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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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62/102

5-10


 町のはずれ。ミャンとリアンまですぐの所まで来た時…。

「おーい、待ってくれよ!…なあ!…」

 後ろから声をかけられた。

「ん?あの人は…」

「あいつ!…」

 一番最初に鱗を売ろうとしが、断った奴だ。


「はあ、はあ…ちょっと待って、くれよ…」

「なんか用?あたしら急いでるんだよ」

 冷たくぶっきらぼうに言い放つ。

「ヴァネッサ、言い方…。どうしたんですか?」

「やっぱり買う、買うから…買わせてください」

「あんたね、断っておいて今更なんなの?」

 あたしは商人の胸ぐらを片手でつかんで持ち上げる。

「馬鹿にしてんの?」

「してません、してません。ごめんなさいぃ、鱗買いますから、ほら」

 お金が入ってるであろう革袋を見せる。 

「一万で買いな」

「一万…」

「文句あんの?散々、時間とっておいて、買わない。で、今度は買います?」

 もう片手で剣を少し抜く。

「ひぃっ…]

「ヴァネッサ、強迫だってそれ…」

 ウィルはため息とともに頭を抱える。

「買ってくれるよね?」

 笑顔で話しかける。

「はい…買いますぅ…」

「だったら、金を数えな」

 手を離し商人を落とした。

「…痛てぇ」


 商人とウィルが金を数えてる間、周囲を警戒する。

 ミャンとリアンはこっちに気づいてる。

 もう少し時間がかかるとサインを出しておいた。


 金を数え始めてから、少しして周囲の空気が変わったことに気づく。

 なんだ?

 視線を感じて、目を向けるが、顔をそむける。

 一度や二度じゃない。

 女が剣をぶら下げてるのが、珍しいのか?。

 竜に乗ってるミャンの方がよっぽど珍しいと思うけど…。


「なあ。あんた達、これからどこ行くんだ?」

「ちょっと…遠出だよ」

 ウィルには行き先をベラベラしゃべるな、と言ってある。

「無駄口叩いてないで、さっさと数えなよ!」

「怖えな、あんたの連れは」

「あはは…」

 

 なんか嫌な雰囲気だね…。


 周囲の人は商人、町人に見えるが…。

 ピリピリとした何かを、あたしは感じていた。


 ミャンに向かって、警戒するようサインを出す。

 彼女は頷いて、竜をリアンが乗る竜にぴたりと近づけ、周囲の警戒する。


「あんたは、竜騎士なのか?」

「は?…何で、あたしが竜騎士だと思ったの?」

 こいつの前で竜には乗っていない。

「いや…少し剣が長い気がしてさ」

 確かに竜騎士が使う剣は長い。

 竜の乗った状態で使う事を想定しているから。その事を知ってるのは奴は少ない。

 この商人が知ってるのは、自分で調べたのか?…。

「剣が長いからって竜騎士とは限らないと思うけど」

「そうなのか?この辺いる竜騎士といったらシュナイツらしいし、そこには女の竜騎士がいるって聞いたぜ」

 聞いた?。

「誰から聞いた?」

 商人の胸ぐらをつかむ。

「だ、誰でもいいだろ…」

 目を泳がせる。

「じゃあ。何時、聞いたの?」

「さあ…」

 なんなの…。

「で、竜騎士なのか?」

「あたしは確かに竜騎士だけど、それがあんたに何か関係あんの?」

「べ、別に関係ないけど…ちょっと気になっただけだよ…ははは…」

 そう言って自分の後頭部に手を当てる。

 その瞬間、周囲の奴らが動き出す。


 こちらに近づく者。馬に乗り込む者。

 全員があたしを見てる。

 

「ヴァネッサ…」

 ウィルも異変に気づいたのか、立ち上がる。

「狙いは、あたしか…」

「君?なんで…」

 

 狙われるのはウィルだとばかり…。

 あたしミャンを殺れば終わりだからね。

 竜のそばにいないあたしを狙いを定めたと。


「ウィル、金を持って」

「ああ」

 革袋を持って抱える。

 囲まれる前に竜の所に行かないと。


 賊は状況を見つつ、近づいてくる。

 商人を離し、剣の柄を握った。

「すまねぇよ…賊に小遣いやるからって言われて…悪気はないんだ」

 商人は腰を抜かし、懺悔する。

「今更、言ってんじゃない!鱗持って、どっか行きなよ、ほら!」

 ケツを蹴り上げる。

「痛え…」

 商人はよつん這いで逃げて行った。


「ウィル、合図したら竜まで全力で」

「分かった」

 あたし達の後ろは山の斜面で誰もいない。

 ミャンとあたし達の間にも賊はいる。


 ミャンはあたしを見てる。短槍の鞘を取っていた。

 リアンを守っているから、こっちには来れない。リアンはこっちを見てるだけ。

 竜もこっちを見てる。

見るからに敵意むき出しだ。こっちには来るんじゃないよ…。リアンを預けてんだからね。

 と、思ってたらミャンが竜を降りた。

「何やって…」

 彼女はこぶし大の拾ってぶん投げた。

 彼女の一番近づくいた賊に綺麗に当たる。

 当てられた賊は声も上げずに蹲った。

 それに賊の注意が行く。

「今だよ!」

 ウィルとあたしは竜まで走り出す。


 あたしの前に賊が立ちはだかる。

 剣を抜こうするが、遅い。

「どけえ!」

 体当たりで突き飛ばす。

 

 賊が追ってくる。

「早くっ!」

 ミャンが叫びながら、また石を投げる。それがあたしの顔、ギリギリの所を後ろに飛んで行った。

「うがぁっ!…」

 そんな声が後ろから聞こえた。


「ウィルほら!」

 彼の背中を押す。

「はあ、はあ…」

 もう少し…。

 竜の所まで長く感じる。

 リアンの不安な目があたしを見てる。

「ヴァネッサ!追いつかれる!」

 彼女の叫びで、竜の足下につま先から滑り込む。賊の剣があたしを頭の上をかすめていく。


「グアアアッ!!」

 竜が雄叫びが周囲に響き渡った。

 すぐに起き上がって、近くにいた賊の股間を思いっきり蹴り上げ、蹲ろうする所を髪を掴み、顔に膝蹴りを入れる。

 その間、竜は叫び、威嚇しつづける。

 賊達はびびって近づいてこない。


「乗ったかい?」

「ああ、いつでも」

「よし、行くよ」

 あたしも竜に飛び乗る。

「って、どっちに行くのさ?」

「森に行く」

 東に行きたいが、町中を通らないといけない。でも人通りが多い。  

 西はポロッサから来る人でそれなり多い。

 被害は出したくないし、目立ちたくない。もう十分に目立てるけどね。


「ミャン、あんたの庭なんでしょ?案内して」

「庭?どういう事?」

「説明は後!しっかり捕まっててよ。さあ、行けぇ!」 

 ウィルが彼女は訊くが構わず走り出す。 

「うわぁ!」


 賊を竜で突き飛ばし、人の間を縫って町の南側へ。

 小さな草原の向こうが森だ。

 

 賊が馬三頭で追って来てる。

 あまり差が広がらない。こっちは怪我人付きだからね。


「このまま速度を落とさないで森へ入れ!」

「行っちゃうよぉ!」

「危ないって!…」

 ウィルはミャンに抱きつく格好だ。


「森の中、暗いわ」

「分かってるって、口閉じてな、舌噛むよ」

 薄暗い程度なら問題ない。真っ暗なら速度落とさないといけない。


 森へ入る。

 木々の間を縫うように走り、奥へと入っていく。

 

 枝が危なそうだったから、リアンにフードを被せた。


 ミャンは迷う様子なく走り続ける。

 彼女は振り向いて、笑顔で親指を立てた。

 あたしは頷き返す。


 賊はまだ追って来てる。

 だけど、差はどんどん広がってる。


 しばらく走って、もう一度振り向いたら賊は見えなくっていた。

 巻いたか…。まだ分からない。

「ヴァネッサ!」

 ミャン?

 彼女からサインが送られてくる。


 この先、急斜面…?。

 あたしには平坦に見えるけど…下り斜面か。

 ミャンにサインを返した。

 それも見た彼女は不敵な笑顔を見せる。

 大丈夫かな…。

 

「リアン、大きく飛ぶからしっかり捕まってるんだよ!」

「え?飛ぶってどこに?」


「おほおおぉ!」

「うわああぁ!」

 前を走ってたミャンの竜が飛び、斜面を落ちていく。


「嘘でしょ!?」

「行っけぇ!」

 斜面直前で飛び上がる!。

 一瞬の浮遊感からの急降下。

「ひいぃ…」

 リアンを抱き支えつつ、斜面に降りる。そのまま滑り落ちていく。

「踏ん張れ!」

 竜が足の爪を立てて、減速していく。

「クア!」

「よぉし…」

 止まったと同時に竜を降りる。

「ミャン!」

「はいはい」

 ミャンは竜を降りて、飛び降りた斜面を駆けあがる。

「ウィル、こっち来て。リアンのそばに」

「ああ…」

 呆然とした表情でこっちに来る。

「シャキッとしな。まだ追手いるかもしれないんだよ」

「分かった」

 二人と二頭を残し、あたしも斜面を上がる。


 なかなかキツイ斜面だ。

 斜面を登りきって、茂みからそっと顔を出す。

「はあ、はあ…ミャンどうだい…」

 彼女は髪をかきあげ、猫耳を出す。そして目を閉じ、耳を澄ます。

「どれどれ…」

 

 ミャンの猫耳はこういう時に役に立つ。


 ウィルとリアンを斜面から見下ろす。

 竜は周囲を警戒中だ。

 ウィルがあたしを見上げる。

 あたしは彼に向かって 自分のこめかみを押さえてから周囲を指差した。

 これは、周囲を警戒しろってサインなんだけど、伝わったかな?。

 ウィルは頷いて、周囲を見回す。

 伝わったみたいだね。


「ミャン、どう?」

「いないね」

「ほんとかい?」

「何も聞こえないよ。聞こえるのは小動物と風のざわめきだけ」

「そう…」 

 あたしはふぅっと息を吐いた。

「ったく、もう…」

 少しずり落ちて斜面に寝る。

「やっぱり森の奥へは来たくないみたい」

 よかったよ…。


 あたしは起き上がって、斜面を降りていく。

 その間に賊に対する怒りが湧いてくる…。


「やってくれるじゃないか…あたしの予定を潰してくれるなんてさ…はは…」

「ヴァネッサ?」

「ああっもう!!」

 近くの木の幹に拳を叩きつける。

 幹に拳の後が残った。

「うわぁ…」

 ミャンが引いてるが、構わず剣を抜き、拳を叩きつけた木を切り倒す。

「はああっ!」

 木が大きな音を立てて倒れた。

 剣を軽く一振りしてから、鞘にゆっくりと収める。

「ふぅっ…」

 振り返るとリアンとウィルは真顔で、みゃんは笑ってた。

「あたしの顔になんか付いてる?」

「い、いや…何も…」

 ウィルは苦笑いを浮かべる。

「ヴァネッサ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。あんたは?」

「私は大丈夫…」

 そう、よかった。顔が白いけどね。


「ミャン、案内して。できるだけ安全な所。水辺があれば尚良し」

「だったら、御神木のそばだね。こちらになりまぁす」

 彼女の先導で森のさらに奥と進んで行った。


 

Copyright(C)2020-橘 シン

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