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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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33/102

2-13

 気がつくと知らない部屋の中だった。

「起きたようだね」

「エレナ?…大丈夫か」

「まずは水を飲ませて。ゆっくりと」

 背中を支えられて少し体を起こし、水を飲む。

 飲んだ水が体に染み渡る。

「落ちついたら、これを飲ませて。後は食事を少しづつ。そうじゃないと体がびっくりするから」

「分かりました。ありがとうございます。いくら払えば…」

「金はいいよ。…例の物を…少し…いいかな?」

「もちろん、いいですよ。後で届けます」

「頼むよ。それじゃ、わたしはこれで…」

 

 助けられた?

 あの懐かしい声の主は?…。

 体は重だるい。私を覗き込む人がひとり。

「エレナ?」

「…誰?」

「オレだよ。レナードだって」

「レナード…。兄さん?」

「ああ、そうだよ」

 そう言って左手の痣を見せてくれる。

 間違いない。この痣は兄のものだ。

 私も左手を出して痣を見せる。

「もう見たぜ」

 そう言って、痣同士を合わせるように手を握ってくれ。

「とりあえず安め。事情は後で聞くから」

「はい…」

 小さな丸薬を飲んでもう一眠りする。

 正直、死を覚悟した。しかし、それは運良く回避できた。 



「よかったわね。お兄さんに会えて」

「ええ、まあ…」

「嬉しくないの?」

「…兄が私にした事を思うと、複雑な気持ちです」

 リアン様の問にそう答えた。



 次に目を覚ました時には、体の異常な重だるさはなく、楽に起きる事ができた。

 謎の丸薬が効いたのかもしれない

 兄は部屋に居らず、私は起き上がって部屋の中を見て回る。

 

 今いる部屋には小さな窓が一つ。

 開けて外を見る。 

 高さがある。ここは二階らしい。

 左右を見ると。同じような窓が並んでいる。集合住宅ような大きな建物の一角ということになる。

 窓の下の人通りは少ない。路地裏のよう.。

 で、見上げると回りの建物よりも大きな壁が見える。城壁だ。

 壁は内側へ湾曲している…ということは、ここは城下町?。

 兄は城下町に住んでいた…結構聞き込みしたはずだが、なぜ見つからなかったのか。

 

 部屋の中にはベッドとチェストが一つづつ。

 広い部屋ではないし、使い込まれた感がある。

 窓の反対側にドア。

 開けてみる。そこは廊下…じゃなくて踊り場のような感じ。採光用と思わる小さな窓がある

 左に一階へと続く階段がある。途中に窓。


 窓から外を覗く。人通りは結構ある。

 一階へ降りる。左右にドア。

 左の部屋は二階の真下あたる。二階の部屋と同じ位置に窓。

 奥に小さいなドア。多分、裏口だろう。

 中にはテーブルと スツールが二脚とチェストが一つ。

 テーブルには陶器製の水差しとカップ。

 それと小さな抽斗ひきだしがたくさんある大き目のチェストが一つ。

 右は部屋は…。

「これは?…」

 建物の構造から玄関かと思ったが、そこにはお店のカウンターような物が置かれていた。その向こう、通り側にドアある。あそこが玄関だろうか?。

 そのドアが突然に開く。

「レニーちゃーん、いつもの…うお!?す、すみません。間違えました」

 男性が一人入ってきて、出ていった。

 部屋を間違えたらしい。

 だが、またすぐにドアが開く。

「部屋番号あってるじゃねえか…」

「誰ですか?」

「あんたこそ誰だよ。レニーはいねえかよ」

 レニー?

「レニーという人物は知らない」

「知らないって、ここレニーの家だろ?引越したなんて聞いてないぞ」

 男性と数刻睨みあう。

 また、ドアが開く。

「お?。おやっさん来てたのか。悪いなちょっと出かけてた」

 兄だった。

「よお、レニー。いつものやつくれよ」

 レニーとは兄の事らしい。

 こっちではレニーと名乗っていると後で聞いた。フォートランとも名乗ってないい。

 どうりで聞き込みをしても見つからないはすだ。

「いいぜ。100ルグな」

 そういうとカウンターの一部を跳ね上げて入ってくる。

「これ持って奥に行っててくれ」

 そう耳打ちされ、紙袋を渡されて背中を押される。そしてドアを締められた。


「誰だよ。さっきのは?」

「誰でもいいだろ」

「女連れてこむなんて初めてだよな?」

「そういうのじゃないって…」 

「行きずりか?行きずりとか流れ者はマジで危険だから気をつけろよ」

「だから、違うって…。さっさと行けよ。しつこいともう売らないぜ」

「わ、わかったよ。もう言わねえから。また頼むよ、レニーちゃん…」


 漏れ聞こえる会話を聞きながら、一階の部屋へ入る。

 紙袋をテーブルに置き、スツールに座った。

 

 兄と男性の会話から、兄は何かの商売をしてるようだ。

「ギルドには登録されていなかった…どういう事?…」

 商人全員がするわけじゃないとマリーダさんは言っていたけど…。

 何の商売を…まさか、翼人の羽?。

 いや、それはない。こんな所で露骨に売れるわけない。すぐに見つかり処罰されるだろう。

 後は麻薬とか盗品…どちらにしろ王都で売買するには場違いな気がする。


「どうだ気分は?」

 兄が入ってきた。

「悪くはない」

「そうか、良かった。それ、食べていいぞ」

 紙袋を指差す。中身はサンドイッチやクッキー、果物。

「こんなに食べれない」

「オレの分も入ってる」

 そう言ってサンドイッチを食べ始めた。

 彼は私の顔を見ながらサンドイッチを頬張る。

 居心地が悪い。

 サンドイッチは半分だけ食べた。

「もういい…」

「ああ、無理して食べてなくていい」


 何を話せばいいのか分からない。

 まずは礼を言うべきだろうが、先に兄の謝罪の言葉を聞きたかった。


「で、なんでお前が外町のベンチで死にかけてのか、教えてくれないか?」

「…」

 やはり話さなければいけないのか…。

 兄は水差しからカップに水を注いてくれる。

「まあ、話したくないなら別にいいが…」

「話す」

 私にとって一生忘れる事ができない、いえ忘れてはいけない事。 

 シファーレンの研究所で仕出かした事を話し、それにより国外追放された事や王都にくるまでの出来事を話した。

「そうか…まあ、なんだ…気を落とすな。失敗なんて誰にでもある。よくここまで来たよ」

 兄は怒る様子はない。

「食うには困らないから、そこは心配しなくていい。安心してくれ」

 そんな事を聞きに来たわけじゃない。

 兄に再会できたら訊きたい事があるのだ。

「私も訊きたい事がある」

「…そうだろうな。こっちじゃレニーって名乗ってい…」

「そんな事じゃない」

 それも咎めたい点の一つ。それよりも…。

「なぜ私を捨てたの?」

「捨てた?なに言ってるんだよ。孤児院に預けたろ?」

「私は行きたくなかった…。兄さんと離れたくなかった!なのに!」

 その時の事を思い出し涙で視界が滲む。

 こんなに感情が昂ぶるのいつぶりだろうか。

「嫌がるお前を置いて行くのは忍びなかったが、ああするのがお前のためだったんだよ」

「私のため?嘘…孤児院に預ける事のどこが私のためなの!?」

「色々考えた結果、そうしたほうがお前がいい暮らしができると…」 

「あの頃の暮らしに何の不満も不自由も感じていなかった」 

 生活は確かに良いとはいえなかった。だけど一人ではないという安心感があった。

「色んな人に訊いて相談したんだ。レーヴさんにも」

「レーヴ?シンシア・レーヴ先生?」

「ああ、そうだ」

「それは孤児院に預けるための事前連絡でしょ?私に秘密して」

「事前連絡もそうだが、そのずっと前から相談していた」

 ずっと前?孤児院へ預けられたのは急な話でない?

「オレはお前が邪魔だから預けたわけじゃないぞ」

「ずっとそう思ってた…」

 どういう事?

「そんなわけあるか…。お前、何も聞いてないのか?」

「聞く?何を?」

「マジか…レーヴさん、言ってないのか」

「だから!何を!」

 私はテーブルを叩き、兄に詰め寄る。

「お、落ち着けって。話すから…静かにしてくれ隣との壁は薄いんだからさ」

「そんな事はどうでもいいから話して」

「わかったよ…」


Copyright(C)2020-橘 シン

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