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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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3-4


 リアンは亡くなったシュナイダー様を直接見ていない。

 すぐに埋葬したから。

 書斎にも、当然入れてない。 


 廊下のにはあたし達の血はあったけど、きれいに拭き取って掃除した。

 

 そうした事が逆に、彼女にシュナイダー様の死を受け入れづらくさせたのかもしれない。

 急な出来事だったてのもある。


「嘘だって言って、信じてもらえなくてね。館中全部見て回って、宿舎まで入っていってさ…」

「そう…なんだ」

「泣きながら…」

 無意味だと、本人も分かってるはずなんだけど、自分で否定したかったんじゃないかな。

 そんな気持ちがわかる分、強くは止められない。

「リアン様のあの変わりようは、見ていて辛かったな」

「だね。最後はお墓の前でうずくまってさ」

 そして、あたしは部屋へ連れて行った。

 それから一週間、部屋の中だけで過ごす。


「オーベルやシンディが毎食持っていて、様子を見ていた」

「君も行ったんでしょ?」

「行ったけど、なんて声かけていいか分からなくてね…」

 あたしはほとんど何もしてない。

 オーベルとシンディのおかげ。


 リアンとシュナイダー様との付き合いは長い。

 リアンが子供の時に両親を殺された時からずっとだから。

「親子みたいな?」

「それはどうだろうね。シュナイダー様は、自分はリアンの親になるつもりはない、見守るだけって言ってから。理由は知らない」

「そう…」

 

 一週間で部屋から出て執務室にいるようになったけど、しばらくは元気がなかった。

「ソニアが入れば違ったんだけどね。どこ、ほっつき歩いてんだか…」

 あたしはソニアに対して良い感情をもっていない。


 リアンは両親を亡くした後、寄宿学校に入った。そこでソニアと出会う。

 そこで仲良くなって親友となった。

 リアンが元気を取り戻したのはソニアをおかげだ、とシュナイダー様から聞いている。

 

 シュナイツにはリアンとは一緒には来てなくて少し遅れてやって来る。

 来たはいいが、すぐに出掛けていった。

 世界を見て回りたいとかなんとか…よく分からないけど。

 帰って来ても長居はせず、すぐに出ていく。

 シュナイダー様は許可していたけど、リアンはソニアが出かける時、寂しそうにしていた。

「大目に見てやってくれ。それが約束なのだ」

 ってシュナイダー様は言っていた。

 

 リアンの感情が不安定なのは、ソニアだって知ってるのに…それよりも世界を見て回るのが大事だって?…。

 

 シュナイダー様が亡くなった時、ソニアがいてくれたら…。


 ウィルが来てからはリアンは安定している。

 今日はちょっと、仕方ないか。

 リアンには両親とシュナイダー様の死を乗り越えてほしいけど、これは別の話。


「ソニアは事はともかく、シュナイダー様が亡くなった時の話は終わりだよ」

「うん…ありがとう、ヴァネッサ。みんなもありがとう」

 ウィルはそう言った後、黙り込む。

 あたしも黙って彼を見守った。


「これでやっと、僕も仲間入りかな?」

 苦笑いを浮かべつつそう言う。

「そうだね。シュナイダー様の死の秘密を知った以上、後戻りはできないね」

「ウィル様を脅してどうする」

「そんなつもりはないって…」

「ライア、大丈夫だよ。ヴァネッサなりの鼓舞だから」

「ほら」

「ならいいが…」

 ライアはあまりいい顔してない。


「ウィルってここに来てから一ヶ月経ってないんだよ。不思議だね」

「何が?」

 ミャンの言葉にエレナが聞き返す。

「ずーと前からいた気がしてさ。いるのが当たり前みたいな?」

「確かに」

「でしょ?」

「そうかな…」

 ウィル自身はそんな事は思ってないみたいだね。

「ヴァネッサはどう?」

「あたしかい?あたしは…」

 ウィルを見るが、彼は肩をすくめる。

「君はシュナイダー様と一緒にいた期間が一番長いから、まだ違和感があるんじゃない?」

「そうだけど、いないのが当たり前になったからね。あんたがいるのが普通といえば普通」

「そう…」

 ウィルは含み笑いをする。


「わたしはウィル様が領主で良かったと思っています」

 アリスはそう言って立ち上がり、そして自分の胸に手を当てる。

「わたしの領主はウィル様、だたお一人。領主を支えるのは家臣の仕事。いつでもご命令を」

 そう言って頭を下げる。

「あ、ありがとう…アリス、頭を上げてよ」

 ウィルは恥ずかしそうにする。

 シュナイダー様もそうだったけど、ウィルもうやうやしくするのあまりすきじゃない。

 悪い気分じゃないんだけどね。

「アリス。そんな丁寧は挨拶、シュナイダー様にしたことあんの?」

「うーん…ない」

「だったら、今頃シュナイダー様は妬いてるよ。ウィルには言って、何故私には言わないのだ!って」

 あたしの言葉で笑いが起こる。アリスはちょっと分かってないみたいだけど。

 笑いの中、突然多目的室のドアが大きな音を立てて開く。

「リアン…」

 ウィルの声で振り向くとリアンが立っていた。

「…いつからそこにいたの?」

「そんな事どうでもいいでしょ…」

 あたしの言葉に少し冷たく言い放つ。怒ってるね、こりゃ…

「私も、私もウィルを支えるから!」

「リアン…。ありがとう、頼りにしてるよ」

「うん…それだけ言いたかった」

 ほんとにそれだけ言うと力いっぱいにドア閉めて行った。


「なんなの…」

「早く寝ろってことじゃないかな」

「いうほど時間経ってないでしょ?」

 ウィルは立ち上がる。

「僕は部屋に戻るよ」

 ウィルが戻るというならあたしらも行くしかない。ここにいる用はないし。

「みんな、ありがとう」

「いやいや、どういたしまして~。また聞きたくなったらいつでも言って」

「ミャン、君が話したら雰囲気が変わるからよした方がいいぞ」

 ミャンとライアの会話にウィル達が笑う。 


 そして多目的室の出て解散する。

 あたしも部屋に戻ったんだけど、廊下から声が聞こえて…。

 そっとドアを少し開けた。

 廊下でウィルとリアンが立ち話をしている。

 何を話してるかは分からないし、表情もよく分からない

 リアンがウィルの袖を摘んでいるのは分かった。

 いつまでも見ていていたって仕方ないからドアを閉めて寝たよ。


 数日、リアンはあたしに対してだけは、冷たかったね。元に戻ったけどさ。

 


「たぶん、こういう感じだったはず。はっきり覚えてるわけじゃないから保証なんてしないよ」

「どこの誰にシュナイダー様の事、聞いたんだか…詮索しないけど、この件は公表できないんだよ。いいの?」

「構わない…って。もうこれ、単なるあんたの趣味じゃ…」

「話すんじゃないよ。マジで」

「え?次の話も?やだよ…面倒くさい…あ、ちょうどいいところに。シンディ!」


「はい?何か?」


「次の話、あんたがやって」


「わたくしがですが?…。申し訳ありません。収支報告書を作成しないといけませんので…」


「アンナにやらせたら?」


「アンナにですが?できなくはありませが…」


「経験って大事だよね?将来を見込んで」


「そう言われたら反論できません」


「じゃあ、お願いね」


「分かりました…。あまり時間がありませんので、手短に…」




エピソード3 終



Copyright(C)2020-橘 シン

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