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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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72/102

6-2


 今日の目的地である町に夕方到着。

 通り、店先に人が入り交じる。

「確かに人がちょっと多いかも…」

 ウィルがそう呟く。

「ここでこれなら、王都はもっとってことよね?」

「うん…とりあえず、宿を取ろう」

「まだ、早くない?」

 ミャンが先に夕食がいいと、言い出す。

「宿が取れなかったらどうすんの?」

「さすがにダイジョブでしょ?」

「宿が取れなくて、納屋借りるとか嫌だよ。田舎じゃあるまいし、王都近辺でそれはカッコ悪いって」

「僕も先に宿を確保した方がいいと思う。夕食はなくなったりしないから」

「はいぃ…」

 という事で、宿を探して確保した。


「やっぱり二人部屋を四人でつかうんだね…」

「仕方無いでしょ。護衛上さ」

 ウィルは不服だ。

 男性一人に女性三人。どの宿でも変に見られる。


 今回の部屋はいい感じ。

 表通りに面していて、日当たりもいい。その分ちょっと高いけど。

 悪い部屋?ああ、そうね…日当たり悪くて、なんかジメジメしてる部屋の時があったわ。


 ヴァネッサが買ってきた夕食を食べながら明日の予定を話し合う。


「やっとここまで来たね…」

 ヴァネッサは大きく息を吐く。

 彼女には感謝しきれないほどの、感謝しかない。あ、ミャンもね。

 ウィルと私の護衛という任務を果たしたのだから。


「来たのいいけど、こんなに混んでるとは…城下町に入るだけでも、かなり時間かかるよ」

 ウィルは自分の手帳(王都周辺が書かれた地図のページ)を見ながら話す。

「後は城まで行くだけだから、多少かかってもいいんじゃない?」

「…実は行きたい所があるんだけど…」

 ウィルはヴァネッサを顔色を伺う。

「え?…」

 

 ウィルは、ギルドとマリーダさんが働いている店に行きたいと言う。


「マリーダって人は、しばらく会っていないからってのはわかるけど、ギルド行って何すんの?」

「ギルドにはお金を預けてあるんだ。それを取りに行きたい」

「ああ…」

「それと、薬草師の友人に連絡を取りたい」

「ああ…薬ね」

 そう薬。フリッツ先生から薬を頼まれていた。

 薬だけならウィルの友達でなくもいいんだけど、ウィルが言うには彼が一番、薬や薬草に詳しいらしい。それに友達という事で少し安くしてもらえるかもしれないと。


「居場所はお互いに分からないのよね?どうやって連絡し合うの?」

「伝言板があるんだ。それを使う」

「へえ。伝言板」

「伝言板を使ったからって、確実に会えるわけじゃないんでしょ?」

「うん…。時期的にいるんじゃないかと思うんだ。明日、会えなくても、二、三日待てば…」

 ウィルの話にヴァネッサは難色を示す。

「長居はしたくないんだけど…」

 謁見が済んだら、すぐに帰りたいとヴァネッサは話す。

「早ければ明日すぐに謁見のはずだから、その翌日、遅くても翌々日には帰りたい」

「別にさぁ、急いで帰る必要なくない?」

「ヴァネッサはシュナイツが心配なのよね?」

 ガルドとレスターなら大丈夫だろうとは思う。

「そうじゃないって、早く帰らないと、みんな心配するからさ…」

「うん…」

 心配させる原因は私にある。

 私が行きたいと無理を言わなければ、心配の度合いは違っていたかも。

 シュナイツに残っていたら、私がウィルの事を心配しすぎて…居ても立っても居られないんじゃないかと思う。

「会えるか分からないけど、連絡はしてみる。だめなら店で買えばいいから」


 明日は色々と寄る所があるので、早々に就寝。 

 翌朝、早めに宿を出た。


「朝からこの人出…」

 ひしめき合いながら、みんなが城下町に入ろうとしている。

 少しづつ進んでいるものの、いつ入れるのか… 


 ここは北側の城門。

 泊まった宿から一番近い。


「西か東の門の方が良かったんじゃない?」

「いや。変わらないよ」

 西か東の門に行くも時間がかかるのと、城下町の中が混んでるので、あまり変わらないとウィルは話す。


「っていうか。竜に乗ったままでいいの?」

 そう、私達は竜に乗ったまま。

 城下町に詳しいウィルが乗ってるミャンの竜が先頭を歩く。

「視線が痛いけど…」

 なんで竜がいるのか、みたいな鬱陶しげな視線。


 ヴァネッサが慎重に竜を進める。

 竜の手には手袋をしてあるから、怪我をさせる事はないと思うけど、鱗にうっかり触ったりしたら指先が切れてしまうかも。

 足の爪はむき出しだからこっちも心配。

 謝りつつ、注意するよう声をかけていく。


 門までもうすぐ。

「止まってください!」

 門のそばにいる兵士が声をかけつつ近づいてくる。

「あたしらかい?」

「そうです。どこの所属ですか?証明するものはありますか?」

「また、それ…」

「あはは…」

 いつもどおり説明して書状を見せる。


「これは失礼しました」

 いつもどおり態度が変わり敬礼される。

「すぐに道を開けます。先に竜を通すぞ」

「はい」

 部下にそう言って、私達を先導する。


「そこ!道をあけろ!先に竜が通る!」

「何だよ…ったく」

「早く行けよ…」

 兵士の言葉に愚痴をこぼしている人がいる。


「入場料は?」

「結構です。行ってください」

「そうですか…」

 城下町に入るには一人10ルグ必要。

 領主だからなのか分からないけど、いらないというなら、ありがたくそうさせてもらう。


 城下町の中も人でいっぱい。

 その中をゆっくりと進んでいく。


 建物が大きい。ほとんどが四、五階の建物だ。

 ちょっと思い出してきた。


 王都の中央には城、宮殿がある。

 少し高台にあるのでここ、外門からでも見える。 


「久々だね…」

 ヴァネッサは感慨深げだ。

 ミャンは興味深げに周りをキョロキョロと見てる。

「ミャン。向こうに行ってくれ」

「はいは~い」

 ウィルがマリーダさんがいるお店の方向を指し示す。


 ギルドが先じゃないのは、朝は混んでるからとウィルは言っていた。


 目的のお店は城下町の北西部。

 そこまでの道は入り組んでいた。

「迷っちゃいそう」

「迷路じゃん」

 こんな作りになっているのは、敵に攻め込まれてもすんなり城に行かせないようしてあるからと、ヴァネッサは教えれくれた。

「王都まで攻め込まれたら、もう終わりだろうけどね。城が落ちるのは時間の問題さ」

「ヴァネッサ、君がそういう事言ったらだめなんじゃないの?」

 ウィルの言葉にヴァネッサは、

「構わないって、常識を言ったまでだよ」

 

 そうこうしてるうちにお店に到着。

 お店の邪魔にならいよう竜を脇に止める。


 お店の看板には布屋フィーゴと書いてある。

 近所には似たような店がいっぱいあった。

 

 フィーゴさんのお店の中には誰もいない様子。だけど、ウィルはドアをノックして入っていく。

「おはようございまーす!フィーゴさん?マリ姉いる?」

「まだ開店まえじゃないの?」

「いつもは、これくらい時間にはもういるんだ」

 まあ、ドアが開いてるという事はいるんだろう。


「やあ。いらっしゃい…おお、ウィルじゃないか!久しぶりだな」

 そう言って店の奥から出てきた、ふくよかなおじさん。

 鼻の下に髭をはやしている。

 二人は握手して、おじさんはウィルの肩を叩く。

「お久しぶりです」

「元気してたか?今日は仕入れかい?…」

 そう言いつつ店の入口付近に立つ私を見る。

「後ろのはお前の友達か?」

「ええ…まあ。あの、マリーダ姉さんいますか?」

「マリーダは今朝早くに出かけたよ」

「ええ…入れ違いになっちゃたか…」

 ウィルは残念そう。

「どれくらいで戻ります?」

「そうだなあ、四日はかかるね」

「そうですか…」

 ウィルはしばらく会っていないから会いたかったと話す。


 おじさんはウィルとの会話中、こちらをチラチラ見る。

 私達が気になるみたい。


「すまないな…」

「いえいえ。いいんです」

「言伝なら預かるよ」

「それじゃ、僕が来たって事を」

「分かった。伝えておこう」

 おじさんは笑顔で大きい頷く。

「ところで…」

「はい?」

「お前さんの友達なんだが…。その、お前さんにしちゃ珍しい人達だな…」

「ああ…うん…」

 ここでヴァネッサが二人のそばに行き、事情を説明する。

 説明を聞いてるおじさんの顔が驚きの表情に変わっていく。

 事情を必ずしも説明する必要ない。けど、遅かれ早かれ伝わるものだから。

 隠さなきゃいけないものでないし。


「シュナイダー様の後を引き継ぐとは…。王国からの知らせは聞いたが、お前さんだったとはな。マリーダは絶対に違うと言っていたよ」

 掲示板にはウィル・イシュタルが引き継ぐとしっかり書いてあったらしい。

「断る事もできたんだけど、色々と考えて引き受けたんだ」

 そう言って私を見る。

 私はウィルの視線に耐える事ができなくて、目を伏せた。


「口外しないでもらえると助かります」

「ああ。分かっているよ」

「ありがとうございます」

「マリーダには、私の方からでいいかな?」

「はい、お願いします」

「ヨハンさんには教えたのかい?」

「まだです。手紙を出すつもりなんですが…どう書いていいやら」

 まだ出していなかったんだ。もうとっくに送ったものだと。

「早めに送らないと、怒るかもしれないぞ」

「はい…」 

 

「お前さんが決めた事なら、何も言わないが…大変な事だぞ」

 そう言ってウィルの肩を掴む。

「分かっています」

 そう大変な事…。

 そんな大変な事を彼に私は…。

「私が、私達が彼を支えます」

「リアン…」

 思わず口に出してしまった。

「そうそう」

「そうだね。ウィルは独りじゃないんで」

「なるほど。そうか、仲間がいるのだね?」

「はいっ」

 ウィルは自信を持つように頷く。

 私も仲間の内に入ってるのか、この時はあまり自信がなかった。


「じゃあ、紹介してくれないか?」

 私達はそれぞれ自己紹介した。


「竜騎士か…。そこの窓から覗いてる竜が君のかい?」

「ああ、そうだよ」

「もう一頭いて、それに僕が乗って来たんだ。操作したのはミャンだけど」

「え?いや~ははは。今日は驚いてばかりだなぁ」

 フィーゴさんは大笑いする。


「ここにあるのは、全部売り物なんですか?」

「そうですよ」

 店の棚、台には所狭しと商品が並んでいる。

 色とりどりの糸、布、それからボタンとか。虹のようでとても綺麗。

 麻、綿、絹と素材別に分けられている。


 単色だけじゃなく、模様が編み込まれた物。細かな刺繍が入った物など様々。

「高そう…」

「気に入ったのがあれば、差し上げよう」

「え?差し上げるって…」

「ハンカチくらいの大きさなら、ただで構いませんよ」

「ホント!?」

 ミャンが迷う事なく一枚の布生地を手に取る。

「これ!」

 猫柄だった。

「あんたに言ってないでしょ…」

「いやいや、構わないよ」

 フィーゴさんは鋏を取り出し、猫柄の布生地をほぼ正方形に綺麗に切り出す。

「やったね」

 ミャンはすっごく喜んでる。

「ナシルさんはどれにしますか?」

「どれって…」

「リアン、どれでもいいってさ」

 迷ってるのは生地ではなく、貰っていいのかという事なんだけど…。

 安易に貰うのは失礼じゃないかと思ったが、ミャンは貰ってしまった。

「ヴァネッサは?」

「あたしはいいよ」

「そう…それじゃ…これを」

 小さな花柄がいっぱいの生地した。

 フィーゴさんが切り出し、私にくれる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「良かったね」

「うん…でも、いいんですか?」

 初対面なのに。

「ウィルの友人なら構わないさ」

 ウィルの…そっか、私じゃなくウィルが間にいるんだ。


「城下町で商売できてるって事は儲かってるんでしょ?プレゼントできるくらいに」

「まあね」

「フィーゴさんは城下町以外も店を持ってるんだ」

 ここだけじゃないんだ。

 工場こうばも持っていて、お城の使用人たちの服も作ってる。

「すごいね…」

「そっち売上は大した事ないんだよ。わたしの所だけでやってるわけじゃないなくて、共同なんだ」 

 そうは言うけど、笑顔を絶やさない。

「城と取引してると信用度が違うからね」

「なるほど。箔がつくと」

 フィーゴさんは笑顔で頷く。

「商売上手だね」

「父から受け継いだだけだよ。わたしは何もしてないさ」

 多分、儲かってるんだ。そうじゃなかったら、あんな余裕のある笑顔にはならない。


「そうだ、忘れてた。フィーゴさん」

「なんだい?」

「マリ姉とアスカ宛の手紙を預かってるんだ。申し訳ないんですけど、渡してくれませんか?」

「構わないよ」

 フィーゴさんはウィルが手紙を受け取る。

「お前じゃないんだな」

「僕のじゃないです。シュナイツに二人に世話になった人がいて、その人からです」

 これはエレナの事。

「ほう」

「差出人を見れば、わかるはずです」

「分かった。渡しておくよ。アスカは最近、来ないが…来た時でいいか?いつになるか、わからないぞ」

「はい、来た時でいいです」

 アスカはあまり自宅には帰らないらしい。


「お前からも手紙を出しなさい。事情は話すが、お前本人が言うべきものだからな」

「はい、わかりました」


「どうも、フィーゴさん!」

 入口から声が聞こえた。

 商人だろうか、大きな荷物を抱えてる。


「みんな、もう行こう」

 ウィルはそう私達に言って、さっきに商人を招き入れた。

「どうぞ、入って来てください」

「いいのかい?商談中なら外で待つよ」

「終わりましたから。フィーゴさん、それじゃ。マリ姉によろしく」

「ああ、元気でな。頑張るんだぞ」

「はい」

 私達もフィーゴさんに挨拶して、お店を後にした。


 次はギルドへ行く。




Copyright(C)2020-橘 シン

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