2-22
館の中は薄暗い。
一応、ロウソクを使ったランプはあるが、若干光量が足りていない。
発光魔法を使い始めるのは、もう少しあとである。
二階に上がり、さらに廊下を進む。
そしてある部屋。
今では多目的室、食事の場として使っている部屋。
部屋の中、奥に無精髭を生やした強面の男性。
レオン・シュナイダーその人とすぐに分かった。
威厳に満ち、畏怖すら感じる。
王国と救った英雄。
シファーレンの教科書にも出てくる。
偉人である。
「偉人、なんて言いすぎだよ」
「意外と普通の人よね」
ヴァネッサとリアン様の言葉。
「あの…二人ともさ、国を救ってくれた英雄に対してそういう言い方はないんじゃないかな?…もっと尊敬の念で…」
「尊敬はしてるって、竜騎士として大先輩だもの。だけど偉人って…」
「私も尊敬してるし、感謝もしてるけど、偉人は…」
「「ない」」
「全く…」
ウィル様はこめかみを押さえる。
印象は初対面のもので、厳しい面もあるが気さくな人物である。
多目的室の中、シュナイダー様はテーブルの向こうで腕を組んでいる。
竜騎士と思われる者数名。
それと女性が二人。この時は分からなったが、リアン様とシンディである。
「おう、来たか。さあ、遠慮はいらん。入れ」
部屋の入口で佇んでいた私を手招きする。
「はい…」
緊張しつつ、歩みでる。
テーブルの少し手前で止まり、頭を下げた。
「お初にお目にかかります。魔法士のエレナ・フォートランと申します。この度、王都にてシュナイツの魔法募集を拝見し…」
「待て」
「はい?」
シュナイダー様に言葉を止められる。
「そういう堅苦しいのはよしてくれないか」
「…はい」
挨拶を止められた私はどうすればいいのだろうか?。
「ヴァネッサ、お前の見立てはどうか?」
「はい、彼女は賊ではない。これは確かです」
「うむ、賊から攻撃されているからな」
「はい。それに賊が敷地内へ放った矢を吹き飛ばし、自分に向かって来る矢も防いています」
「ほお…」
シュナイダー様は顎を擦りながら私を見る。
「エレナ・フォートランだったな。女性…であっているか?」
「はい」
この時、ヴァネッサが小さく舌打ちした。
「限界突破は何度している?」
「え?…」
驚いた。魔法士の限界突破を知っている者はそうはいない。
「魔法士なら知ってると思うが?…」
「はい。失礼しました。私は二度の限界突破をしております」
「何!?二度だと…」
シュナイダー様は驚き、私を睨み、唸る。
「限界突破ってなんすか?」
シュナイダー様のそばにいた竜騎士が手をあげ、尋ねる。
「限界突破とはな…」
彼の疑問にシュナイダー様が説明を始めた。
「…という事だが。その若さで二度とは…ふふふっ…」
何故か笑い出す。
「私は運がいい。こんな逸材が来てくれるとは!採用する!」
え?
「お、お待ちください、シュナイダー様。あのお言葉ですが、よく分からない素性の者を採用するのは危険ではありませんか?」
そう意義を唱えたのはシンディである。
「申し訳ありません。優秀な魔法士とはつゆ知らず…」
「いやいや。シンディ、あんたの意見はまともだよ。シュナイダー様がおかしいんだよ。いきなり採用って…あたしだってもう少し事情を聞いた方がいいって思ってたし」
「自分もリスクが高すぎと思います」
「レスター、お前もか…」
「聞けば、シュナイツを更地にできるとか。そんな奴をここにおくのはどうかと」
「賊側に回れたら、手も足も出せないぞ。どうする?」
「そうですが…」
「味方に引き込めば、頼れる戦力となる。違うか?」
戦力…兄の言ったとおり、そういう扱いなのか?…。
「はい…」
「ヴァネッサはどっちだ?」
「あたしは…」
彼女は私を見る。
「あたしは、いいんじゃないかと。危険人物には見えませんし」
「私も悪人には見えない」
そう言ったのリアン様だ。
「それと限界突破?が本当かどうか確かめなくていいんですか?」
「それは確かめようがないな。本人を言葉を信じるしかない」
私は手をあげ発言を希望した。
「何か?」
「私はシュナイツに対して危害を加えるつもりは毛頭ありません。限界突破の証拠については機会あれば、納得出来るものをお見せいたします」
「うむ」
「私の魔法がシュナイツの役に立つならば、どんな事でもします。私が使えない魔法士と判断したのなら、ここを出ていく所存です」
「出ていくっていっても、金持ってないけどね」
「私がどうなろうと、知り合ったばかりのあなた達には関係ない」
「賊側に回るのは勘弁してよ」
ヴァネッサは肩をすくめる。
「それはない」
ああいうことは私にはできない。
「とりあえず試用ということで、しばらく様子を見るはどうです?」
ヴァネッサはシュナイダー様にそう進言した。
「うむ、まあ…そうしとくか。特に問題ないと思うがな」
ということでシュナイツに居付くことになった。
「で、今日に至ると」
「至る間にいろいろあったよね?」
「最初の頃に」
「別に大した事じゃないんだけさ」
シュナイツで生活し始めて一週間ほど経過した頃、再び賊が襲撃してきた。
深夜に起こさる。
「こんなに高い頻度で来るものなの?」
起こしに来たカリィに尋ねる。
「ここまで短い期間で来たのは、私は初めてです」
シュナイツができた当初はこれくらいが普通だったらしい。
自室を出て、廊下の窓から外を見ると、かがり火が焚かれ、辺りを照らしていた。
下を見ると領民がすでに避難していた。
領民達に不安の表情はあまりない。何度も来てるから慣れているのか?。
兵士達があちこち走り回っている。
「エレナ、こっち」
ヴァネッサが多目的室から手招きしてる。
「私は何をすればいい?」
「まずは様子見を見るから、待機」
多目的室にはシュナイダー様と竜騎士がヴァネッサを含め三名。
リアン様とシンディは領民の対応をしている。
しばらく待機していると、ドスドスという足音とともにガルドが入ってくる。
「報告。敵は北側。十から十五名。武器は剣、手斧。弓も持っていますが、前回より少ないです。確認できたのは三丁」
「いつもと同じ感じだね」
「どうします?」
シュナイダー様は腕を組んで黙ったまま報告を聞いていた。
「こんなに短い期間でくるのは久しぶりです」
「背格好や装備に見覚えがあります。前回と同じ奴らかもしれません」
「性懲りもなく、また来たんすか?バカっすね」
「バカだから、困るんだよ」
ヴァネッサがため息を吐く。
「痛い目に遭わないと付け上がりますよ。殺っちゃいましょう」
ガルドは比較的血の気が多い人物。
「今回、こっちには魔法士がいます。魔法で…」
「拒否する」
全員が一斉に私を見る。
いつかこういう話になるだろうと予測はしていた。
「シュナイツのために何でもするんじゃなかったのか?」
「言った」
「なら…」
「私は虐殺をしに来たわけじゃない」
「できないわけでない、ないんだな?」
「はい」
シュナイダー様の問に頷いた。
「賊を庇ってるように聞こえるぜ」
「どう捉えてもらってもいい。あなたこそ人殺しを良しとしているように見える」
「自分達を守るために賊を殺って何が悪い?」
そう言って、ガルドは拳をテーブルに叩きつける。
「対処できない数ならともかく、十数名程度で魔法を使うのはどうかと…。今までどう対処していたのか?」
「しつこい時は、あたしら竜騎士隊を中心に直接やりあっていたね」
「前回も吸血族が出撃していた。今回も同じようにできるのでは?」
私の問にガルドは黙ったまま睨みつける。
「魔法は下手をすればこちらにも被害が出る可能性がある。前戦争時も魔法が使われたが、なかなか難しくてな…」
シュナイダー様は眉間のシワを寄せそう話す。
「俺は直接やっても、全然構いませんよ。前回はアリス隊長とジルでしたから今度は俺達が出ましょうよ」
レスターが淡々と話す。
「ガルドは楽したいようですけど…」
「誰が楽したい、なんて言った?魔法をぶっ放せばビビって来なくなるだろうが」
「やめなって…」
ヴァネッサがうんざりした様子で二人を止める。
「いつもどおり、あたしら出てもいいけど。前回と同じ奴らとは限らないからね。手練れがいるかもしれないし、そうなったら怪我人が出る。かと言って魔法ぶっぱすってのもね…」
彼女は腕を組み考え込む。
シュナイダー様は特に指示は出さず、私達の様子を見ているだけ。
「芸がないけどいつもどおりで行こ…」
「報告。賊の人数が倍に増えました」
皆が一斉にため息を吐いた…。
Copyright(C)2020-橘 シン




