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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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48/102

3-2


 深夜、あたしは何かの物音で目を覚ます。

 深い眠りはあまりしないから、ちょっとした物音で起きてしまう。

「何なの…」

 ベッドから起きて、窓から外を見る。

 警備通路の兵士が、防壁の外ではなく館側を気にしてた。

 

 何やってんだが…。と、思った瞬間。

 ドン!と東側から、大きな音がした。


 書斎?。

 シュナイダー様は深夜まで書斎にいることがよくある。


 嫌な予感がする…。

 あたしは剣を持って、廊下へ出た。

 

 書斎のドアは開いていて、光が漏れている。

 近づこうと一歩踏み出し時。

 アリスが、転がり出てくる。

「アリス!?」

 彼女はすぐに書斎へ入って行った。


 書斎の中では、アリスが影というか黒い煙のような物と戦っていた。

 影は人ようだけど、動きは人のそれとは全く違う。

 何がどうなっているのか、わかんなくて立ちすくむ。

「ヴァネッサか…」

 呼ぶ声がするの方に目を向ける。

 シュナイダー様がお腹を押さえ、壁に持たれたていた。

「シュナイダー様!」

 駆け寄る、あたし。

 手の間から血が漏れ床に血溜まりができている。

「抜かったわ…」 

「大丈夫ですか!何が…」

 シュナイダー様はあたしじゃなく、その後ろを見る。

「後ろだ…」

「っ!…」

 振り向きざまに剣を抜いて、横に一閃する。

 影を斬ったはずだけど、手応えは一切ない。

 アリスが追撃を仕掛ける。が、影は彼女の攻撃を物ともしない。

 大型のナイフ二本と体術では、負け無しのアリスの攻撃が通じない!?。

「クソっ!」

 あたしは剣を握り直し、影へ仕掛ける。

「こいつ!」

 明らかに剣は当たってるのに、やはり手応えはない。


 何度、斬ろうが刺そうが手応えは全くない。


 この影の不思議な所は、影自身に実体ないが、影が持っている剣には実体がある所。

 剣はガラス様な半透明な物。

 こちらの攻撃が効かない以上、影から攻撃を防ぐ事しかできない。 


「どうしろっての」

「あいつ、強い…」 

 アリスを手こずらせるなんてね。

「アリス、シュナイダー様をこれ以上、傷つけるんじゃないよ」

「うん。はい」


 剣やナイフが効かないんじゃどうする事もできない。 

 

 シュナイダー様の怪我を、早く先生に見せないと…。

 怪我の程度は重そうなんだよ。

 

「ヴァネッサ様、なんか変」

 影の動きが止まり、影がどんどん大きくなる。

「あ?なにすんの…」

 何が起きても対処できるように、身構えた。


 影は二倍くらいに大きくなって、真ん中からゆっくりと二体に分かれはじめた。

「これはまずい…まずいって…」

 一体でも手こずってんのに…。


 分かれた一体が、書斎を出ていく。

「アリス、叫べ!みんなを起こすんだよ!」

「了解!」

 アリスは大きく息を吸い込み、思いっきり叫んだ。

 

 耳をつんざく様な強烈な叫び。

 耳だけじゃなく頭にも響く。



「ちょっと、ごめん。叫びって?」

「あーなんて言えばいいか、わかんないんだけどさ。とにかくすごいとしか」

「へえ…」

 言葉で表現するのは難しいんだよね。


「吸血族が使うものでして。要警戒、要危険の意味があります」

「そうなんだ」

「なんていうかね、ギイィィィン!とかギャィィィィン!て感じ」

 ミャンの言い方とジェスチャーに、アリスが口を押さえ笑いを堪えつつ、頷く。


「領民にも聞こえたんじゃないの?」

「うん、まあ…。抜き打ち訓練だって言ったけど、どう思ってるか…」

 変に思ってたかもしれないね。

 シュナイダー様が病気中に抜き打ち訓練とか、おかしいと思われても不思議じゃない。



 書斎を出ていった二体目を追いかけようしたが、シュナイダー様に呼び止められる。

「ヴァネッサ!…」

「何です?」

「ヤツは…くっ!」

 シュナイダー様はがくりと片膝をつく。

「シュナイダー様!」

「大丈夫だ…」

 床の血溜まりが大きくなっている…。

「動かないでください。今、先生を…」

「いいから、聞け」

 肩をガッチリと力強く摑まれる。

「ヤツには剣も体術も効かん…」

「分かってます。どうすれば…」

「おそらく、これは魔法だ…」

 魔法?。

「操っている者が…そう遠くない場所にいるはず…そいつを殺れ」

「どこです?」

「エレナ、なら分かるはずだ…彼女に探らせろ…」

「了解」

 私は立ち上がり、行こうとした。

 その瞬間、影がわたしへ迫る!。

 構えを解いていたから、対応できない。

 ダメか…と思った刹那、アリスがわたしとシュナイダー様を庇うように、影との間に割って入ってきた。

 だけど、同時にアリスは左肩を前から貫かれた。

「アリス!」

「…大丈夫です」

 彼女はうめき声を出さずに、肩に刺さった剣を引く抜く。

 そして、剣を床に叩きつけた。

 剣は砕け、ジワリと溶けて消えていく。

 そして、影の腕らしき先端から剣が生えてくる。

 やっぱり、魔法なのか?。


「早く行け…ヴァネッサ!」

「でも…」

 負傷した二人をおいて書斎を出るのは…。

 でも、行かないと影を消す事はできない。

「ヴァネッサ様、行って…。ここはわたしが。シュナイダー様を守ってみせる。絶対に」

「アリス…」

 彼女の眼が紅く光りだす。

「…わかった。シュナイダー様を頼むよ」

 

 廊下の出ると、影が三体になっていた。

 十字路に一体。他二体は執務室の方だ。

 十字路の一体とジルが戦っている。

「ジル!」

 彼女の攻撃を隙きを埋めるように、あたしも攻撃を仕掛ける。

 が、攻撃が当たったところで何の効果もない。

「ヴァネッサ隊長!これはどうなっているのですか!?」

「魔法らしいんだよ。くそっ!」

 影からの攻撃を避け、弾く。

「シュナイダー様とアリス様は?」

「書斎にいて。二人とも怪我してる」

「二人も?なんてことを…」

 ジルは眼を光らせ激昂する。

「落ち着きな。あんたはエレナの所に行ってもらう」

「エレナ隊長の所へですか?」

「そうだよ。エレナに、影を操ってるのはたぶん魔法士だから、そいつの位置を探せって」

「エレナ隊長に分かるのですか?」

「わかんないけど、シュナイダー様の指示だよ。そんなに離れた位置じゃないらしいから。くっ、しつこいね、こいつは」

 影の攻撃を弾きながら話す。

「エレナに敵の位置を聞いて、あんたとミャンで討ち取ってきな」

「分かりました」

 影の攻撃の隙きついて彼女を送り出す。

「今だよ!」

 ジルはスライディングで攻撃をかわし、エレナの所に行った。


「ヴァネッサ…」

 リアンは部屋の入口でしゃがみこんでいた。

「リアン!あんたはそこにいな。動かずに下を向いてるんだよ」

 頷くが、明らかに怯えてる。


「ヴァネッサ!何なんのこれ!アタシの槍が効かないよぉ」

「こんな奴は初めてだ。どうすればいい?さすがのぼくもこれでは!…」

「泣き言言ってんじゃないよ!」

 ミャンとライアはそれぞれ一体づつ相手している。



「動きが読めずに苦労した…」

 ライアも手を焼くほど、影の攻撃。

「影もこちら攻撃は効かないと分かってるんだろう。防御の構えすらしない。うかつに突撃して反撃を何度かもらったよ」

「影とやりあって怪我してないのはいなかったね。ガルドとレスターも負傷したし」

 あたしもそう。あたしの怪我なんて大した事ないけど。


「魔法は?魔法は効かなかったの?」

「残念ながら、効きませんでした…」

 エレナが力なく首をふる

 魔法でも影に干渉できない。



「隊長!うおおおおお!」

 見張り塔側からガルドがすごい気合いで突っ込んでくる。

 その後からにサム、ミレイ、ステインが来てる。

 

 ガルドの剣は影を斬るが、効果はない

「何だこいつは!?くそっ」

「ガルド、無闇に剣を振るな。影に当てても意味ない!」

「どうしろと?…」

「攻撃を見極めて防ぐんだよ」

「防ぐだけ?」

「そうだよ!」

 ガルドは常に攻めるのが好きだから、こういう戦い方は嫌いなんだよね。

「ふざけやがって!」


「サム!あんたらはリアンを守るんだ。いいね?」

「了解!」

 サム以下三名をリアンに付かせた。


 レスターは執務室の方にいる。

 剣は効かない防戦するよう、サインを送った。

 レスターは臨機応変に対処できるから大丈夫だろう。

 

 後はエレナが、影を操っている魔法士を見つけてくれれば…。


 

「影を操っている魔法士を探すのは大変だった。そういう事はしたことなかったので…もっと早く見つけていれば、敵を捕える事ができたかもしれない…」

 エレナは力なく話す。

「やった事ないのに、できたんだから上出来だよ」

「もっと早く気づいていれば…ああいう魔法があるとは」

「気づいた時には、遅すぎる。世の中そういうものだ。それに予想を超える事は、往々にしてある。後悔の気持ちはよくわかるよ」

「…」

 ライアの言葉にエレナは小さく頷くだけ。 

「禁忌の魔法かもしれないんだよね?」

「はい…。わたしが知る限り、通常の魔法ではありえない使い方なので…干渉もできない…」

 エレナが神妙な表情で話す。

「通常、魔法を離れた所に発動、操作させる事は非常に難しいです。魔法力は距離に応じて減衰、減っていくのです。今回の様な複雑な魔法は、相当魔法力を消費するはずです。しかし、魔法士がいたのは、私が考える以上に遠距離で…」

「いたのは西の山の中だよ」

「ポロッサまですぐそこでした」

 ミャンとジルが証言する。

「だから通常の魔法とは違う特殊な…禁忌魔法ではないかと考える」

「水晶を使った可能性は?」

 ウィルの疑問にエレナは首を振る。

「あれだけの複雑な魔法を封じ込めるにはかなり大きな水晶か、もしくは小さくても大量に必要です。ですが、持ち込まれた形跡はありません」

「そうか…バレずに持ち込むのは無理と」

「そんなものがあったら報告があるはずだよ」

 内通者がいる線は捨てきれないけど、頻繁に連絡し合う方法はないし、各隊各部所には信頼できる者を配置している。

 だからといって、百パーセント大丈夫ってわけじゃないけど。

 

 状況から内通者はいない。

 魔法でシュナイダー様の部屋に直接乗り込む事ができたんだ。

 内通者なんて必要ない。

 

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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