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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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56/102

5-4


「私は馬で行くと思ってた…」

「それじゃ時間がかかり過ぎるって」

 リアンはあたしの竜の顔を撫でている。

 竜は気持ちよさそうに喉を鳴らす。


「よーし、よしよしよし…」

 ミャンは自分の竜の顔をこれでもかと撫で回してる。顔を舐められながら。

 リアンが少し引いてるよ。

「あなたはしなくていいからね」

「クアァ」

 彼女の言葉に鳴きながら首を振って答える。

 

 リアンも慣れたもんだね。

 怖がってた頃には想像もできない。


「ヴァネッサ、次は?」

「あー、この輪っかにベルトを通して…」

 ウィルはミャンの竜に鞍を付けている。本人がやらせてほしいと言ってきた。

 彼は馬の鞍は付けた事はあるらしい。一応、乗れるとも言ってる…でも、自信ないとか。馬車での移動が主だから。

 馬車用ハーネスは取り付ける事ができる。まあ、こっちは商売道具だから、当然いえば当然。


 馬の場合、腹帯一本で固定するけど、

 竜の場合、まずハーネスを付ける。繋がった輪っか二つにに両脚を通して…履かせるみたいね、で、背中で締め上げて固定する。そして鞍を付けてちゃんと固定する


「鱗に気をつけなよ」

「うん、大丈夫…っと、通したよ」

「そしたら、キツく締めて、金具で固定する」

「キツく…暴れたりしない?」

 ここでびびる奴がよくいる。

「大丈夫。ちゃんと締めないと鞍がずれたりして、あんたが落ちるよ」

「そうか…そうだね」

 

 ウィルがちゃんとできたか確認する。

「いいね。じゃあ鞍付けて」

「…これって結構大変だね…」

「ですよねー」

 そばにいたステインが頷く。

「竜騎士のあんたがそれ言っちゃだめでしょ」

「…すみません」

 

 緊急時には取り付けを手早くしないといけない。

 たまに抜き打ちでやったりする。


「隊長、終わりました」

 あたしの竜に鞍を付けていたのはミレイ。

 ミレイも当然できるけど、タンデム用はした事ないからやらせてみた。

 一人用もタンデムも大きさが違うだけで、やり方は変わらない。

「よし、いいよ」

 大丈夫だね。

 竜を座らせる

「リアン、乗りな」

「うん…」

 さすがに乗るは怖いか。

「さっさと乗りなよ。大丈夫だから」

「分かってる」


「ここです。ここに通して…」

「ここだね?」

 ウィルはステインに教えてもらいながら、取り付け中。

「こら、邪魔するなって」

 ステインの竜が鼻先で、ちょっかい出してる。

「後で撫でてあげるから…よし、これでどうだろう?」

「…いいですね。大丈夫です」

 こっちも終わったみたいだね。


 ミャンの指示で竜を座らせ、ウィルが多少躊躇しつつ跨る。

 乗る場所は後ろ、前にはミャンが乗る

(あぶみ)に足を掛けて…そう」

「馬と同じだね」

「そうだけど、蹴るんじゃないよ」

 乗り手以外が蹴れば暴れるかもしれない。

「ハンドルがあるから、それを掴んで落ちないようにバランスを取って」

「これか…」

 ウィルの股の間にハンドルがある。

 歩く速さ程度なら、ただ座っていても大丈夫だろうけど、走ってる時は揺れるからハンドルを掴んでいないとバランスを崩してしまって危ない。

 慣れればなんてことないんだけどね。

「ミャン、立ち上がらせて。ゆっくりね」

「うぃす。さあ、ゆっくり立って…」

 竜が立ち上がる。

「おっと…」

「腰が引けてるよ。大丈夫だから」

「ああ…うん…」 

 怖いのが普通か。

 

 厩舎に近い竜騎士隊の宿舎から拍手が聞こえる。

「おおおお!…」

「かっこいいっすよ!ウィル様!」

 その声にウィルが片手をあげ答える。


 見せものじゃないっての…


 竜が首を振り向けて、ウィルを見た。

「何もしてないよ。乗ってるだけ」

 ウィルは両手を見せる。

 竜は一鳴きしてから、前を向いた。

「怒ってるんじゃない?」

「怒ってないよ。誰が乗ってるか確認しただけさ」

 ウィルにはそのまま乗っててもらって、次はリアン。


 リアンは跨ったまま、体を硬直させている。

「全然平気だから…」

 平気そうな顔には見えない。

「もう少し力を抜きなって…じゃあ、立ち上がらせるよ?」

「うん、いいよ…」

 あたしは片手を手綱、もう片方をハンドルを握ってるリアンの手を掴んで、竜を立ち上がらせる。

「さあ、ゆっくり立ちな」

 竜が立ち上がっていく。

「きゃあ!」

「まだ途中だって…」

 竜が完全に立ち上がる。

「どう?大丈夫でしょ?」

「結構、高いぃ…」

 背中を丸めて怖がってる。


「おおおお!」

「さっすがリアン様!」

「大丈夫!背筋を伸ばして!」

 その声にリアンが背筋を伸ばして、片手をあげて答える。

 リアンに拍手が送られた。

 いつの間にかデッキに竜騎士以外の兵士までいるし…。

 リアンの王都行きに反対してたのに。


「きゃあ!動かないで!…」

 ちょっと揺れに金切り声を上げる。

「そんなんじゃ行けないよ…。走りだしたら、こんなんじゃないのに。やめるかい?」

「やだ、絶対行く…きゃあっ!」

 先が思いやられる…。

 一旦、竜を座らせる。

「今度は一緒に乗るから。ミャン、あんたも」

「ほいほーい」

 向こうも一旦、座らせて乗る込む。

 

 腹を軽く一蹴り。

 竜が立ち上がる。

「よっと」

 リアンがガシッと抱きついてきた。

「もう…」

 あたしが言いたい。


 ミャンとウィルの方は問題なさそう。

「意外と密着するんだね…」

 ミャンとウィルの間は拳一つくらい。

 彼は恥ずかしそうに顔を赤くする。

 そういうもんだしね。


「雨が振ってなかったら、走れるのにねぇ」

「そうだね」

 ミャンの言う通り、振ってなかったら走る練習してた。

「仕方無い。走る時の姿勢教えるから」


 走る時はお尻を浮かせて少し前傾姿勢、下半身で揺れを吸収する。

「こうやってね…リアン、あんたも」

「私も?」

「当たり前でしょ。そうしないと揺れで舌は噛むし、けつは痛くなるし、酔って気持ち悪くなるよ」

「ええ…こう?」

「そう」

「ずっとこの姿勢?」

「そうだよ」

「はあ…」

 リアンはウンザリといった様子。まだ、走ってないのに。

「もう降ろして…」

「はいはい」

 竜を座らせリアンを降ろした


「これは辛いね…」

 ウィルまで。

「太ももに効くねぇ」

 ミャンは笑ってる。

「腰と背中も…」

 これは大変だ…とウィルはため息を吐く。

 もっと楽なものだと思ってみたいだね。



「ヴァネッサ、あのさ…」

「なに?」

 ウィルが何か言うたそう。

「どしたの?」

「僕が後ろじゃないとだめなの?」

「あんたの方が背高いし、逆ならミャンが前見えないよ」

「確かに…そうだけどさ。竜が走る時は、その…僕がミャン覆いかぶさる感じになるんだけど…」

 ミャンに後ろから、ウィルが覆いかぶさるっと。

 ああ、なるほど…。

 ウィルが気にするわけだ。

「しょうがないでしょ。いっそのこと抱きついた方が楽だよ」

「ダメ!」

 リアンが大声をあげる。

「いや、何もしてないし、どうにかならないかって話しを…」

「アタシは別に構わないよん」

「だから、ダメ!」

「しないし、したくない…いや、したくないって、別にミャンの事が嫌いって事じゃないからね…」

「分かってるよん」

 ミャンは笑ってる。

「役得だと思いなよ。まんざらでもないんでしょ?」

 あたしはわざとらしくニヤつく。

「ウィルって、最低…降ろして、早く」

 竜を座らせると、リアンはすぐに降りて走って館へ戻っていった。

「なんで…何もしてないのに…」

 ウィルは肩を落とす。

 彼は竜を降りてため息を吐く。

「ヴァネッサがああいう風に言うから…」

「あたしが悪いっての?」

「悪くはないけど…別の言い方…」

「リアンが勝手に想像しただけだでしょ」

 しばらく機嫌が悪いかもね。


「とりあえず、僕も戻るよ」

 ステインの竜を少し撫でた後、ウィルも館へ戻っていった。


「もしかして、アタシのせいだったりする?」

「そんなわけないでしょ…」

 行く前から仲違いしてどうすんの…。


「あたしも館行くから。ミャン、あんたもね」

「アタシも?」

「荷物の準備。してないでしょ?」

「してにゃい」


「隊長、鞍は付けたままでいいですか?」

「あー…鞍は外して。ハーネスはそのまま、緩めておいて。じゃあ、よろしく」

「はい」


 ミャンと一緒に館へ向かった。




Copyright(C)2020-橘 シン

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