6-2
今日の目的地である町に夕方到着。
通り、店先に人が入り交じる。
「確かに人がちょっと多いかも…」
ウィルがそう呟く。
「ここでこれなら、王都はもっとってことよね?」
「うん…とりあえず、宿を取ろう」
「まだ、早くない?」
ミャンが先に夕食がいいと、言い出す。
「宿が取れなかったらどうすんの?」
「さすがにダイジョブでしょ?」
「宿が取れなくて、納屋借りるとか嫌だよ。田舎じゃあるまいし、王都近辺でそれはカッコ悪いって」
「僕も先に宿を確保した方がいいと思う。夕食はなくなったりしないから」
「はいぃ…」
という事で、宿を探して確保した。
「やっぱり二人部屋を四人でつかうんだね…」
「仕方無いでしょ。護衛上さ」
ウィルは不服だ。
男性一人に女性三人。どの宿でも変に見られる。
今回の部屋はいい感じ。
表通りに面していて、日当たりもいい。その分ちょっと高いけど。
悪い部屋?ああ、そうね…日当たり悪くて、なんかジメジメしてる部屋の時があったわ。
ヴァネッサが買ってきた夕食を食べながら明日の予定を話し合う。
「やっとここまで来たね…」
ヴァネッサは大きく息を吐く。
彼女には感謝しきれないほどの、感謝しかない。あ、ミャンもね。
ウィルと私の護衛という任務を果たしたのだから。
「来たのいいけど、こんなに混んでるとは…城下町に入るだけでも、かなり時間かかるよ」
ウィルは自分の手帳(王都周辺が書かれた地図のページ)を見ながら話す。
「後は城まで行くだけだから、多少かかってもいいんじゃない?」
「…実は行きたい所があるんだけど…」
ウィルはヴァネッサを顔色を伺う。
「え?…」
ウィルは、ギルドとマリーダさんが働いている店に行きたいと言う。
「マリーダって人は、しばらく会っていないからってのはわかるけど、ギルド行って何すんの?」
「ギルドにはお金を預けてあるんだ。それを取りに行きたい」
「ああ…」
「それと、薬草師の友人に連絡を取りたい」
「ああ…薬ね」
そう薬。フリッツ先生から薬を頼まれていた。
薬だけならウィルの友達でなくもいいんだけど、ウィルが言うには彼が一番、薬や薬草に詳しいらしい。それに友達という事で少し安くしてもらえるかもしれないと。
「居場所はお互いに分からないのよね?どうやって連絡し合うの?」
「伝言板があるんだ。それを使う」
「へえ。伝言板」
「伝言板を使ったからって、確実に会えるわけじゃないんでしょ?」
「うん…。時期的にいるんじゃないかと思うんだ。明日、会えなくても、二、三日待てば…」
ウィルの話にヴァネッサは難色を示す。
「長居はしたくないんだけど…」
謁見が済んだら、すぐに帰りたいとヴァネッサは話す。
「早ければ明日すぐに謁見のはずだから、その翌日、遅くても翌々日には帰りたい」
「別にさぁ、急いで帰る必要なくない?」
「ヴァネッサはシュナイツが心配なのよね?」
ガルドとレスターなら大丈夫だろうとは思う。
「そうじゃないって、早く帰らないと、みんな心配するからさ…」
「うん…」
心配させる原因は私にある。
私が行きたいと無理を言わなければ、心配の度合いは違っていたかも。
シュナイツに残っていたら、私がウィルの事を心配しすぎて…居ても立っても居られないんじゃないかと思う。
「会えるか分からないけど、連絡はしてみる。だめなら店で買えばいいから」
明日は色々と寄る所があるので、早々に就寝。
翌朝、早めに宿を出た。
「朝からこの人出…」
ひしめき合いながら、みんなが城下町に入ろうとしている。
少しづつ進んでいるものの、いつ入れるのか…
ここは北側の城門。
泊まった宿から一番近い。
「西か東の門の方が良かったんじゃない?」
「いや。変わらないよ」
西か東の門に行くも時間がかかるのと、城下町の中が混んでるので、あまり変わらないとウィルは話す。
「っていうか。竜に乗ったままでいいの?」
そう、私達は竜に乗ったまま。
城下町に詳しいウィルが乗ってるミャンの竜が先頭を歩く。
「視線が痛いけど…」
なんで竜がいるのか、みたいな鬱陶しげな視線。
ヴァネッサが慎重に竜を進める。
竜の手には手袋をしてあるから、怪我をさせる事はないと思うけど、鱗にうっかり触ったりしたら指先が切れてしまうかも。
足の爪はむき出しだからこっちも心配。
謝りつつ、注意するよう声をかけていく。
門までもうすぐ。
「止まってください!」
門のそばにいる兵士が声をかけつつ近づいてくる。
「あたしらかい?」
「そうです。どこの所属ですか?証明するものはありますか?」
「また、それ…」
「あはは…」
いつもどおり説明して書状を見せる。
「これは失礼しました」
いつもどおり態度が変わり敬礼される。
「すぐに道を開けます。先に竜を通すぞ」
「はい」
部下にそう言って、私達を先導する。
「そこ!道をあけろ!先に竜が通る!」
「何だよ…ったく」
「早く行けよ…」
兵士の言葉に愚痴をこぼしている人がいる。
「入場料は?」
「結構です。行ってください」
「そうですか…」
城下町に入るには一人10ルグ必要。
領主だからなのか分からないけど、いらないというなら、ありがたくそうさせてもらう。
城下町の中も人でいっぱい。
その中をゆっくりと進んでいく。
建物が大きい。ほとんどが四、五階の建物だ。
ちょっと思い出してきた。
王都の中央には城、宮殿がある。
少し高台にあるのでここ、外門からでも見える。
「久々だね…」
ヴァネッサは感慨深げだ。
ミャンは興味深げに周りをキョロキョロと見てる。
「ミャン。向こうに行ってくれ」
「はいは~い」
ウィルがマリーダさんがいるお店の方向を指し示す。
ギルドが先じゃないのは、朝は混んでるからとウィルは言っていた。
目的のお店は城下町の北西部。
そこまでの道は入り組んでいた。
「迷っちゃいそう」
「迷路じゃん」
こんな作りになっているのは、敵に攻め込まれてもすんなり城に行かせないようしてあるからと、ヴァネッサは教えれくれた。
「王都まで攻め込まれたら、もう終わりだろうけどね。城が落ちるのは時間の問題さ」
「ヴァネッサ、君がそういう事言ったらだめなんじゃないの?」
ウィルの言葉にヴァネッサは、
「構わないって、常識を言ったまでだよ」
そうこうしてるうちにお店に到着。
お店の邪魔にならいよう竜を脇に止める。
お店の看板には布屋フィーゴと書いてある。
近所には似たような店がいっぱいあった。
フィーゴさんのお店の中には誰もいない様子。だけど、ウィルはドアをノックして入っていく。
「おはようございまーす!フィーゴさん?マリ姉いる?」
「まだ開店まえじゃないの?」
「いつもは、これくらい時間にはもういるんだ」
まあ、ドアが開いてるという事はいるんだろう。
「やあ。いらっしゃい…おお、ウィルじゃないか!久しぶりだな」
そう言って店の奥から出てきた、ふくよかなおじさん。
鼻の下に髭をはやしている。
二人は握手して、おじさんはウィルの肩を叩く。
「お久しぶりです」
「元気してたか?今日は仕入れかい?…」
そう言いつつ店の入口付近に立つ私を見る。
「後ろのはお前の友達か?」
「ええ…まあ。あの、マリーダ姉さんいますか?」
「マリーダは今朝早くに出かけたよ」
「ええ…入れ違いになっちゃたか…」
ウィルは残念そう。
「どれくらいで戻ります?」
「そうだなあ、四日はかかるね」
「そうですか…」
ウィルはしばらく会っていないから会いたかったと話す。
おじさんはウィルとの会話中、こちらをチラチラ見る。
私達が気になるみたい。
「すまないな…」
「いえいえ。いいんです」
「言伝なら預かるよ」
「それじゃ、僕が来たって事を」
「分かった。伝えておこう」
おじさんは笑顔で大きい頷く。
「ところで…」
「はい?」
「お前さんの友達なんだが…。その、お前さんにしちゃ珍しい人達だな…」
「ああ…うん…」
ここでヴァネッサが二人のそばに行き、事情を説明する。
説明を聞いてるおじさんの顔が驚きの表情に変わっていく。
事情を必ずしも説明する必要ない。けど、遅かれ早かれ伝わるものだから。
隠さなきゃいけないものでないし。
「シュナイダー様の後を引き継ぐとは…。王国からの知らせは聞いたが、お前さんだったとはな。マリーダは絶対に違うと言っていたよ」
掲示板にはウィル・イシュタルが引き継ぐとしっかり書いてあったらしい。
「断る事もできたんだけど、色々と考えて引き受けたんだ」
そう言って私を見る。
私はウィルの視線に耐える事ができなくて、目を伏せた。
「口外しないでもらえると助かります」
「ああ。分かっているよ」
「ありがとうございます」
「マリーダには、私の方からでいいかな?」
「はい、お願いします」
「ヨハンさんには教えたのかい?」
「まだです。手紙を出すつもりなんですが…どう書いていいやら」
まだ出していなかったんだ。もうとっくに送ったものだと。
「早めに送らないと、怒るかもしれないぞ」
「はい…」
「お前さんが決めた事なら、何も言わないが…大変な事だぞ」
そう言ってウィルの肩を掴む。
「分かっています」
そう大変な事…。
そんな大変な事を彼に私は…。
「私が、私達が彼を支えます」
「リアン…」
思わず口に出してしまった。
「そうそう」
「そうだね。ウィルは独りじゃないんで」
「なるほど。そうか、仲間がいるのだね?」
「はいっ」
ウィルは自信を持つように頷く。
私も仲間の内に入ってるのか、この時はあまり自信がなかった。
「じゃあ、紹介してくれないか?」
私達はそれぞれ自己紹介した。
「竜騎士か…。そこの窓から覗いてる竜が君のかい?」
「ああ、そうだよ」
「もう一頭いて、それに僕が乗って来たんだ。操作したのはミャンだけど」
「え?いや~ははは。今日は驚いてばかりだなぁ」
フィーゴさんは大笑いする。
「ここにあるのは、全部売り物なんですか?」
「そうですよ」
店の棚、台には所狭しと商品が並んでいる。
色とりどりの糸、布、それからボタンとか。虹のようでとても綺麗。
麻、綿、絹と素材別に分けられている。
単色だけじゃなく、模様が編み込まれた物。細かな刺繍が入った物など様々。
「高そう…」
「気に入ったのがあれば、差し上げよう」
「え?差し上げるって…」
「ハンカチくらいの大きさなら、ただで構いませんよ」
「ホント!?」
ミャンが迷う事なく一枚の布生地を手に取る。
「これ!」
猫柄だった。
「あんたに言ってないでしょ…」
「いやいや、構わないよ」
フィーゴさんは鋏を取り出し、猫柄の布生地をほぼ正方形に綺麗に切り出す。
「やったね」
ミャンはすっごく喜んでる。
「ナシルさんはどれにしますか?」
「どれって…」
「リアン、どれでもいいってさ」
迷ってるのは生地ではなく、貰っていいのかという事なんだけど…。
安易に貰うのは失礼じゃないかと思ったが、ミャンは貰ってしまった。
「ヴァネッサは?」
「あたしはいいよ」
「そう…それじゃ…これを」
小さな花柄がいっぱいの生地した。
フィーゴさんが切り出し、私にくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「良かったね」
「うん…でも、いいんですか?」
初対面なのに。
「ウィルの友人なら構わないさ」
ウィルの…そっか、私じゃなくウィルが間にいるんだ。
「城下町で商売できてるって事は儲かってるんでしょ?プレゼントできるくらいに」
「まあね」
「フィーゴさんは城下町以外も店を持ってるんだ」
ここだけじゃないんだ。
工場も持っていて、お城の使用人たちの服も作ってる。
「すごいね…」
「そっち売上は大した事ないんだよ。わたしの所だけでやってるわけじゃないなくて、共同なんだ」
そうは言うけど、笑顔を絶やさない。
「城と取引してると信用度が違うからね」
「なるほど。箔がつくと」
フィーゴさんは笑顔で頷く。
「商売上手だね」
「父から受け継いだだけだよ。わたしは何もしてないさ」
多分、儲かってるんだ。そうじゃなかったら、あんな余裕のある笑顔にはならない。
「そうだ、忘れてた。フィーゴさん」
「なんだい?」
「マリ姉とアスカ宛の手紙を預かってるんだ。申し訳ないんですけど、渡してくれませんか?」
「構わないよ」
フィーゴさんはウィルが手紙を受け取る。
「お前じゃないんだな」
「僕のじゃないです。シュナイツに二人に世話になった人がいて、その人からです」
これはエレナの事。
「ほう」
「差出人を見れば、わかるはずです」
「分かった。渡しておくよ。アスカは最近、来ないが…来た時でいいか?いつになるか、わからないぞ」
「はい、来た時でいいです」
アスカはあまり自宅には帰らないらしい。
「お前からも手紙を出しなさい。事情は話すが、お前本人が言うべきものだからな」
「はい、わかりました」
「どうも、フィーゴさん!」
入口から声が聞こえた。
商人だろうか、大きな荷物を抱えてる。
「みんな、もう行こう」
ウィルはそう私達に言って、さっきに商人を招き入れた。
「どうぞ、入って来てください」
「いいのかい?商談中なら外で待つよ」
「終わりましたから。フィーゴさん、それじゃ。マリ姉によろしく」
「ああ、元気でな。頑張るんだぞ」
「はい」
私達もフィーゴさんに挨拶して、お店を後にした。
次はギルドへ行く。
Copyright(C)2020-橘 シン




