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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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52/102

4-1


 陛下からのご書状の内容は、伏せさせていただきます。

 他の領主様からいただたものとさほど変わりませんので…。


 他の書状は領主引き継ぎに関する書類。

 補助金に関する書類はありませんでした。

 行き違いになったのかもしれません。

 まあ、それはいいとして…良くはありませんが、それよりも困った事が…。


「これ、ウィル宛よ」

「ん?…これ、陛下からだ」

 豪華なデザインが施された封筒。国印と王家の紋章入り。便箋も同様でした。

「これ開けていいんだよね?…」

 直筆でしょう。躊躇するのもわかります。

「ここで、あんたが開けずに、いつ誰が開けるの?」

「ですよね…」

 ウィル様は恐る恐る封筒を開け、読み始める。

 

 恐れながら、わたくしも読ませていただきました。

 内容は励ましと労い、それと…。

「是非、一度会って話をしたいって…できるだけ早い時期にきてほしい…会えるのを楽しみにしている…これってさ、早く来いってことだよね?」

 ウィル様は困り顔で、便箋をリアン様に渡す。

「陛下は、本当に僕に会いたいと思っているんでしょうか?」

 マトゥーア様にそう尋ねますが…。

「自分はご書状をお届けに来ただけですので…便箋の内容がすべてとしか言えません。申し訳ありません」

「そうですよね…参ったな…」

 

 便箋はリアン様からヴァネッサ隊長へと渡る。

「社交辞令じゃないの?…」

「社交辞令で、来てほしい、楽しみしているなんて書くかい?」

「そうだけど…。ここから王都なんて…」

 ここから王都は半月以上はかかるはずです。竜ならもっと早く行けるのでしょうが…。


「無視しちゃおうヨ」

「そういう訳にはいかない」

「同意見だ」

 ミャン隊長の言葉にエレナ隊長とライア隊長が意見する。

「これは勅命ではないのか?」

「勅命、とは書いてないから違うと思うけど、同じようなもんだよ…はあ…」

 ヴァネッサ隊長は大きなため息を吐きました。 


「とりあえず、王都に行く行かないは後で考えよう」

「期限が指定されてるわけじゃないからね」

「うん」

 そうですが、早く決めなければいけない事案です。

「マトゥーアさん。陛下からのご書状、確かに受け取りました」

「はい」

「それでどうでしょう。何もできませんが、一晩シュナイツで休んでいってはどうですか?」

「ご厚意はありがたいのですが、すぐに戻らないといけません。自分は近衛竜騎士。本来ならば、ここにはいてはいけないのです。シェフィールド隊長からも、陛下付の近衛隊がなんでここにいるのか、と注意されまして…」

「ヴァネッサ…」

「あたしは間違った事言ってないよ」

「そうだけど…」

 ウィル様はため息を一つ。


 王都からの竜騎士二名は、水を一杯だけ飲むとすぐに帰ってしまいました。


 この後は書状の整理、提出書類へのサイン等の業務こなしました。

 それはすぐに終わったのですが…。


「王都に…陛下の所に行った方がいいだろうね…」

「ウィルが行くなら、私も行く」

「は?あんたは留守番だよ」

「どうしてよ」

「リアン、あんたはシュナイツの補佐官なんだよ。領主と補佐官が両方、領地を離れるわけにはいかないでしょ」

「ヴァネッサも行くんでしょ?…ずるい!」

「ずるいって、あたしはウィルの護衛で行くんだよ」

「ついでに私も…」

「ふざけるんじゃないよ…遊びに行くわけじゃないだよ?」

「わかってる」

「わかってんなら、おとなしく留守番してな」

「二人とも、ちょっと落ち着いて…」


 この様な次第で…話し合いを何度も重ねるも結局、リアン様とヴァネッサ隊長が対立してしまい解決できず平行線となっていました。何日も…。


 わたくしはヴァネッサ隊長と同意見でした。怪我をされるのが心配ですので。

 ですが、リアン様の気持ちも分からなくはありません。

 ウィル様、ヴァネッサ隊長とはしばらく離れなければなりませんから…。


 結局どうなったかというと…。


 以下の話し合いはリアン様抜きで行われた内容です。

「リアンも連れて行く事にする…」

「あんた、リアンに同情して言ってじゃないよね?」

「同情とはちょっと違うかな」

 ウィル様もリアン様の気持ちを察していたのだと思います。

「僕はリアンが行く事に基本的には反対だよ」

「そうなら…」

「リアンどころか、僕自身が王都に行きたくない。領主になって一ヶ月程度で、まだ何もしていないのに王都に行かなきゃならないなんて」

 彼はため息を吐く。

「仕方ないじゃないでしょ。陛下が会いたいってんだからさ。それとリアンは関係ないでしょ」

「もちろん関係ない。陛下が会いたいのは僕で、僕だけが行けばいい」

「ならなんでリアンを連れてくの?」

「僕が行くとなればヴァネッサ、君が護衛で一緒に行くんでしょ?」

「そりゃね」

「君がシュナイツを離れてリアンは大丈夫?」

「それは…」

 ヴァネッサ隊長はウィル様の指摘に言いよどみます。

「僕たちの前では元気だけど、シュナイダー様の死から立ち直ってなかったら?」 

「大丈夫でしょ…。あんたとあたしがいなくなってもオーベルやシンディ、先生もいるし」

「精神的に不安定な彼女を残して君は平気なの?」

「心配だけどさ…だからって連れてくのかい?平穏無事に王都に行って帰ってこれる保証はないんだよ?リアンじゃなくあんたが怪我を…」

「わかってる…保証はない…」

 ウィル様は机の上で手を組み、ヴァネッサ隊長を見ました。

「ないんだけど…リアンにはシュナイツ以外の景色を見てもらったほうがいいんじゃないかとも思っているんだ。シュナイツに来てから敷地の外にはあまり出てないらしいし」

「…」

 ヴァネッサ隊長は黙ったままウィル様の話を聞いてました。

「シュナイツにいればシュナイダー様の事を思い出してしまうから、ここを出で少しでも気分を変えるのは間違ってはいないと思う」

「…」

「リスクがあるのは、分かってる。リアンだってわかってるはずさ」

「…」

「道中その他、君の指示に従うから。考えてくれないか?」

 ヴァネッサ隊長は何も答えず、去ってしまわれました。

 

 

「この後の事はまたヴァネッサ隊長にお聞きください」

「かなり悩まれたようです」

「普段、決断力が早い彼女からは想像できませんが、お気持を察することはできます」

「この件に関しては、ヴァネッサ隊長からわたくしには相談されてません。されても困りますが…」

「リアン様が行く行かない、どちらになっても、わたくしがやらなければいけない事をしっかり見定め実行するだけですので」

「心構えだけはしていました」

「申し訳ありませんが、そろそろこのへんで…はい、あとは後日ヴァネッサ隊長に。それでは失礼します」


エピソード4 終


Copyright(C)2020-橘 シン

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