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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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66/102

5-14


「よくやるね…」

 ウィルが呆れ顔だ。

「それでどうだった?」

「確かに賊は来てた」

 


 あたしらは後をつけたんだ。

 捕まて口を割らせようかとしたが、まずは拠点の位置を把握することにした。

 

 一日中追ってた…。

 さすが疲れてきた。集中力がもたない。

 一日中歩く賊も、中々のスタミナ。そこだけは褒めてもいい。

「そろそろ戻らないと…本部からの伝令、来てますよ」

「分かってる」

 処罰もんだよ。警備じゃなくて尾行してるんだからさ。

 

 ここで引いたら、負けだ。

 何がなんでも…賊の足が止まった。

 周囲を見て警戒してる。

「やっとですか…ん!」

 レスターの口を塞ぐ。こんな所でバレたら水の泡だ。

 賊が茂みの中へと入っていった。 

 レスターの口から手を外す。

「ここは…本部がある駐屯地とさほど離れてません」

「灯台下暗しってかい?やってくれるね…」


「…向こうへ回るよ」

 賊が入っていった所じゃなくて、左側の方が茂みが薄い。中へ入れるかも。

「ここでいいでしょう?」

「ちゃんと確かめないと」

「はあ…」

 レスターはため息を吐くものの、ついてくる。


 少しづつ茂みに分け入っていく。

 話し声が聞こえ始めた。

 レスターがあたしの肩を掴む。

 もう行くなって?しょうがない…。


 茂みでよく見えないが、それなりの人数がいる。

 笑い声が聞こえた。

 随分、余裕だね。酒盛りでもしてんのか…。

 そう思うと無性に腹が立ってきた。 

 思わずショートソードに掴んで、身を乗り出す。。

「班長…落ち着いて」

 レスターに肩を強く捕まれ、小声で話しかけられた。

「ここで間違いようです。一度戻って本部に報告しましょう。ここで突っ込んでも、どうやったって勝てない」

 分かってる…分かってるけど。

「奴らは気づいていません。竜騎士隊でかかれば一網打尽。余裕で潰せます」

「…そうだね。悪かったよ…早まるとこだった」

「いいえ。気持ちはわかります…行きましょう」

 賊の拠点を後にした。


 急いで村へと帰る。竜も忘れずにね。

「はあああ、疲れた…」

「もうだめだって…水、頂戴」

 借家へ入るなり、床に倒れ込む。帰ってきたのは夕方?だと思う。

「ありがと」

「で、どうでした?」

「見つけたよ…」

「マジすか」

「間違いないぜ」

「やりましたね」

 ロキ、ガルドと拳を合わせた。

「本部からの伝令は?」

「来ましたよ。二人は巡回中だって言っておきました」

「そう…少し寝たら本部に行く」

 水と食事をかきこんで横になる。

「一日休んでも…」

「早いほうがいい」

「俺たちが行きましょうか?」

「見つけたあたし達が行かないと信じてもらえないでしょ。いいから、寝かせて…」 

 あたしは眠りに落ちた。


 深夜に起きて本部へ出発する。

「レスター、起きなよ」

「班長…無理…です」

「情けないねぇ、全く」

 正直を言えば、あたしもまだ寝ていたい。

「俺が行きます」 

 ガルドはもう鎧を着込んでいた。

「頼むぜ…」

「じゃあ、行くよ」

「了解」

 ガルドとともに捜査本部へと急ぐ。


 本部へは半日かかる。

 体がふらついて、竜の上でバランスが取れない。

「やば…」

 左側へ体が倒れて行く…。

「班長!」

 ガルドに右腕をガッチリと摑まれた。

「大丈夫ですか?」

「ああ…大丈夫。ありがと、助かった」

「少し速度を落としましょう」

 あたしは頷く。

 速度を落とし、何度か休憩を挟さむ。


 そして本部に到着。

「騎士長!」

 捜査に指揮と取ってるのは竜騎士長。

 竜騎士長は全竜騎士を束ねている。

 補佐に二番隊、三番隊の隊長二名。他に小、中隊長が数十名。


「ヴァネッサか、どうした?」

「はい」

 姿勢を正し敬礼する。

「賊の拠点を発見しました」

「発見って、お前の班は警備だろうが?何やってんだ」

 二番隊の隊長があたしを咎める。

「ヴァネッサ班長は…ある不審に気づいて…」

 ガルドが割って入る。

「不審だと?なぜ報告しなかった?」

「待て。とりあえず話を聞こう」

「しかし…」

 騎士長が二番隊隊長の言葉を切る。

「不審とは?」

 あたしは経緯を地図を指しながら説明した。


 部屋の中が騒がしくなる。


「馬鹿な、こんなに近くなわけないだろ」

「間違いありません。この目で見てるんです」

「うーむ…」

 騎士長は腕を組み唸る。

「なくはないと思うが…お前も見たのか?」

「自分は見てません。見つけたはヴァネッサ班長とレスターです。レスターは疲労で寝てますが、本人も間違いないと」

 ガルドが答える。

「斥候を出せ」

「騎士長、信じるのですか?」

「報告が上がった以上、確かめなければならない」

 騎士長は腕を組んで、二番隊隊長を見る。

「他に有益な情報があるのならば、そちらを優先するが?」

「いえ…ありません…」

「ならば、早くしろっ」

 騎士長は強く命令する。

「斥候はできるだけ手練れを。賊はかなり神経を使ってます。こちらも…」

「そんな事は言われなくても、分かっている!」

 二番隊隊長はそう言ってあたしを睨むと出ていった。


「悪いなぁ。当っちまって」

 三番隊隊長があたしにそう言う。

「いえ、別に」

 こういうって一度や二度じゃない。

 捜査が進まずイラついてるのは、あたし達も一緒だし。


「ヴァネッサ、無理をしたな?」

「いえ、それほど…」

 騎士長は笑顔で気さくに話しかけてくる。


 騎士長はシュナイダーの元部下。

 戦争時は新人で前線には出たことはない。

 シュナイダー様の雑用をしていた、と本人は話す。

 だけど、そこは竜騎士。

 何度が剣を交えた事があるけど、一振一振が重くて驚いたのを覚えている。


「目の下に隈できてるぞ」

 そう言って笑う。

「え?…。できてるかい?」

「できてますね」

 ガルドも頷く。


「にしてもよく気がついたな」

「偶然です」

 それは確か。

「うむ。監視されていたとはな。賊にしては手が込んでる」

「こちらも対応しませんと」

 三番隊隊長の言葉に頷く。

「ああ、そうだな。ここはあえて派手に動こう」

「陽動ですね」

「うむ。捜査隊とは別に竜騎士隊を多目に巡回させろ。捜査隊は民衆にまぎれて捜査を続行せよ。慎重にな。どんな小さな事でもいい、報告しろ」

「了解」

 三番隊隊長が敬礼し、部下に指示を出した。


「ヴァネッサ、お前は休め」

「大丈夫です」

「そう言うな。誰か仮眠室へ案内してやれ。それから食事もな」

 部下にそう指示する。

「あの…」

「これは命令だ」

「はい…」

 敬礼して仮眠室へ行った。 

 ガルドは自分は大丈夫だからと雑用を申し出る。


「斥候が帰って来たら、すぐに起こして」

「はい」

 ガルドにそう告げる。

 軽い食事の後、ベッドに横になる。



「リアン?」

「うん…」

 ウィルが、眠たそうにしているリアンに話しかける。

「僕に寄りかかっていいよ」

「でも…」

「その方が楽だよ。僕は大丈夫だから」

「うん…ありがとう…」

 リアンはウィルに寄りかかって、頭も彼の肩に預ける。


 リアンには面白くない話だったか…いや、疲れただけか。

「話やめる?」

「いや、最後まで聞かせてよ」

「アタシも聞きたいにゃ」

「あんたは寝なよ」

 その時、薪が爆ぜて火の粉がミャンの顔に当たる。

「熱っつい!」

 慌て顔を払う。

 その様子に笑ってしまった。


「それで賊の拠点は?制圧…でいいのかな。は、した?」

「そりゃね」

 


「ヴァネッサ班長!」

「んん?…」

「班長!起きてください」

「ああ…」

 ガルドの声に体を起こす。

 自分の顔を叩いて眠気を覚ます。


 指揮室に入ると、斥候が報告中だった。

 賊の拠点には数十名。

 装備の程度まで調べてあった。

 それから拠点から出入りした者に尾行をつけたと。


「他にも拠点があるようです」

「だろうな。被害範囲が広さから見て、他にあると考えるのが自然だ」

「密偵を送り込みますか?」

「それもいいが、さらに時間かかるしな。被害はこれ以上出したくない。それに…」

 騎士長は全員を見回す。 

「皆も鬱憤が溜まっているのではないか?」

 はい、とは言わないが表情に出てる。

「ここは一気に制圧して、賊を拘束。多少、手荒でも構わんから、情報を吐かせるだけ吐かせて、他の拠点も潰す。どうかな?」

 騎士長は、そう言ってニヤリと笑う。

 

 異存?あるわけがない。

 

 室内にいる竜騎士も待ってましたばかりに盛り上がる。

 あたしも拳をぐっと握ぎった。

 

 で、制圧部隊の編成。

 そこにあたしの班は入ってなかった。


「ふざけんじゃないよ!どうして、あたしらが入ってないの!」

「班長…ちょっと…」

 ガルドが肩を抑えるがそれを振りほどく。

「最初に見つけたのはあたしだよ!切り込み役は当然でしょ!」

「私の編成に意見するのか、貴様!」

 二番隊隊長の怒号が部屋に響く。

 編成したの二番隊と三番隊の隊長だ。

「意見もなにも当然の権利だっつってんの!」

 あたしはテーブルに拳を叩きつける

 上官に対する言葉使いじゃないよね。


「だいたい、全員二番隊ってどういう編成なんだよ」

 これには他の竜騎士からも異議が出る。

「全竜騎士隊から召集されてんだ。均等に割り振るの普通でしょ?」

「他にも拠点ある。そちらに回す予定だ」

「他の拠点は規模が分からないじゃない。しょぼかったら、二番隊が目立つよね?それとも目立って、名前でも売りたいの?」

「そういう事ではない!」

 だったら何だというのか。

「あたしは名声も褒美もいらない。報告書に名前も書かなくていいから、編成に加えろ!」

 またテーブルを叩く。部屋が静まり返る。

 ガルドが後ろでため息を吐いた。

 

 二番隊隊長と睨み合う、あたし。

 三番隊隊長が間に入ってきた。

「なあ、ちょっといいか?切り込み役って、ただ突っ込んでいけばいいだけじゃないんだ。後方と連携しなきゃなんないし…それを加味して、二番隊で組んだ。見知った仲間だ、連携も問題ない。」

 それは分かるけど、他の隊との連携も訓練はしてる。

「お前の気持ちも分かるよ。連携重視で編成に偏りあったのは否定しない」

 三番隊隊長は、あたしと二番隊隊長を見ながらは話す。

「ここでいがみ合っても、終らない。そこでだ…ここはコイントスで決めようじゃないか」

「どうしてだ!編成には何の問題もないだろ」

「お互いに一旦引かないと、いつまで睨み合ってる?」

 宥めるように二番隊隊長の肩を叩く。

「騎士長、よろしいですか?」

「編成は任せると言った。今更、口出しはせんよ」

「じゃあ。ヴァネッサ、こっちに。誰か銅貨でも銀貨でもいい、持ってきてくれ」


 銅貨の裏表を確認して、どちらが上になるか決める。

 あたしは先に二番隊隊長に決めてもらった。

「裏」

「じゃあ、あたしは表」

「よし。裏なら編成した通りに、表なら二番隊以外で再編成。いいな」

 お互いに頷く。


 三番隊隊長が銅貨を上に弾き、落ちて来たのを右手で拾い、左手の甲に隠す。

「さて…どっちかな?」 

 右手を離す…。

「表…」

 二番隊隊長がそう呟くと、小さく舌打ちして部屋を出て行った。

「ということで、再編成する」

「了解」

「二度手間でなはいか。仕事を増やしおって」

 騎士長が、苦笑いを浮かべながら言う。


 再編成された隊で作戦会議が行われる。

 その間にレスターとロキに交代要員を送り、二人をこっちに来させた。


「では、切り込み班はヴァネッサ班ということで」

「謹んでお受けします」

 胸に手を当て、丁寧に頭を下げる。

 クスクスと笑いが起きる。

「突っ込んで行って、全員切り倒すとかやめてくれよ」

「ヴァネッサなら、やりかねないよな」

「しないよ、そんな事。独り占めとか、どっかの隊長じゃないんだからさ」

 大きな笑いが起こった。


「随分、余裕だな」

 二番隊隊長が部屋の入口付近いた。

 制圧隊の連中は気まずいそうな顔をするが、あたしは特にそんな風には思ってない。

 隊長がゆっくりと、あたしを睨みながら近づいくる。

「シュナイダー様に目をかけられてるからって、調子に乗るんじゃないぞ」

「班長は別に…」

 ガルドがあたしと隊長の間に入ろうする。それを片腕を広げ止める。

「失敗したらお前のせいだからな。その時は…」

 顔を近づけ凄む。

「煮るなり焼くなりどうぞ」

 あたしは肩をすくめるだけ。


 隊長はすぐに出て行った。

 何しに来たんだよ。


 あたし達は入念な打ち合わせと会議を続けた。

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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