5-15
何も知らないウィルがそう思うのは当然かもしれない。
王国の竜騎士隊は一番から九番まである。
番号が若い方が実力が上ってなってる。
明確な差があるかとういうと、そんなにないとあたしは思う。さすがに一番と九番じゃ、差が出るかな。
一番隊は王都の警護の要。
城内にあって、陛下のお膝元。
任せられる重要案件は多い。
やりがいはあるけど、その分、訓練はかなり厳しい。
でも、一番隊入りたいって竜騎士は誰も思ってる。花形だからね。
あたしはずっと一番隊にいた。
特に一番隊を望んだわけじゃない。かと言って、他の隊を望んでもいないんだけど…
その一番隊をライバル視してるのが二番隊。全員じゃないんだけどさ。
一番隊だからって偉そうにしてる奴がちょくちょくいる。
偉くなんかないんだよ。勘違いしてるバカがいるのさ
そんな奴らと二番隊とぶつかる事が多々ある。
二番隊は王都に一番近く、連携訓練なんかで顔を合わす事が多い。
顔を合わすたびに喧嘩になったりね。
当時の二番隊隊長は一番隊をライバル視していた。
これは後で聞いた話で真意は不明だけど、元々はライバルなんて思ってならしい。
嫌がらせと受けたとか…もしかしたら任務と横取りされたか、逆に押し付けられたとか。そんなのが積み重なって、ライバル視するようになったのかもしれない。
「どうでもいいけどさ。ライバル視するのはいいけど、あたし達を編成から外すのだけは許せなかった」
「君が女性だから、手柄を取れられなかったかとか?」
ウィルの言葉にため息を吐く。
「ありえる話だね…」
嫌がらせはよくあった。数え切れないくらい。
平手打ち一発入れて凄むなんてことしてたら少しづつなくなっていった。
作戦会議が終わり各班、闇夜にまぎれて賊の拠点に近い村へ移動する。
目立つ竜は使わない。
昼間は外に出ず、日が沈んでから所定に位置につく。
あたしの班は拠点入口からすぐだ。
「日の出とともに決行だ。いいね?」
声を潜め三人に伝える。
「交代で休みましょう。ずっと起きてたんじゃ疲れたまります」
「ああ。そうだね」
休む時はここを離れる事にした。
レスターとロキを先に行かせたんだけど、すぐに戻ってきた。
「どうしたの?」
「村に一旦戻ってください」
「は?」
レスターによると、また犯行が行われたらしい。
「ちっ、またかよ」
「それで?」
運良く捜査隊が犯行を目撃。賊を尾行、拠点を見つけた。
被害はボヤ程度ですみ、怪我人は出たが死者はいない。
「二つの拠点を同時に制圧するから、もう二日待てと」
「二日で作戦たてれるの?」
「やるんでしょうね。そういう伝令が来ましたから」
雑な物にならなきゃいいけど。
本部の指示じゃ仕方無い。
さすがに今回も無視するわけにはいかない。
「編成は?」
「二番隊中心だそうで…」
「そう…」
うん、まあ、だろうね。あたしが無理言ったから、次は二番隊は順当。
二番隊中心ってことは二番隊以外も入ってるか?。
「ということは決行は明後日の日の出か」
その時まで村での待機する事となる。
待機中、賊に感づかれるんじゃないかと心配したけど、何事もなかった。
村が協力的だったのが大きい。協力金を払ったのもあるけど。
後で聞いた話では、村は賊の拠点があること知っていたが、脅され口をつぐんでいた。人質を取られた事もあったという。
汚い奴らだね、全く
決行日の前日に所定の位置につく。
「やっとか…」
交代して休む予定だったけど、あたしはしなかった。
すごく時間は経つのが遅く感じたね。
「しなかったって、大丈夫だった?」
「まあね…待たされてイライラして興奮してさ」
「一晩中、起きてたと」
反省すべき点だね。ちゃんと冷静でいなきゃいけないのに。
そして、決行時間。
賊の拠点からは声は漏れ聞こえない。
日が上がり明るくなり始める。
「レスター、後ろにサインを」
「はい」
周囲を警戒しつつ、サインを送る。
「んじゃ、ひと暴れするよ」
「ほどほどに頼みますよ。情報聞き出すんですから」
ロキの言葉に頷く。
「分かってるって」
そう言って拳を出す。
三人も拳を出して合わせる。
「ぬかるんじゃないよ」
三人が大きく頷く。
立ち上がり、賊の拠点へ入ってく。
この後の事は詳しく話してない。リアンが聞いてるかもしれないから。
拠点の中、賊どもは就寝中。拍子抜けもいいとこ。
「起きろ!賊ども!」
「なんだぁ…」
「セレスティア王国竜騎士隊だ!」
「竜騎士!?なんで…」
「嘘だろ…」
慌てふためきながら、賊どもは起き出す。
「全員、拘束する!理由は言わなくても分かるね?」
「うるせぇ!なぁにが拘束だ!」
「四人だけだ。やっちまえ!」
奥のほうであれこれ指示してる奴がいる。
「班長、奥にいるアイツ…」
「ああ、リーダーみたいだね」
賊は武器を手に、あたし達の周囲を取り囲む。あたし達はまだ剣を抜いてない.
「抵抗する奴は殺して構わないって指示も出てるんだけど、それでもやるのかい?あんたら」
「殺されるのはどっちかな?」
ニヤつく賊ども。
「死にたくなかったら、武器を捨てて投降しろ!最後の警告だ!」
レスターがそう叫ぶ。
賊どもニヤついたまま。
なるほどね。投降する気はないと。
「止めといたほうがいいぜ」
「後悔は先に立たないって言うしな」
ロキとガルドも念を押す。
「うるせぇ!女連れの四人で何ができるんだよ!」
賊の一人がこっちに早足で向かってくる。
大きく剣を振り上げたところを、一気に間合いをつめて、賊の顔面に拳を叩きこむ。
「ぶごぁ!」
賊は後ろ二回転して、倒れた。
「女だからってなめてんじゃないよ!」
静まり返る拠点。
「なんだ、こいつ…」
「覚えておくんだね」
あたしはゆっくりを剣を引き抜く。
「あたしは、竜騎士一番隊、ヴァネッサ・シェフィールド。さあ、死にたい奴からかかってきな!」
「数はこっちが多い。一気に潰せ!」
賊どもが攻め込んできた。
手応えなさすぎ…。
ちょっと、剣で切られただけで逃げる始末
逃げた所で、周りは竜騎士隊で固めてあるから捕まるだけ。
「班長、これくらいで」
「だね。じゃあ外に」
「了解」
外に誘うように動き、賊を拠点から誘い出す。
出た所を竜騎士隊で拘束。
「ここのリーダーはあんただね?」
「知るか」
「ああそう」
後ろ手に拘束されたまま、賊の腹を一回蹴り上げる。
「ぐぁ…くそぉ…」
「他の仲間の居場所を教えな」
「言うかよ、バカが!」
「ガルド、右膝から下、いらないってさ」
「ほう…」
ガルドが右膝を上から踏みしめ、膝関節を逆に曲げるように足首を掴み持ち上げる。
「おい…やめろって…」
「いらねえんだろ?」
「ぐあああ!!」
叫び声があたりに響く。
他の賊にもこれを見せていた。
関節が軋む音が聞こえる。
「分かった、教える!教えるからぁ!やめてくれ!」
ガルドがやめると、泣き始めた。
「最っ初から言えばいいんだよ!」
平手打ちを一発。
「許してくれぇ…」
「さっさといいな」
涙声で話しはじめる。
「こうなりたくなかったら、素直に教えるんだね」
その場の賊全員がしゃべりだす。
聞き出した拠点を一気に制圧。
それで一連の事件は解決。賊は収容所送りに。
捜査本部での報告も終了し、やっと帰ることとなる。
「おい」
二番隊隊長に呼び止められた。
「なんです…」
「…」
何も言わずに右手だけを差し出す。
「だから、なんですか?」
「騎士長から遺恨がないようにしろと」
遺恨ね。
要するに仲直りしろと。面倒くさいねぇ…。
隊長の右手を握る。
「拠点制圧、ご苦労」
「そりゃどうも。そっちのほうが規模が大きかったそうで。よかったですねー、目立つ事ができ、てっ!」
強く握りしめる。
「くっ。.ああ、良い土産話できそう、だっ!」
向こうも握り返しきた。
「報告書にはお前の班は記載してないから報奨はなしだぞ…」
え?。
「お前がいらないといったからな。竜騎士に二言なし、だぞ」
そう言ってニヤリと笑う。
「…」
やられた…。
また、ここでふざけんなってやったら、遺恨が残るよね。
隊長は思いっきり手を振りほどき去っていった。
「やっと終了か…」
「報奨金はどれくらい出ますかね?」
「さあな」
ロキは付き合ってる彼女にプレゼントを、お袋さんに何か美味しい物をっと言ってる。
「あのさ…」
「なんです?」
「あたしらは報奨金は出ないから…」
「え?…どうして、どうしてです?賊の拠点潰して、報奨金なしはないでしょう?」
困惑した表情で訴える。
あたしはそうなった事情を話した。
「…なんてことを、言っちゃってね…」
「なんで、そんな事言っちゃったんですか?もう…ていうか、俺関係ないのに…」
「俺は止めたんだけどな」
「悪かったって…」
一応、謝っておく。
「がめついんだよ、お前は」
レスターはロキに呆れている。
ロキは盛大にため息を吐いた。
そんな話がシュナイダー様にも伝わる。
夕食に美味いものを食べさせてやる、と言ってきた。
隊長(一番隊)への報告と小言(二番隊隊長との事)をもらった後、シュナイダー様の仕事部屋に行く。
「来たか。さあ、入れ」
「失礼します」
あたしは敬礼もせずに入る。三人はきっちりしてた。
「思う存分、食べろ」
シュナイダー様がわざわざ厨房に頼んで作ってもらったらしい。で、部屋まで運ばせた。
「おお…。いいんですか?」
普段、食堂では出ない料理ばかり。
「いただきます!」
「がっつくなよ…」
ロキとレスターが食べ始める。
「どうした?ガルド。食べて構わんぞ」
「すみません。わざわざ…」
ガルドはシュナイダー様の前で緊張して、料理に手を付けない。
あたしはもう食べてる。
「お前が一番食べないといかん。その恵まれた体格が泣くぞ」
テーブルのしたで、ガルドの足を軽く蹴った。
あたしを一瞬見たあと、食べ始める。
その様子にシュナイダー様は満足そうだ。
「コイツも開けよう」
シュナイダー様が取り出したのは、ワインのボトル。
「え…。あの、班長?…」
「いいんじゃない?」
シュナイダー様が開けるって言ってんだからさ。
「ありがとうございます!」
ロキとレスターはグラスになみなみと。
あたしは半分くらい。いやもっと少ないかな。嫌いじゃないんだよ。
ガルドは飲めないから。シュナイダーにお酌してる。
「報告書は読ませてもらった。良い気付きだ」
「そりゃどうも」
シュナイダー様があたしらから任務について聞かれることがよくある。
本人は現役を退いているから、任務に出ることはもうない。
任務の話を聞いて昔の事を思い出してるんだと思う。
その上で助言をくれる事もある。
「真面目な奴だな。二番隊に任せておけばいいものを。賊の拠点なんぞいくらでもあるだろう?」
「真面目じゃなくて、見つけたのあたしらだし。なのに外して…だから、ふざけんなって、言ってやったんですよ」
「そのせいで報奨金が…もう」
「まだ、言ってんのかよ。お前は…」
「はいはい…」
「はははは!」
シュナイダー様が大声で笑う。
「まあ、こんな事が合ってね。一晩待つくらいなら、苦じゃないよ。訓練でもっとキツイのがあってさ。ナイフと火打ち石だけ、一週間すごせっていうだよ、山の中で。ありえないでしょ?」
と、ウィルを見ると、彼はいつも間にか寝ていた。ミャンも。
あたしは交代の時間まで焚き火を見つめながら過ごす。
嫌な予感は、まだ消えてなかった…。
Copyright(C)2020-橘 シン




