表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/102

2-23


 状況が急転。

 賊の人数が増える自体に。

「参ったね…」

「お前がさっさと判断しないから」

 シュナイダー様は笑いながらヴァネッサに話す。

「あたしのせいですか?…」

 彼女はうんざりとした様子そのまま。

「状況詳しく。増えただけ?」

報告してきた兵士に聞き返す。

「大量の石を投げ込んでます」

「弓矢だけじゃないけだけましか…」

 石といえども当たれは怪我をする。

 既に怪我人がでてる模様。

「領民に被害が出ないように、宿舎の中へ避難させて。盾とかで守りながら慎重にね」

「了解!」

 兵士が出ていく。


「エレナ、直接じゃなけりゃ協力してくれるの?」

「ええ」

「自分の手は汚したくないってか…」

 そういう事になる。言い訳だ。

 

「この前、あんたが使った障壁。使わませてもらうよ?」

「構わない」

 障壁の特性については既に説明している。

「ヴァネッサ、障壁をどうする?」

 シュナイダー様は興味深げに尋ねる。

「まず、北側のみに障壁を展開する。で、障壁の両横からバカ野郎と煽る」

「ほほう…それで?」

 ヴァネッサの説明にシュナイダーは少し笑みを浮かべなら聞いている。

「ここで、私の予測という希望では、賊が東西に分かれて分散。それを別働隊で南からと、北側から挟み撃ち」

「ふむ。分散せず、一方に偏ったどうする?」

「偏っても挟み撃ちはできます。混戦にはなるでしょうけど」

「混戦なら望む所です。ぶちかまします」

 ガルドらしい言い方。

「賊の動き次第という事か…動きの予測と指示伝達の速さが必要になるぞ?」

「日頃の訓練の成果が出ちゃいますね」

「見ものだな」

 そう言って二人だけが笑う。

「笑い事じゃねえって…」

 ガルドがボソリと呟いた。

 作戦がうまくいっても下手な動きでもすれば、後でヴァネッサもしくはシュナイダー様からお尻を蹴られるという。



「あれ、痛そうだよね…」

 ウィル様はヴァネッサの蹴りを見ているという。

「で、うまくいったの?」

「いや、気持ちよく分散してね。きれいに挟み撃ち」

 ヴァネッサは親指を立てる。

 うまくいったのは事実。

リアン様がいるので詳細は省くが、賊十名が死亡している。

 死亡した所を私は見ている。見る気はなかったが、シュナイダー様から見た方が良いと助言を受け、見てしまった。当然ながら気分の悪いものである。

 シュナイツは平和な田舎ではないのだ。と、再認識した。

  


 この件以降、賊の襲撃はほぼない。

 投石や火矢が打ち込まれるが被害はなく、シュナイツ周辺に賊の気配するとアリスとジルの報告が入るが、気配のみで何も起きなかった。


 シュナイツに来て約一ヶ月。

 魔法士隊が設立され、私が隊長に任ぜられる事なった。

 さらに魔法士見習いを募集し、私が指導しなければいけないという。 

 私は他人に指導するだけの知識は持ち合わせていないし、経験もない。

 だいたい、シファーレンで失態を犯した私がする事ではない。

 失態の事についは、まだ話していない。

 当然、固辞したのだが…。

「最初は皆、そう思うのだ。私もそうだった。自分が指導者など無理だ、とな。しかし、そういうのは年を重ねると巡ってくるものだ」

「シュナイダー様はそれだけの実力と経験を持ち合わせており、誰もがお認めになっております。ですが私は、魔法士としてはまだまだ勉強不足で、教える立場になど…」

「ははは、そう謙遜するな。二度の限界突破しておいて、勉強不足はないだろう」

 シュナイダーは私の言葉を笑い飛ばす。

「魔法士としてではなく、人として…」

「ならヴァネッサは隊長として適格ではないな。あいつは竜騎士としては、まだ完成しておらんし、人としても、まだ改めなければならない点もある。だが、シュナイツに来てからよくやっている。当初は失敗続きだったがな」

「竜騎士と一緒にされても…」

「あまり変わらんよ。ヴァネッサは私が将来性を見込んで連れてきた。だが、お前は既に二度の限界突破をし魔法士としてはほぼ完成している」

 完成?まさか…。

 私はまだ魔法に関して知らない事ばかりだというのに。

「なら、次にすべき事は何か?」

「次…ですか」

「そうだ。先人達がしてきたように知識や技術は後世に残さねばならない。これは義務とも言える」

 義務…。

 それは分かる。

 私はシンシア先生から学び、シンシア先生も誰に学んでいる。

「ヴァネッサには私が得た竜騎士としての知識、技術を教えた。あいつはそれを後輩に教えている。ヴァネッサは完成していないと言ったが、あいつが私が教えた知識、技術、それに自らが経験した事を後輩に伝えた時、完成するのだと私は思う」

「では、私は指導者とならなけば、魔法士として完成しないという事ですか?」

「そういう事になる。お前はそれを良しとするか?」

「…」

 良しとするか、と聞かれても…。

 シンシア先生みたいになりたいと思った事はある。

 先生は魔法士として完成していると思う。

 指導力はもちろん人として皆から尊敬され慕われている。

「なあ、エレナよ。やってみなければ分からない事もある。意外に向いているかもしれんし」

「ありえません」

「ははは」

 シュナイダー様は笑う。

「悪いが、これは決定事項だ。まあ案ずるな、魔法士など早々来るものではない」

 早々には来なかったが、結局は五人が集まった。


「この件についてヴァネッサはなんと言っていましたか?」

「あいつには話しておらん。私の独断だ」

「そうですか…」

 ヴァネッサに=相談しても多分無理だろう。

 基本的にシュナイダー様の意見にはしたがっているし。



「いや、事前に聞いてたよ」

「え?そう…だったの?」

「だけど、反対する理由はなかったし、あの人は思いつきでやる人じゃないからね。先を見据えてって事でしょ」

 やはり相談してもだめだったか。



 しかし、そんな事が吹き飛んでしまいそうな事態が私に降りかかる。


 昼食が済んだ頃、シンディが私を呼びに来た。

「エレナ隊長、シュナイダー様がお呼びです。執務室へ」

「わかった」

 執務室へと向かう。

「シンディ、私を隊長と呼ぶのはやめてほしい…それに言葉遣いも」

「役職に就かれた方をそう呼ぶのは当然ことではないかと。職位もわたくしよりも上ですし、言葉遣いに気をつけるのも当然です」

 職位…。

「立場でいえば、あなたの方が上では?」

 シンディは執務室で事務官としてシュナイツの運営に関わっている。

「そんな事はありません。わたくしはメイドとそう変わりません」

「明らかにメイドよりは上だと思うけど…」

 メイドに相談され、指示している所を何度も見ている。

 だいたい、部下のいない隊長は本当に隊長なのだろうか?。


 執務室からマイヤーさんが出ていく。

 入れ替わるように執務室に入った。

 

 執務室にはシュナイダー様、リアン様、ヴァネッサとシンディ、私の五人。

 何だろう、この雰囲気は?…。

 皆、表情が硬い。

「何でしょうか?」

「うむ…」

 シュナイダー様は机の上で手を組んだままだ。

 沈黙が続く。

「エレナ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 ヴァネッサが口を開く。

「何?」

「あんた、出身はどこ?」

「シファーレン…だけど」

「セレスティア王国じゃないんだね?」

「ええ」

 これは何?。

「魔法の勉学はどこでした?」

 シュナイダー様は若干威圧感が込められた話し方する

「…シファーレンで…」

 嫌な予感しかしない…。

「お前ほどの魔法士がなぜここにいるのが、少々引っかかっていた。王都にも魔法研究所はある。そこから来たわけでもないのだろう?」

「はい…」

 皆の視線は不信の視線だ。

 私が過去に起こした件については、まだ話していない。

 例え聞かれも有耶無耶にしてきた。

 

 この場は私の過去に触れている。

 なぜ今?。


「あんたについて手紙が来てるんだよ」

 私について?。

「差出人の名前はない。しかし、中の便箋にはシファーレンの国印が押されている。これは正式のものだ。私は何度もみている。本物だ」

「シファーレンから?…」

 全身に緊張が走る。

「て、手紙の内容は?…」

「うむ…お前が重罪を犯した者だと。匿わず追放せよとも書いてある」

「追放…」

 どうして…。

 全身が震えくる。

 

 確かに私は重罪人だ。

 しかし、国外追放されて再入国禁止となった。それで終わりではなかったのか?。


「あんたが待遇に不満を持っていて、腹立ち紛れに研究所を破壊して、死傷者が出てるって」

「死傷者?…怪我人だけと…あっ…」

「何かやらかしたのは本当みたいだね」

「研究所を破壊したというのは本当なのか?」

「それは…」

「どうなんだ?」

「あ、あの…」

 詰め寄るシュナイダー様の形相がシファーレン国王の怒り形相と重なる。

 私は手足が震え、口も震えうまく声が出せない。

「はぁ…はぁ…」

 息が詰まり、胸が締め付けられる。

「エレナ!聞いているのか?」

「申し訳ございません!」

 私は両手と両膝をつき、謝罪した。

「手紙の内容について聞いているのだ。謝罪を要求してしているのでない」

「わ、私は罪人です。言い訳のしようもありません。どうかお許しを…」

「エレナ、私の話をよく聞け。この手紙の…」

「シュナイダー様、ちょっと」

 ヴァネッサがシュナイダー様の話を止め、私の腕をつかみ立ち上がらせる。

「エレナ、立ちな」

「私…私は…」

「いいから、これに座って」

 角に置かれていた椅子を持ってきて、座らさせられた。

「ちょっと待ってなよ」

 彼女は執務室のドアの所で誰かと話す

「アル、紅茶余ってる?」

「ありますが、冷めてしまっています。飲まれるでしたら、お熱いものを…」

「それでいいよ」

 ドアが締められ、私の前に紅茶のカップが渡される。

「これ飲んで」

「なぜ…」

「いいから、飲んで。落ち着きな」

 言われるまま、ぬるい紅茶を一気に飲み干す。

 カップを持つ手が僅かに震えてる。

 ヴァネッサが私の肩に手を乗せる。

「あたしらは、あんたからの言葉を聞きたいんだよ。手紙の主はここにはいないから詳しく聞けない。でも、あんたはいる。手紙の内容とあんたの話、両方聞かないと判断できない。分かるね」

「ええ…」

「じゃあ、話して。あんたはシファーレンで何をしたの?」

 私はシファーレンの研究所でしでかした事を話した。


 話している間、不安で堪らなかった。

 また、追放されるのではないかと。

 見送ってくれた兄とマリーダさん、アスカに申し訳が立たない。

 そう思っていた…。


Copyright(C)2020-橘 シン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ