てる。
「ウィルさん、だったりしますぅ?」
この人、ちゃんと仕事してるのかしら?。
「違いますよ」
「ほんとにぃ?」
「はい。仮にそうだったらどうします?」
「もちろん、お嫁さんに立候補しますよぉ~」
「ふふ…」
「はあ!?ん!」
一言言おうと思ったとたん、ヴァネッサに口を塞がれた。
何言ってんだ、こいつは?。
勝手に立候補するな!。
私だってまだしてないのに!。
「そばに誰がいますぅ」
「友人が…。それは置いといて、お嫁さんに立候補するのは止めたほうがいいですよ」
「なんでですかぁ?領主様なんでしょぉ?」
「シュナイダー様の領地。シュナイツはご存知ですか?」
「あのぉ~よく分からなくてぇ」
「そうですか。でしたらよく調べてから、立候補されたほうがいいです。君の希望に沿わないから」
「私の希望ぉ?はあ…。あ、どうぞ、預り金ですぅ」
「ありがとう」
ウィルはお金を鞄に入れる。
私達は立ち去ろうしたが…。
「ウィルさん!分かったわぁ!」
「はい?」
ウィルが振り返ると…。
「シュナイツは貧乏なのねぇ!」
ウィルは何も言わず笑顔で手をふるだけ。
「何なのよ!あなたは!失礼で、ん!!」
またヴァネッサに口を塞がれ、そのまま外に出された。
「はいはい…落ち着いて。目立ってるでしょ」
結局、裏手までそのまま連れ出された。
「何なの、あの女は!」
「あははは!」
ウィルは大笑いしてる。
「笑い事じゃない!」
「あーごめん。怒るほどのことじゃ…ああいう人だから」
「あんた、知り合いなの?」
「知り合いというほどでも…友人同士でお酒飲んでてその中にいたかな」
「そう。ああいうって、あんたは分かってた?」
「分かってたよ。なんとなく…ふふ」
思い出し笑いしてる。
「アタシ、意味がわかんないだけど」
「彼女は玉の輿を狙ってるんだよ」
「ああ、だから領主のお嫁さんにって…」
「やめて!」
私は聞きたくなくて、手を上げやめさせる。
「シュナイツは貧乏だから、止めとけと?」
「そういう事」
「立候補なんていってる事は、まだ結婚してないんだ」
「だろうね。結構な年齢だと思うんだけど」
ウィルがいうには、羽振りがいい人に色目を使ってるとか。
「当たり前よ。行き遅れて当然だわ」
結婚ってそういう、お金も大事だけど、お互いの気持ちが大切でしょ?。
アルの駆け落ちの話も思い出してムカついてきた。
「もういいよ…。アタシたちに関係ないし…それよりさぁ、お腹空いてるんですけど~」
「私もムカついてお腹が減ったわ」
実は朝食の抜きで宿を出ていた。
「そうだね。何か食べてからお城へ行こうよ。謁見中にお腹が鳴ったら恥ずかしい」
ウィルの行きつけの飲食店が外町にあるんだけど、人混みの中を行くのは時間がかかるのでやめて、空いてる店で食べる事になった。
いままでは露天のお店で買って、宿の部屋で食べるだけだった。
だけど、今回は飲食店に入って、好きなものを注文。
ちょっと高かったど、すごく美味しかったわ。
で、食べた後、すぐにお城へ。
「まあ、こんな所かしら…」
「フィーゴさんから頂いた生地は大切にしまってある」
「え?ギルドの受付の人?さあ?知らない。まだ独身だったら自業自得よね」
「あ、ヴァネッサが帰って来た」
「どこまで話したの?」
「お城行く前に朝食食べたでしょ?そこまで」
「ああ、あそこね」
「竜騎士隊のほうはいいの?」
「まあね、あたしいなくてもできてるから」
「そう。私は部屋に戻るわ。よっこいしょっと」
「気をつけなよ」
「大丈夫よ、じゃあね」
「はいはい」
「えっと、城に行くまでは話したと」
「城に入いるところからを話せばいいんだよね?」
「城に入って、やっと安堵できたのを覚えてるね」
「まだ折り返しなんだけど…」
エピソード6 終
Copyright(C)2020-橘 シン




