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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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36/102

2-16


 まずは荷物を入れる鞄。両肩に背負うタイプを選んだ。

 肩への負担が減るのだという。

 魔法で軽く出来るから言うほど負担にはならない。

「革製の丈夫なやつがいいな。それから金を入れる革袋を大小複数」

「複数?」

「一纏めしてスられらたら、大変だからな。分けておいたほうがいい」

「確かに」

 普段使う分は小さい革袋に入れておいて、革紐で首から下げて服の中にしまっておけ、と言われた。

「出来るだけ金を人前で見せたりするなよ。宿部屋の中とかで出し入れしろ」

「分かった」

「それから置き引きにも気をつけろ」

「分かってる」

 何だか、しつこい。



「妹思いの良い兄貴じゃないの」

「少し、気持ち悪い」

 私の言葉に皆が含み笑いをする。



 準備にかかる費用も全て兄が出してくれた。

「返す予定はない」

「分かってるよ、そんな事は」

 兄は笑いながら言う。


 それから王都からリカシィ、リカシィからシュナイツへの工行程にも相談に乗ってくれた。

「リカシィまではなんとか行けるよな」

「ええ」

 マリーダさんとリカシィから来ているので、町の位置は覚えるている。

 リカシィで貰った地図に書き込んでおいた。

 一応、新しい地図も購入済み。

 リカシィまで街道沿いは特に変化ないはだろうから新しい方が役に立つかもしれない。

「問題はリカシィからシュナイツだが…正直、分からん」

 兄は知り合いあたって情報を聞いてくれたが、さほど集まらなかった。

「町じゃなく村が点在してるって話だ。それからシュナイツの手前にポロッサって町がある。町というよりちょい大きめな村だと思うけど」

 この程度ある。王都で得られる情報には残念ながら限界がある。

「情報収集は現地する」

「情報はリカシィの方が得やすいだろうな」


 準備には三日かけたと思う。

 そして出発当日。


 まだ夜も開けきらぬうちに出発する。

 人通りはほぼない。

「早すぎるのでは?」

「朝食食ってからじゃ混んで身動き取れないだろ?」

 確かに…。

 

 途中まで一緒に行くと言う兄とともに北側の外町へ。

「ほんとはリカシィくらいまで付いて行きたいが、商売があるから…」

 彼は残念そうに話す。

「気にしなくていい。これは私のわがままだから」


 外町へ出て西に向かう。さらに進んで王都の北西部辺りまで来る。

「この辺で待っててくれ」

 そう言って立ち止まった。

「待つ?何を?」

「いいから」

 よく分からない、ここで何かを待つらしい。

 しばらくすると荷馬車がやって来て、私たちの前で止まった。

「よお、おはようさん」

 この人は…私を行きずり、流れ者と言った人物。

「おやっさん、すまない。こいつを二つ向こうの町まで頼む」

「いいぜぇ、礼は…」

「分かってるよ。いつもの、だろ?」

「えへへ、そゆこと。さあ、乗りな。飛ばすぜぇ」

「でも…」

「出来るだけ距離稼いだほうがいい」

「乗らねえなら、帰っちゃうよ~」

 そう言われ、兄に荷台へ乗らされた。

「じゃあな…」

「…」

 何か、何か言わなけば…。

「ありがとう…」

「おう…。手紙くれよ」

 私は小さく頷く。

「感動的だなぁ。涙が出るぜ~」

「早く行けよ!」

「はいはい」

 荷馬車が動き出し、兄が離れて行く。

 そんな兄に小さく手を振った、彼は手を振り返えして、そして背を向け歩き出す。


 荷馬車は結構な速さが出ている。

「あんた、レニーの妹なんだってな?すまなかった、行きずりなんて言っちまってさぁ」

「いえ、別に…」

 実際、そうである。

「それに魔法士だって?レニーがえらく自慢気に話してたぜ」

「兄が」

 初耳である。

「彼は何と言ってました?」

「将来、超有名な大魔法士なるんだと、その才能があるってさ」

「そう…ですか」

 私には大魔法士なる素質などない。

 兄は私がしでかした事で幻滅したでのではないか?。

「そうなのか?」

「まさか」

「ははは。俺には普通の嬢ちゃんにしか見えないが、あいつには自慢の妹だったみたいだな。酔うといつもあんたの話をしてたぜ」

「…」

 兄が私のことをそこまで思っていたとは…。

 私自身の口数の少ない事が災いした。

 兄ともっと話をすべきだったと少し後悔している

 

 私は振り返って遠ざかる王都を見る。

 兄はもう見えない。



「お兄さんは複雑は気持ちだったんだね」

「みたいね。エレナをそばにおいておきたい気持ちと…」

「魔法士として成功してほしいって気持ち、だね」

 


 荷馬車の勢いは止まらず、王都最寄の隣町を通り過ぎて行く。

「あなたは兄とはどういう関係ですか?」

「どういう?あーそうだなぁ…助けたりたすけられたり、持ちつ持たれつってやつ?」

「そうですか」

 この人に素性はよく分からない。

「俺、王国の出身じゃねえだわ。だからレニーを気があったのかもしれねえ。他のやつらと助け合ってなんとやってきたんだ」

 と、楽しそうに話す。

「何か商売を?」

「ああ、色々な」

 詳しくは話してはくれなかった。


 この町では火事から子猫を助けた。

 ついこの間の事なのに懐かしく感じる。

 

 もうすぐ夜が明ける。

 人通りの少ない町を駆け抜ける。


 そういえばマリーダさんには連絡はしていない。

 探そうともしなかった。

 偶然会うのは構わないが、会えば世話を焼いてくるだろう。

 しかし、それがないのも、また寂しく思ってしまう。


「引き返してもいいんだぜ?」

「それは絶対にしない」

 私に言葉におやっさんは笑うだけ。


 夜が明けた頃、次の町に到着する。

 兄はおやっさんにこの町までと言っていた。

「到着っと」

 この町もそこそこ大きい。

「ありがとうございます」

「いいって事よ」

「すぐに帰るんですか?」

 鞄を背負いつつ、聞いてみる。

「ああ、帰る。レニーに伝言があるなら聞くぜ」

 伝言か…。

「半分だけ許す、と」

「半分だけ許す?…そう言えばいいのか?」

「はい」

「そうか…分かった。言っておく。んじゃあな」

 おやっさんは鼻歌まじりに帰って行く。

 彼は私を送り届けるためだけにここまで来たようだ。



「半分だけ?」

「はい。かなり譲歩しています」

「兄貴の気持ちが分からないわけじゃないだろうに」

「だから、半分だけ許した」



 露店で出来るだけ安い朝食と昼食用に果実一個を買い、食べながら次の町を目指す。

「距離はあるが、今日中にはつけるはず」

 魔法で鞄を軽くする。重さはほぼ感じない。

 これなら行ける。重量軽減の魔法を作っておいて本当に良かった。


 とても調子よく歩いていたが、足が痛くなってきた…。

 次の町はまだ見えない。

 出発した町のほうが断然近い。



「そりゃさ、歩き慣れてないもの。痛くなるでしょ」

「失念していた」

 


 マリーダさんの荷物運びで、体が痛くなったのを思い出した。

「それ運動不足。慣れよ、慣れ」

 

 休んでもいいが、時間を取られたくない。

 ペースを落として、歩き続ける。

 私の横を荷馬車が追い越して行く。

 

 荷馬車で行く事も考えたが、馬の操作はできないし、習う時間が惜しかった。

 何よりお金がかかる。

 兄から荷馬車を使っている商人に声をかけろ、言われいる。が、どういう人物か分からないから、声をかけづらかった。

 

 次の町には夜になるまでになんとか着けた…。

 対策を取らなければならない。

 

 翌日。足の痛みは取れたが、重だるい感じは取れない。

 しかし、荷台に乗せてくれる商人を探さないといけない。

 朝食を買って、荷馬車持ちの商人を探す。

 

 次の町までは歩いて行くには遠い。

 なんとしても探さないと…途中で野宿は避けたい。


「すみません。リカシィ方面へ行きますか」

「ああ。行くよ」

「よかったら荷台に乗せてもらえませんか?この町まで」

 地図を指し示し、尋ねる。

「すまないが、馬一頭だし、これ以上はちょっと…」

「私は魔法士です。魔法で荷台を軽くできます。それでも」

「ははは、冗談はよしてくれよ。先を急ぐから、じゃあな」

「あの、本当です…」

 商人は行ってしまった…。



「何故か、冗談と取られてしまって…何人も」

「魔法士はエリートってイメージなんだよね。小さな石を光らせたり、火口に火をつけるくらいならいるけど、エレナくらいの魔法士は町中じゃ珍しいんだよ」

「ここには五人もいるけど」

「本来なら研究所や学校にいるんでしょ。それに大っぴらに魔法士です、って言わないようにしてる可能性もある」

 ヴァネッサの言う通り魔法学校では、あまり他言してはいけないと指導されていた。

「実際に魔法を使ってみれば、嘘じゃないって分かるのにね」

 リアン様の言う通りなのだが、話は聞いてもらえず邪険にされた。



 これは非常に悪い状況。

 この町に留まり荷台に乗せてもらえる商人を探すか?歩くか?…。

 留まれば、費用がかさむ。歩いて行けば町に着かず夜になってしまう。


 地図上では、街道から少し脇道に入れば、村あるようだ。

 しかし、規模は分からないし、時間を浪費してしまう。

「もういい、歩く」

 夜通し歩けば着く。

 半ば自棄になっていた。


 昨日よりも早く足が痛み出す。

 道からはずれ草地に座り込んで少し休む。

 休んでる間、私の前を荷馬車が行き交う。

 荷馬車以外にも大きな荷物を背負って歩く商人もいる。

 彼らは重量軽減の魔法は使っていない。

 私なんかより、ずっと大変なはず。

 でも、それが普通でそうやって生きている。

 対抗するわけではないが、負けたくないと思った。

 私は立ち上がり、歩き出す。


 結局というか当然如く、夜になっても町には着かなかった。

 魔法の杖を出し、先端を発光させて、足元と周囲を照らしつつ歩く。

 目立つ事この上ない。

 賊に会ったらどうするか?を考えながら歩いていた…。


 すると突然、後ろから口を塞がれる。

「ん!?」

「静かにせぇ…」

 そう耳も元で言われ、口を塞がれたまま後ろへ引っ張られて行く。

 そして、薮の中へと連れ込まれた…。



Copyright(C)2020-橘 シン

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