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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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63/102

5-11


「いや~、さっきの大ジャンプは気持ちよかったね~]

「「どこが?」」

 ミャンの言葉にリアンとウィルはため息を吐く。

「飛ぶなら、飛ぶって…いや、飛ぶ必要あった?」

 ウィルはミャンに抗議している。

「アタシに言わないでよ。ヴァネッサだよ、飛べって言ったのは」

「ヴァネッサ?」

「いいじゃないの…」

「良くないわ。怪我をしていたかもしれないのよ」

 大丈夫、怪我はしていない。

 

 速度を落としたくなかったから、飛んだんだよ。

 追手は見えなかったけど、詳しくは分からなかったし。

 一度、止まって二人に確認しろとでも?。

 

「気を付けるよ、今度からね…」


 森を進んで行く。

 ジメジメとした空気。雨が上がった後だからか。の割にはさほど木々は濡れていない。

 真っ昼間なのに薄暗い。

 

 同じような濃い緑色の景色が続く。前も、後ろも、左右も。

 

 ミャンは少し先を行ってる。短槍を振り回し、邪魔な枝葉や茂みを切り裂きながら。

 ウィルは竜を降り、手綱を引いてミャンに続く。

 あたしも竜に乗らず、手綱を引いて彼についていく。


「ミャン、本当に分かってる?」

「だからぁ、ここはアタシの庭なんだって。庭で迷う人いるぅ?」

 ウィルの不安気な言葉にミャンが答える。

 

 そう思うのも仕方ない。

 この鬱蒼とした森は、あたしも不安になる。

「ねえ、ヴァネッサ。本当に大丈夫なわけ?」

 リアンが声を潜め、あたしに訊いてくる。

「大丈夫も何も、ミャンを信じるしかないでしょ。ここ知ってるのはあいつだけなんだら」

「そうだけど…もう暗くなって来てるし…」

 不安なそうに周りを見る。

「聞こえてるよ。なんなのさ、リアンまで…。大丈夫に決まってるでしょ」

 リアンはバツが悪るそうに口をおさえる。

 

 さらに進むと、木の本数が少し減って見通しがよくなる。


 右手から何か音が聞こえた!。

「静かに。ミャン」

「分かってる」

 ミャンはウィルの右側に移動して、短槍を構える。

 あたしは自分の竜を座らせ、リアンを守るよに彼女の右側に立つ。

 ゆっくりと剣を抜き、正眼に構える。


「ミャン」

「人じゃない、たぶん」

「動物?」

「うん、気配は一つ。さっきからしてたよ」

 なんでもないように言う。

「あんたね、気づいてたんなら、いいなよ」

「明らかに人じゃないし、こんな所まで来るやつなんかいないって」

 と言うが構えは崩さない。


「いつまでこうやってんの?」

 リアンが小さく呟く。

「動物って、大きさとかは?」

「よくわかんない…そんなに大きくはないと思うんだよね」


 物音ともに木の陰から何かが出る。

「子鹿でした」

「はあ…」

 びっくりさせじゃないよ…。


 子鹿はこちらを見てるだけで動こうしない。

「かわいい…」

「美味しそう…」

「え?…」

「美味しいんだよ。鹿は」

 ミャンの言葉に、リアンは嫌悪感をあらわにする。

「やめて。そういうの」

「僕もちょっと…」

 ウィルも同じ感じ。

「えー。あの距離なら即捕まえられるのに」

「絶対にしないで」


 あたしはいくつか石を拾い子鹿の側の木に向かって投げる。

 子鹿は驚いたのか、走り去って行った。


「これでいい。さあ行くよ」

「もったいない」

 再び歩き出す。

「シュナイツじゃ、鹿獲ってるでしょ?」

「あれは大人」

 大人の鹿は、いや野生動物は凶暴することがある。

 近づいてきたら、できるだけ刺激せず手早く仕留めている。

「子供は追っ払るよ」

 ミャンはブツブツと何か言いながら前を行く。


「ミャン、まだかな?暗すぎてよく見えないよ」

「あたしも限界だよ」

「もう少しだから」

 森の中は暗くなるのが早い。

 真っ暗じゃ何もできない。火を起こすにも苦労する。


 エレナが発光石を勧められたが、断ったのが悔やまれる。

 水晶なら一週間は発光しつづける、と言ってた。

 こんな事になるならね…。


「ちょっと、何あれ?」

「あれが御神木だよ」

 前方に青白い光が縦に伸びている。

「あれが…」

 ミャンが言ってた御神木。あれ目標に進む。


「あれ光ってるのは御神木じゃなくて、表面の苔が光ってるんだよ」

 光る苔は見たことあるけど、ここまでのはない。

「綺麗…」

「そうだね。こんなものがあるなんて」

 ウィルも感嘆の声を上げる。

 

「ここへんまでかな」

 ミャンが立ち止まった。

 御神木はまだちょっとある。

「これ以上はダメ」

「どうして?」

「御神木には妖精族が住んでいるから、できるだけ刺激したくない」

「妖精がいるの?」

「いるらしいよ。アタシは見たことないけど」

「僕は一度見た事ある」

 ウィルが誰かが肩に乗せていたのを見かけたらしい。

「どんな感じなの?」

「どんなって言われも…手の平くらいの小さな人だったよ」

「そうなんだ。本には光る羽があるって」

「あった気がする。観察したわけじゃないから、それくらいかな覚えてるのは」

「いいな~、アタシは見たことないんだよ」

 ミャンが羨ましがる。

「話は後で。まずは火を起こさないと。どっかいい場所ある?。できれば水辺が近いほうがいいね」

「う~んと…もう少し南側がいいかな」

 彼女についてさらに移動する。

 御神木の光が助かる。周囲がなんとか見える程度だけど。


「ここがいいかな。平らだし」

「いいね」

 倒木が背もたれにちょうどいい。

「水辺はヴァネッサの後ろのほうね」

「あいよ」


 リアンと鞄を降ろす。 

 リアンは倒木に一旦腰掛けさせた。


「ウィル、火打ち石は使える?」

「使えるよ」

「じゃあ、火起こして」

 あたしは鞄から火打ち石を出そうしたが、ウィルが肩掛けの鞄を弄る。

「何やってんの?」

「え?火打ち石を出そうと…」

「あんたも持ってきてたんだ」

「一応ね」

 じゃあ、使い慣れたやつの方がいいか。


 火起こしはウィルに任せて、水辺へと向かおうとする。

「アタシは何すればいい」

「あんたは…何か食える物を獲ってきて」

「え?今から?ていうか買って来てるよね?」

「来てるけど、節約したいし、こんだけ広い森なんだから何かあるでしょ?あんたの庭なんだからさ」

「ある思うけど、ちょっと面倒くさいなぁ…」

「はぁ?」

「行きます」

 ミャンはそそくさと離れて行く。


「私は?」

「リアンは座っていいよ」

 ウィルがそう声をかける。

「怪我はしてるんだし」

「そう…だよね」

 彼女は肩身が狭い思いをすると思うが、何もできない。


 ミャンの竜を二人のそばにおいて水辺に向かう。


「ここか」

 小さな水たまり。それが湧き溢れて東側に流れ出ている。

 その先は分からない。


「よく頑張ったね」

 竜に声をかける。

 竜はガブガブと水を飲み始めた。

 飲んでる間に足の鎧と兜を外す。


 竜の弱点は鱗がない足首から先や腕、頭と顔だ。

 そこを覆う専用の鎧がある。

 

 鎧を外して、水をかけてやる。

 足首を触る。やっぱり熱くなってた。

「今日はもう動かないから、安心しな」

 そう言いながら、顔にも水をかける。

 鞍も外したいが、念の為に付けておく。


 あたしも飲まなきゃね。

「ふぅ…」

 と、息をついた。

 その時…。

「痛った!」

 何かが頭に当った。

 慌てて剣に手を添える。

 耳を澄ませ、周囲を警戒する。が、特に変わった様子はない。

 それに竜は無警戒だ。

「なんなの?」

「クア」

 竜があたしの足元を見てる。

「どうしたの?…これは…クルミ?」

 足元にクルミが落ちていた。さっきはなかった。

「どこから…あ」 

 頭上を見る。クルミは上から降って来たんだろうけど、枝しか見えない。

「何か分かるかい?」

 竜に話しかける。

 竜も見上げるが、首を捻る。

「クゥ」

「あんたが警戒してないってことは敵じゃないんだろうけど…まさか、妖精?」

 妖精だとして、あたしに落とすのは勘弁してほしいね。びっくりするじゃないか。

 周囲を見つつ、クルミを拾い、竜の兜に入れる。 

 そして、エレナから借りた竹製の水筒に水を入れて戻った。


 ウィルとリアンの所に戻ると、焚き火が赤々燃えていた。

「ほら、水だよ」

 リアンに水筒を渡す。

「ありがとう」

「ウィルと二人で飲んでね」

「え?あ、うん…」

「何?」

「ううん、何でもない」

 少し慌ててる様子。まあ、いい。


「ミャンが戻って来ないよ」

 どこまで行ったんだか…。


「おまたせ~」

 戻ってきたね。

「いや~。これしか獲れなかった」

 外套にくるまれた物。

「山ぶどうとハスカップだよ」

「良いじゃない」

「あたしはこれ」

 兜に入ったクルミを差し出す。

「ヴァネッサが採ったの?」

「いや、上から降ってきた」

 上を指差す。

 全員が上を見る。

「そんなわけないじゃない」

「妖精だ…」

 ミャンが呟く。

「多分…そうとしか考えられないね」

「見た?見たの?」

 リアンか興味津々に訊いてくる。

「見てないよ」

「なんだ…」

 彼女は残念がる。

「妖精かどうかは分からないが、ありがたくいただこうよ」

「そうだね」

 

 ミャンが竜に水をやった後、町で買った物と収穫物で夕食となった。


「美味しくない…」

「我慢しなよ」

 カチカチに硬いパンをミャンは睨む。

「エレナの話で興味あったけど…パンていうよりビスケットね」

「ビスケットにしたってまずいよ」

 サクサクではなく、ガリガリかな。

 水飲みながら食べる。

「僕は久しぶりだから、少し懐かしく思う」

「あたしも野戦訓練や任務でよく食べたよ」

 まずくても食べれるってだけで安堵感はあった。


 夕食が終わって雑談。

 雑談の内容が森の事やミャンの事に変わって行く。


「ミャンがいた村が森の東側にあるんだって」

「そうなの?」

「うん…」

「寄って行こう。家族が…」

「もういないから…」

 普段、明るい性格の彼女が暗い顔を見せる。

「どうして?」

「うん…村は病気が流行ってみんな…ほとんど死んじゃったから…」



Copyright(C)2020-橘 シン

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