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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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32/102

2-12

 翌日早朝、宿代を払い早々に城下町に入った。10ルグを払って。

 城下町から出る時は税金はかからない。


「城下町の中に入ってずっといるのは無理なの?」

「無理だと思う。許可証がないと居続ける、住む事はできないんだ」

「確か抜き打ちで検査とかあったはず」

「そうなんだ」

「宿にずっと泊まっていれば大丈夫だけどそんな事するくらいのお金あるなら家を買うか借りたほうがずっといい」


 早朝だというのにこの人混み…。

 気が滅入りつつギルドへ向かう。

 城下町のギルドは北に一つだけ。

 


「ここが混むんだよ。外町と同じ様に東にも作ればいいのに…」



 ウィル様の指摘どおり非常に混んでいる。

 幸い受付はさほど混んではいなった。

 少し待った後、順番が来る。

「すみません。ギルドの登録者にレナード・フォートランという人がいないか調べてもらえませんか?」

「レナード・フォートランさんですね…」

 受付の担当者は一度奥へ行き、分厚い書類を持って帰ってくる。

「よっこいしょっと、えーとレナード…フォートラン…」

 ふと自分の後ろを振り返るとかなりの人数が並んでいた。

 担当者は書類を一枚づつめくり探している。

 どう考えてもすぐに終わらない。

 後ろに並んでいる人からの無言の圧力を感じる。視線が痛い。

「それ貸してもらえませんか?」

「あのーお貸しすることはちょっと…」

「自分で探しますから。それに急いでいるので」

「そうなんですか…でしたら…」

 ギルドの建物内に従業員用の出入り口がある。そこのドアの前で待つよう言われた。

 そのドアで待っていると、先程の担当者とは違う人物が現れ、奥へ通される。

 従業員が忙しく働いている中、片隅の小さな机に案内された。そこの机には

 登録名簿と書かれた分厚い書類が置いてある。

 何人登録されているのか?…。相当時間が掛かりそうだ。

「ここでお願いします。わたしは後ろにいますので、終わった呼んでください」

「はい。ありがとうございます」

 椅子に座り、名簿から兄の名前を探す。



「で、あったのかい?」

 ヴァネッサの言葉に首を横に振る。

「ということは商人じゃなかったと…」



 いえ、兄は確かに商売をしていた。それはもう少し経ってから分かることである。


 名簿に兄の名前がない以上、ギルドに用はない。

 お礼をいい、ギルドを離れる。

 日が高い。眩しさと名簿を見続けた疲労で目が痛い。

 どこからか流れてくるいい匂い…。

 朝食は取ってない、もう昼…そう思った瞬間に空腹感が襲ってくる。

 何か口にするか?。しかし無駄使いはできない。

「城下町は若干割高なのよね。美味しいんだけど」

 マリーダさんでさえ割高と話す。

 飴なら…そんなに高くはないはず。

 飴を一粒だけ買って空腹を紛らわそうかと考え、鞄の中jから小さな革袋を取り出…。

「ない…どうして」

 革袋が見つからない…。大して大きくない鞄だ。

 そんなはずは。

 確かにない…落とした?。ありえない。

 今朝、宿代を払って鞄に入れた。

 鞄に穴は空いてない。



「すられたね…それは」

「ええ…」

「盗まれたの?だって数百ルグしか入ってないのに?」

「金額は関係ないんだよね。盗めやすいかどうかが重要らしいよ。爺ちゃんから注意されたよ。財布は鞄の奥に入れて、着替えとか盗まれてもいい物で埋めておく。お金を持ってる素振りは見せない。荷馬車に細工して隠したり…しまった!忘れてた」

「どしたの?」

「荷馬車に少しお金隠してあるんだった…」

「忘れるくらいだから大した金額じゃないんでしょ?」

「うん、まあね。後で取りに行くよ」



 お金がない…。

 焦燥で全身から冷や汗が出る。

 焦ってはいけないと自分自身に言い聞かせる。

 

 困った事があったら来て。


 マリーダさんのお店!…お店の事が書かれた神は革袋の中…。

 お店の名前は知らない。ろくに見ずに革袋の中に入れしまった…。

 そもそもマリーダさんには頼ってはいけない。そう決めた。



「マリ姉の店なら聞いて回ればすぐに見つかったと思う」

 

 

 なんとか平静を取り戻し、考えを巡らせる。

 兄がここ王都にいると仮定する。

 ギルドには登録していなかった。だからといって、ここにいないわけではない。

 兄を知っている人物がいるはず。

 それに左手の平の痣…これは目立つ。兄にたどり着ける可能性はある。

 自分の痣を見ながら、そう思う。

 

人が多い市場で聞き込みを開始する。

「レナード・フォートランという人を知りませんか?」

「レナード?知らねえなぁ」

「手の平に痣があるんです。こんな…」

 手の平を見せる。

「だから、知らねえって。あんたさ、買う気がないならどっか行ってくれよ」

 店の人に邪険に扱われてしまう。

 だいたいどこも同じ様な対応をされる。

 中には話を聞いてくれる人もいたが、兄についての情報は得られなかった。


 もう夕方。

 何人に聞いただろうか…。歩き疲れて足が痛くなってきた。

 人混みを避け路地に入り、しゃがみ込む。

 井戸の水を飲んだが、そんなものでは空腹は満たされない。

 

 城下町にはいない?外町に行くか…でも出てしまってから城下町にいると分かっても入場はできない。

 迷った末、外町に行くことにした。


 城下町の北側から外町に出る。が、空腹で動きたくなかった。

 人通りが少ない路地裏でしゃがみ込んでまま、一晩過ごす。



「あんたね…自分が魔法士だってこと忘れてるでしょ?」

「忘れてなどいない。空腹で判断力が落ちただけ。お金を盗まれていなれけば、兄を見つけられたはず…」

「ほんとかい?」

「…」

 自信を持って否定できない。私は不器用なのかもしれない。


 空腹のまま一晩過ごした。眠れるわけがない。

 井戸の水を飲んで、昨日と同じように市場を中心に兄のことを訊いて回る。


 昼頃までずっと聞いて回っていた。

 兄の情報を得ることはできなかった…。

 午後は路地の壁にもたれて過ごす。

 気がついたらしゃがんで夜空を見ていた。


 次の日、外町東側へ移動。移動するだけで体力を使い果たしてしまう。

 目の前に全員に兄のことを聞きたかった。そんな体力はもうない。

「もう、嫌…」

 どこかのベンチに座り頭を抱える。



「盗みはやらなかったの?」

「それだけは踏み止まった。そんな事をすれば、シンシア先生が悲しむと思ったkら…」

「偉いよ。あんた」



 ベンチに横になったまま、行き交う人々をただずっと見つめていた。

 何日過ぎたか…。通りかかった子供がくれた小さなクッキーかビスケットらしき物以外は何もたべていない。

 こうなってしまったのは元はと言えば、自分が招いた事だ。

 なんと情けない事か。


 もう意識を保てない…。

「…エレナ?」

 なんだろう?懐かしい声がする。

「エレナ!大丈夫か!?オレだ、レナードだ。分かるか?」

 冗談はやめてほしい。

 まぶたが重くなり視界がだんだん暗くなっていく。

「おい、起きろ!」

 体を揺すられた気がする…

 もう…いい…放っておいて…。

 私はゆっくりと意識を失っていった。


「バカ野郎。再会できた瞬間にお別れとか冗談じゃねえぞ」

「やっぱ、お前の妹か?」

「ああ、間違いない。この痣…。医者を俺んちに連れてきてくれないか?」

「いいぜ。例のやつをくれるならな」

「現金なやつだなぁ。分かったよ…やるから急いでくれ。よっと…重てぇ。成長したんだな…当たり前か…。全く、お前がなんでこんな所にいるんだよ…」

 


Copyright(C)2020-橘 シン

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