2-21
賊の人数は十数人?。
あの賊達に見つからずに避けて、回り込むようにして近づくか。
しかし、シュナイツの人たちは私の事は知らない。
賊と思われても、賊でないと証明することは難しい。
「だからって、賊のど真ん中歩いて近づくことないでしょ?」
「え?」
「…悪い策でないと思った」
他に思いつかなかったっというものある。
障壁を展開し、賊達の後ろから近づく。
障壁があればこちらに被害は及ばない。
怒号が飛び交う中、賊達の後ろから声をかける
「どいて」
「あ?なんだって?」
「どいて、と言ってる」
「うおっ、なんだよっ、てめえは!?」
声をかけた賊が驚き、剣を私に向ける。
他の賊達も私に注目し始めた。
周囲を賊達が取り囲む。
「奴らの仲間か?」
「やっちまおうぜ。それとも楽しんでからするか?へへっ」
嫌な笑みを浮かべる。
「あなた達に用はない。通して」
歩き始めた途端、いきなり剣で切りかかってきた。
「うぜえだよ。誰だか知らねえが死ねや!」
振り下ろされた剣は甲高い音ともに弾かれる。
「は?なんでだよ、くそ」
「あなた達に障壁を破る事は無理」
他の賊達も加わり、攻撃を受けるが、特に害はない。
「はあ」
賊達が疲れ始めた所で、ため息を吐きつつ無理やり押し通る。
館を取り囲む防壁に近づく。
「なんだ貴様は!?」
見上げると鎧を着込んだ兵士が見下ろし、睨んできた。
声の感じから男性と思う。他の兵士よりかなり大きい体格をしている。
他の兵士も私を睨んでいる。弓を構え、こちらに向けている者さえいる。
「私は魔法士のエレナ・フォートラン。王都にてシュナイツの魔法士募集を見てここまで来た。領主のレオン・シュナイダー様にお目通り願いたい」
「魔法士だと…」
少しざわつき始める。
「隊長を呼んでこい」
隣にいた兵士にそう話す。
隊長?大男は隊長ではないらしい。
賊達は遠巻きにこちらを見ている。
立ち去る気配はない。
障壁はまだ展開したままが良さそうだ。
「魔法士だって?」
「はい…さっきほど…」
隊長が来たようだ。大男が耳打ちしている。
「へえ…あんた、魔法士ってほんと?」
女性?。
声を聞いた感じと薄暗がりで判別不明だが、そう見える。
女性の隊長とは珍しい。シファーレンにはいなかった。
着てる鎧は大男とほぼ同じ。
「そう言った。信じる信じないはそちらしだい」
女隊長は笑って、そうだね、と返してくる。
「こんな時間に来るやつがいるか?考えろ」
大男が面倒くさそうにいい放つ。
「それについては謝罪する」
どうしろと?。朝まで隠れていれは良かったのか?。
「やめな、ガルド」
大男はガルドという名前ようだ。
「あんたは賊じゃないんだね?」
「ええ」
さっきの光景で分からなかったのか。
甲高い音が後ろから聞こえる。
振り返ると賊達が私に向かって石を投げていた。
石が障壁にぶつかるたびに、波紋が起きて石は地面に落ちる
「なるほどね…」
納得したなら中に入れてほしいが…。
「火矢来ます!」
え?
先端が燃えている矢が二本、同じような放物線を描いてこちらに飛んくる。
「矢が中に入るよ、注意しな!」
弾道を予測した女隊長が叫ぶ。
私は咄嗟に魔法で風を巻き上げ、矢を吹き飛ばした。
矢は私と賊の間の地面に突き刺さる。
「まだ来るよ!」
まだ?
賊の弓が私を狙いを定め、放たれる。
消した障壁を急いで再展開する。
魔法の発動にはどうしても時間がかかってしまう。
間に合うか!?。
甲高い音と波紋が目の前で起こる。
間一髪、矢を防ぐ事ができた。
危なかった…。障壁の展開がほんの少し遅れていれば、私は射抜かれていたかもしれない。
矢は一本だけではなく、何本も私に向かって放ってくる。
「大丈夫かい?」
「問題ない…」
ないが…。いつまでこうしていればいいのか?…。
「今、中に入れてあげるから」
しかし、この状態でどうやって…。
その時、何か黒い影のようなものが私の上を飛び越え、目の前に現れる。
影は人だった。
私より背は高く、すらりと手足が伸びている。
その者は、次々と飛んでくる矢を手刀で落としていく。
薄暗がり中なのに確実に落とす。
なんという動体視力。
「右手に通用口があります。そちらへ」
声が女性のように聞こえる。
女性兵士が多いのだろうか?。
そう言われ、移動しようとした時、もう一人降り立つ。
「アリス、適当にあしらうだけで良いからね!」
「はい、わかりました」
アリスという者は女隊長にそう言われると、賊達へ向かって走り出す。
走る速度が尋常じゃない。
「早く通用口へ」
「ええ…」
長身の彼女に促され、通用口へ向かう。
賊達へ行った一人は、まるで踊るように賊達の間を飛び跳ね翻弄している。
ここはどういう集まりなのだろうか?。
「入ってくれ」
通用口から兵士が手招きする。
「さっきの人は?」
「アリス様なら大丈夫です」
様?。
「わたくしはここで」
そう言うと一歩後ろに下がる。
「ヴァネッサ隊長。わたくしはアリス様を迎えに行きます」
「ああ。ついでに弓壊しておいて、矢は回収」
「了解しました」
敬礼をすると行ってしまった。
「さあ早く」
やっと中へ入れる。
中には兵士多数。その後ろに使用人達。
ほぼ全員が私を見ている。
「武器を持っているなら出せ」
大男が私を見下ろしている。
彼は剣の柄を掴んでいた。今にも引き抜きそうな感じ。
「ガルド、剣から手を離しな」
大男と私の間に誰かが入る。
女隊長だ。
女性としては長身でいい体格。
「しかし…」
「いいから、大丈夫だよ」
女隊長は堂々しており余裕を持った様子。
「全員、持ち場戻りな!まだ終わってないんだよ!」
女隊長の言葉で兵士達が散っていく。
「身体検査ね。まず、その手に持ってるは?」
「杖」
「ただの木の棒じゃねえか」
失礼な。
女隊長に手渡す。
ひとしきり眺めた後、返してくれた。
「荷物をガルドに」
鞄を下ろし、彼に渡す。彼は鞄をひっくり返し中身を出す。
「…」
なんて事を…。
「悪いね…」
女隊長はそう言って私の背後に回り込む。
「な、何を!…」
突然、女隊長が私の体を弄り始めた。
「だから身体検査」
「んっ…んあっ…」
胸から脚の付け根まで、全身くまなく触られる。
「変な声出すんじゃないよ…」
そう言うが…。
「はい、いいよ」
「はあ…」
ようやく終わった…。
「そっちは?」
「衣類と木の棒…それにナイフ」
「ナイフに使った形跡は?」
ナイフをシースから抜く。
「…きれいです。たぶん買ってから使ってないですね」
硬いパンを砕くのに使ったが、シースにしまったまま柄のほうしか使ってない。
「そう、わかった」
雑に扱われた衣類その他と鞄を返された。
「それじゃあ、シュナイダー様の所に行こうか」
「本当にいいんですか?」
大男は訝しげに私を見る。
「こいつは賊じゃない」
「まあ、賊から矢を撃たれてましたけど…」
「その前も剣で打たれてたんでしょ?」
「はい」
「それで賊なら、いい役者だね」
女隊長はそう言って笑う。
当然ながら演技などではない。
「さあ、来な。ガルド、あんたは賊の監視を継続」
「了解」
大男は敬礼をして去っていった。
「私物、雑にしちゃって悪いね」
「あなたに謝れても…どうしろと?」
「うん、まあね。一応あいつの上官だから」
ここは無粋な者たちばかりなのか?。
私を矢から守ってくれた人はそうは見えなかったが。
「戻ってきたね」
女隊長が上を見上げる。私もそれに釣られるように見上げた。
先ほど、賊達のほうへ向かった二人が帰ってきた。
防壁の通用口からではなく、防壁の上を飛び越えて。
空中で一回転し、音もなく着地する。
「只今、戻りました」
「ご苦労さん」
長身の者と、私と変わらない身長の者。身長差ある二人組。
全身真っ黒な防具に身を包んでいる。
「全員、昏倒させてきました。多分朝まで起きないかと」
「歯ごたえなし」
そう言っても、背の低い者が首をふる。
「仕方ないよ、アリス。あんたに敵う相手はジルくらいなもんさ」
「わたくしはアリス様の足元にも及びません」
長身の者はジルという名前だった。
「ジルと戦っても面白くない。動きの癖は読めてしまうし」
「お力になれず、申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
それを見て、女隊長は笑いを堪える。
「やめなよ、ジル。動きのが読める事は良いことだよ。特にあんた達の場合はね。お互い、安心して背中を預けられるのは誰か、分かってるでしょ?」
そう言われた二人は視線を交わし、しっかりと頷く。
「じゃあ、しばらく休憩ね」
「「はい」」
二人は去って行く。
「彼女たち何者?信じられない動きをしていた」
「二人は吸血族だよ」
吸血族?初めて見た。
「ごめんね、待たせて」
「いいえ」
「それじゃ、中へ」
館へと向かう。
「あの…」
「なんだい?」
「お互い自己紹介が済んでない」
「え?そうだった?。それはいけないね。あたしはヴァネッサ・シェフィールド。ここの竜騎士隊隊長やってる」
竜騎士?…まさか女性の竜騎士だとは。
という事は似てる鎧を着てるガルドという者も竜騎士か。
「私は…」
「エレナ・フォートランでしょ?」
「え?ええ…」
「報告はきいてるから」
「そう…」
館の中へ入って行く。
やっと、シュナイダー様とのご対面である。
Copyright(C)2020-橘 シン




