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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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54/102

5-2


「リアン、落ち着きなって」

 あたしはリアンの視界を遮るように目の前に立つ。

「私は…」

 リアンの両肩に両手を乗せる。

「感情的になったら何も解決しないでしょ」

 彼女にだけ聞こえるように小声で話す。

「あんたを心配して言ってるんだよ」

「それは分かってるけど…」

「反対してるのはあたしやオーベルだけじゃないんだよ。みんな…ウィルも反対してる」

「え?でも、ウィルは…」

「あいつなりに考えて、危険と分かっててもあんたを連れて行きたいって言って、あたしも考えてそれに乗った」

「…」

 リアンは黙り込む。


「ヴァネッサ、ごめん、後を頼む」

「え、ああ…いいよ」

 ウィルがあたしに声をかけた後、オーベルとともに多目的室を出ていった。シンディとフリッツ先生がそれに続く。


 あたしは振り向いて、背中にリアンを隠したまま話す。

 何話せばいいんだか…。

「えーと、護衛はあたし一人じゃ無理なんで…ミャン、あんたも一緒にね」

「え、アタシも?なんでまた」

「あんたは目、鼻、耳が良いから。それに竜に乗れるしね。任せたよ」

「なるほどなるほど、任された」

 彼女は何の疑問ももたず、笑顔で親指を立てる。

 ちゃんと分かってんの?…。

「護衛はあたしとミャン、二人行く」

「待ってくれ。もっと増やしたほうがいいんじゃないか?」

 ライアが手を上げて話す。

「竜騎士はまだ何人もいる。増やした方が…なんなら全員で行っても」

「いや、それはは過剰すぎるって」

「領民の分際で恐縮ですが、私も増やした方が良いのでないかと」

「おれもそう思う。増やして損することはないでしょう?」

 トムと料理長のグレムがそう話す。

「いやね、あたしもそうしたいんだけどさ。シュナイツに襲撃があるかもしれないし、あと…これがね…」

 そう言ってあたしは人差し指と親指で丸を作る。

「お金ですか?…」

 ジルが言葉にあたしは頷く。

「そう。護衛に人数割った分だけ旅費がかかる…」

「しかし、だからといってミャンと君だけでは少な過ぎないか?」

「大人数で行くと目立つし、余裕ができて逆に隙きができかねない」

「分かるが…なんとかできないか?」

 いいアイデアがあるなら拝聴したいね。

「わたくしが同行するのはどうでしょう?」

「ありがと、ジル。でも、移動は昼間だから…」

「それは…」

 吸血族は太陽が苦手。ジルはそうでもないけど、それでも限界がある。

 申し出てくれた事には感謝してる。


「申し訳ない…」

 エレナが突然謝り出す。

「なんで、あんたが謝るの?」

「転移魔法があれば、王都へ行くなど造作も無いこと…しかし、研究の進捗状況が芳しくない…」

 そう言って小さくため息を吐く。

「それは仕方ないじゃない。片手間でできる物じゃないって分かってるから。気にするんじゃないよ」

「ええ…」

 彼女は小さく頷く。


「それと出発日と出発時間は秘密」

「どうしてです?」

「賊が見張ってるかもしれないからね」

 用心するに越したことはない。

 準備に関してもできるだけ静かにするつもり。

「見送りは?シュナイダー様の時はしていましたけど…」

「それは勘弁して。領民たちには王都に行ってくるとだけ伝えて。できる限る早く帰ってくるからさ」

「分かりました」

 トムは了承してくれた。


「あたしを信じて待ってて」

 これしか言えない。


 シュナイダー様を守れなかった代わりに…ってこれ言ったらウィルは不機嫌になるから伝えてないけど、それくらいの気持ちで行こうと思っていた。

 王都への旅路は小さくなった自信を取り戻すものにもしたい。


「すまない」

 そう言ってウィルが入ってくる。

 入ってきたのはウィルだけ。

「オーベルさんには、全部話したよ」

「そう」

 ウィルは集まった者達を見回す。

「しばらく留守にするけど、いつも通りすごしていてほしい」

「…とは言いますが、落ち着きませんよ…」

 トムは心配げだ。

「大丈夫。僕はシュナイツと王都は何度も行き来してるし、知ってる道だから心配ないよ」

 そう笑顔で言う。

 

 心配し始めたらきりがない。


 王都に行く事についての説明は終わり。

 グレムは仕込みがあるので一礼して出ていく。

 トムもそれに習い出ていった。


「あんた、心配ないなんてずいぶん余裕だね」

「まさか…ああでも言わないと、暗い顔して行ってきますなんて、陰気臭くしたら余計に心配させてしまうよ」

 そう真顔で多目的室のドアを見ながら言う。

「陰気臭いのが、あたしの後ろにかくれてるけどね…」

 あたしは一歩横に移動してリアンの前からどいた。

「陰気臭くなんかしてない」

 彼女は下を向いたまま呟く。

「オーベルさんにはなんとか分かってもらえたよ」

「うん…ありがとう…」

「礼なら、フリッツ先生に。僕よりも先生が一生懸命、説得してくれたから」

「うん…」

 リアンはそう言って頷くだけ。


「オーベルはなんか言ってた?」

「怪我させて帰ってきたら承知しないって」

 怪我させないように全力で護衛するけどさ。

「承知しないったってどうすんの…」

「お尻を蹴られるんだよ」

 ミャンがライアに痛くない程度に軽く横蹴りをする。

 それで済むならいいけど…いや、良くないか…。


「ヴァネッサ。君ががいない間、誰が指揮を?」

「レスターとガルドだね」

「ライアじゃないんだ」

「ぼくは経験不足でね」

 翼人族は個人行動が主で集団行動はあまりしないらしい。

 兵法としての組織的戦術、戦略についてイメージしにくいと本人は言っている。

 

 あたしも軍に入るまで知識ゼロだったから分かる。

「勉強している最中なんだ。だから、指揮に関してはレスターとガルドの方が断然適任だろう」

「なるほど」

「そのへんの事は言っておくから。ライア、エレナ、ジルは二人のサポートしてやって」

「もちろんだ」

 エレナとジルも頷く。


「あたしらも部下に説明しないとね」

「そうだな。それじゃ失礼する」

 ライアを先頭にそれぞれ多目的室を出ていく。

「ミャン、ちゃんと説明するんだぞ」

「わかってるって」


「じゃあ、あたしも」

「待って、何時行くの?まだ聞いていない」

 リアンがそう尋ねる。

「できれば明日の早朝行きたいけど…雨が降ってるから…」

「お天気しだい?」

「だね」

 今日のうちに準備は済ませておく。

「何時でも行けるように心積もりはしておいて」

「うん、わかった」

 リアンは頷くが、表情が少し強張っている。

 あたしは彼女の頬を軽くつまむ。

「あんたが行きたいって言ったんだからね。最後までやり遂げるんだよ。あたしも全力を尽くすから」

 頬をつままれたまま、リアンは頷く。

 あたしはつまんだ頬を撫でてから多目的室を出た。


 一階に降りると、オーベルが廊下の窓から外を見ていた。

 向こうもあたしに気づいてこっちを見たけど、すぐに視線を戻す。

 

 無視はできないか…。

 あたしはオーベルの隣に立って同じく外を見る。

 外はどしゃ降りの雨。

「オーベル…あのさ…」

「わたくしからは、もう何も申しません。ご無事にお帰りください」

「もちろん、無事に帰ってくるよ」

 オーベルは前を見たまま表情を崩さない。

「あたしも最初は、リアンを連れて行きたくなかったんだけど、ウィルの考えを聞いてからね…」

「ウィル様のお考えはわたくしも聞きました。ウィル様はリアン様の事をきちんとお考えになっています」

「うん、あたし達よりね」

「はい。わたくしは守る事ばかりを考えていました」

 オーベルは外を見ながら話す。

「それ、普通だよ」

「ですが、フリッツ先生からは過保護と…時には試練を与えねば成長、変化はないぞ、と諭されてしまいました…」

「あたしはリアンが強くなるきっかけになるじゃないかって思ってるんだよ。リアンの事、オーベルも知ってるでしょ?」

「はい…知っています」

 彼女は小さく頷く。

「ヴァネッサ隊長も先生も、ちゃんとリアン様の事を考えていらっしゃるのですね。考えていなかったのは、わたくし一人…。自分を恥ずかしく思いました」

「大丈夫だよ。オーベルは間違ってない」

 そう言って彼女の肩に手を回す。

 華奢な肩。

「嫌ですね。年を取ると考えが凝り固まってしまって…」

「リアンを大事に思うことはそのままでいてほしいね」

「もちろんでございます。リアン様だけでなく、ウィル様、ヴァネッサ隊長も、他の皆様も大事に思っております」

 彼女は力強くそう話す。

「良かった…」

 オーベルらしい力強さが戻ってきて安心する。

「オーベルはいつも通りのオーベルでいて。それでみんな安心するから」

 上に立つ者が不安だと、下も不安になる。

「わかっております。お戻りなるまで留守はしっかりと、預からせていただきます。お任せください」

 そう言って頭を下げる。

「ごちゃごちゃ抜かす奴はひっぱ叩いていいから」

「さすがにそこまではいたしません」

 首を横に振りつつ笑いながら話す。


 廊下の十字路にメイド達が集まってこっちを見てる。

 あたしの視線に気づいたオーベルが振り返りメイド達を見た。

「そろそろわたくしも仕事に戻らなければならないようです」

 あたしは頷いて、彼女を見送る。

 オーベルはメイド達を寝室に入れ、あたしに一礼してから自分も入っていった。


「あたしも説明しなきゃね…」

 竜騎士隊の宿舎へ向かった。

 

 



Copyright(C)2020-橘 シン

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