5-14
「よくやるね…」
ウィルが呆れ顔だ。
「それでどうだった?」
「確かに賊は来てた」
あたしらは後をつけたんだ。
捕まて口を割らせようかとしたが、まずは拠点の位置を把握することにした。
一日中追ってた…。
さすが疲れてきた。集中力がもたない。
一日中歩く賊も、中々のスタミナ。そこだけは褒めてもいい。
「そろそろ戻らないと…本部からの伝令、来てますよ」
「分かってる」
処罰もんだよ。警備じゃなくて尾行してるんだからさ。
ここで引いたら、負けだ。
何がなんでも…賊の足が止まった。
周囲を見て警戒してる。
「やっとですか…ん!」
レスターの口を塞ぐ。こんな所でバレたら水の泡だ。
賊が茂みの中へと入っていった。
レスターの口から手を外す。
「ここは…本部がある駐屯地とさほど離れてません」
「灯台下暗しってかい?やってくれるね…」
「…向こうへ回るよ」
賊が入っていった所じゃなくて、左側の方が茂みが薄い。中へ入れるかも。
「ここでいいでしょう?」
「ちゃんと確かめないと」
「はあ…」
レスターはため息を吐くものの、ついてくる。
少しづつ茂みに分け入っていく。
話し声が聞こえ始めた。
レスターがあたしの肩を掴む。
もう行くなって?しょうがない…。
茂みでよく見えないが、それなりの人数がいる。
笑い声が聞こえた。
随分、余裕だね。酒盛りでもしてんのか…。
そう思うと無性に腹が立ってきた。
思わずショートソードに掴んで、身を乗り出す。。
「班長…落ち着いて」
レスターに肩を強く捕まれ、小声で話しかけられた。
「ここで間違いようです。一度戻って本部に報告しましょう。ここで突っ込んでも、どうやったって勝てない」
分かってる…分かってるけど。
「奴らは気づいていません。竜騎士隊でかかれば一網打尽。余裕で潰せます」
「…そうだね。悪かったよ…早まるとこだった」
「いいえ。気持ちはわかります…行きましょう」
賊の拠点を後にした。
急いで村へと帰る。竜も忘れずにね。
「はあああ、疲れた…」
「もうだめだって…水、頂戴」
借家へ入るなり、床に倒れ込む。帰ってきたのは夕方?だと思う。
「ありがと」
「で、どうでした?」
「見つけたよ…」
「マジすか」
「間違いないぜ」
「やりましたね」
ロキ、ガルドと拳を合わせた。
「本部からの伝令は?」
「来ましたよ。二人は巡回中だって言っておきました」
「そう…少し寝たら本部に行く」
水と食事をかきこんで横になる。
「一日休んでも…」
「早いほうがいい」
「俺たちが行きましょうか?」
「見つけたあたし達が行かないと信じてもらえないでしょ。いいから、寝かせて…」
あたしは眠りに落ちた。
深夜に起きて本部へ出発する。
「レスター、起きなよ」
「班長…無理…です」
「情けないねぇ、全く」
正直を言えば、あたしもまだ寝ていたい。
「俺が行きます」
ガルドはもう鎧を着込んでいた。
「頼むぜ…」
「じゃあ、行くよ」
「了解」
ガルドとともに捜査本部へと急ぐ。
本部へは半日かかる。
体がふらついて、竜の上でバランスが取れない。
「やば…」
左側へ体が倒れて行く…。
「班長!」
ガルドに右腕をガッチリと摑まれた。
「大丈夫ですか?」
「ああ…大丈夫。ありがと、助かった」
「少し速度を落としましょう」
あたしは頷く。
速度を落とし、何度か休憩を挟さむ。
そして本部に到着。
「騎士長!」
捜査に指揮と取ってるのは竜騎士長。
竜騎士長は全竜騎士を束ねている。
補佐に二番隊、三番隊の隊長二名。他に小、中隊長が数十名。
「ヴァネッサか、どうした?」
「はい」
姿勢を正し敬礼する。
「賊の拠点を発見しました」
「発見って、お前の班は警備だろうが?何やってんだ」
二番隊の隊長があたしを咎める。
「ヴァネッサ班長は…ある不審に気づいて…」
ガルドが割って入る。
「不審だと?なぜ報告しなかった?」
「待て。とりあえず話を聞こう」
「しかし…」
騎士長が二番隊隊長の言葉を切る。
「不審とは?」
あたしは経緯を地図を指しながら説明した。
部屋の中が騒がしくなる。
「馬鹿な、こんなに近くなわけないだろ」
「間違いありません。この目で見てるんです」
「うーむ…」
騎士長は腕を組み唸る。
「なくはないと思うが…お前も見たのか?」
「自分は見てません。見つけたはヴァネッサ班長とレスターです。レスターは疲労で寝てますが、本人も間違いないと」
ガルドが答える。
「斥候を出せ」
「騎士長、信じるのですか?」
「報告が上がった以上、確かめなければならない」
騎士長は腕を組んで、二番隊隊長を見る。
「他に有益な情報があるのならば、そちらを優先するが?」
「いえ…ありません…」
「ならば、早くしろっ」
騎士長は強く命令する。
「斥候はできるだけ手練れを。賊はかなり神経を使ってます。こちらも…」
「そんな事は言われなくても、分かっている!」
二番隊隊長はそう言ってあたしを睨むと出ていった。
「悪いなぁ。当っちまって」
三番隊隊長があたしにそう言う。
「いえ、別に」
こういうって一度や二度じゃない。
捜査が進まずイラついてるのは、あたし達も一緒だし。
「ヴァネッサ、無理をしたな?」
「いえ、それほど…」
騎士長は笑顔で気さくに話しかけてくる。
騎士長はシュナイダーの元部下。
戦争時は新人で前線には出たことはない。
シュナイダー様の雑用をしていた、と本人は話す。
だけど、そこは竜騎士。
何度が剣を交えた事があるけど、一振一振が重くて驚いたのを覚えている。
「目の下に隈できてるぞ」
そう言って笑う。
「え?…。できてるかい?」
「できてますね」
ガルドも頷く。
「にしてもよく気がついたな」
「偶然です」
それは確か。
「うむ。監視されていたとはな。賊にしては手が込んでる」
「こちらも対応しませんと」
三番隊隊長の言葉に頷く。
「ああ、そうだな。ここはあえて派手に動こう」
「陽動ですね」
「うむ。捜査隊とは別に竜騎士隊を多目に巡回させろ。捜査隊は民衆にまぎれて捜査を続行せよ。慎重にな。どんな小さな事でもいい、報告しろ」
「了解」
三番隊隊長が敬礼し、部下に指示を出した。
「ヴァネッサ、お前は休め」
「大丈夫です」
「そう言うな。誰か仮眠室へ案内してやれ。それから食事もな」
部下にそう指示する。
「あの…」
「これは命令だ」
「はい…」
敬礼して仮眠室へ行った。
ガルドは自分は大丈夫だからと雑用を申し出る。
「斥候が帰って来たら、すぐに起こして」
「はい」
ガルドにそう告げる。
軽い食事の後、ベッドに横になる。
「リアン?」
「うん…」
ウィルが、眠たそうにしているリアンに話しかける。
「僕に寄りかかっていいよ」
「でも…」
「その方が楽だよ。僕は大丈夫だから」
「うん…ありがとう…」
リアンはウィルに寄りかかって、頭も彼の肩に預ける。
リアンには面白くない話だったか…いや、疲れただけか。
「話やめる?」
「いや、最後まで聞かせてよ」
「アタシも聞きたいにゃ」
「あんたは寝なよ」
その時、薪が爆ぜて火の粉がミャンの顔に当たる。
「熱っつい!」
慌て顔を払う。
その様子に笑ってしまった。
「それで賊の拠点は?制圧…でいいのかな。は、した?」
「そりゃね」
「ヴァネッサ班長!」
「んん?…」
「班長!起きてください」
「ああ…」
ガルドの声に体を起こす。
自分の顔を叩いて眠気を覚ます。
指揮室に入ると、斥候が報告中だった。
賊の拠点には数十名。
装備の程度まで調べてあった。
それから拠点から出入りした者に尾行をつけたと。
「他にも拠点があるようです」
「だろうな。被害範囲が広さから見て、他にあると考えるのが自然だ」
「密偵を送り込みますか?」
「それもいいが、さらに時間かかるしな。被害はこれ以上出したくない。それに…」
騎士長は全員を見回す。
「皆も鬱憤が溜まっているのではないか?」
はい、とは言わないが表情に出てる。
「ここは一気に制圧して、賊を拘束。多少、手荒でも構わんから、情報を吐かせるだけ吐かせて、他の拠点も潰す。どうかな?」
騎士長は、そう言ってニヤリと笑う。
異存?あるわけがない。
室内にいる竜騎士も待ってましたばかりに盛り上がる。
あたしも拳をぐっと握ぎった。
で、制圧部隊の編成。
そこにあたしの班は入ってなかった。
「ふざけんじゃないよ!どうして、あたしらが入ってないの!」
「班長…ちょっと…」
ガルドが肩を抑えるがそれを振りほどく。
「最初に見つけたのはあたしだよ!切り込み役は当然でしょ!」
「私の編成に意見するのか、貴様!」
二番隊隊長の怒号が部屋に響く。
編成したの二番隊と三番隊の隊長だ。
「意見もなにも当然の権利だっつってんの!」
あたしはテーブルに拳を叩きつける
上官に対する言葉使いじゃないよね。
「だいたい、全員二番隊ってどういう編成なんだよ」
これには他の竜騎士からも異議が出る。
「全竜騎士隊から召集されてんだ。均等に割り振るの普通でしょ?」
「他にも拠点ある。そちらに回す予定だ」
「他の拠点は規模が分からないじゃない。しょぼかったら、二番隊が目立つよね?それとも目立って、名前でも売りたいの?」
「そういう事ではない!」
だったら何だというのか。
「あたしは名声も褒美もいらない。報告書に名前も書かなくていいから、編成に加えろ!」
またテーブルを叩く。部屋が静まり返る。
ガルドが後ろでため息を吐いた。
二番隊隊長と睨み合う、あたし。
三番隊隊長が間に入ってきた。
「なあ、ちょっといいか?切り込み役って、ただ突っ込んでいけばいいだけじゃないんだ。後方と連携しなきゃなんないし…それを加味して、二番隊で組んだ。見知った仲間だ、連携も問題ない。」
それは分かるけど、他の隊との連携も訓練はしてる。
「お前の気持ちも分かるよ。連携重視で編成に偏りあったのは否定しない」
三番隊隊長は、あたしと二番隊隊長を見ながらは話す。
「ここでいがみ合っても、終らない。そこでだ…ここはコイントスで決めようじゃないか」
「どうしてだ!編成には何の問題もないだろ」
「お互いに一旦引かないと、いつまで睨み合ってる?」
宥めるように二番隊隊長の肩を叩く。
「騎士長、よろしいですか?」
「編成は任せると言った。今更、口出しはせんよ」
「じゃあ。ヴァネッサ、こっちに。誰か銅貨でも銀貨でもいい、持ってきてくれ」
銅貨の裏表を確認して、どちらが上になるか決める。
あたしは先に二番隊隊長に決めてもらった。
「裏」
「じゃあ、あたしは表」
「よし。裏なら編成した通りに、表なら二番隊以外で再編成。いいな」
お互いに頷く。
三番隊隊長が銅貨を上に弾き、落ちて来たのを右手で拾い、左手の甲に隠す。
「さて…どっちかな?」
右手を離す…。
「表…」
二番隊隊長がそう呟くと、小さく舌打ちして部屋を出て行った。
「ということで、再編成する」
「了解」
「二度手間でなはいか。仕事を増やしおって」
騎士長が、苦笑いを浮かべながら言う。
再編成された隊で作戦会議が行われる。
その間にレスターとロキに交代要員を送り、二人をこっちに来させた。
「では、切り込み班はヴァネッサ班ということで」
「謹んでお受けします」
胸に手を当て、丁寧に頭を下げる。
クスクスと笑いが起きる。
「突っ込んで行って、全員切り倒すとかやめてくれよ」
「ヴァネッサなら、やりかねないよな」
「しないよ、そんな事。独り占めとか、どっかの隊長じゃないんだからさ」
大きな笑いが起こった。
「随分、余裕だな」
二番隊隊長が部屋の入口付近いた。
制圧隊の連中は気まずいそうな顔をするが、あたしは特にそんな風には思ってない。
隊長がゆっくりと、あたしを睨みながら近づいくる。
「シュナイダー様に目をかけられてるからって、調子に乗るんじゃないぞ」
「班長は別に…」
ガルドがあたしと隊長の間に入ろうする。それを片腕を広げ止める。
「失敗したらお前のせいだからな。その時は…」
顔を近づけ凄む。
「煮るなり焼くなりどうぞ」
あたしは肩をすくめるだけ。
隊長はすぐに出て行った。
何しに来たんだよ。
あたし達は入念な打ち合わせと会議を続けた。
Copyright(C)2020-橘 シン




