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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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68/102

5-16


「…だよ。もう少し…せてあげよう…」

 ウィルか?声が聞こえる。

「クァ…」

 竜の声と体を揺らさせる感覚。

 目を薄く開けると、焚き火の火が見えた。それよりも周りは少し明るい。

 朝か…。

 ゆっくり体を起こす。

「はあ…」

「おはよう」

「あー、おはよう」

 そう言いながら周りを見る。

 ウィルとリアンはもう起きていた。ミャンの姿が見当たらない。

「もう少し寝かせておこうと思ったんだけど…竜が君を起こし始めて…」

「別に構わないよ」

 竜が鼻を擦りつけてきたので、顔を撫でて上げる。

「ミャンは?」

「食べ物を探しに行ったよ」

 あたしが寝てる時は二人のそばにいてほしかったんだけど。

 立ち上がって体を伸ばす。そして屈伸したり、肩を回す。


 リアンが左脚を気にしてる。

「大丈夫かい?」

「え?うん、大丈夫」

 とは言うが…。

 すぐに治るものじゃないからね….。

「ヴァネッサ。リアンの当て布を取り替えないと…」

 そうだった。詰め所の先生から一日一回取り替えるように言われてたんだ。

「あたしがやっておくから、顔洗って、水筒に水入れてきて」

「うん、ありがとう」

「竜と一緒に行くんだよ。何かあったら叫んで」

「ああ」

 ウィルがあたしの竜と一緒に水辺に行く。

 

 リアンの脚の防具を外して包帯を取る。

 古い当て布は取って焚き火の中へ。新しい当て布に黒い薬を少しつけて、傷に当てる。

「ちょっと押さえてて」

「うん」

 そして包帯を巻く。

「ひどくなってない?」

「なってない。爪先がちょっとだけ動くようになったから」

「そう。なら大丈夫だね」

 リアンの表情に不安な様子は見えない。

「これ、毎日あたしがやるの?」

「それはそうでしょ?私ひとりじゃできないんだけど…」

「ウィルにやってもらったら?」

「え?やだ…」

 リアンは脚を閉じる。

「包帯巻き終わってないよ」

「ごめん…」 

 彼女は顔を赤らめている。

「嫌なのは…恥ずかしいから…」

「そう?」

「そうよ。脚広げて…ふともも触られるなんて…」

「昨日の夜、体寄せ合って寝てるのに?」

「あ、あれと、全然状況違うし…」

 そっぽを向いて、頬を掻く。

「チャンスだと思うんだけど」

「チャンスって?」

「さあね。ほら、もういいよ」

「ありがと…」


「ただいま~」

 ミャンと、それにウィルも帰ってきた。

 ミャンが取ってきた木の実と硬いパンで朝食。


「これ美味しい」

 リアンが黒い実を口に放り込む。

「アタシも好き、でもね。ベエ-」

 ミャンが舌を出す。その舌は紫に変色に変色していた。

「え?なにそれ?私もなってる?」

 リアンが舌を出す。

「あはは、なってる」

「ということは、僕も?…」

 ウィルの舌も紫になっていた。

「ヴァネッサは?」

 ミャンの言葉に舌を出す。

「なってる」

「だろうね…」

 あたしは静かに答える。

「どしたの?」

「別に…ちょっと嫌な予感が…」

 言ってから、マズいと気がつく。

「嫌な予感って縁起でもない…」

 だね。

「ヴァネッサの嫌な予感って当たるのよね…」

「え?」

「うわぁ…」

 ミャンがため息を吐く。


「その、嫌な予感ってずっと?」

「出発前からね」

 リアンが矢を受けても、昨日賊を振りきった後も、嫌な予感は消えてなかった。

「気のせいだよ、きっと」

「だといいけど」

「二度あることは…」

「ミャン…」 

 ウィルが頭を抱える。

 三度目は必ずある。森周辺には賊がいるんだ。

 そのつもりで行動すればいい。

「いきなり来るよりは、何かあるって分かってたほうが、まだいいんじゃない?ね?」

 ミャンは不安気な様子もなく笑顔で話す。

「もう何かある前提なんだね…」

 ウィルはため息を吐く。

「ミャンの言う通り、分かっていれば対処のしようはある。どうなってもいいように心構えはしておいて」

 そう言ってあたしは立ち上がった。

「悪いけど、頼むよ」

「あなたのせいじゃないでしょ?」

 そうだけどさ…。

「そうだよ。ヴァネッサのせいじゃない」

 ウィルも立ち上がる。

「おっと、行きますか?」

 ミャンも立ち上がった。

「良い事が続いてるから、ダイジョブだよ。妖精からクルミ貰って、ばあちゃんにも会えた」

 そう言ってニッコリ笑う。

 なんの根拠も説得力もない。が、これがミャン。バカみたいに前向き。

「ヴァネッサの予感がいつまでも当たるとは限らないし」

 リアンもウィルに手を貸してもらいながら立ち上がった。

 全員、お互いに視線を交わす。

「行こう」

 ウィルの言葉に頷く。


 焚き火に水をかけて消す。

 鞄を竜に取り付けて確認っと。

 ミャンは食べ残した黒い実を、大きな葉に乗せて御神木の根本に置いた

「妖精は食べてくれるかしら?」

「食べてくるよ。美味しいもん」

 舌が紫になるけどね。


 リアンを竜に乗せ、あたしも彼女の後ろに乗り込む。


 ウィル、ミャンも乗り込んだ。

 ミャンはもう短槍の鞘を取っている。


 ミャンを先頭にまずは森の中央部へ。

 歩き出した、その時。

 

 気をつけて…。


 声が頭の中に静かに響く。

 思わず竜を止めた。

 なんだ?。

「あんた今、なんか言った」

「え?別に何も。どうしたの?」

「今、声が聞こえてさ…」

「声?」

 ミャンかと思ったが、そうじゃない。ミャンの声とは違うし、ウィルでもない…。


 あたしは後ろをそっと振り返った。

 御神木があるだけ。

 まさか妖精?。

「ヴァネッサ!どうしたのさ?」

「別になんでもないよ」

 なんかちょっと気味悪いって思ったね。

 竜が平静だから敵性じゃないんだろうけど。


 昨日、御神木まで来た道を逆に行く。

 大ジャンプした急斜面へ。そのあたりで休憩。

 今の所、賊の気配はない。


 ここから南東に進路を変える。

 ミャンに任せる事になるが、できるだけ歩きやすい道を行ってもらう。


 出発してからどれくらい経ったか。

 木漏れ日の角度から見て、多分昼頃だと思う。

 食事のため、休憩。

 昨日の夜から代わり映えしない食事。


「さすがに飽きるね。これは…」

 ウィルが苦笑いを浮かべる。

「シュナイツの食事が恋しくなるなんて」

「いつまで続くのこれぇ…」

「いつまでって、大きめの町に着くまでだよ」

 いつ着くか、なんて考えないほうがいい。


 食事を摂りつつ、周囲を見回す。

 単眼鏡を取り出し、南の方へ向いて覗く。

 ここは低地なのか、森の出口はよく見えない。

「まだ、先か…。ミャン、後どれくらいで森を出るの?」

「んー…。もう少しかかる。ここからは真南に行って、丘を一つ越えたらすぐだよ」

 なるほど。


 食事と言えない食事を終え、さらに進む。

 丘を越えると、鬱蒼とした感じが抑えられ、明るくなる。

「ほら、森が途切れてるでしょ?」

「ああ、確かにね」

 単眼鏡で見ると、丘を下りきったあたりで草原へとなってるようだ。

 まだ距離がありそうだけど、目標があるのはやる気につながる。


 丘を下り始めてから、周囲の空気が変わった事に気づく。暑いとか寒いとかじゃなくて。

 竜の歩き重い。慎重になってる。

 やっぱり来たか。賊共め。

「ミャン」

「分かってる」

 少し前を行く彼女は振り向かずに手だけを上げて答える。

 いつも間にか猫耳を出していた。

 

 賊の姿はまだ見えない。

「リアン、フードを被って」

「うん」

「鞍にしっかり掴まってるんだよ」

「うん」

 あたしは少しのけぞって左腰から剣を抜く。


 ミャンが少し振り向いてサインを送ってきた。


 右と後ろに気配あり。


 右と後ろか。

 後ろを伺うが、誰もいない。

 うまい具合に隠れてる。やるじゃないの。

「ヴァネッサ!矢が来る!」

「ちっ」

 右から矢が飛んできた。

 数は多くないが…。

「木に隠れろ!しゃがませるんだよ」

 そう言いつつ、あたしも木を隠れる。後ろの賊はまだ見えない。

 ミャンが短槍で矢を払いつつ、木に隠れようとするが、もたついている。

「ああ、もう」

「ミャン、早く!」

「分かってるけど、言うこと聞かないだもん」

 普段から乗ってないからだよ!。今言ったところでなんも変わらない。

 竜とミャン。両方が慣れてないんだ。

 そんな事に関わらず矢が飛んでくる。

「え?ちょ、ちょっと!そっちじゃないって!」

 突然、ミャンの竜が森の外側へ走り出した。

「馬鹿、何やってんの!」

 

 矢が飛んできた方向に人影が見えて、それがミャンを追って行った。

 あたしも追いかけるため、竜を立ち上がらせる。

「全く、もう…」

 後ろで物音。

「やっと、お出ましか」

 目を向けると、三人が堂々と立っていた。

 手にはナイフ。

 それをこっちに投げてくる。

「その程度で、あたしを殺ろうっての?」

 投げナイフを剣で弾き飛ばしながら、竜を走らせる。 


 後ろとは距離が離れたから、投げナイフは大丈夫。

 早くミャンに追いつかないと…。

「どこまで行った?…」

 竜を走らせる。


 ミャンは森を出てる。出てすぐの所で賊と交戦中。

 あたしも森を出た。

「リアン、大丈かい?」

「うん、大丈夫…ウィル…ウィルは?」

「え?」

 ミャンの後ろにウィルがいない?。

「あそこに…」

 リアン指差す。

 ウィルはミャンを挟んで向こう側だ。

 賊一人と剣を交えてる、が…完全に遊ばれてる。


 ウィルを助けに行こうと思ったが、まずい気がする。

 助けに行ってもたつく可能性が高い。あたしの後ろから追ってきた賊とミャンと交戦中の賊が合流する。

 さすがに、一度に相手にできる数じゃない。

 ウィルとリアンを守りながらはキツイね。


 あたしは竜を降りた。

「ヴァネッサ?」

「リアン。あんたは茂みに隠れて、黙っているんだよ」

「隠れてって、どうやって…」

「大丈夫、竜が連れて行ってくれるから。しっかり掴まってて」

「嫌!、待って。一人にしないで」

 涙声で訴えるリアン。

 あたしだって、一人にしたくない。でも、リアンをここから離しておけば、まだ勝機があるはず。

「すぐに行くから」

 あたしを追ってきた賊が見えはじめた。

「いやだって!」

 リアンはあたしの肩を掴むが、その手を掴んで鞍の方に。そして、しっかり掴ませる。

「深い茂みを見つけて、隠れるんだ。いいね?」

 そう竜に言いつける。

「クア!」

「さあ、行け!」

 鞍を叩いて竜を行かせた。

「やだ!ヴァネッサぁ!…」

 リアンの叫びが遠くなっていく。


 さあ、ここからが本番だ。ミャンの元へ走る。

「ミャン!!」

 あたしの叫びにこちらを向く。その彼女に素早くサインを出した.。

 ミャンは頷いて、竜を降りる。

「ほら、お前もリアンを守って」

 そう竜に言って、鞍を叩く。

「クアア!」

 一叫びして竜がリアンの方へ走り去る。


「何やってんの!」

「ごめん…」

 あたしはミャンと背中合わせにして剣を構える。

「竜が暴れて、ウィルが落ちたというか、降りたというか…」

「怪我は?」

「大丈夫だと思う」 

 ため息を吐いた。


 ウィルは動けてるから、とりあえずは大丈夫そう。


「この賊、やりづらい」

「はあ?」

 言ってる意味が分からない。


 あたしを追ってきた賊が合流。ミャンとあたしを取り囲む。

 少しつづ動いて、あたし達とウィルの間に壁のように立ち並ぶ。


 賊の総数は7。ウィルが賊一人を相手にしてるから…。

「六対二か…」

 ウィルがいなけりゃ問題ないんだけど。

「ヴァネッサ、手が出せないよ」

「分かってるよ…」

 

 賊の余裕っぷりが腹が立つ。

 

 左から三番目に立っている一人が左右に何か指示をしてる。

 あいつがリーダーか?。


 さて、どうするか?…。

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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