5-13
「アタシ、寝る」
クァンさんが去った後、ミャンが横になる。
「後で、交代だからね」
「はいは~い」
「リアンも休んだ方がいいよ」
「うん」
リアンには木の皮を剥いだ物を地面に敷いて座ってもらった。ウィルも同様。
二人は並んで座る。
座っていた倒木を背もたれする。
あたしのは自分の竜にもたれている。
「あんたもだよ」
「分かってる」
あたしの言葉にウィルは頷く。
焚き火の音だけが聞こえる。
「ウィルはこういうの初めてじゃないんでしょ?」
リアンが小さな声で話しかける。
「うん。できるだけしないようにしてたよ」
「だろうね」
「ヴァネッサは?」
「訓練や任務で何度も」
「任務?夜通しとはきついね」
「賊の拠点を監視してたのさ」
とある時期、賊による強盗、放火が相次ぐ。
竜騎士隊による特別捜査隊が編成され、一番隊にいたあたしの班も呼ばれた。
しかし、賊の足どりはわかるものの、拠点がわからず煙に巻かれる。
その捜査の間にも犯行は行われ、被害が拡大する。
「みんな焦ってたよ。イラついて喧嘩まで」
当然あたしもね。
焼け落ちた家。
泣き、立ちすくむ家族。
何度見たことが…。無力感が胸に残る。
竜騎士隊の威信が問われていた。
あたしの班はある村で警備についていた。
「これじゃ捜査じゃなくない?…」
「方針が変わるって聞きましたよね?」
ロキが紅茶をくれながら話す。
ロキはあたしの部下。
シュナイツにくる前はあたし、ガルド、レスター、ロキの四人で班を組むことが多かった。
ガルド、レスターは巡回中で今はいない。
これ以上の被害拡大を防ぐ為に、犯行が予想される所に竜騎士を配置する。
先日、そう言い渡された。
「知ってるって。あたしは、なんで竜騎士が警備をしなきゃなんないのかって言ってんの。警備なら剣兵でも槍兵でもいいでしょ」
「竜騎士がいるってだけで抑止なりますし」
「それも分かってる。もうさ、捜査隊からはずしてよ…」
「そう言わずに…」
借りている小さな家の扉が叩かれる。
「はいっと」
訪ねる来たのは村長だ。
初老の男性。
「これ、夕食に」
「毎食、すみませんねぇ。班長…ほら…」
「いつもありがとう…」
あたしは作り笑顔で挨拶する。
「いいだが。竜騎士様がいるからここは平和だもんで」
村長は何度も頭を下げてから去って行く。
ガルド、レスターが帰ってくる。
夕食を食べつつ、報告を聞く。
「どうだった?」
「別に何も」
「この辺は田舎ってわけじゃないですからね。町にも近いですし。賊からしたら優先順位は低いと思うんですけど…」
「町のど真ん中でやられた事もあるからな。どこだろうと油断はできねえよ」
「そうだね…」
あたしは上の空で聞いていた。
「どうしたんです?」
「班長は方針が変わってご立腹」
「あー…。そいつはみんな思ってます」
「やるせないですね」
賊のしっぽを摑まえられないんじゃ、竜騎士失格だよ…。
「夜の巡回行きますよね」
「あーうん…。次は深夜じゃなくて、夜明け前に行く」
「了解」
同じ所を同じ時間に巡回していると、巡回時間以外に狙われる可能性がある。だから少しづつ時間を変える。
賊どもは慎重かつ計画的に犯行に及んでいる。用心すること越したことない。
やる方はたまったもんじゃないけどね。
生活習慣が固定できないから、調子くずれるし。
仮眠を取って夜明けに巡回に出かける。
まだ薄暗い。
村を一周するように獣道をゆっくり行く。いや、獣道ですらない。草や茂みを分け入って行く。
町に近いと言っても、周りは森だ。
「竜の仕草に気をつけな」
「はい」
竜はあたし達より、気配に敏感。あたし達には聞こえない音も聞き逃さない。
「今んところ、大丈夫ですね」
今回は特に異常なし。今回も、かな?。
村を一周する頃には夜は明けて、日差しが眩しい。清々しいいい天気だ。
「腹減ったぁ」
あたしも…。
村民に挨拶しながら借家へ帰る。
その時、何かキラリと光った。
なんだ?。
光ったのは村の西側にある山だ。このあたりだと一番高い。
また!
どう見てもかがり火はじゃないし、魔法?…発光石は見たことがあるけど、あんな光り方はしなかったような…。
借家のまではガルドが剣を素振りしている。その剣に朝日が反射し煌めく。
反射…!。
山の光は反射か…ということは誰かいる!。
でも、何で反射した?。鏡?硝子?…後は望遠鏡か?…。
まさか、賊が監視している!?。
「班長、どうしたんです?」
「別に…」
監視しているなら、いつも通りを心掛けないと悟られる。
いつも通りに、と思いながらはいつも通りってなんなのか、突然分からなくなる。
ぎこちなかったかも。
「村長、おはようございます」
「やあ、おはよう。ご苦労さま」
「おはよう」
あたしも声をかけた
「これは班長さん、おはようございます」
「村長、これから畑?」
「ええ、少し散歩してから」
「そう…。畑行く前に借家に来てくれる?ちょっと聞きたい事があるから」
「いいだが」
村長は頷いて離れていく。
「班長…何なんです?」
「黙ってついてきな」
「はあ…はい」
いつも通り借家の横で竜を降りる。
「水、お願い」
「はい」
ここは西側の山からは見えない。
ロキが水を持って来る間、借家から少し顔を出し山を見る。
今は光ってない。
「班長、何やってるんです?さっきから変ですよ」
「いいから、あんたは竜に水をやりなよ」
「はいはい…」
いつも通りを心掛けるって難しいね。
「終わりましたよ。朝食たべましょうよ」
「ああ」
玄関にまわる。
「ガルド」
「はい?」
手招きして中へ入るよう指示する。
「なんです?」
「中で話すから」
借家へ入るとテーブルに朝食がおいてあった。
「どうしたんだよ?」
「さあ?」
「レスター、悪いけど朝食はそっちの小さいテーブルに置いて」
「こっちで食べるんですか?」
「いや、とりあえずだから。ガルド、カーテン閉めて。ロキ、村周辺の詳しい地図を」
三人は動かず、お互いに顔を見合わせる。
「何やってんの?早く!」
あたしが手を叩くと、慌てて動き出す。
テーブルに広げられた地図を見る。
「あのー、班長?…これは…」
レスターが何か言いかけたのを手で制した。
「今さっき起きたことなんだけど…この西側の山の頂上付近が光ったんだよ」
「え?光った?」
「太陽が何かに反射した」
「何かって、何もありませんよ」
ロキが地図を見ながら言う。
「分かってるよ。だからおかしいでしょ?」
「誰かいる…」
あたしはガルドの言葉に指をはじく。
「そう、誰かいる」
「誰です?」
「賊ですね?」
「マジで!?」
レスターの指摘にロキが驚く。
「賊以外に考えられない」
「しかし、実際に姿を見てませんし、報告も。そう判断するのは…」
借家のドアが叩かれた。
「村長だ。中へ入れてあげて」
村長を中へと通す。
村長に地図を見せる。
「村長、この西側の山って誰かいる?」
「ここ?ここは誰もいみゃーわ」
この独特の言葉…慣れない。
「いないです」
ロキが補足してくれる。ロキはここの出身じゃないんだけど、わかるらしい。
「ほんと?何か採りにいったりとかは?」
村長は首を横にふる。
足場よくないため行かないと話す。
子供も頃は勇気だめしに登ったとか。
「女の子にモテたかったで、一度登った」
そう話して、笑う。
「そう。今は、そんな子いる?」
「今はおらんよ」
今はいないか…。
「あたし達がここに来た時も聞いたけど、最近何か変わった様子ない?」
「ないなぁ。あれは私の耳に入るはずだで」
「そうだね。ありがとう、もういいよ。仕事前に悪かったね」
「いいだが」
村長を帰した。
「村民は近づいてない。やっぱり…」
「賊ですか」
「確かめに行く」
あたしの言葉に三人が驚く。
「あそこまでは距離も高さもありますけど…」
「今、行っても誰もいないでは…」
「賊どもと鉢合わせする可能性が…」
三人がの言葉に、あたしはため息は吐いた。
「あんた達どんだけ消極的なの」
「でも…」
「いいよ、もう…。あたし一人で行くから」
「いやいや、一人は…」
あたしは無視して準備を始める。
「どうするんだよ」
「仕方ねえ、俺行く」
「ガルド。お前はガタイが大きいくて目立つから、おれが行くよ」
「さ、さすがレスター…」
「おれも乗り気じゃないけど…」
「班長、おれも行きます」
「ああ、そう」
レスターはそれ以上何も言わず準備を始める。
「鎧は付けるんじゃないよ。革鎧も最低限にね」
「はい」
「武器はショートソードだけ」
「だけ、ですか?」
「そうだよ。山道を…道じゃないね、たぶん…登山だよ。できるだけ身軽で行きたい。あんたが持ちたいっていうんなら持っていっていいよ」
「いえ、ショートソードにします」
レスターは状況を分かってくれている。
食料等必要な物を鞄に詰めて、日が沈んでから出発する。
「せめて山の麓までは竜で行ったらどうです?」
「目立つからいい」
ロキの提案を断った。そうしたいけどね…。
「明日か明後日に本部から伝令がくるから、それまでには戻りたい。戻らなかったら山を探して」
「はい。わかりました」
「ガルド、お前な…他にいう事…」
ガルドは信頼しているからこそ、何も言わない。
「村長には緊急の用件で最寄の町に行ったって」
「はい…あ、緊急なのに竜を置いていったら変じゃ、ないですか」
だね…。
「やっぱり麓までは…」
「そうするよ…」
賊に見つからないよう祈るしかない。
「見回りの時間帯は二人に任せるから」
その他、細かい事も任せ、あたしとレスターは出発した。
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