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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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35/102

2-15


 兄の商売を手伝いつつ、自宅となった彼の家の周辺の散策をした。

 王都の城下町は道が入り組んでおり、分かりづらい。

 兄が作ってくれた簡易地図を元に歩き回り、覚えていった。



「目標物が多いから二、三度行けば大丈夫だけどね」

「分かりづらいのは仕方ないね。侵入してきた敵の進行を遅らせるためだから」

「王都に敵が来るってありえなくない?」

「昔一度あったんだよ。前の戦争のよりずっと昔にね。それ以降はないけど、これからないとは断言できない。一見無駄かもしれないけど、備えあれば憂いなしってね」



 私は王都で何不自由なく暮らしていた。

 しかし、充足感は得られていない。

 普通の人ならば幸せな事なのだろうが、魔法士である私は魔法が使えない事に歯痒い思いをしていた。

「魔法で商売でもしてみろよ。かなり儲かると思うけどな」

「魔法は商売道具ではない。崇高なもの」

 とはいうものの使わなければ、宝の持ち腐れである。

「火の玉をふわふわ浮かせるだけいいんだぜ」

「私は大道芸人ではないし、プライドがある」

「そのプライドで失敗したんだよな…」

「…」

 言い返せない…。

「すまん、言い過ぎた…」

 兄の言う通り過度なプライドで失敗したのは事実だ。

 シンシア先生も態度には出さないが、失望したに違いない。


「ギルドの求人は見たか?」

「見た。魔法士の求人などない」

「まあ、ないだろうけど…魔法でできるやつとかさ」

「帳簿処理、家庭教師、着付け…魔法でどうしろと?」

「うん…そこはうまいこと…できないよな。求人は入れ替り早いから、毎日じゃなくてもいいからチェックした方がいいぞ」

 そう話す彼に頷き返す。

「オレはお前の事、迷惑なんて思ってないからな。別に何もしなくたっていい」


 求人の中には隊商というあった。

 商品の輸送護衛である。

 当然ながら相手は賊であり人。

 求人数はそこそこあり、報酬も良かったりするが、私は人に対して魔法を使う事には抵抗があるので、求人としては除外していた。


 後日。

 昼食を買い行くついでにギルドに寄ることにする。

 いつもは城下町のギルドに行くが、今日は外町の北ギルドに行く。

 

 どうせ、ないだろう。

 特に期待せずに求人掲示板を見る。

 城下町のギルドとさほど変わらない内容…ん?んん?。

「魔法士募集!?」

 これは…見間違いではない。 


 シュナイツ領は

 領民、兵士、、魔法士、使用人を募集中

 ※兵士、魔法士、使用人については食事及び宿舎完備



「随分、シンプルだね…」

「とりあえずって出した募集だし」

「もう少し、シュナイツに来てほしいってアピールがあってもさ」

「シュナイダー様がこれでいいって言うだもん。こんな所変わり者しか来ないだろうって笑うし」

「自分で言うんだ…。それで募集を始めたのいつ?」

「三年?…くらい前だね。シュナイツは約五年前に開いて、一年半で落ち着いて…」

「それくらいで、私が来た。アリスとジルはもういて、それからエレナとかミャン、ライアかな?」

「そうなんだ」



 募集内容をメモ(近くの伝言板の下に紙とペン、インクあったので勝手に拝借した) して帰宅する。

「魔法士の募集を見つけた」

「おお、マジで?」

 メモを兄に見せた。

「お、おう…」

 彼のリアクションは小さい。

「募集はわかったが、昼食は?」

「あ…」

 忘れていた。


 急いで買ってきた昼食と食べながら、募集内容について兄と話す。

「内容ってこれだけか?」

「これだけ。すべて書いてきた」

「報酬とか給料がどれくらいか書いてないぞ」

 確かに書いていない。

「要相談という事では?」

 募集要項によく書かれているのを見る。

「そうなら書くだろ。っていうかシュナイツかよ…」

「知ってるの?どこ?」

「王国最北部だよ。リカシィよりもさらに北の北」

 リカシィよりも北…。かなり遠方。

「シュナイツはまだできて間もない。王国の英雄が開いたって話だ」

 王国の英雄。 

 学校で習った気がする。

 確か…レオン・シュナイダー。

「やめとけよ…。兵士も募集してるって事は防衛目的じゃないか?なら相手は賊だな」

「賊…」

 それいう事か。

「給料なしでこき使われるだけだ」

 しかし、ここでのうのうと暮らしているわけにもいかない。

「魔法を使いたかったら、研究所いけよ。お前、相当出来るんだろ?向こうは喜んで雇ってくれる。国立の研究所だ、高給だぜ。魔法の研究ができて給料もらえる。良いことずくめじゃないか?」

「研究は研究所でなくてもできるし、お金はいらない」

「いらないって金なしでどうやって生きていくんだよ…」

 兄はため息を吐く。

「ここにいるよりは、ずっといい」

「ここよりって…お前」

 彼は眉間にしわをよせる。

「魔法士は魔法を使ってこそ魔法士。例え、賊相手でも…」

「本気で言ってるのか?」

 私は彼に頷く。

「あなたには分からない。あなたに捨て…孤児院預けられて、シンシア先生に魔法士として導かれて、魔法だけが拠り所で取り柄だった。なのにここで何もせずに生きたくはない」

「そうやって固執してるから失敗したんだろうが!」

「そう。だからその汚名を返上したい。自分の為じゃなく、誰かの為に。シュナイツが魔法士を必要としているなら、そこで役に立ちたい」

「シュナイツを守るために賊に魔法を使えるのか?たった一人吹っ飛ばしただけ動揺してるお前が」

「それは…分からない」

 あれはマリーダさんを守る為であって…。その時の事を思い出し、手が震える。

「やりようはあるはず…直接じゃなくて…」

「間接的ならいいのかよ。都合がいいな」

 都合がいい…いえ、自分勝手で言い訳にしてるだけ。

「オレも偉そうな事は言えない。オヤジとおふくろの手伝いしてたから。賊ってやつはこっちの命なんか考えてない。お前みたいな半端な気持ちじゃ、どうなるか…」

 兄はテーブルに両肘をついて手を組み、額を乗せる。

 表情は見えない。

「私は…」

「やめてくれ。今日はもういいだろ。話はまた後にしてくれ」

「…わかった」

 後日、何度も話し合いを重ねるが、平行線のまま…。

 兄との会話は著しく減ってしまった。



「あんたの事、心配してるんじゃないの?」

「僕もそう思うよ」



 それは分かっていた。

 きっと兄の中では、私は別れた頃のまま、まだ子供なのだと思う。

 しかし、私はもう大人。

 

 離れていた時間が長すぎた。

 時間的溝を埋めるのは、難しい。

 例え埋める事ができたとしても、分かり会えるかどうか分からない。


 兄の手伝いは続けていた。そうしなければお金を得られないから。

 お小遣い程度しか貰えない。

 特に欲しい物はなかったので、少しだけ使って貯めている。

 しかし、シュナイツに行ける程には貯まってない。

 

 王都からリカシィまで1500ルグ必要。

 地図上では、リカシィからシュナイツは王都からリカシィとほぼ同じ。

 いや、もう少し距離があるか?。

 という事は3000ルグは欲しい。これは最低の旅費。他に買い揃えたい物もある。

 兄の手伝いをして始めて一週間くらいで、まだ数百ルグ…。

 小さな水晶の原石を三つ買っただけで、あとは使っていない。

 このまま手伝いを続けていれば貯まるだろうが、これでは数ヶ月かかる

 しかし、私は今すぐにでも行きたかった。 

 

 兄とはできるだけ顔を合わせたくなくて、食事以外は二階にいるか裏手の路地にいるようにしていた。

 話し合いをしたいが、必ず喧嘩になってしまう。

 路地で佇んでいると声をかけられた。

「こんにちは」

 隣に住む中年の女性だ。

「こんにちは」

「最近、そこにいる事多いね?」

「はい…」

「何かあったのかい?」

「別に何も…」

 ないわけじゃない。どうしていいか分からない。

「仲直りするにはお互いに近づかないと、いつまでもそのままだよ」

 兄との喧嘩は筒抜けらしい。

「向こうは近づくどころか、話も聞いてくれません」

「その分、あなたが近づけばいいのよ」

 言ってる事は分かるが…。

「はい…」

「頑張ってね」


 何も話さないと、話しかけづらくなる。

 しかし、このままではいけない。


「兄さん…」

 カウンターに座っている兄に話しかけた。

「ん?どうした?」

 返事をくれるが、こちらを向いてくれない。

「私は…魔法士だから、魔法士として生きたい…だから…」

「分かってるよ」

「え?」

「だから、分かってるって。分かってる…」

 兄は私を見ないまま話し出す。

「お前のやりたいようにしたいけど、シュナイツなんかに行かせたくないんだ」 

 ため息を吐いた後、先を続ける。

「オレはお前を孤児院に行かせた事を、後悔している」

「どうして?あれはあなたが言った通り、無意識の魔法は危険で…仕方のない事だった」

「そうだが、別の道もあったんじゃないかって、最近思うよ」

「私が魔法士にならない道.?」

「たらればの話だけど。こんなにギクシャクする事もなかったかもな。こうなった責任はオレにある」

 彼は立ち上がり、私を見る。

「シュナイツに行くにはいくらかかるか、もう計算できてんだろ?出してやるよ」

「え?…出してくれる?なぜ?」

「なぜって、妹の旅立ちに金出さねえ兄がどこのにいるんだよ」

「でも…」

「でも、なしだ。オレの気が変わらない内に行ってくれ」

 肩をすくめ、笑顔でそう言う。


 善は急げ、という事で準備に取り掛かった。


 

Copyright(C)2020-橘 シン

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