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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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37/102

2-17


 薮の中へどんどん入っていく。

 いきなり刺されなかっただけまだ良い。

 もし刺されていたらここで終わり…。

 

 気が動転して魔法の事は忘れていた。


「悪いなぁ、もう少し静かにしてぇな?」 

 私は口を塞がれたまま頷く。

 声は若い女性のよう。

 

 大きな木の根元の所で解放される。

「こんなん乱暴してすまんかった。でも、あのままやったら、賊に襲われてたで?」

「え?」

 人の気配には気づかなくなった。

 だからといって口を塞ぎ、藪の中へ連れ込むのはどうかと思う。

「それは…ありがとうございます…」

「ええんやで」

 聞き慣れない口調、言葉遣い。

「それで、あなたは誰?」

「うちか?うちはアスカ。アスカ・レミンスキーやで。アスカちゃんって呼んでもええで?」

「私はエレナ・フォートラン」

 


「アスカ?」

「はい」

「多分…友人だと思う」

「ほんとかい?あんたって顔が広いんだね」

「普通だと思うけど。その名前と言葉遣い。香辛料の商人じゃなかった?」

「はい、そうです」

「やっぱり…。アスカとも会っていたのか…」

 ウィル様はやや重い表情で話す。

「女性よね?どういう人なの?」

「どう?えっと同じ孤児院で同い年。孤児院を出たのも同じ時期。気さくで明るい人だよ。マリ姉と似てるかな」

「ウィル。マリーダの事を話す時と随分違うね。マリーダの事は楽しいに話すのに。あんた、アスカって人、嫌いなのかい?」

「別に嫌いじゃないよ…」

「あ、なんか訳あり?元彼女とか?」

 ヴァネッサはニヤリと笑いながら、ウィル様に尋ねる。

「元カノ!?」

 リアン様が身を乗り出した。

「違う、違うよ。そういうんじゃないんだ…」

「だったらなんなの?」

「一緒に商売をしてた時期があって…」

「一緒に?夫婦みたいだね?」

「夫婦!?」

「だから、そういうんじゃないって。最後まで聞いてよ…」

 ウィル様は頭を抱えため息を吐く。

「一緒に行動してただけだよ。それ以上はないよ。で、考え方や意見が合わなくなって喧嘩になってそれで止めた」

「意見が合わない?どんなさ?」

「今聞く?エレナの話を聞くんじゃなかった?」

 多少イラついたようにリアン様とヴァネッサに聞き返す。

「まあ、そうだけど…」

「話は省くけど…喧嘩して、そのまま。それ以来、ロクに口も聞いてない。マリ姉以上にね」

 その件についてリアン様は色々、ウィル様に聞いたが、彼は答えてくれなかった。



 ほぼ真っ暗で何も見えないので、杖の先を発光し直した。

「ちょ、やめえや。バレてまうやん」

「あ、ごめんなさい」

 光量を落とす。

「けったいなランプ持っとるとおもたら、それ魔法やないか?」

「そう」

 杖を顔あたりも持ってくる。

 私を藪へ連れ込んだ人の顔がよく見える。


 片八重歯で、青っぽい髪を後頭部で結んでいる。

 私と同じくらいの年齢に見える。

「もう一つ訊きたい事がある。どうしてこんな所に?」

「え?ああ…うちな、寝坊してもうて…」

 

 近くの村で商売と休憩をしていたが、朝出発の予定が昼となってしまったと言う。

「急いだんやけど、無理やった…。そして夜になってもうて。この辺は賊が多いから藪の中で隠れてたんや。で、自分が現れた」

「なるほど」

「う、うちの事はええねん。魔法士様なら、賊どもやっつけてや」

「様をつけるのは止めてほしい。それとやっつけるのは無理」

「なんや光らすだけかいな…」

 残念そうに肩を落とす。

「いいえ、それ以上の事もできる」

「ほんまか!?ほなら…」

「できない。したくない…」

「なんでやねん」

「人には使いたくない。私個人の考え」

「人って賊やぞ。かまへんかまへん」

「かまへん?」

「別に使ってもいいちゅうとるんや」

「私の信念に反する。失礼する」

 私は立ち上がろうしたが、腕を掴まれる。

「どこ行くねん。賊がいる言うたやろ?」

「身を守る方法はある」

「あるんか?う、うちも守ってくれへん?」

 腕にしっかりと抱きつかれる。。

「賊に対して魔法を使えという、あなたの希望にはそえない」

「使う、使わないはエレナ様の自由やで?守ってくれたら、なんでもしたるさかい」

「なんでも?」


 兄からできるだけ交渉しろ、と言われいる。

 1ルグでもいいから値切ったり、得するようにしろと。


 なんでも…。

「とりあえず様は止めて…。あなたは商人のようだけれど、荷物は?」

「あるで。少し離れた所に荷馬車あるんや」

 荷馬車…があるなら乗せてもらおうか?。

「それで、どこまで?」

「リカシィや」

 リカシィ!よし!。

「荷台に乗せて」

「ええで!それだけでいいんか?」

 それだけ?。まだ交渉の余地がある?。

 マリーダさんの強引さを思い出す。

「それと…リカシィまでの、ゆ、夕食を奢って…」

 多少罪悪感があるものの、お金はできるだけ節約したかった。

「リカシィまでの夕食?ちょ…ちょっと待ってぇな…」

 アスカは腕を組み、考え込む。

 しまった大きく出過ぎたか?。しかし、私は彼女の身を守るという大義がある。

 命より価値の高い物はない。

「嫌なら…」

「分かった。奢ったる…」

「交渉成立」

 私達は握手をする。

「で、どうするんや?」

「障壁を展開して進むだけ」

「しょうへき?」

 

 まずは荷馬車を確認する。

 荷台はそれほど大きくはない。中は荷物で一杯。

 前の方にアスカと並んで座る形。

 一頭引き。

「ただ普通に行けばいいんか?」

「ええ。ただ町に向かって走ればいい」

「だ、大丈夫なん?…」

 かなり不安な様子。

「大丈夫、信じて」

「よっしゃ、ほな行くで」


 藪の中から街道にでてリカシィ方面へ。

「誰もいない…」

「さっき、めっちゃぎょうさんいたんや。頼むで、ほんま」

「まかせて」

 障壁を荷馬車の周囲に展開する。ほんの少し光を帯びている。

「なんやこれ?」

「壁、見えない壁」

「こんなん初めてみたわ」

 

 右から甲高い音が聞こえた。

「ひっ」

「矢が飛んできたもよう」

 右側を杖で照らす。

 賊が数人見えた。

 弓を構えている。

「やっぱりおったか」

「速度を上げて」

「上げたいけど、そんなに出えへんよ」

「荷台を軽くする」

「へ?おお!」

 速度上がっていく。


 左右方向から矢が次々と飛んでくる。その度に甲高い音がなる。

「大丈夫やと分かっていても、怖いな…」

「まきつつある。もう少し…あれは?…」

「なんやねん?」

 まずい。馬で追ってくる。

「だから、なんやねん!」

「馬で追って来てる。2頭で」

 1頭が先行してどんどん近づいて来る。

「マジやんけ!」

「速度を上げて、もっと」

「これが限界や」

 

 賊の馬はとうとう追い付いて、並走されてしまう。

 馬上の賊は剣を引き抜き、私達に振り下ろす。

 剣が当たった衝撃で障壁に波紋が生じる。この程度では障壁は破壊されない。

 何度も当たりそのたびに波紋が生じる。

「ひえっ!、大丈夫なん?」

「大丈夫、問題ない」

「問題、大ありや。追っ払ってくれや」

「でも…」

「このまま、町まで連れて行くんか?町で暴れまわれたら、けが人がぎょうさん出るで?」

 けが人が…。それはいけない。

「でも、人に魔法は…」

「アホ!馬や、馬を狙わんかい!」

「馬?…なるほど」

 私は火球を作り出し、タイミングを計る。

 障壁は攻撃を防げるが、障壁の内側からの攻撃はできないのある。

 障壁を一度消さなければならず、消せばこちらに被害が、アスカが怪我をする可能性が高い。

 

 賊が疲れを見せはじめ、振り下ろす速度が下がってきた。

 大きく振りかぶった所で障壁を消す。

「ここで!」

 火球を馬の首辺りに当たるように放つ。火球は見事に当たり、馬が前足を大きく跳ね上げた。

 突然の事で、賊はバランスを失い落馬する。

「やるやん!」

「もう、一頭…」

 障壁と再展開し、二頭目に備える。

 二頭目は速度を落とし追っては来なかった。

「追ってこない…」

「ホンマか?」

「うん」

 確かに馬の姿は見えない。

「「はあ~…」」

 二人して深く息を吐く。

 

「怪我ないか?」

「ない。あなたは?」

「大丈夫や」

 荷馬車は若干速度を落とし、町へむかう。

「助かったで、ホンマ。ありかとうな?」

「いいえ…」

 礼を言われるほどの事をできたのだろうか?。

 もっと賢く、臨機応変にできなかったか?。

 反省すべき点は多い。 


 目的の町に着く。

 空いていた宿を借り、ベッドへ倒れ込む。

「疲れた…」

「うちも…」

 そのまま眠りに落ちしまった。




Copyright(C)2020-橘 シン

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