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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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エピソード3 英雄の最後


 ベッキーの魔法が暴走したことなんて忘れはじめた頃の話。


「今日の訓練は終わり」

 あたしは竜騎士隊にそう声をかける。

「ありがとうございました」

「お疲れさまでした」

「あいよ」

 

 午後の訓練は基本的に自主練で、あたしからは何も言わない。そばで見守ってはいる。

 あたしがいないからといってサボるわけじゃないけど、あたしがいる、誰かがみているという緊張感を持たせるようにしている。

 戦術とかの事を聞かれたり、剣や体術の相手してほしいって来たら対応するけど。


「今日は終わるの早くないですか?」

「そうかい?」

 レスターにそう言われてから気がついた。

「午前はともかく、午後はこれくらいの時間でも変わらないんじゃない?」

「まあ、そうですね」

「やり足りないなら、まだしてていいよ。あたしは上がるからね」

 そう言ってその場の去る。

 

 剣兵隊はまだ訓練してる。

 それを見ながら館へと帰った。


 多目的室には、あたし以外来ていない。

 いつもの席に座る。

「やっぱり早かったか…」

 だけど、今更戻ってもね…。


 ん?何やら執務室から声が聞こえる。

「後は私とシンディがやるから、ウィルはもう隣行っていいよ」

「まだ、時間あるし手伝うって」

「いいから、やるから。夕食までには終わるし」

 執務室への小さなドアが開きウィルが入ってくる。

「じゃあ、任せるよ…」

 渋々といった感じでドアを締め、席に着く。

「お疲れー」

「お疲れさま」

「リアンはどうしたの?」

「手伝おうとしたら、自分たちの分だからって。別に僕がやっても問題ない物なんだけど…」

「本人がやりたいっていうなら、やらせておけば?」 

 リアンが仕事に積極的なのはいい傾向。

「うん。リアンは強情な所あるよね」

「あるね」 

 その強情さがウィルを領主にした。あんな事してね。


「…ヴァネッサ、ちょっといい?…」

「どうしたの?」

 ウィルは後ろの執務室を気にしてる。

「いきなりで申し訳ないんだけど、前に君が言ったシュナイダー様の事、今日聞かせくれないかな?夕食の後で」

「いきなりだね、ほんと」

「ごめん。今日がダメなら君の都合がいい時でも…」

「構わないよ、今日で。都合のいい日なんてないから。でも、リアンはどうするの?」

「リアンには…先に部屋に行ってもらって…僕とヴァネッサがここに残る」

「そう…うん」

 リアンだけ、うまく部屋に行くかどうか…。

 いつも、だいたいみんなで多目的室を出るんだけど。


「君のとっては思い出したくない事だろうけど」

「良い思い出じゃないね」

 悪い思い出は誰にでもある事なんだけど、事が大き過ぎた。

 エレナの事と比べたら、いや比べる物じゃないんだけどさ、状況違うし…どっちかいったら、あたしの方がね…。

 

 そんな事を思っていたら、多目的室のドアが開いた。

「お疲れさまです」

 エレナだった。

「お疲れさま」

「これは先生、お疲れさまです」

「私を先生と呼ぶのはやめて」

 エレナはあからさまに嫌な顔をする。

「先生?ああ…」

「どうだい?座学は?」

「まだ、慣れない」

 彼女はそう言ってため息を吐きながら席につく

「元々、魔法を教えてたわけだし、その延長でしょ?」

「魔法を教えるのとはわけが違う」

「そう?でも、あんた決めた事だからね」

「分かっている」

 最初、教本を使って座学をするって聞いた時は、何をするのか?と思ったね。

 ちょっと興味あってあたしも座学に参加したけど、よくわからない単語が出てくるからすぐに退散した。

 

「お疲れちゃん」

「お疲れさま」

 ミャンとライアも帰ってきた。

 

 ミャンは、あの時以来、真面目に短槍の訓練をしている。

 型はジル(と、たまにアリス)に手伝ってもらって完成させた。

 でも、ミャン独特の体捌きは教えるのは難しい。

 本人は習ってない、というからミャン自身が編み出したものなんだろうか?。

 それとも猫族誰もが知ってるものなのか?。


「ありゃ、リアンは?」

「まだ仕事してるよ」

「珍しい。いつもウィル様と一緒にいる印象だが…」

「補佐官なんだから、普通でしょ?」

「そうだが…」

 ライアは少し納得いってない様子。


「ウィルは優しすぎるんだよ。もっと仕事ふればいいのに。何でもかんでも引き受けてんじゃないの?」

「僕は自分の分しかやってないよ」

「ほんとかい?」

「本当だって。さっきのは明らかに二人の方が大変そうだったから、声をかけたんだよ」

 ウィルは肩をすくめつつ、そう説明する。

「まま、いいじゃないの~。優しい所がウィルの良いところでしょ?」


 あたしはウィルの優しすぎる所が気にかかってる。

 

「…じゃあ、シンディお疲れ」

「お疲れさまでした」

 仕事が終わったリアンが多目的室へ入ってくる。

 それと同時に食事も運ばれてきた。

「いいタイミング」

「リアン、お疲れ」

「お疲れさま」

 リアンとウィルが声を掛け合う。


 食事が各人に配られ、食べ始める。


 今日は、いつもの違って淡いクリーム色。

 牛か何かの乳でも入れたみたいだね。

「うっま」

 ミャンがああ言ってるけど、いつも言ってるから。


 食事の後はアルが入れてくれた紅茶を飲みながら雑談。


「ふぅあ~」

 ミャンが大きなあくびをする。大体、これを合図に自室に行くんだけど…。

「そろそろ、部屋に行く時間かしら?」

「そうかもね。僕はもう少しいるよ」

「あたしも」

 あたしとウィルはお互いに視線を交わす。

「そう?…」

 リアンは何か気づいたようで、あたしとウィルを何度も見る。

「何?」

「何?って、私が聞きたい」

「リアン、何でもないよ。疲れたでしょ?部屋に行っても構わないよ」

 ウィルがそう言うがリアンは黙ったまま、あたしを睨む。

「どしたの?」

 異変に気づいたミャンが訊いてくる。

「知らないよ」

「怪しい…」

 ミャンまで…。

「ウィル、あんたからちゃんと言った方がいいよ」

「うん…。リアン、あのね。ヴァネッサにシュナイダー様の事を聞こう思ってるんだ。だから…」

「シュナイダー様の…何を、聞くのよ」

「最後だよ」

 リアンはあたしの言葉にびくりと体を震わせる。

「そんな事…そんな事、ウィルは聞かなくてくいい…」

 彼女はテーブルを見つめたまま呟く。

「ウィルがそう望んでるんだよ」

「だからって…ヴァネッサだって言いたくないでしょ?」

「別に」

「嘘。絶対、嘘」

「ウィルだけ、知らないってのはどうなの?」

「知ったからどうだっていうの?知らなくても何の問題もない。そうでしょ、ウィル」

 リアンは立ち上がり、訴えかける。

「…かもしれないけど、僕は知りたいんだ。何も知らないまま、シュナイダー様の後を継ぐのは、嫌なんだ」

 ウィルは真っ直ぐリアンを見つめ話す。

「みんな知ってるのに、僕だけ知らない。これじゃ、いつまでたっても客人扱いだよ」

「そんな事ない。あなたは間違く、シュナイツの領主よ。そう思ってるのは、私だけじない。ライア、あなただってそう思うでしょ?」

「ん?ああ、もちろん」

 話を振られたライアと少し戸惑ってる。

「しかし、現領主が前領主の事を知らないというはどうなのだろうか?…」

「だから、知らなくても…」

 リアンはため息を吐く。


「ウィルは聞きたい、ヴァネッサは話してもいい。これ、もう決まりでしょ?」

 ミャンがそう言って立ち上がる。

「ミャンは黙っててよ!」

 リアンはミャンを睨むが、ミャンは臆さない。 

「リアン、もう行こうよ。アタシも自分の部屋に帰るからさ」

「一人で行ってよ」

「さあさあ」

 ミャンはリアンの腕を引っ張り連れて行こうとする。

「ちょっと、離してよ…」

「あとはよろしく~」

「待って…話、終わってない…」

「だいじょぶだって」

 多目的室を出て行った。


リアンがすぐに戻ってくるんじゃないかって思ったけど、そんな事はなかったね。


「ミャンは分かってなさそうで、分かっているのが、ぼくには解せない」

 ライアの言葉にあたしは笑っちゃった。

「空気読むがうまいんだよね」

 リアンにあたしやウィルがああだこうだ言ったら、収集がつかなくっていたかもしれない。


「で、あんた達は?あんた達は聞かなくても分かってるでしょ?」

 ライアとエレナは顔を見合わせる。

「あー…ぼくは残るよ。ウィル様が良ければ、だが」

「全然、構わないよ。ライア、君からも当時の事を聞きたいな」

「もちろんだ。ぼくも見聞を話そう。ヴァネッサだけに辛い話はさせないさ」

 彼女は笑顔でそう言う。

「そういう事なら、私も残る」

 エレナまで…。

「あんた達は…全く…」


「後はいいから、もう休んでいいよ」

 ウィルはアルとメイド達を帰した。


「いや~お待たせ~」

 ミャンが戻ってきた。

「何で、あんたまで…」

「アタシもちょっと聞きたい。最初の、シュナイダー様が襲われた直後の事は知らないんだよ。物音で廊下に出たら、大変な事になってて、そこからしか知らないし」

「はいはい…」

 まあ、いいか。ミャンがいれば、場が暗くならなくてすむかもしれない。

「実はぼくもなんだ。ざっくりとした概要は知っているが」

「同じく」

「もうさ、アリスとジルも呼んじゃおうよ」

「勝手にしなよ、もう…」

「あはは…」

 あたしは頭を抱えて、ウィルは苦笑いを浮かべる。

 

 エレナがジルを呼びに行って、ジルがアリスともに多目的室へやってくる。

「こんばんは。ウィル様」

「こんばんは」

「こんばんは。悪いね、二人とも」

 二人にはここにみんなが集まってる理由を説明する

「…ということなんだけど」

「分かった…分かりました」

「そういう事でしたら」

「すまない。僕のわがままに付き合せちゃって」

「謝るようなことではありません」

「シュナイダー様の事を聞くことは、とても勇気がいること。ウィル様は偉い…です」

 アリスとジルは気にする様子はなく、むしろウィルの考えを好意的に感じているみたいだった。

 アリスはリアンの席に座り、ジルが傍らに立つ。 


 主要な者が揃った。

 

 あたしは記憶をたぐり寄せ、シュナイダー様が襲われた当時の事を思い返す。

 胸のあたりがズシリと重たくなる。


 言うと決めたのは、あたしだ。

 それにウィルが領主を引き受けてくれた勇気に対する礼でもある。


 ウィル達を見回す。

 ミャンはあたしと目が合うと、にっこり笑って親指を立てる。

 

 仲間がいるのが悪くないってこういう時に思う。 


「当時は真夜中でね…」

 あたしは話し始めた。 

 

Copyright(C)2020-橘 シン

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