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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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64/102

5-12


 ミャンがいた村は百人程度でほそぼそと暮らしていた。

 森の恩恵を受け、不自由なかった。多少貧しかったが。


「病気は猫族特有のものなんだって…どんどんみんなに感染っていくんだ」

「君は大丈夫?」

「うん。アタシやばあちゃん、ほか何人かは大丈夫…」


 ミャンには病気に対する耐性があるという。


「父さんも母さんも妹達もみんな…」

「そんな…」

 リアンは口に手を当てる。


「あんたに短槍をあげた友達は?」

「ああ、リーね。リーはね、流行り始めた頃に出て行った。その時貰ったんだ、これ」

 短槍を撫でる。

「みんな、リーの悪口を言ってたよ。薄情とか」

「そりゃ自分だけ出て行ったらさ…」

「出て行ったのはリーだけじゃなくて、奥さんと出て行ったんだ」

「あ、そうなの」

「リーは奥さんを守りたかったんだと思う。だって綺麗だし優しいし…」

 ミャンはリーという人を悪く思ってないらしい。

「それがきっかけで、こっそり出て行く人がどんどん…残ったのはアタシとばあちゃんだけ」

 ミャンの話にみんな黙り込む。

「ばあちゃんは病気に効く薬草を探しに森に入ったり町に行ったり…でもダメだった」

 彼女のおばあさんは、前々から病気を危惧し薬を研究していたらしい。

「もっと時間あればって。ばあちゃんが泣いてるとこ初めてみたよ」


 二人は最後まで残り、遺体の埋葬をした後、村を後にした。


「で、シュナイツに来た?」

「ううん。しばらくここ、森にいた。ばあちゃんとは、はぐれて見つからなくて。ここなら食べ物をあるし、でもお腹いっぱいにならないから…」

「だからって、シュナイツの作物を盗むんじゃないよ…何回も」

 シュナイツの領民が育てた作物を複数回盗んでいる。

 シュナイダー様はほっておけと言ったけど、さすがにやりすぎだ。.

 あたしは捕まえる事を勧め了解を得た。

 そして、捕まえる事に成功。(一度失敗しているけど)

 で、あたしとの真剣勝負やら、シュナイダー様が食事と引き換えに槍を教えほしいとかで、シュナイツに居座る事になった。


「ミャンってそうやってシュナイツに…何やってんのさ…」

 ウィルはため息をはく。

「ごめん…お腹すいててさ…お金持ってなく…っ!」

 ミャンは突然立ち上がり振り向いて短槍を構える。

「誰か来る!」

 あたしも立ち上がり、剣を構えた。

 ウィルも剣こそ抜かないが、手を添えリアンを守るように立つ。

「人数は?」

「一人」

 一人?。随分勇気あるやつだね。

 周囲から気配はしないが…。

「周りに注意しな」

「うん」

 ウィルにそう声をかけ。彼は左右前後に目を配る。

 竜も立ち上がり、周囲を警戒する。


 少しづつ足音が近づく。

「誰だ!」

「誰だじゃ、とはなんじゃい!」

 しわがれた声。

「お前らこそ、ナニモンじゃ!」

 焚き火に照らされる人影。

 杖をついた背の低い老人だった。

「まさか…ばあちゃん!?」

 ボロ布を纏い、頭にも布を巻いている。

「ばあちゃん!」

 ミャンが老人に抱きつこうする。が、杖を巧みに操り、ミャンの足をすくい転ばせる。

「痛って」

 転んだミャンの喉もとに杖を突きつける。

「んん?あ?ミャン…お前、ミャンかい?」

「そうだよ、ミャンだよ!会いたかったよ、ばあちゃ…」

 また抱きつこうしたミャンの頭を杖で叩く。

「バカモン!どぉこほっつき歩いてた!?」

 そう言って何度も頭を叩く。

「痛い、痛いって、ばあちゃん…」

 とりあえずミャンのおばあさんで間違いない。あたしは剣を収めた。


「やめてよ…ばあちゃん」

「全く…。どうしてここにいる?それに…」

 ミャンを見た後、あたし達を見回す。

「どうも。ちょっと訳ありでね」

「どこのもんじゃ?」

「シュナイツです」

 驚きの表情見せつつウィルを見た。

「英雄が開いた土地か」

 あたし達はミャンがシュナイツにいる事や事情を説明し、自分達の身分を明かす。


「アタイはクァンじゃ」

「僕はウィル・イシュタル」

「お前さんが領主か…随分、若いの」

「若輩ですが…よろしく」

「孫娘がとんだ迷惑をかけたようだ。申し訳無い」

「いえ…別に」

 ウィルは困っている。

「人様のもんを盗むとは、恥ずかしい()だよ」

「それもう大分前のことだよ…」

「お前がした事は消えないんだよ」

「分かってるよ…。アタシなりかんばってるし…」

「ミャンは頑張ってると思います。今日だって…ねえ?ヴァネッサ」

「ああ。こいつの機転で助かった」

「ウィル…ヴァネッサ…ありがとう」

 ミャンは瞳を潤ませる。

「薬草の勉強しとけば、金は手に入っただろうに」

 クァンはため息を吐く

 ミャンにはどうにも手厳しい。


 続いてリアン、そしてあたし自己紹介する。

「あたしは…」

「竜騎士ヴァネッサじゃろ?」

「…はい」 

「ヴァネッサの事、知ってるの?有名?」

「それなりにな。わしは何度か見かけている。遠くからじゃが…シュナイダーと連んでおったな」

 あたしは頷く。

「噂は色々聞いている」

「ヴァネッサの噂?どんな?」

 ミャンが興味深げに訊く。

「どれも嘘だから。尾ひれが付いて、ある事無い事…」

「そういうもんじゃて」

「話のネタにはいいんでしょうけどね」

 あたしは肩をすくめる。

「だから、どういう噂なのさ」

 噂の内容については、あたしもクァンさんも話さなかった。


「あ、そうそう。ばあちゃんは薬草に詳しいんだよ。リアンを診てもらったら?」

「どうかしたのかい?」

「賊から毒矢を受けてね」

 クァンさんに診てもらう事になった。


「どんな毒だい?」

「麻痺系で、甘い匂いがするやつ」

「あー」

 そう言って頷く。

「それなら死にゃあせん」

 リアンの左脚を防具の上から触る。

「いつ矢を受けた?」

「今日、早朝に」

「そうか…。感覚がないじゃろ?」

「はい」

 リアンが感覚がない部分を伝える。

「ひどくなっておらんな?」

「はい」

「なら、大丈夫じゃ」

「詰め所の医者から貰った傷薬がこれなんだけと…」

 クァンさんは薬を手に取り、匂いを嗅ぐ。

「うむ。これなら問題ない」

「ばあちゃん。解毒薬はもってない?」

「あるにはあるが、麻痺系使ってもな…自然と治るもんじゃて」

 彼女は少し考えた後、自分の鞄から小さな革袋を取り出す。

「あまり変わらんと思うが、これを飲んでおきな」

「はい」

 小さな丸薬をリアンに渡す。

 薄い黄色の物。

「噛み砕いてから、飲み下すんだよ」

 リアンは言われた通り奥歯でガリッと噛み砕いた。

 と、すぐに彼女は顔をしかめ、慌てて水を飲む。

「んん!?…。苦いぃ…」

「二、三日飲んでほしいが」

「あの、もういいです…」

「だろうな。アタイも嫌じゃ。のまんでもええよ」

 そう言ってリアンの肩を軽く叩く。

「心配せんでもええ。時期に治る」


「お前達、王都に行くらしいが、この後どうするんじゃ」

 クァンさんは焚き火にあたり、鞄から取り出した何かを食べながら話す。

「森を南に抜けようかと…」 

「ふむ」

 まずは森を抜けないといけない。

 賊の動向が分からないから、考えあぐねていた。

 森の中を東に抜けるのは行くのは時間がかかる。ミャンの先導で獣道を行くわけだし。

 西も同じ。

 森は東西に横長だから、南か北に行くのかいいだろうとは思っていた。.

 北は賊が町で待ち構えてる気がしてね。

「南へ抜けて山を一つ超えれば、村があるはず。まずはそこを目指そうと思っています」

 ウィルが地図を広げ話す。

「それが一番いいかもしれん。しかし、賊には気をつけろ」

「賊は森には近づかないって聞いているけど」

「森の奥までは、来んで」

 確かに奥までは追って来なかった。

「森周辺にはいるんですね?」

「いるも何も東側に根城を作っとる」

「東側?村があった所?」

「そうじゃ」

「嘘でしょ…あそこ、お墓があるのに」

「墓なんぞ雑草でわからなくなっとるわ」

 ミャンはため息を吐く。

 あたしもため息を吐く。


「あたし達がここにいる事は向こうも分かってるよね…」

「バカじゃなかったらな」

 参ったね…。

 森から出る所を待ち伏せされる可能性もあるわけだ。

「ばあちゃん、賊に見つからない抜け道とかない?」

「あるにはあるが…」

 クァンさんは腕を組み唸る。

「ミャン、あんたこそ知らないのかい?庭なんでしょ?」

「そうだけど…こっそり出入りなんてしたことないし、する必要もなかったから。そもそも賊なんて昔はいなかったんだから」

 まあ、そうだよね。


「抜け道は人ひとりが通れる道だ。竜連れじゃ、目立って意味をなさん」

 ですよね…。

「よっこらせっと…」

 クァンさん立ち上がる。

「ばあちゃん?」

「アタイは行くよ。寄る所があるんだ」

 もう夜だが、行きたい所があるらしい。

「待って、助けてよ。あたしなんかよりずっと、森に詳しいんだからさ」

「後はお前達でなんとかしな。だいたいこんな所で、夜を明かそうというのが間違いじゃ」 

 杖で地面を叩く。

「多少無理しても南へ一気に縦断した方が、まだマシだった」

 彼女の言葉に言い返せない。

 仕方のないことだけど、少ない情報から判断するしかなかった

 竜の疲労度やリアンの事を考えた結果、あたしが判断した。

 ミャンが、森は庭という言葉を信じたのもある。

 実際、森の中では迷っていない。


「お一人で行動するのは…賊がまだ彷徨いているかもしれませんよ?」

 ウィルが心配そうに声をかける。

「ババア一人なんぞ、奴らは眼中にないわい」

 強気にそう話す。

「そうですが…」

「アタイの心配より自分達の心配をせい」

 あたし達を見回す。

 ただ黙ってるあたし達にため息を吐く。

「南へ抜けるなら中央を行け」

「中央?」

「そうじゃ。抜ければ草原じゃが、草丈が森から離れるほど高くなる。入ってしまえば賊には見つかりにくいじゃろうて」

「なるほど。ありがとうございます」

「ではな」

「ばあちゃん…あの…ごめんなさい」

 ミャンがクァンさんを呼び止める。

「ミャン…。もういい、謝らんでも」

「うん」

 クァンさんはミャンの肩をしっかりと掴む。

「お前に言っておく事がある」

「何?」

「例病気の事だ」

「あれはアタシ関係なくない?大丈夫だって」

「それはわからん。将来なるかもれん」

「え?」

 これにはあたし達も少し驚いた。

「なってもいいよに薬を作っているが、まだ時間かかりそうだ。出来上がったら、必ず届けるから待っとれよ」

「うん」

 ミャンは頷く。

「もし具合が悪くなったら、森に来い。だいたい、ここにいる」

「分かったよ」

 クァンさんはミャンの頬を触り頭を撫でる。その表情に厳しさはなかった。


「すまんが、ミャンを頼む」

 あたし達に頭を下げた。

 ウィルは慌てて立ち上がる。

「やめてください。僕の方こそ頼ってばかりで…」

「そうだよ。今回ばかりはね」

「そう言ってもらえると多少は…バカじゃが槍の腕だけはその辺の奴には引けをとらん」

「ばあちゃん…」

「こき使ってやってくれ」

 そう言うともう一度、頭を下げる。

 御神木にも頭を下げて去ろうとする。


「ばあちゃん!待って!」

「はあ。まぁだ何かようか?もうええじゃろ?」

「あの、リーの事、知らない?見かけたとかさ」

「奴は村を捨てた…。奴の事はもう忘れろ…」

 クァンさんは振り返らず答える。

「でも…」

「会うことができたとしも、お前が知ってる奴ではないかもしれん…」

「どういう事?」

「とにかく、奴の事は考えるな」 

「うん…」

 ミャンは納得いっていない様子だ 

 

 クァンさんは歩きはじめ、後ろ姿が森の闇に消える…。

 

 ミャンが泣いていたようだけど、あたし達は何も言わなかった。


 

Copyright(C)2020-橘 シン

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