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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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58/102

5-6


「アリスとジル、それからガルドを呼んできて」

 三人に状況を説明。

「…ということだから、南の山を越える」

 あたしの部屋にいる全員に宣言する。

 サムからの報告では崖崩れは起きていない。

「また大胆な事を。隊長らしいといえばらしいですけど」

「ガルド、褒めないでくれる」

「褒めてません」

 彼は眉間によせる。


「南の道は厳しいじゃないかな?雨でぬかるんでるよ、多分…」 

「ぬかるみなら竜で行ける。問題ないよ」

「やっぱり数日待って…」

「晴れるとは限らないからね。行ける時に行きたい」

「うん、まあそうだね…」

 ウィルが不安視するのは当然。


「あたしを信じられない?」

「そんな事はないよ。ほら、僕とリアンは竜に不慣れだから…」

「それは竜を信じてもらうしかないね…」

「うん…分かったよ」

 なんて無理な事を言ってるだろうね、あたしは。

 ウィルは竜騎士じゃないのに…。


「一番キツイのは南の山を越えるまででしょう。後は地形的に厳しくはない」

 ガルドがウィルに話す。

「最初が山場か…後は楽になると」

「はい。ここは気合いを入れて一気に越えてもらうしか…」

「そうするしかないみたいだね。すまないヴァネッサ、余計な事を言って。君に従うと言ったのに」

「別に構わないよ」

 あたしは笑顔でウィルの肩を叩く。

 実はあたし自身が不安だったりするけど、それは表にはこの場では出さない。


「ウィル達は先に行って準備して」


 ウィル、リアン、ミャン、エレナには鞄を持って先に厩舎に行かせた。

 レスター、ガルド、アリス、ジル以外を退出させる。


「知りませんよ」

「分かってるって」

 ガルドは盛大にため息を吐く。

「どういう策で行きます?」

 レスターはガルドの叩きながら話す。

「この四人で山の尾根にある警備隊詰め所まで護衛するってことでしょ?」

「まあね」

 あたしは四人を見回す。

「まずアリスとジルが先行して露払い」

「はい」

「分かった…分かりました」

 二人が頷く。

「レスターを先頭にミャン、あたしで…」

「俺が殿(しんがり)ですね」

「そう。尾根まで登ったら詰め所まで全速力で突っ走る」

「了解」

 レスター、ガルドが頷く。


「アリスとジルは詰め所まで来なくていいから。レスターとガルドの退路を確保して」

「はい」

「こんな感じかな。後は状況に応じて臨機応変に」

 全員が大きく頷く。


「アリス、悪いね。夜勤明けだってのに」

 彼女の肩に手を置く

「大丈夫です。まだ、太陽は低いから行けます」

「そうだね…。帰ってきたら、約束通り体術の相手してあげるから」

「はいっ」

 笑顔で返事をする。


「じゃあ、行くよ。とその前に…」

「なんです?」

「ガルド。あんたさ、ショートソード持ってたよね?」

「ええ、持ってます」

「ウィルに貸してあげて。本人は嫌がるかもしれないけど」

「嫌がるも何も必要でしょう」

「そうだよ。だから、無理やり腰に付けてやって」

「分かりました」

 ガルドはしっかりと頷く。

「じゃあ、改めて」

 あたしは拳を前に突き出す。その拳に他の四人も拳を突き出し合わせる。

「悪いけど…」

「謝るのはやめてください。ヴァネッサ隊長が決めた事です」

「覚悟はとっくにできてる」

「お任せを」

「がんばる…絶対」 

 四人の言葉はあたしを心強くしてくれる。

「ありがと…。よし、行くよ!」

 気合いの言葉とともに部屋を出た…。


 出たのいいけど、廊下にオーベル以下メイド達がずらりと並んでいる。

「オーベル、なんなのこれ?…」

「お見送りです。外では出来ないそうなのでここで」

「あたしにはいいよ」

「ウィル様とリアン様にはしましたから、ついででございます」

 彼女は笑顔で言う。

「ついでね…」

 レスターが後ろで笑ってる。

「行ってくるよ」

「いってらしゃいませ。お早いお帰りを」

 オーベル達に見送られ、一階へ。


「今度は何?…」

 料理人たちと先生たちが並んでいる。

「あんた達も見送りかい?」

「シュナイダーが出掛けて行った時の事を思い出すな」

 フリッツ先生が懐かしげにいう。

 シュナイダー様は照れていたけどね。


「ヴァネッサ隊長、これを持っていってください」

 グレムが布に包まれ物を差し出す。

「これは?」

「朝食ですよ」

「わざわざ作ったの?」

「わざわざも何も、シュナイダー様の時も作ってましたから」

 あの時はこんな早い時間帯の出発じゃなかった。

「そう…だったね。ありがたくいただくよ」

「幸運を」

「ああ」

 グレムと握手して外へ。アリスとジルは館の入口付近に待たせておく。


 ガルドは宿舎、あたしとレスターは厩舎へ向かう。

 厩舎には竜が準備万端。

 ウィル、リアンは緊張した顔つき。ミャンはいつも通りだね。

「グレムが朝食を作ってくれたよ」

「ほんと?アタシは朝食はどうするのか、ずっと考えてた」

 ほらね、いつも通り。

「だろうね。あんたの鞄に入れて」

「はいはーい」


 ウィルとリアンはフード付きの外套。ふとももくらいの丈。

 あたしとミャンは同じ感じのものだけど、丈は腰くらい。ケープと言ったほうがいいかも。

 そんな出で立ち。


「いよいよ、行くんだね?」

「ああ、行くよ。けど、ちょっと待って」

 ガルドがショートソードを持ってきた。

「ウィル様、これを持っていってください」

「剣?いや、僕は…」

「頼みます」

 ガルドは半ば強引に、ウィルの付け始める。

 

 剣はベルト、鞘とかと繋がっていてセットになっている。ベルトは腰に巻く。

「この剣は、シュナイダー様にもらった物なんです」

「シュナイダー様に?そんな大事な物…」

「いいんです。シュナイダー様は剣をいくつも戦争で折ったんですが、これだけは折れずに戦い抜いた幸運なやつなんですよ」

「だから、僕に持てと?」

「そうです。いうほどいい剣でもないんですよ。刃こぼれは何箇所もあるし…と、これでいいです」

「そうは言うけど…シュナイダー様の物だったんだろう?…」

 ウィルはあたしを見るけど、何も言わず肩をすくめるだけ。


「分かった…必ず返すから」

 ガルドは頷いて、自分の竜へと向かう。

「さあ、乗って!」

 各自、竜に乗り込む。


 あたしは乗る前に竜に跨ってるリアンに声をかける。

「リアン、いいね?」

「ええ…」

 強張った表情。怖いはず…でも、行かないとは言わない。

「敷地を出たら、フードを被って、あたしにしっかり掴ってるんだよ」

「うん…はい…」

 あたしはリアンの手を強く握る。彼女は両手で握り返してきた。

 リアンはそっと手を離す。

「行きましょう」

 リアンの言葉で、あたしは竜に乗り込んだ。


「ウィル様、リアン様。いってらしゃいませ。どうか道中お気をつけて…」

 シンディがそう声をかける。

「いってきます」

「業務は滞りなく処理おきますので、ご心配なく」

「ありがとう。僕の分も残しておいて」

「私の分はいいからね」

「はい」

 シンディは丁寧に頭を下げる。


「いってらしゃいませ。無事をお祈りしております」

 アルも頭を下げてる。


「それじゃ、あんた達頼んだよ!」

 厩舎のそばに整列してる竜騎士隊に声をかける。

「ヘマなんかしてたら、ケツを蹴り飛ばすからね!」

「はい!」

 返事とともに敬礼をする。

 いつもふざけてるサムもこの時は真面目だ。

 隊員達と拳を合わせる


「こちらは任せてくれ。くれぐれも気をつけて」

「崖崩れは早急に直しておく。ご無事で」

「ああ、ありがとう」

 ライア、エレナとも拳を合わせた。


 厩舎を出る。

 ミャンが槍兵隊に自分の短槍を掲げ振っている。槍兵隊もそれに答えていた。

 あたしはアリスとジルにサインを出す。

 二人は頷き、南の防壁へ走り出した。

「ヴァネッサ、二人は何を?」

 ウィルがアリス達を見ながら尋ねる。

「二人には斥候に出てもらう」

「そう」

「レスターが先導するから、ミャンは続いて」

「オッケー」

 ミャンに続いてあたしが行く。


 門から出る。ここからが本番。

 出たら東へ。敷地の西側を通って南の草原へ向かう。


 西側の警備通路に兵士達がいる。

 手を振ったり、敬礼してたり、拳を上げたり。

 ウィルとリアンは手を振り答える。

 明らかに兵士の人数が多い。


「バカ野郎!目立つだろうが!」

 あたしの右後方にいるガルドが、叫びながらサインを送ってる。

「もういいって」

「ですが…」

 ガルドは少し苛立っていた。

 見送りたい兵士達の気持ちはわかる。


「草原へ出たら速度を上げるよ」

「うん!」

 南の草原は牛や羊なんかを放牧している。今は早朝だからいないけど。

 水たまりがあちこちにできてる。

 前を走るミャンの竜が跳ね上げた泥水が、あたしや竜にかかった。

 顔を拭いながら走りつづける。


 顔をかかる程度なら、何の苦にもならない。

 土砂降り中を走った事もあるからね。


 草原を一気に走り抜けて、山すそに到着。

 ここからは山道。

 林の中につづら折りの道がある。いや、道らしきと言った方がいいね。

 雨が上がって間もないため、雨水が流れ落ちている。


「アリスとジルがいないけど…」

「上でしょ」

 見上げて林の中を見るが、姿は見えない。


「レスター、行って」

「はい」

 レスターを先頭に山を登る。

 

 やっぱりぬかるみが酷い。

「うぉっと!」

 ミャンの竜がバランスを崩すが、なんとか立ち直った。

 もし、バランスを崩して転んだら下まで転げ落ちる。大怪我では済まないかもしれない。

「ミャン!しっかりしなよ!あんたが下手したらウィルが怪我するんだよ!」

「わーってるって」

 見ていてヒヤヒヤする。

 明らかに不慣れな乗り方だ。

 人選ミスったか?…今さらか。

 ミャンがもう少し竜の訓練していてくれれば…。


「ウィル!下を見るんじゃない!視線上げて!」

「ああ!」

「リアン、あんたもだよ」

「うん!…」

「山の方に顔向けて」

 リアンはあたしにしっかり抱きついている。

 その手を軽く叩く。

「もう少しだから」

「うん…」


 多分、八分まで上がった所で、上から笛の音が聞こえた。. 

 見上げると、レスターが手を振ってた。

 彼からサインが送られてくる。


 敵排除 完了 障害なし


 アリスとジルに敵う賊なんていないから、当然。

 レスターに手を振り返す。

 

 リスクを潰せたのはいい事。 

 

 山道を登りきった所で休憩。

 あたしは竜を降りて、少し前の茂みの後ろから監視シているレスターの横につく。

「どうだい?」

「とりあえず、この辺の賊は一掃出来たと思います」

「そう。アリスとジルは?」

「もう少し前の方で隠れてます…多分。分かりませんけど」

 レスターは苦笑いを浮かべる。

「相変わらず、気配消すのうまいねぇ」

「ですね。ここからは警備隊の詰め所まで駆け抜けるんですよね?」

「そうだよ」

 

 警備隊の詰め所は尾根の南側でここからは見えない。

 向こうまでは林。見晴らしがいいように間引くように木を切ってはある。けど、広範囲ではない。

 一応、道はある。

「獣道ですね…」

「道になってるだけ、まだマシだよ」


 整備しないとすぐに草に覆われる。

 定期的に警備隊の詰め所とシュナイツを行き来したほうが良さそうだね。

 それはさておき…。


「見つめていても仕方がない」

「行きますか?」

「行きたくないけどね」

 あたしは竜の方へ戻った。


「大丈夫かい?あんた達」

「僕は大丈夫だよ」

「私も大丈夫…怖かったけど」

 ウィルとリアンは多少青ざめるていたかな。

「上等」

「アタシは…」

「あんたは大丈夫でしょ?」

「まあねぇ~」

 ミャンは笑顔。


 竜に乗り込んで、たてがみを撫でる。

「頑張っておくれよ」

「クアァ」

 大丈夫、いける。鳴き声で調子はわかる。


 レスターに指示を出す。

 彼は一気に走り出した。それに続いてミャン、あたし、ガルドが続く。


 走り出してすぐにジルに気づく。

 お互いに手を上げてそのまま走り去った。


 まだ上り坂。もう少しで峠だ。


「ミャン!速度上げて!」

「これ以上無理だって!二人乗せてんだよ?」

「こっちも同じだけど、あんたを追い越せるよ!」

 

 レスターが時々振り返り速度を合わせてる。

 ガルドはあたしの右後方。周囲を警戒してる。


 このあたりが峠。詰め所までもう少し。

 と、思った矢先。

 左手前方で何か動いた気がした。

 直感で、これはまずいと思った時にはもう遅い。


 左手から矢がいくつも飛んできた!。 

 

「ヴァネッサ!ヤバイって!」

「くそっ!急げ!」


 止まる事は出来ない。止まったら、だたの的だ


 待ち伏せされた?偶然か?勘がいい奴がいたか?どうでもいい。


 レスターとガルドが盾になるようにあたしとミャンの左に移動する。

 その間も矢は飛んでくる。


 あたしに抱きついているリアンの力が緩んでる.

「リアン、しっかり掴んで…」

「隊長!」

 ガルドの視線の先。

「リアン!」

 リアンの左ふとももに矢が刺さっていた。

 



Copyright(C)2020-橘 シン

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