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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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60/102

5-8


 外に出た所で警備隊の騎馬隊から挨拶を受ける。

 名前はおぼえてないね。


「誰か怪我をされたとか…」

「いや、大丈夫だから」

「そうですか」

 それから、二、三言話してあたしは詰め所を囲む柵に近づく。

 柵の内側からは外が見える。

 あたしが見てるのは南向き。

 大きくて深い森が見える。


 北の深き森。そう呼ばれている。

 

 見てる分には壮大で威厳があるが、入りたいとは思わない。


 ほんとにどうするか…。

 リアンの事を考えれば、シュナイツに帰るのが一番なんだろうけど。


「ヴァネッサ~」

「ミャン」

 ミャンがグレムが作った朝食を持って来た。

「リアンとウィルにも…」

「あげたよん」

「そう…二人はどうだった」

 朝食にかぶりつく。

「なんか、いい雰囲気じゃないね」

 だろうね。

「リアンの怪我は大した事ないんだってね」

「とりあえずはね」

「で、この先どうすんの?」

「うーん…リアンは王都に行きたいてさ」

「マジ?あの足で?」

「ああ。ウィルは帰ろうって」

「ほうほう…でも崖崩れしてるよ」

 ミャンは朝食を食べ終えてた。

「分かってるよ。だからどうするか考えてる」

 朝食を食べながら、考え巡らす。


「おお!懐かしい~」

「は?」

「あの森だよ」

 ミャンは森を指差す。

「アタシがいた村は森の東側の端っこにあったんだよ」

「へえ~」

 ん?あった?。

 彼女は柵に顔を付け森を見つめる。

「森の中でよく遊んだ」

「ほんとかい?迷ったりしないの?」

「ないって、そんな事。アタシにとっては庭だよ」

 ミャンはそう言って笑う。

 庭ってなんていう広さじゃないけど…。

「普通は怖がって誰も入らないね。アタシとばあちゃんくらいだよ」

「賊がいるんじゃないの?」

「賊もいないよ。見たことない」

「へえ」

 賊さえも寄りつかないとはね。

「分かってないと、迷って死ぬこともある」

「ほんとに?」

「ほんとだって。たまに死体あったり。だけど、アタシは大丈夫」

 自信満々に胸を張る。


「中央から少し西側に御神木って、でっかい木あるんだ。あそこには妖精族が住んでるって、ばあちゃんが言ってた」

「妖精族ね…」


 妖精族とは、手のひらほどの大きさ。

 半透明の光る羽を持ち飛ぶ事ができるらしい。

 昔は、よく見かける事もあったが、前戦争以降、非常に少なくなっていく。


 あたしは見たことないんだよね。


「あんた、見たことあるの?」

「ない。けど…なんかいるなって雰囲気というか気配みたいな」

「小動物と勘違いしてんじゃないの?」

「うーん…違うなぁ」

「そう…」

「ばあちゃんは見たことあるらしいんだけど、あんまり教えてくれない。すごく神聖なものだから探したり捕まえたりなんて、ゼッタイにダメだ!って言ってた」

 神聖ねぇ…。

 妖精族がいる森自体が、神聖というか畏怖を感じる気がする。


「で、どうすんの?」

「え?ああ…」

 あたしは座って柵に背中を預ける。

「リアンはどうしてそんなに行きたいんだろうね」

 ミャンもあたしと同じように座った。

「さあ…」

 半分くらいはあたしが、やり遂げろ、なんて言ったからじゃないかな。

 あとは意地か?。


 何にせよ、決断しなければならない。

 行くにも帰るにも厳しく、覚悟がいる…なら、王都へ行くか。

 迷ったら、前へ出ろ。なんてシュナイダー様は言ってたね。

 王都へ行く事が、前なのか後ろなのか…少なくても後ろじゃない。

 

 あたしは立ち上がる。

「お?決めた?」

「王都へ行くよ」

「帰らないんだ」

「あんたは帰りたいの?」

「アタシはどっちでもいい」

 そう言って、ミャンも立ち上がる。

「ウィルにはなんて言う?」

「別に何も。あいつはあたしの指示に従うって言ってるし」

「そうなんだ」

 今のウィルが素直に従うとは思えないけどね。


 リアンに言う前にウィルを呼び出して、王都へ行く事を伝える。

「…」

「なんか言ってよ」

「薄々、そんな気がしてた…」

 ウィルはため息を吐く。

「なら、いいんじゃない?」

「良いわけないだろう。リアンにこれ以上、危険な目に遭わせたくない」

「それはあたしも同じだよ」

「だったら…」

「だいじょぶだって」

 ミャンが笑顔でウィルの肩を叩く。

「どれだけ、楽観的なんだよ。君は…」

「なるようにしか、ならないから。ダメな時は何やってもダメ」 

 ミャンのいう通りだったりする。

「あんたが言うのはどうかと思うけどね」

「アタシが言うんだから、間違いない」

 彼女は腕を組んで頷く。

「運が悪かったんだよ。ここから運がよくなる」

「運任せじゃないか…。じゃあヴァネッサ、どういうルートで行くのさ?ポロッサからリカシィ経由?」

「いや。東の街道へ行った方がいいんじゃないかなって、あたしはね。東の街道まで出れば、町は点在してるしそれなりに大きい。竜の鱗も高く売れるかもしれないし」

「なるほど…」

 ウィルは顎を触りながら考える。

「ポロッサからリカシィの間は農村だけで道からはずれてるし…東の街道か…分かった。東の街道へ行こう」

 ルートは決まった。


 詰め所の出発したのは昼前くらい。

 先生からはドス黒い薬とあて布と包帯をもらった。

「いいんですか?」

「ここで使うかどうか分からないし、一番使わないといけないのは彼女だ。それに比較的手に入りやすい物だから、気にする必要はない」

「はい。ありがとうございます」

 

 騎馬隊が下の町まで同行すると言ってくれたが、断った。

 シュナイツ側より山深くないから。

「そうですか。ではお気をつけて」

「ありがと。突然来てすまなかったね」


 詰め所を出て、少し下ってつづら折りの道に入る。

 道はシュナイツ側ほどキツくない。でも、注意はしないといけない。


 ミャンの竜を先に行かせ、あたしは後ろからついていく.。


 リアンは後ろに乗せず、前に乗ってもらった。

 あたしは後ろに乗って、左腕でリアンを支え、右手で手綱を持つ。


「リアン。ちょっと訊いていい?」

 前にいるウィルはミャンに聞こえないよう小さな声で話しかけた。

「なに?」

「どうしてそんなに王都に行きたいの?」

「どうしてって…別にいいでしょ」

「怖い思いまでしてまで、行く理由が分からないんだよ。あたしは」

「…」

 リアンは黙ったまま。

「あたしやウィルがいなくなって不安だから?」

「別に平気よ。あなた達がいなくても」

「じゃあ、何なの?王都に行ったことはあるよね?」

「あるわ。数えるくらいだけど」

 王都に一度も行ったことなくて、行きたい。というわけでもない


「…私は、何もしていないから…」

 リアンはボソリと呟く。

「は?いや、あんたはちゃんと自分の仕事してるでしょ」

「してる。してるけど、今までと同じ」

 彼女は小さな声で続ける。

「ウィルはすごくて、仕事覚えるの早いし、剣術まで習い始めた」

 全然、上達しないけどね。

「この前なんか畑仕事まで手伝って」

 あたしは正直やめてほしかったけど、ガルドが護衛の訓練になるって、ミレイ達を連れて行った。あたしは警備通路から見てるだけ。

 

 護衛に関しては一応教えてる。

 兵士相手に護衛訓練はしたけど、あくまでも訓練。

 実際に要人(今回はウィル)を護衛する機会を得た事はまあ、よかったと思う。

 護衛される本人はあまりいい顔してなかったね。


「領民達ともよく話すし」

「あんただって話してるでしょ」

 たまにくる急病人に見舞う姿をあたしは見ている。

 自分から行く事はないかな。

 基本的に敷地の中だし。

 

 ウィルは元商人だから、そのへんは慣れていて…相手との距離感が分かってる。

 兵士、使用人、領民と別け隔てなく話している。


「あなたやライア、エレナやミャンもちゃんと隊長としてやってる。オーベルも先生も料理長もがんばってる。でも、私は…」

「あんたが何もしてないなんて誰も思ってないって」

「そうかもしれないけど…」

「だから、あんたは王都に行って、自分ができる事を証明したかったの?」

 リアンは頷く。

「バカだね、あんたは…」

 あたしは右手でほんの軽くリアンの頭叩いた。

 手綱を持ってままだったから、竜が立ち止まりこっちを向く。.

「あんたじゃないよ」

「クァ?」

 竜は首を傾げた後、また歩き始める。


「矢までもらって、それでもあんたは…」

 あたしはため息を吐く。

「ごめん…でも、ここで帰ったら、すごくかっこ悪いから…」

 かっこ悪いなんてことも誰も思わないよ。

「護衛する身にもなってほしいね。あんたが男だったら引っ叩いてるよ」

「いいよ。叩いても…」

 強気だねぇ。

「あんたを叩くと、今度はウィルがへそ曲げるから」

「ウィル…」

 リアンは視線は、前を行くウィルの背中


「ウィルにも謝らないと」

「そうだよ。ウィルはあんたがシュナイツにいるとシュナイダー様の事を思い出すんじゃないかって。だから、気分転換にシュナイツを出て違う景色を見てもらいたいって言って、あたしになんとかならないか、そう持ちかけてきたんだよ。ウィルはあたしと同じくらい、いやあたし以上にあんた事考えてるんだから」

「そう、なんだ…ウィル…私…」

 リアンは口元と片手で押さえ俯く。泣いてるのか。

 嗚咽の漏れないよう必死に我慢する。


 ウィルが振り向き、こっちを見た。明らかにリアンの異変に気づいてる様子。

 あたしは人差し指を口元に立てて、首を横にふる。

 何か言いたそうな表情だったけど、頷いて前を向いた。


「リアン」

「うん…」

「みんな、心配するのはあんたの事知ってるからなんだよ。あたしを含めてね。シュナイダー様は見守るだけって言ってたけど、弱いあんたにどうしても手を差しのべてしまう」

「うん…分かってる。すごく感謝してる」

「フリッツ先生は逆に気を使いすぎだって怒るけどね」

「それも分かってる。私の為だって」

 リアンは涙を拭う。

「だから、私は王都に行って、弱い人じゃないんだって事も、証明したいの」

 リアンなりにちゃんと自分の事を考えていた事は分かった。(トラウマは別として)

 ただ、ちょっと急ぎすぎただけ。


「分かったよ。王都には必ず行くから、泣くのやめな」

 リアンを片腕で抱きしめる。

「ごめんね…守れなくて…」

 そう耳元で囁く。

「あなたのせいじゃない…それくらい分かってるんだから」

「ありがと…」


 抱きしめた腕を解く。

「ウィルが気がついてるよ。多分」

「嘘でしょ?やだ…」

 彼女は鞄からハンカチを出して涙をしっかりと拭いた。


Copyright(C)2020-橘 シン

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